8 / 77
8
しおりを挟む
その日はとにかく朝から大忙しだった。
近所の子供たちのけんかの仲裁に駆り出されたり、芋の収穫を手伝ったり、パッチワークを完成させたり、とにかく忙しかった。
忙しくすることで何かの気を紛らわせていたのだろう。
今思えばきっと知らずのうちに胸騒ぎがしていたのだと思う。
***
「ほら、完成したよ、特大のソファーカバー。私の力作!」
「まあ、本当にすごいわ。これを被せるだけで随分と部屋が明るくなるわね。布一枚でこんなにも変わるなんて不思議ね~~。でも、こんなに素敵なもの、私達がもらうなんてもったいないわ」
「いいんです。もらってください。お世話になったお礼です。これくらいさせてください」
「ユナさん……。ありがとう。……本当に、ありがとう」
「おばさん……」
突然ドンドン! と入り口の扉が叩かれ、さっき喧嘩を仲裁したばかりの近所に住んでいる子どもが、慌ただしく家の中に入って来た。
「き、来たよ!」
き、来た!?
もしかして王宮からのお迎えの事?!
慌てて外に出てみるととそこには同じように外に出たばかりの村の人たちが、皆同じ方を向いて華美な団体を見つめていた。
きっとここの人たちは王都の人たちを見るのは初めて何だろう。
子供たちはあこがれの騎士様たちだ! と目をキラキラと輝かせて見ている。
大人たちは手にじゃがいもを持ったままボーッ、と止まってしまったり、頬を染めて、髪の毛を手で整えたりしていた。
この古びた村には不釣り合いな程キラキラしい集団のご一行様は、とても目立つし、存在そのものというか、そこだけ纏っている空気が違って見える。
村の真ん中まで歩いてきたご一行様は皆一斉に止まった。
誰一人乱すことなく、一斉に立ち止まった姿はすごくかっこよくて、まるで絵本の中の世界を見ているようだと思った。
子供たちの騎士へのあこがれの気持ちはきっと天まで昇ることだろう。
その集団の中心から青緑の騎士服をまとった一人の青年が前に出てきた。
そして周りでどうしたらいいのかわからずに固まっている村の人たちを見回し、ふと、私を見て軽く目を見開いた。
そして迷うことなく真っ直ぐ私のほうに向かって歩いてきた。
その足取りはとても優雅で、私を含めた村の皆が、ただボーッと歩く姿を見つめている。
長いコンパスの騎士様はあっという間に私の前まで来て、そのまま膝間づいて私を見上げた。
目の前の騎士が膝間づいた瞬間、後ろにいたご一行様たちも一斉に同じように膝間づいた。
なに、これ、なんなの?!
近所の子供たちのけんかの仲裁に駆り出されたり、芋の収穫を手伝ったり、パッチワークを完成させたり、とにかく忙しかった。
忙しくすることで何かの気を紛らわせていたのだろう。
今思えばきっと知らずのうちに胸騒ぎがしていたのだと思う。
***
「ほら、完成したよ、特大のソファーカバー。私の力作!」
「まあ、本当にすごいわ。これを被せるだけで随分と部屋が明るくなるわね。布一枚でこんなにも変わるなんて不思議ね~~。でも、こんなに素敵なもの、私達がもらうなんてもったいないわ」
「いいんです。もらってください。お世話になったお礼です。これくらいさせてください」
「ユナさん……。ありがとう。……本当に、ありがとう」
「おばさん……」
突然ドンドン! と入り口の扉が叩かれ、さっき喧嘩を仲裁したばかりの近所に住んでいる子どもが、慌ただしく家の中に入って来た。
「き、来たよ!」
き、来た!?
もしかして王宮からのお迎えの事?!
慌てて外に出てみるととそこには同じように外に出たばかりの村の人たちが、皆同じ方を向いて華美な団体を見つめていた。
きっとここの人たちは王都の人たちを見るのは初めて何だろう。
子供たちはあこがれの騎士様たちだ! と目をキラキラと輝かせて見ている。
大人たちは手にじゃがいもを持ったままボーッ、と止まってしまったり、頬を染めて、髪の毛を手で整えたりしていた。
この古びた村には不釣り合いな程キラキラしい集団のご一行様は、とても目立つし、存在そのものというか、そこだけ纏っている空気が違って見える。
村の真ん中まで歩いてきたご一行様は皆一斉に止まった。
誰一人乱すことなく、一斉に立ち止まった姿はすごくかっこよくて、まるで絵本の中の世界を見ているようだと思った。
子供たちの騎士へのあこがれの気持ちはきっと天まで昇ることだろう。
その集団の中心から青緑の騎士服をまとった一人の青年が前に出てきた。
そして周りでどうしたらいいのかわからずに固まっている村の人たちを見回し、ふと、私を見て軽く目を見開いた。
そして迷うことなく真っ直ぐ私のほうに向かって歩いてきた。
その足取りはとても優雅で、私を含めた村の皆が、ただボーッと歩く姿を見つめている。
長いコンパスの騎士様はあっという間に私の前まで来て、そのまま膝間づいて私を見上げた。
目の前の騎士が膝間づいた瞬間、後ろにいたご一行様たちも一斉に同じように膝間づいた。
なに、これ、なんなの?!
0
お気に入りに追加
25
あなたにおすすめの小説
S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった
ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」
15歳の春。
念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。
「隊長とか面倒くさいんですけど」
S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは……
「部下は美女揃いだぞ?」
「やらせていただきます!」
こうして俺は仕方なく隊長となった。
渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。
女騎士二人は17歳。
もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。
「あの……みんな年上なんですが」
「だが美人揃いだぞ?」
「がんばります!」
とは言ったものの。
俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?
と思っていた翌日の朝。
実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた!
★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。
※2023年11月25日に書籍が発売!
イラストレーターはiltusa先生です!
※コミカライズも進行中!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました
ツヅミツヅ
恋愛
【完結保証】
グリムヒルト王国に人質同然で連れられて来たマグダラス王国第一王女、レイティア姫が冷酷無比とされる国王陛下に溺愛されるお話。
18Rには※がついております
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる
しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。
いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに……
しかしそこに現れたのは幼馴染で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる