その花びらが光るとき

もちごめ

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「石板から黒い煙が見えましたか?」
「はい」
 思いだしながら答える。
 たしか、石板に触った瞬間、黒い煙が私の中にはいって来た気がする。

「あれは、石板に封印されている邪心です」
「じゃ、邪心!?」

「そうです。通常、女神はその邪心を浄化する役目があるのですが、あなたはまだ、女神に対して気持ちが追い付いていなかったのでしょう。そこを付け入られたんです。でも、安心してください。あなたの中に入り込んだ邪心は既に浄化済です」
「そ、そうだったんですか……」
 あの黒い煙が私の中に入った瞬間、寂しく泣きたい気持ちになった。
 たぶん、私の本当の気持ちを見つけられ、揺さぶりかけられたのだろう。

「あなたは紛れもなく女神です。それは変えようがありません。そして、この国は女神の力を欲していることも事実です。ただ、あなたはユナという一人の人間でもあることもまた事実です。私はあなた自身を大切にしたいと思っています」

 えっ、と思い、思わずエルストさんを見つめる。
 視線が重なる。
 焦りもなく、怒りもなく、穏やかに凪いでいる。
 ただ、穏やかな瞳で私を見ている。

「まだ、あなたが気持ちに整理がついていないときに儀式をすることはもうありません。安心してください。ゆっくりと身体を休めてください」

「あ、あの、その間、浄化はどうするのですか?」

「今まで通り、魔術師たちで対応します。女神ほどの力はありませんが何人かで対応するので、あなたは心配しなくても大丈夫ですよ」

 う~~ん、本当にいいのかな……。


「あなたは本当に素直で純粋だ。心配になるほどに」

 いつもとは違いなんだか声音にやさしさが滲んでいた。

「さっさと寝ないとこのまま襲いますよ」
「お、お休みなさい!」

 布団を頭までかぶって丸まった様子を楽し気に眺め、少しばかし名残惜しい気持ちと共に部屋を後にした。

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