その花びらが光るとき

もちごめ

文字の大きさ
上 下
28 / 77

28  

しおりを挟む
 花が咲き誇る庭先で、侍女のミルリーと、騎士のジークとともに、聖獣でもある友の『チョコ』 とじゃれ合って穏やかに笑い合っていた。


 あの儀式のあと、しばらくは微熱が出たり下がったりを繰り返して寝込んでいたのだけれど、今ではすっかりとよくなり、食欲も以前よりも旺盛というように全回復をしている。
 とはいいつつも、寝込んでいた日々も長かったこともあり、体力面では回復途中ということもあり、すこしずつ外に出て、ゆっくりと回復させているところである。

 今日は天気もいいので、『午後のおやつは外で食べましょう』 とミルリーさんからの提案もあり、外で午後のティータイムを楽しみながらチョコとじゃれついていた。

「もうすっかりとよくなられたようで安心いたしました」
「はい、もう全回復ですよ! その節は大変ご心配をおかけしました」

 ジークさんに、元気ポーズを見せながら答える。

「本当に心配いたしました。私たち侍女たちも、騎士団の方たちも、チョコさんも、みんなユナ様の事を心配しておりました」

(そんなに心配してくださっていたのですね)

 ミルリーさんの言葉に胸がジーンとする。

「ありがとうございます。でも、もう本当に大丈夫ですよ! 皆さん、本当に優しい方たちで、私って、ここで皆に守られてるんだなって感じました。私、今回のことでいろいろと考えてみたんです。この国に来てからもうだいぶ経つのにまだまだ知らない事だらけだなぁって。この国の事、女神の事、みんなのことも、色々と知りたいな、って思いました。ちゃんと知って、自分と向き合いたい」


「ユナ様、御立派です」
「私たちにできることがあれば何なりとお申し付けください。ユナ様が前に進んでおられることに大変うれしく思います。このジーク、どこまでもお供いたします」

 突然その場に跪いて見上げてくる自分の専属護衛騎士。

 いや、ジークさん。重いです……。


「二人ともありがとう。これからもよろしくね」
「きゅむ~~!」

「チョコも、これからもよろしく!」

 皆で穏やかな穏やかに笑い合って、楽しい時間がゆっくりと過ぎていく。




「随分楽しそうだね。僕も混ぜてくれないかな?」

 え、誰??

 突然に予想外な第三者の声がした方を振り向いてみると、ややウエーブがかった金茶色の髪の、私とそんなに年が変わらないのでは? と思う青年が立っていた。

「レネットさま……」

 なぜだかジェイドさんやミルリーさんがさっきまでとは違って顔色悪くしている。

 どうしたのだろう? 二人とも急にお腹でも痛くなったのかな? と思ったのだが、二人は突然現れた青年に対し礼を取っていることに気づいた。

(わ、私も同じようにすればいいのかな?) 

 見よう見まねでぎこちなくスカートの裾を持ち、膝を折ろうとしていたのだが、途中で青年から声を掛けられた。

「ああ、いいよ、そのままで。僕、堅苦しいこと嫌いだからね。それよりも、君、女神さまだよね? 初めて見るけど、かわいいな~~。この前の儀式のときには、僕、体調悪くって欠席してたんだよね。だから今日、会いたくって来ちゃった」

 そういう青年はなんていうか男らしいというよりは『かわいらしい』 という感じの人懐っこそうなタイプ。

「ねえ、名前、なんていうの? 教えてよ」
「あ、ユナって言います」
「ユナ、ね。うん、名前もかわいい。よろしくね」

 握手を求められているのだろう。手を差し出されたので条件反射で私も手を差し出す。
 『かわいい』 を連呼されているが、目の前の青年のほうがかわいいと思う。

「あ、そうそう、僕、第三王子のレネットっていうんだ。よろしくね」

 ……。えっつ。第三王子??

 手を握りニコニコと私を見ている目の前の青年をややひきつった顔で見る。

 この、青年が第三王子だったんだ……。

 そのまま視線を動かすと、まだ顔色悪くしているジークさんたち。

 納得……。お腹が痛いわけではなかったのね……。


 さて、どうしましょう。
 ニコニコと手を握られていますが、これ、自分から離していいのでしょうか?
 不敬とかになったりしませんか?

 なんでも、この人、第一王子と対立している人だよね?
 そんな人が今ここにいるなんて、えらいこっちゃ!


 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...