その花びらが光るとき

もちごめ

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コンコン、コンコン。
 何度か鳴らされている控えめなノックの音に、重い瞼を上げる。

「ユナ様、入ってもよろしいでしょうか」

 その声にガバリと起き上がった。

「は、はい、どうぞ」


「 失礼します。おはようございますユナさま。ゆっくりお休みになられましたか」

 ゆっくりと礼儀正しく部屋に入ってきた少女は、私よりももっと薄い茶色の髪の毛を後ろで一つに結び、紺の服に白いエプロンをかけたメイド服を着て、優しそうな表情で私を見ている。


「はい。おはようございます。よく、眠れました」

「それはよかったです。これからユナさまの身の回りのお世話をさせていただく侍女のミルリーと申します。これからよろしくお願いいたします。分からないことがあれば何でもおっしゃって下さいね」

「はい。こちらこそお願いします」

「ではまずは、」
「あ、あの! お風呂に入りたいです」

 思わず被せるようにして声を出してしまったが、仕方ない。
 それだけ、お風呂に入りたくて必死なのだ。

 そんな私にミルリーさんは嫌な顔一つせずにミッコリと笑ってくれた。
 侍女さんの鏡です。

「はい、すぐにご用意いたしますね」

 浴室に向かうミルリーさんの後ろをついていく。
 どうやって湯を張るのか気になって仕方がないのだ。じっくりと見させてもらおう。

 ミルリーさんはバスタブに向かって手をかざし、なにやら呪文を唱えた。
 次の瞬間、温かい湯気をだしたお湯がバスタブいっぱいに現れた。

「……」

 これ、明らかに魔法だよね。

 ムリムリムリムリ。
 
 もしかして生活全般が、魔法が当たり前の世界なの?!
 洗面もトイレも、電気も。

 よく見ると、蛇口やら、スイッチらしきものがどこにも見当たらない。

 だとしたら、非常に困ることになる。
 何度も言うが、私は魔法を使えない。
 でも、人間の生理現象で、トイレも行きたいし、お風呂にだって毎日入りたい。

 これは困ったことになった。
 必要な時は、そのつど誰かを呼ぶしかないのか。

 いやでも、できればそういうものは一人でしたいものだし、と腕を組んで考え込んでいたら、ミルリーさんが手に石のようなものを乗せて私に差し出してきた。

「ユナさま、これからはこれを置いていきますので、ご入用の時にお使い下い」

 しずく型の石のようなものを渡された。
 青色、赤色、黄色。

 これをいったいどうしろと??

「こちらは魔法石になります。青色は水で、赤色は熱、黄色は光になります。他にもいろいろとありますが、差しあたって今はこの三つがユナさまには必要かと思って持って参りました」

「魔法石?」
「はい。使い方は簡単です。イメージです。」
「イメージ?」

「このように石を持って額に宛てていただき、そのまま水を思い浮かべてください」
「こうかな?」

 青い石をおでこにあて、水を思い浮かべてみる。
 すると石が光り、とたん、洗面台に水があふれた。

「わっ! びっくりした。」
「とてもお上手です。」

「水を温かくしたい場合は、この赤い石で、温かいイメージをしていただければお湯になります」

 言われた通りにやってみる。
 石光って温かい湯気が立ち上っている気がする。

「熱い」
「温度の調節は最初は難しいと思いますが、それもイメージで調節できます」

「今日は私がちょうどいい温度にしておきますね」
 手をかざしてまたもや短い呪文を唱えてぬるめのちょうどいいお湯にしてくれた。

「ではこちらに着替えを置いておきます。わたくしは朝食の準備をして参りますので、どうぞゆっくり入ってらしてください」

 そう笑顔で伝えると静かに浴室から出て行った。


 この魔法石、すごい便利。
 これがあればとりあえず身の回りの事は困ることがないだろう。
 ひとまずは安心かな。
 ……。いや、安心出来ないことはまだまだ一杯あるけれど。


 猫脚のバスタブにゆっくりと足をいれ、じっくりと首まで浸かる。

 (はあ~、やっと、落ち着いた)

 この王宮についてからさほど時間は経ってはいないがとにかく疲れている。

 目を閉じてゆっくりと息を吐いてしばらくお湯に浸かった。


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