その花びらが光るとき

もちごめ

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「……う……ん」

 いつもよりも重たい瞼を開ける。
 重たいと感じるのは瞼だけではなくて、なんだか頭も重く、視界が霧がかかっているようにぼやけている。

 なかなか定まらない焦点でぼんやりと天井を見上げた。

(なんか少し前にもこんなふうに知らない天井を眺めていた事があったなぁ……)

「……」

「えっ!! どこ、ここ!!」

 知らない天井に嫌なものを感じ、ふらつく頭を我慢しながら急いで起き上がろうとしたのだが、両手と両足に感じる冷たい金属の感触に顔が青ざめ、冷たい汗が背筋を流れた。

(なに、これ……)

 必死に引っ張って外そうと試みたが、ガチャガチャッと無機質な音が静寂に包まれた部屋に響くだけで、外れない。
 『鎖につながれている』 ということを理解し、その異常な状況に焦る。

(どうして、こんなことになってるの?!)

 心臓がバクバクと音を立て、その音に煽られて一層焦るのだが、一度深呼吸をして、早鐘打つ音を落ち着かせてから、冷静に考えてみる。

  ”どうして自分がこんな状況になっているのか” 

 (確か、私はジークさんと一緒に図書室で勉強していたはずだった)

 そこで一緒にいた相手のことを思いだし、『そういえばジークさんは!? 』 と辺りを見回して見るのだが、この部屋には、ただ大きなベッドが置かれているのみで、そこにはベッドの柵に両手両足を鎖で繋がれている私しかいない。

 ジークさんなら、騎士だし、きっと大丈夫なはず。
 捕まったのも私だけで、今頃きっと探してくれているはず。と考えながら、もう一度この状況を整理してみる。


(図書室で勉強してて、その後どうしたんだっけ??)

 なかなか機敏に働いてくれない自分の頭に若干苛立たちながらも必死に考える。
 身の危険を感じると人間いつも以上に感覚が冴えるはず!


(そうだ! 思い出した! 急に甘い香りがしたんだ!)

 やっと思い出し、だんだんと今置かれている状況が分かってきたところで、部屋の外から『コツコツ』 と響く音が聞こえてきた。
 
 それは足音で、徐々に大きくなる音に、誰かがこちらに向かってきていることを感じて冷や汗が流れる。

(誰かくる!)

 きっと、自分をこの状況に陥れた張本人だろうと感じ、その本人が部屋に来た後、どんなことをされるのかと思うと、最悪な考えがよぎり、聞こえてくる足音に心臓がうるさいくらいに早鐘を打つ。

 ガチャリ

 ドアを開け、誰かが部屋に入って来た。

 ドクドクと煩く鳴る胸を押さえ、浅く呼吸を繰り返しながら、部屋に入って来た相手の顔を見ようと目を凝らす。

 部屋の中が暗くて相手の顔がよく見えない。
 それでも、なんとか見ようとさらに目を凝らしていると、相手から発せられた声に、驚愕を浮かべることとなる。


「あれ。目が覚めていたんですか?」
「!!?」

 「僕が起こしてあげようと思っていたのに、残念」 とかわいらしく小首を傾げる男の顔が、暗闇に目が慣れて来たおかげで段々と見えてきた。

 顔が見えなくてもその発した声ですでに誰かは理解していたが。

「な、んで……」
  驚きに目が見開いたままになる。

 少しずつベッドに近づいてくる男が、ただ無邪気なだけの可愛らしい男などではなく、不穏な色を纏い、目には残忍な色を載せ、わざと恐怖心を煽るようにゆっくりと近づいてくる悪魔のような男である。

 どこかで”やっぱり私の感は正しかった”としみじみと感じているが、そんな男と関わるもんか! と少しでも距離を取ろうと、無駄な行為だとはわかっていても鎖を引っ張らずにはいられない。


「僕の部屋にようこそ。さあ、約束通り、お茶をしよう」

 ベッドのすぐ近くまで来た男は、のんびとした様子で近くの丸テーブルに置いてあるカップに手ずからお茶を入れ始めた。

 その様子を不可解なものを見る目で見ていたのだが、入れ終わったお茶を差し出してきた男を怒りを滲ませた目で睨んで、その名を呼んだ。


「レネット王子……」

 名を呼ばれた男はそれそれはは嬉しそうに笑った。


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