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「ねえ、どうしても行っちゃうの??」
可愛い声が聞こえ、ふと意識をそちらへと向ける。
頬を膨らませて怒ったような、寂しさが滲んだような顔しているミアに”そんな顔も可愛いな” と思い、蕩けるような笑顔を向けた。
「お勉強してくるんだよ。もっともっと強くなってミアを守れるようになりたいんだ」
そんな俺の言葉に、難しい顔で何かを考え込んでいる。
「じゃあ私も学校に行く! 最近魔法が使えるようになったの。もっともっといっぱい練習して私も魔術師になる!」
「ミアは今のままでいいんだよ」
「やだ!! キースが遠くに行っちゃう気がする」
怒った顔から一変、今度は目に涙を溜めて今にも泣きそうな顔をしている。
違うよ、遠くに行っちゃいそうなのはミアだよ。俺の手の届かないところに行かないで。
早くミアに釣り合う男になるから、
夏と冬の休みには帰ってくるから、
それまで、待っていてーー。
俺の服の上着を握り締めて、ぽたりぽたりと涙を流すミアの姿に少し心が痛む。
ミアの可愛らしい手を優しく握り、目に溜まっている涙を指で拭った。
「ミア、休みにはお土産を持って戻ってくるから、ちゃんと待っていてね」
「……うん。わかった。……お土産忘れないでね」
涙を拭い、精一杯の笑顔を見せてくれた。
その笑顔があれば、俺は頑張れる。
***
学校というところは実につまらない。
魔術の講義も実践も自分にとってはどれも生温く、ほとんどのカリキュラムを終えてしまった。
楽しみと言えば年に月に数回来る、愛しいミアからの手紙のやりとりと、夏と冬の長期休暇のみである。
来月の休みはミアと何して過ごそうかな?
お土産は何を買っていこうかと考え混んでいたら突然、「よお!」 と後ろから声を掛けられた。
その軽い調子の声に嫌というほど聞き覚えがある。
また煩い奴が来た、と思ったが、後ろを振り返らずにそのまま前を向いたまま固い声で答える。
「何か御用ですか?」
「敬語は要らないって言ったじゃないか」
すぐさま返ってきた言葉に、毎度のことながら若干苛立ちを覚えた。
振り向きざまに「なんか用?」とぶっきらぼう答えれば、「そんなつれないこといわないでさ」とまた軽い調子で返ってくる。
「ミアちゃんの婚約者候補に俺の弟を推しちゃうよ?」
と脅迫付きで。
ちっ、と盛大に舌打ちをお見舞いしたくなる。
この男は一応この国の王太子である。
つまり、ミアの姉上の婚約者のフィリップ王太子殿下。
この春に正式に婚約を交わしたと先日発表されたばかりだ。
つまりこいつのせいで、妹であるミアの存在も今世間で注目を浴びている。
先日伯爵にこっそりと確認したところ、第二王子からの打診はないが、その他の貴族からは沢山ミアに婚約打診が来ていると言っていた。
そりゃそうだろう。姉上はいずれこの国の王妃となる。その妹と縁を組みたいのは野心家の貴族ならば誰もが考えることだろう。
”全く、こいつのせいで” つい睨みつけるような視線を向けてしまっても仕方のないことだと思う。
「おや? もしかしてなんか機嫌が悪い? それともミアちゃんと喧嘩でもした?」
していないし。
しかも面倒くさいことに、この男に俺の気持ちはバレバレで。いつもそのことでつついて面白がっているからタチが悪い。
「この間ね、王宮でお茶をしたんだけど、その時にミアちゃんも来たんだ。ピンクのドレスがすごく可愛かったよ。母上もミアちゃんの事を可愛いって凄く気に入っている」
ミアちゃんだなんて馴れ馴れしく呼ぶな。
しかも何でお前も一緒にお茶してんだよ。
「で、その時に母上がうちの子にならない? って聞いたんだよ」
持っていた本がバサバサと音を立てながら落ちていく。
真っ青な顔で、震える目を王子に向ける。
そんな俺の様子に満足げな顔で「ミアちゃん、なんて答えたと思う?」 と聞いて来る。
なんて答えたんだ!!?
