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「くくくっ。君たちの愛情表現はいつみても過激で面白いね」
「断じて愛情はないです」
「やあやあ王子。弟は少々天邪鬼でして。きっと世でいうツンデレなるものなんだな。本当は”お兄ちゃん”と甘えたいんだろうが、仕方ない、あとでたっぷり甘やかしてあげようではないか」


「勝手に俺を分析するな。うざい」
「うん。完全にツンしかないように思えるのだけれど? デレの要素どこにあるの?」

「きっと、一人になった時にデレるんでしょう。うん、お兄ちゃんは、そんなお前も可愛いと思うから、あとで一人になった時に存分にデレておくれ。さて、で、どうしたんだい? 弟よ。悩みがあるなら頼りになるお兄ちゃんがスパッと解決してあげるから話してごらん? そして我が家の日記に書き記して母上殿と眺めながらお茶を楽しむとしよう。さあ、遠慮することはない。話してごらん?」

 自信たっぷりに自分の胸を叩いているこの男が、自分と同じ血が流れている実の兄弟だなんて……。
 心底鬱陶しいと思う――。

「お前には言葉が通じないということがよくわかったよ。父さんとダンブルによく言っておくよ」

 こんな馬鹿に付き合うのは時間の無駄だ。

「いや、ダンブルはちょっと……」
 
 弟の放った言葉に見るからに顔色を悪くさせ、焦り始めたのをみて少々疑問に思ったことを聞いてみることにした。

「ダンブルって、ソルシエ家の執事じゃなかったっけ?」
「うちで魔法を教える役もやっているんです」
「ふーん、それがどうしてそんなに慌てる理由になるわけ?」

「わ、私は何も焦ってなんかいませんよ!!」
 
 いや、明らかにどもっているし、額から汗流れてご自慢の顔にペタッと前髪が張り付いているから。


 そんな兄の慌てように内心ざまぁ、と思いながらも説明を始めた。

「兄は魔法が苦手でして。見た目通り集中力がないためによく魔法を暴発させてしまうんですよ。家で一番魔法の出来が悪く、それでもソルシエ家の人間ならば、最低習得しなければいけないラインがあるのですが、それをクリアするために大変な苦労をしたそうですなんですよ」
「俺は、学業が得意なんだ! お前と比べれば出来はいまいちだったかもしれんが、俺は一般的には魔法も出来るほうなんだぞ。それに、大変な苦労じゃなくて、トラウマになるほどの壮絶な訓練だったんだ! あいつ、主の息子の俺相手にまったく手加減なくてさ……あぁ、思いだしたくもない……」

 手で自分の身体を抱きしめながらブルブルと震えているが、可愛いなんて全く思ってないからな。むしろ気持ち悪い。だからチラチラとこっちを見るな!


「なるほど。それで焦っているんだ」
「もう一度、心身共に鍛え治してきたほうがいいと思います」

 ダンブルに伝言を頼もうと伝令用の鳩を呼び出す。

「い、嫌だ!!  それだけは絶対にやめてくれ!!」

 どさくさに紛れて抱き着いて来ようとするので、俺は目の前に分厚い壁を作った。

「まあまあ、二人とも。キースはただミアちゃん要素が足りないだけなんだよ」

「そうなのか、それはかわいそうに」

 折り目正しく綺麗に折られた清潔感溢れるハンカチで額の汗を拭う。隅に”キースラブ”と刺繍がされていたがそこには誰にも触れないでおく。
 
 さっきまで涙目で弟に縋り付こうとしていたはずだったのに、さっさと気持ちを切り替えたらしく、腕組みをしながら弟の悩みごとに真剣になって考え込んでいる。

「ふむ。それならば会いに行けばいいじゃないか」
「どうやって? 勝手に出ていけば処罰の対象だよ?」
「そんなの簡単さ。弟は魔法が得意なんだから魔法で本人とはわからないように変化していけばいいのさ」
「ああ、そっか。それならいいんじゃない? でも人型が校外に出ていくと感知されてしまうからら、動物かそれに似た何かに変化したほうがいいかもね」

「そんなに簡単にいきますかね? でもいいアイデアかも。さっそく今夜にでもやってみたいんですが何に変化すればいいですかね?」
「どうせなら、ミアちゃんが好むものの方がいいんじゃない? 思わず抱きしめたくなるようなもの」
 目の前で二人が相談し始めたのを見て、いつの間にか蚊帳の外になっていることに気づいたらしく、二人の周りを自分の存在を主張するようにうろつく。
「あれ? アイデア出したの僕だよ?    おーい聞こえてる? あれ? 僕、空気?」

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