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「うんしょっ。これで全部だったかな?」
今まで返しに行くタイミングがなかなか掴めずに山積になってしまった本を、今日こそは! とまとめて返しに行こうと思いたった。
一番大きい本から順に積み上げていったピラミッド状の本を見て、よくもまあこんなにため込んだもんだ、と自分でも呆れ気味に思う。しかし何度も足を運ぶのも面倒だと思い、多少重くてもいっぺんに運んでしまおうと思い、一気に持ち上げた。
「おっとっと」
バランスを崩さないように顎で本を押さえて廊下へ続く扉を開ける。
「あっ」
扉を出ると、部屋の中の主を守るために静かに外で控えていた人物と目が合った。
一瞬ドキッ! としてしまいその拍子に支えてた本のバランスを崩してしまう。
バサバサと音を立てて目の前の本が崩れていく。
「……。」
「……。」
(~~~~私のバカッ!! あの日のことは何もなかったことにして、平常心で行こうと思ったのに!! これじゃ思いっきり気にしてるのバレバレじゃん!!」
「……。今拾いますね」
「っ、ありがとうございます……」
そんなに数は多くはないからすぐに拾えるのだが、それでもお互い目も合わせずに拾っているこのちょっとした時間がなんだか非常に気まずい……。
どうしよう、何か話しかけたほうがいいのかな。
でも何だか気まずさが先だって、会話の糸口がつかめない……。
「……。」
「……あの、先日は、」
( よし! 最後の一冊! 拾い終わった!!)
「あ、ありがとうございました! では!」
何か話しかけられた気もしたが、さっさと踵を返そうとして立ち上がった瞬間、ガシッ! と腕を掴まれた。
(ほ、本が! 落ちる!!)
「図書室へ向かわれるのですよね。半分持ちます」
私の返事を待つことをせず、上から半分以上の本を持ってさっさと横へと並ぶ。
ジークさんの顔を見上げれば、「さあ、参りましょうか」 と視線が告げている。
「ありがとうございます……」
この状況を脱する能力を持ち合わせていないので仕方なしに図書室までお供してもらうこととした。
***
塵一つないピカピカに磨き抜かれた廊下を、本を抱えながら二人が歩いていく。
その二人の歩く様はとても対照的である。
一人は二冊の本を抱きしめながら、ただ真っ直ぐに前だけを見つめ、競歩のごとくに短いコンパスを何度も往復して歩いている。
もう一人は十冊の本を持ちながらも、長いコンパスのゆったりとした足取りで、時折斜め前を歩く人物に目を向けながら悠々と歩いている。
その長いコンパスの持ち主が前を歩く人物に話しかける。
「ユナ様、歩きながらでいいので、少しお話を聞いていただけますか」
「えっ、あっ、うん……。な、何かな?」
ドキッとしてしまったが、振り返ることはせずにそのまま歩き続けながら話を聞く。
「この間の事です。突然で驚かれたと思いますが、」
「私! 全然気にしていないから!」
「……は?」
「この間の事なら私気にしてないから。だからジークさんも気にしないで!」
「……えっ、……。」
「お互いに忘れよう。ねっ!」
相手の顔を見ずにとにかく必死に捲し立てる。
「……そうですか、わかりました」
納得していない、そしてまだ何か言いたげな面持ちではあったが、私が再び歩き始めると少し距離を空けてついて来た。
「さ、早くいこう!」
とにかくこの話題はこれ以上話したくない気持ちで一杯で、図書室の方へと急ぎ歩いた。
その後姿を、深い青緑の目の奥底に孤独感を滲ませながら見つめていたことに気づかなかった。
今まで返しに行くタイミングがなかなか掴めずに山積になってしまった本を、今日こそは! とまとめて返しに行こうと思いたった。
一番大きい本から順に積み上げていったピラミッド状の本を見て、よくもまあこんなにため込んだもんだ、と自分でも呆れ気味に思う。しかし何度も足を運ぶのも面倒だと思い、多少重くてもいっぺんに運んでしまおうと思い、一気に持ち上げた。
「おっとっと」
バランスを崩さないように顎で本を押さえて廊下へ続く扉を開ける。
「あっ」
扉を出ると、部屋の中の主を守るために静かに外で控えていた人物と目が合った。
一瞬ドキッ! としてしまいその拍子に支えてた本のバランスを崩してしまう。
バサバサと音を立てて目の前の本が崩れていく。
「……。」
「……。」
(~~~~私のバカッ!! あの日のことは何もなかったことにして、平常心で行こうと思ったのに!! これじゃ思いっきり気にしてるのバレバレじゃん!!」
「……。今拾いますね」
「っ、ありがとうございます……」
そんなに数は多くはないからすぐに拾えるのだが、それでもお互い目も合わせずに拾っているこのちょっとした時間がなんだか非常に気まずい……。
どうしよう、何か話しかけたほうがいいのかな。
でも何だか気まずさが先だって、会話の糸口がつかめない……。
「……。」
「……あの、先日は、」
( よし! 最後の一冊! 拾い終わった!!)
「あ、ありがとうございました! では!」
何か話しかけられた気もしたが、さっさと踵を返そうとして立ち上がった瞬間、ガシッ! と腕を掴まれた。
(ほ、本が! 落ちる!!)
「図書室へ向かわれるのですよね。半分持ちます」
私の返事を待つことをせず、上から半分以上の本を持ってさっさと横へと並ぶ。
ジークさんの顔を見上げれば、「さあ、参りましょうか」 と視線が告げている。
「ありがとうございます……」
この状況を脱する能力を持ち合わせていないので仕方なしに図書室までお供してもらうこととした。
***
塵一つないピカピカに磨き抜かれた廊下を、本を抱えながら二人が歩いていく。
その二人の歩く様はとても対照的である。
一人は二冊の本を抱きしめながら、ただ真っ直ぐに前だけを見つめ、競歩のごとくに短いコンパスを何度も往復して歩いている。
もう一人は十冊の本を持ちながらも、長いコンパスのゆったりとした足取りで、時折斜め前を歩く人物に目を向けながら悠々と歩いている。
その長いコンパスの持ち主が前を歩く人物に話しかける。
「ユナ様、歩きながらでいいので、少しお話を聞いていただけますか」
「えっ、あっ、うん……。な、何かな?」
ドキッとしてしまったが、振り返ることはせずにそのまま歩き続けながら話を聞く。
「この間の事です。突然で驚かれたと思いますが、」
「私! 全然気にしていないから!」
「……は?」
「この間の事なら私気にしてないから。だからジークさんも気にしないで!」
「……えっ、……。」
「お互いに忘れよう。ねっ!」
相手の顔を見ずにとにかく必死に捲し立てる。
「……そうですか、わかりました」
納得していない、そしてまだ何か言いたげな面持ちではあったが、私が再び歩き始めると少し距離を空けてついて来た。
「さ、早くいこう!」
とにかくこの話題はこれ以上話したくない気持ちで一杯で、図書室の方へと急ぎ歩いた。
その後姿を、深い青緑の目の奥底に孤独感を滲ませながら見つめていたことに気づかなかった。
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