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王宮の庭では、赤や黄色の綺麗な花が咲き誇っている。
いつだったかチョコとジークさん、ミルリーさんと一緒にお茶をした庭。
そこでジークさんが、初めて会った日と同じように私のまえで跪づいたまま深い青緑の瞳を私に向けている。
「ユナ様。今までの事申し訳ありませんでした。許されることでは無いと分かっています。でも、それでも貴女に何度でも許しを請いたい」
……。そうだった。この人、確か重い人だったよ。
「ジークさん。まずは立って話をしませんか? このままだと、私、とっても話をしにくいです」
私の言葉にジークさんは立ち上がり、背筋を伸ばして、真っ直ぐに私を見る。
今度は私が見上げる番だな、とも思いながら口を開く。
「あの、ジークさんのした事って、私の情報をレネット王子側に洩らしていた事ですよね? ローランスさんから聞きました」
「そうです。ユナ様の事をレネット王子の側近のリンドという男に話していました」
「どうして、ジークさんが?」
私の言葉に少し顔を曇らせ、そして、やや間を空けてから再び話し始めた。
「私の妹がレネット王子のところで侍女見習いをしているのですが、その繋がりで王子から話があり、もし協力しなければ妹を傷物にすると脅されて。それでも決してしてはいけなかった事だと深く後悔しています。本当に申し訳ありません。どんな罰をも受けますので、仰ってください」
土下座する勢いで腰を折って私に謝罪をする。
いや、あの、だからさ……。
ちょっと落ち着こうよ。重いんだってば。
まあ、でも、これがジークさんだよね。以前のジークさんに戻っている気がして、少し安心した。
そんなジークさんを見下ろし、わざと冷たい声音を作って返事をする。
「じゃあ、言ってもいいですか?」
「……はい」
少し緊張を孕んだ声が返ってきたが、その次には優しく語りかけた。
「私の護衛に戻ってきてください」
「え……?」
何を言われたのか分らないという風に顔を上げる。
「ジークさん、前に言いましたよね? 自分の命も大切にしながら私のことも守ってくれるって。あの約束、まだ有効ですか?」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、問題ないですね」
「でも、それは……」
まだ何かを言おうとしているジークさんに、私は真剣な顔で名前を呼んだ。
「ジークさん」
お願いだから、これ以上自分を責めるようなことはしないで。
口には出さないけれど、その気持ちが伝わるように、目を逸らさずに見つめる。
しばらく無言で見つめ合う。私の思いを感じ取ってくれたのか、揺れる青緑の瞳を一度閉じて深く息をついた。
あなたという人は……。とポツリとつぶやいた後、「ありがとうございます」と顔を上げる。
その顔からは、もう迷いや戸惑い、苦しみ等がなくなり、澄んだ瞳に似合う柔らかな笑みを乗せていた。その笑顔に見せられ、私もつられたようにニコリと笑み返す。
これできっともう大丈夫。
花の香りを乗せた柔らかな空気があたりを包み込み、穏やかな気持ちにさせてくれる。
いつだったかチョコとジークさん、ミルリーさんと一緒にお茶をした庭。
そこでジークさんが、初めて会った日と同じように私のまえで跪づいたまま深い青緑の瞳を私に向けている。
「ユナ様。今までの事申し訳ありませんでした。許されることでは無いと分かっています。でも、それでも貴女に何度でも許しを請いたい」
……。そうだった。この人、確か重い人だったよ。
「ジークさん。まずは立って話をしませんか? このままだと、私、とっても話をしにくいです」
私の言葉にジークさんは立ち上がり、背筋を伸ばして、真っ直ぐに私を見る。
今度は私が見上げる番だな、とも思いながら口を開く。
「あの、ジークさんのした事って、私の情報をレネット王子側に洩らしていた事ですよね? ローランスさんから聞きました」
「そうです。ユナ様の事をレネット王子の側近のリンドという男に話していました」
「どうして、ジークさんが?」
私の言葉に少し顔を曇らせ、そして、やや間を空けてから再び話し始めた。
「私の妹がレネット王子のところで侍女見習いをしているのですが、その繋がりで王子から話があり、もし協力しなければ妹を傷物にすると脅されて。それでも決してしてはいけなかった事だと深く後悔しています。本当に申し訳ありません。どんな罰をも受けますので、仰ってください」
土下座する勢いで腰を折って私に謝罪をする。
いや、あの、だからさ……。
ちょっと落ち着こうよ。重いんだってば。
まあ、でも、これがジークさんだよね。以前のジークさんに戻っている気がして、少し安心した。
そんなジークさんを見下ろし、わざと冷たい声音を作って返事をする。
「じゃあ、言ってもいいですか?」
「……はい」
少し緊張を孕んだ声が返ってきたが、その次には優しく語りかけた。
「私の護衛に戻ってきてください」
「え……?」
何を言われたのか分らないという風に顔を上げる。
「ジークさん、前に言いましたよね? 自分の命も大切にしながら私のことも守ってくれるって。あの約束、まだ有効ですか?」
「はい。もちろんです」
「じゃあ、問題ないですね」
「でも、それは……」
まだ何かを言おうとしているジークさんに、私は真剣な顔で名前を呼んだ。
「ジークさん」
お願いだから、これ以上自分を責めるようなことはしないで。
口には出さないけれど、その気持ちが伝わるように、目を逸らさずに見つめる。
しばらく無言で見つめ合う。私の思いを感じ取ってくれたのか、揺れる青緑の瞳を一度閉じて深く息をついた。
あなたという人は……。とポツリとつぶやいた後、「ありがとうございます」と顔を上げる。
その顔からは、もう迷いや戸惑い、苦しみ等がなくなり、澄んだ瞳に似合う柔らかな笑みを乗せていた。その笑顔に見せられ、私もつられたようにニコリと笑み返す。
これできっともう大丈夫。
花の香りを乗せた柔らかな空気があたりを包み込み、穏やかな気持ちにさせてくれる。
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