27 / 77
27
しおりを挟む「石板から黒い煙が見えましたか?」
「はい」
思いだしながら答える。
たしか、石板に触った瞬間、黒い煙が私の中にはいって来た気がする。
「あれは、石板に封印されている邪心です」
「じゃ、邪心!?」
「そうです。通常、女神はその邪心を浄化する役目があるのですが、あなたはまだ、女神に対して気持ちが追い付いていなかったのでしょう。そこを付け入られたんです。でも、安心してください。あなたの中に入り込んだ邪心は既に浄化済です」
「そ、そうだったんですか……」
あの黒い煙が私の中に入った瞬間、寂しく泣きたい気持ちになった。
たぶん、私の本当の気持ちを見つけられ、揺さぶりかけられたのだろう。
「あなたは紛れもなく女神です。それは変えようがありません。そして、この国は女神の力を欲していることも事実です。ただ、あなたはユナという一人の人間でもあることもまた事実です。私はあなた自身を大切にしたいと思っています」
えっ、と思い、思わずエルストさんを見つめる。
視線が重なる。
焦りもなく、怒りもなく、穏やかに凪いでいる。
ただ、穏やかな瞳で私を見ている。
「まだ、あなたが気持ちに整理がついていないときに儀式をすることはもうありません。安心してください。ゆっくりと身体を休めてください」
「あ、あの、その間、浄化はどうするのですか?」
「今まで通り、魔術師たちで対応します。女神ほどの力はありませんが何人かで対応するので、あなたは心配しなくても大丈夫ですよ」
う~~ん、本当にいいのかな……。
「あなたは本当に素直で純粋だ。心配になるほどに」
いつもとは違いなんだか声音にやさしさが滲んでいた。
「さっさと寝ないとこのまま襲いますよ」
「お、お休みなさい!」
布団を頭までかぶって丸まった様子を楽し気に眺め、少しばかし名残惜しい気持ちと共に部屋を後にした。
「はい」
思いだしながら答える。
たしか、石板に触った瞬間、黒い煙が私の中にはいって来た気がする。
「あれは、石板に封印されている邪心です」
「じゃ、邪心!?」
「そうです。通常、女神はその邪心を浄化する役目があるのですが、あなたはまだ、女神に対して気持ちが追い付いていなかったのでしょう。そこを付け入られたんです。でも、安心してください。あなたの中に入り込んだ邪心は既に浄化済です」
「そ、そうだったんですか……」
あの黒い煙が私の中に入った瞬間、寂しく泣きたい気持ちになった。
たぶん、私の本当の気持ちを見つけられ、揺さぶりかけられたのだろう。
「あなたは紛れもなく女神です。それは変えようがありません。そして、この国は女神の力を欲していることも事実です。ただ、あなたはユナという一人の人間でもあることもまた事実です。私はあなた自身を大切にしたいと思っています」
えっ、と思い、思わずエルストさんを見つめる。
視線が重なる。
焦りもなく、怒りもなく、穏やかに凪いでいる。
ただ、穏やかな瞳で私を見ている。
「まだ、あなたが気持ちに整理がついていないときに儀式をすることはもうありません。安心してください。ゆっくりと身体を休めてください」
「あ、あの、その間、浄化はどうするのですか?」
「今まで通り、魔術師たちで対応します。女神ほどの力はありませんが何人かで対応するので、あなたは心配しなくても大丈夫ですよ」
う~~ん、本当にいいのかな……。
「あなたは本当に素直で純粋だ。心配になるほどに」
いつもとは違いなんだか声音にやさしさが滲んでいた。
「さっさと寝ないとこのまま襲いますよ」
「お、お休みなさい!」
布団を頭までかぶって丸まった様子を楽し気に眺め、少しばかし名残惜しい気持ちと共に部屋を後にした。
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
婚約破棄を兄上に報告申し上げます~ここまでお怒りになった兄を見たのは初めてでした~
ルイス
恋愛
カスタム王国の伯爵令嬢ことアリシアは、慕っていた侯爵令息のランドールに婚約破棄を言い渡された
「理由はどういったことなのでしょうか?」
「なに、他に好きな女性ができただけだ。お前は少し固過ぎたようだ、私の隣にはふさわしくない」
悲しみに暮れたアリシアは、兄に婚約が破棄されたことを告げる
それを聞いたアリシアの腹違いの兄であり、現国王の息子トランス王子殿下は怒りを露わにした。
腹違いお兄様の復讐……アリシアはそこにイケない感情が芽生えつつあったのだ。
最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。
ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。
ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も……
※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。
また、一応転生者も出ます。
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
拗れた恋の行方
音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの?
理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。
大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。
彼女は次第に恨むようになっていく。
隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。
しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。
愛する婚約者は、今日も王女様の手にキスをする。
古堂すいう
恋愛
フルリス王国の公爵令嬢ロメリアは、幼馴染であり婚約者でもある騎士ガブリエルのことを深く愛していた。けれど、生来の我儘な性分もあって、真面目な彼とは喧嘩して、嫌われてしまうばかり。
「……今日から、王女殿下の騎士となる。しばらくは顔をあわせることもない」
彼から、そう告げられた途端、ロメリアは自らの前世を思い出す。
(なんてことなの……この世界は、前世で読んでいたお姫様と騎士の恋物語)
そして自分は、そんな2人の恋路を邪魔する悪役令嬢、ロメリア。
(……彼を愛しては駄目だったのに……もう、どうしようもないじゃないの)
悲嘆にくれ、屋敷に閉じこもるようになってしまったロメリア。そんなロメリアの元に、いつもは冷ややかな視線を向けるガブリエルが珍しく訪ねてきて──……!?
彼と婚約破棄しろと言われましても困ります。なぜなら、彼は婚約者ではありませんから
水上
恋愛
「私は彼のことを心から愛しているの! 彼と婚約破棄して!」
「……はい?」
子爵令嬢である私、カトリー・ロンズデールは困惑していた。
だって、私と彼は婚約なんてしていないのだから。
「エリオット様と別れろって言っているの!」
彼女は下品に怒鳴りながら、ポケットから出したものを私に投げてきた。
そのせいで、私は怪我をしてしまった。
いきなり彼と別れろと言われても、それは無理な相談である。
だって、彼は──。
そして勘違いした彼女は、自身を破滅へと導く、とんでもない騒動を起こすのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。
私はどうしようもない凡才なので、天才の妹に婚約者の王太子を譲ることにしました
克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。
フレイザー公爵家の長女フローラは、自ら婚約者のウィリアム王太子に婚約解消を申し入れた。幼馴染でもあるウィリアム王太子は自分の事を嫌い、妹のエレノアの方が婚約者に相応しいと社交界で言いふらしていたからだ。寝食を忘れ、血の滲むほどの努力を重ねても、天才の妹に何一つ敵わないフローラは絶望していたのだ。一日でも早く他国に逃げ出したかったのだ。
婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません
黒木 楓
恋愛
子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。
激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。
婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。
婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。
翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる