その花びらが光るとき

もちごめ

文字の大きさ
上 下
64 / 77

64 

しおりを挟む
 王宮の庭では、赤や黄色の綺麗な花が咲き誇っている。
いつだったかチョコとジークさん、ミルリーさんと一緒にお茶をした庭。
 そこでジークさんが、初めて会った日と同じように私のまえで跪づいたまま深い青緑の瞳を私に向けている。


「ユナ様。今までの事申し訳ありませんでした。許されることでは無いと分かっています。でも、それでも貴女に何度でも許しを請いたい」


 ……。そうだった。この人、確か重い人だったよ。

「ジークさん。まずは立って話をしませんか? このままだと、私、とっても話をしにくいです」

 私の言葉にジークさんは立ち上がり、背筋を伸ばして、真っ直ぐに私を見る。

 今度は私が見上げる番だな、とも思いながら口を開く。
「あの、ジークさんのした事って、私の情報をレネット王子側に洩らしていた事ですよね? ローランスさんから聞きました」

「そうです。ユナ様の事をレネット王子の側近のリンドという男に話していました」
「どうして、ジークさんが?」

 私の言葉に少し顔を曇らせ、そして、やや間を空けてから再び話し始めた。

「私の妹がレネット王子のところで侍女見習いをしているのですが、その繋がりで王子から話があり、もし協力しなければ妹を傷物にすると脅されて。それでも決してしてはいけなかった事だと深く後悔しています。本当に申し訳ありません。どんな罰をも受けますので、仰ってください」

 土下座する勢いで腰を折って私に謝罪をする。

 いや、あの、だからさ……。

 ちょっと落ち着こうよ。重いんだってば。

 まあ、でも、これがジークさんだよね。以前のジークさんに戻っている気がして、少し安心した。

 そんなジークさんを見下ろし、わざと冷たい声音を作って返事をする。
「じゃあ、言ってもいいですか?」
「……はい」
 少し緊張を孕んだ声が返ってきたが、その次には優しく語りかけた。


「私の護衛に戻ってきてください」
「え……?」
 何を言われたのか分らないという風に顔を上げる。


「ジークさん、前に言いましたよね? 自分の命も大切にしながら私のことも守ってくれるって。あの約束、まだ有効ですか?」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、問題ないですね」
「でも、それは……」

 まだ何かを言おうとしているジークさんに、私は真剣な顔で名前を呼んだ。
「ジークさん」

 お願いだから、これ以上自分を責めるようなことはしないで。

 口には出さないけれど、その気持ちが伝わるように、目を逸らさずに見つめる。

 しばらく無言で見つめ合う。私の思いを感じ取ってくれたのか、揺れる青緑の瞳を一度閉じて深く息をついた。


 あなたという人は……。とポツリとつぶやいた後、「ありがとうございます」と顔を上げる。

 その顔からは、もう迷いや戸惑い、苦しみ等がなくなり、澄んだ瞳に似合う柔らかな笑みを乗せていた。その笑顔に見せられ、私もつられたようにニコリと笑み返す。


 これできっともう大丈夫。
 花の香りを乗せた柔らかな空気があたりを包み込み、穏やかな気持ちにさせてくれる。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】助けてもらった虎獣人にマーキングされちゃう話

象の居る
恋愛
異世界転移したとたん、魔獣に狙われたユキを助けてくれたムキムキ虎獣人のアラン。襲われた恐怖でアランに縋り、家においてもらったあともズルズル関係している。このまま一緒にいたいけどアランはどう思ってる? セフレなのか悩みつつも関係が壊れるのが怖くて聞けない。飽きられたときのために一人暮らしの住宅事情を調べてたらアランの様子がおかしくなって……。 ベッドの上ではちょっと意地悪なのに肝心なとこはヘタレな虎獣人と、普段はハッキリ言うのに怖がりな人間がお互いの気持ちを確かめ合って結ばれる話です。 ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

元男爵令嬢ですが、物凄く性欲があってエッチ好きな私は現在、最愛の夫によって毎日可愛がられています

一ノ瀬 彩音
恋愛
元々は男爵家のご令嬢であった私が、幼い頃に父親に連れられて訪れた屋敷で出会ったのは当時まだ8歳だった、 現在の彼であるヴァルディール・フォルティスだった。 当時の私は彼のことを歳の離れた幼馴染のように思っていたのだけれど、 彼が10歳になった時、正式に婚約を結ぶこととなり、 それ以来、ずっと一緒に育ってきた私達はいつしか惹かれ合うようになり、 数年後には誰もが羨むほど仲睦まじい関係となっていた。 そして、やがて大人になった私と彼は結婚することになったのだが、式を挙げた日の夜、 初夜を迎えることになった私は緊張しつつも愛する人と結ばれる喜びに浸っていた。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

皇帝陛下は皇妃を可愛がる~俺の可愛いお嫁さん、今日もいっぱい乱れてね?~

一ノ瀬 彩音
恋愛
ある国の皇帝である主人公は、とある理由から妻となったヒロインに毎日のように夜伽を命じる。 だが、彼女は恥ずかしいのか、いつも顔を真っ赤にして拒むのだ。 そんなある日、彼女はついに自分から求めるようになるのだが……。 ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

悪役令嬢は国王陛下のモノ~蜜愛の中で淫らに啼く私~

一ノ瀬 彩音
恋愛
侯爵家の一人娘として何不自由なく育ったアリスティアだったが、 十歳の時に母親を亡くしてからというもの父親からの執着心が強くなっていく。 ある日、父親の命令により王宮で開かれた夜会に出席した彼女は その帰り道で馬車ごと崖下に転落してしまう。 幸いにも怪我一つ負わずに助かったものの、 目を覚ました彼女が見たものは見知らぬ天井と心配そうな表情を浮かべる男性の姿だった。 彼はこの国の国王陛下であり、アリスティアの婚約者――つまりはこの国で最も強い権力を持つ人物だ。 訳も分からぬまま国王陛下の手によって半ば強引に結婚させられたアリスティアだが、 やがて彼に対して……? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕

月極まろん
恋愛
 幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。  でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?

処理中です...