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その僕の教育の賜物もあってミアはすくすくと健全に育っていった。

 もともとの可愛らしさにより磨きがかかって、柔らかい(いつも触っているから断言できる)ハニーブラウンの髪は腰まで届くほど伸びた。
緩くウエーブがかかっていて風に乗って甘い香りが漂ってくる。いっそ蜜に群がる蝶になって、あの髪の毛にとまりたいと思ったほどだ。

 ぱっちりとした大きな瞳は穢れを知らない澄んだ湖のようで、あの瞳に見つめられるといつも自分はどっぷりと溺れてしまう。もういっそ、湖の底まで沈んでしまいたい。



 とにかく極上の天使の存在に、一種の焦りが生じ始めた十一歳の夏。(ちなみにミアは八歳)
 何処から漏れたのか、『オルベルト伯爵家の天使』の存在を一目見ようと野獣たちちらほらと現れ始め、身の程もわきまえない愚かな奴らが、図々しくも近くをうろつくようになった。
あわよくば伯爵家と懇意になろうという魂胆も見え見えだ。あんな奴らに俺の大切なミアが取られてたまるものか!! 俺は何処のどいつなのか調べ、弱みを握って、その家門ごと社会的に抹殺してやろうと、一生懸命に探偵ごっこをした。
 やはり子供の俺にできることはなく、せいぜい走る馬車の車輪の前に、ちょっと尖った石を投げつけることと、握った弱みを偶然通りかかった新聞記者にお話ししてあげることくらいしかできることがなかった。
 とにかく俺はまだまだ子供であるということが歯がゆかった。


 それからも、あんなに可愛らしければいつか誰かに攫われてしまうのではないか、と日々心配で夜も眠れない日々が続いた。
寝不足からやや危険な思考も芽生えてしまい、『こうなったら窓のない部屋に閉じ込めるか……、それとも鎖でつないでしまおうか……』と考え始めるようにもなったが、そんな時、転機が訪れた。

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