その花びらが光るとき

もちごめ

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村の人たちは見たことない光景に理解が付いてこなかったのだろう。

 大人も子供も皆、口を開けてポカーンとしちゃってる。

 そりゃそうだろう、私だって見たことない光景だわ!
 対応に困る!!
 みんな私をガン見してるし。


 これ、どうしたらいいの!?


 どう対応したらいいのかわからずオロオロとしていると目の前で未だ膝間づいている麗しき騎士様が口を開いた。

「お迎えに上がりました。ユナ様」

「え、あ、はい」

「我々と一緒に王都まで、正確には王宮の中まで来ていただけますか」


 金の刺繍の豪華な騎士服と同じ、深い青緑の目で優しく微笑み、片手を胸の前に宛て私を見上げてくるこのシチュエーションにくらくらした。

 すごい萌える! 物語の王子様みたい! かっこいい!! すぐ行く! あなたとどこまででもついていきます!


 一瞬でノックアウトされ、不埒なことを考え始めて、鼻血がでているのでは……?
 と恥ずかしくなって両手で鼻を押さえた。


「どうされました? 女神様。どこかお体の調子が悪いのですか?」

 とても心配げな表情で顔を覗き込まれる。


 ち、近い! 

 それ以上はほんとに鼻血出ちゃうから近づかないで!

 鼻を押さえたまま思わず後ずさった。


「いえ、なんともありません。準備とかいろいろ用意することがあるので、ちょっと待ってもらってもいいですか」

 思いっきり鼻声になってしまったのだが、さすが麗しき騎士様。

 特に気にした様もなく麗しき顔に穏やかな微笑みを浮かべたままでいる。


「わかりました。どうぞゆっくりと準備なさってください。私は村長と話をしておりますので、ご準備が出来ましたら、またお声掛けください」

 そう爽やかにいい、立ち上がった。

 日の光を浴びた青い髪がキラキラと光って眩しい。

 この人、全部青なんだ。綺麗。





「こちら、女神の保護費です。お受け取りください」

 分厚い紙の束を渡す。


「いや、わしら村のもんはあの子のことを家族だと思っている。だから、これは受け取れません」

「家族? この国の女神に対してなにをおっしゃられているのですか? まさか、この村の方たちは国に対して逆らうおつもりですか」

「いや、まさか! そんなつもりはありません。だが、あの子は本当にいい子じゃ。幸せになって欲しいんじゃ……」

 辛そうな顔で俯く村長を冷えた青い瞳が冷たく見据える。


「では、こちらにおいておきますね。ああ、後、女神の事ですが、ここにいる間、間違いが起こったなどという事はないですよね?」

「そ、それはない。わしの家族のもんでしっかり見ておったから」

「そうですか、では」

 もう用はない、とさっさと出て行った。


 一人残された村長は目の前に積まれた紙の束を見てひとり呟いた。


「済まない、どうか、幸せになっておくれ」





***

「ユナさま」

 騎士様が笑顔を浮かべて近づいてきた。


「あっ、お待たせしてすみません。もう少しだけまってください」

「気を付けてね。ほら、温かくしていくのよ」

「あばさん、ありがとう」

「ユナちゃん、頑張ってね。きっと、また、会えるかな」

「うん、きっとまた会えるよ。約束しよ」


 小指を絡め合い、指切りげんまんをした。


「村長さん、今まで本当にお世話になりました。このご恩は一生忘れません。どうか皆さんお元気で」

「ユナさんもな。元気で」

「はい。では、行ってきますね!」



 馬車の窓から顔を出す。

 村のみんなが入り口に集まってこっちに向かって手を振っている。

 ググッと涙がこみあげてきたけど、笑顔で手を振る。


「みんな~~! ありがとう~~!! 元気でね~~!!」

 姿が見えなくなるまでてを振り続けた。

 絶対にさよならは言わない。


 だって、私がサボナ村のみんなと出会えたのが運命なら、また会えるのも運命で決まっているはず。


 「行ってきます」


 光る涙を前髪の奥に隠してそっと呟いた――。

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