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「!? っ、、」

 びっくりして瞬きを拍子に、零れ落ちた涙が頬を伝って唇に落ちる。その涙を吸い取れば、とても切ない涙の味がした。


 ミア、君は今、何を考えている?
 君の返答次第では、きっと冷静ではいられない。


 今だって君の前ではかろうじて平静を装って入るが、本当は身体中が欲望の塊になっている。ミアの事を滅茶苦茶に掻き抱いてしまいたい衝動に駆られている。
 でも、それをしないのはミアに嫌われたくない一心、ただ一つでギリギリ保っている。
 もしミアに拒否されたら俺は簡単に闇に落ちるだろう。どうでもいいこの世の中なんて一瞬のうちに破壊して灰にしてしまうだろう。今、この世界が平穏無事なのは、ミア、君が僕の傍にいてくれているからだ。

 そんな爆弾みたいな俺を目の前にしているのに、どうしてあんなことを言うんだ。


 でもそこでふと、さっきの様子を思い出す。
 そうだった。ミアの様子はなんだかおかしいが、まだ嫌いと言われたわけではない。何かおかしな方向に勘違いをしていて、それで”自分に相応しくない” と言ってただけだ。

 そんなことは決してないのに。君にふさわしいのはこの世で俺だけなんだし。
 ミアは今までこんな俺に相応しくなろうと頑張って追いかけてきてくれたではないか。


 だったら、きっと気持ちはお互いに昔から変わってないはず。
 頑固になるんだったら、いっそのこと囲ってしまって、一生俺から逃げられないようにしてしまえばいいだけだ。


 このまま、俺だけのものにしてもいいんじゃ、ないか……?


 一瞬のうちにいろいろと考えすぎてこめかみが痛み出した。動揺から身体の魔力が乱れた証拠でもある。魔力の乱れからも内なる黒い考えが少し顔を出す。あの秘術を掛けたらミアは俺の事をどう思うんだろう?
 嫌いになるかな、それだけは耐えられないんだけどな、と思って一度ミアの顔を覗き込んでみた。


「キー、ス……」

(!!!)

 目が合うと、潤んだ瞳でそう呼ばれた。


 名前を呼ばれただけなのに、俺を求めているように、俺を許し、すべてを包んでくれるかのように聞こえた。


 その瞬間、理性も世界の平和も遥か彼方に吹き飛んでしまった。
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