こんな奴に! と思うが、俺は王子に縋るような目を向けた。
「真っ赤な顔をしてね、『お慕いしている方がいるんです』って言ってたよ。良かったね、きっと君の事でしょう?」
ホッとしてその場にへたり込みそうになる。
ああ良かった。
もしお慕いしている人が俺ではない”他の誰か” ならそいつは存在ごと抹殺だがな。
急に晴れ晴れとした気分になり、目の前の男の存在を忘れて足取りも軽く次の講義の場所へと向かう。
向かう……。
向かう……。
「おい、どこまでついてくるんだよ」
「えっ、だって俺も君と同じ講義だから、向かうところは一緒さ。ねえ、つぎの講義の訓練、俺とペア組まない? 君以外だとさ、みんな本気を出してくれないから張り合い無くてさ。その点、君は僕と本気で戦ってくれるだろう?」
「当然だ。ここでは身分は関係ないからな。全力で戦うのは当たり前のことだろ」
王太子相手に思い切りやれる機会なんてそうそうないしな。
むしろこいつ相手なら喜んで相手になりたいくらいだ。
「そうこなくっちゃ。楽しみだね! あっ、そうそう、さっき君が落とした物だと思うんだけど、コレ」
ぴらぴらと一枚の写真を振っているのを見て、慌てて取り返す。
「み、見たのか?!」
「うん、バッチリ見ちゃった。これ、最近のミアちゃんの写真だよね? もしかして、こっそり撮っちゃったの? それって、規則違反だよね? いいのかな~~?」
よりによってこいつに……。
「どうしたいんだ」
「ん~、一個お願いしたい事があるんだ」
聞いてくれる? とニンマリと笑う顔が凄く綺麗なんだけど、何故だか悪魔にしか見えない。
やっぱり、俺はこいつが大嫌いだ。
可愛い声が聞こえ、ふと意識をそちらへと向ける。
頬を膨らませて怒ったような、寂しさが滲んだような顔しているミアに”そんな顔も可愛いな” と思い、蕩けるような笑顔を向けた。
「お勉強してくるんだよ。もっともっと強くなってミアを守れるようになりたいんだ」
そんな俺の言葉に、難しい顔で何かを考え込んでいる。
「じゃあ私も学校に行く! 最近魔法が使えるようになったの。もっともっといっぱい練習して私も魔術師になる!」
「ミアは今のままでいいんだよ」
「やだ!! キースが遠くに行っちゃう気がする」
怒った顔から一変、今度は目に涙を溜めて今にも泣きそうな顔をしている。
違うよ、遠くに行っちゃいそうなのはミアだよ。俺の手の届かないところに行かないで。
早くミアに釣り合う男になるから、
夏と冬の休みには帰ってくるから、
それまで、待っていてーー。
俺の服の上着を握り締めて、ぽたりぽたりと涙を流すミアの姿に少し心が痛む。
ミアの可愛らしい手を優しく握り、目に溜まっている涙を指で拭った。
「ミア、休みにはお土産を持って戻ってくるから、ちゃんと待っていてね」
「……うん。わかった。……お土産忘れないでね」
涙を拭い、精一杯の笑顔を見せてくれた。
その笑顔があれば、俺は頑張れる。
***
学校というところは実につまらない。
魔術の講義も実践も自分にとってはどれも生温く、ほとんどのカリキュラムを終えてしまった。
楽しみと言えば年に月に数回来る、愛しいミアからの手紙のやりとりと、夏と冬の長期休暇のみである。
来月の休みはミアと何して過ごそうかな?
お土産は何を買っていこうかと考え混んでいたら突然、「よお!」 と後ろから声を掛けられた。
その軽い調子の声に嫌というほど聞き覚えがある。
また煩い奴が来た、と思ったが、後ろを振り返らずにそのまま前を向いたまま固い声で答える。
「何か御用ですか?」
「敬語は要らないって言ったじゃないか」
すぐさま返ってきた言葉に、毎度のことながら若干苛立ちを覚えた。
振り向きざまに「なんか用?」とぶっきらぼう答えれば、「そんなつれないこといわないでさ」とまた軽い調子で返ってくる。
「ミアちゃんの婚約者候補に俺の弟を推しちゃうよ?」
と脅迫付きで。
ちっ、と盛大に舌打ちをお見舞いしたくなる。
この男は一応この国の王太子である。
つまり、ミアの姉上の婚約者のフィリップ王太子殿下。
この春に正式に婚約を交わしたと先日発表されたばかりだ。
つまりこいつのせいで、妹であるミアの存在も今世間で注目を浴びている。
先日伯爵にこっそりと確認したところ、第二王子からの打診はないが、その他の貴族からは沢山ミアに婚約打診が来ていると言っていた。
そりゃそうだろう。姉上はいずれこの国の王妃となる。その妹と縁を組みたいのは野心家の貴族ならば誰もが考えることだろう。
”全く、こいつのせいで” つい睨みつけるような視線を向けてしまっても仕方のないことだと思う。
「おや? もしかしてなんか機嫌が悪い? それともミアちゃんと喧嘩でもした?」
していないし。
しかも面倒くさいことに、この男に俺の気持ちはバレバレで。いつもそのことでつついて面白がっているからタチが悪い。
「この間ね、王宮でお茶をしたんだけど、その時にミアちゃんも来たんだ。ピンクのドレスがすごく可愛かったよ。母上もミアちゃんの事を可愛いって凄く気に入っている」
ミアちゃんだなんて馴れ馴れしく呼ぶな。
しかも何でお前も一緒にお茶してんだよ。
「で、その時に母上がうちの子にならない? って聞いたんだよ」
持っていた本がバサバサと音を立てながら落ちていく。
真っ青な顔で、震える目を王子に向ける。
そんな俺の様子に満足げな顔で「ミアちゃん、なんて答えたと思う?」 と聞いて来る。
なんて答えたんだ!!?
こんな奴に! と思うが、俺は王子に縋るような目を向けた。
「真っ赤な顔をしてね、『お慕いしている方がいるんです』って言ってたよ。良かったね、きっと君の事でしょう?」
ホッとしてその場にへたり込みそうになる。
ああ良かった。
もしお慕いしている人が俺ではない”他の誰か” ならそいつは存在ごと抹殺だがな。
急に晴れ晴れとした気分になり、目の前の男の存在を忘れて足取りも軽く次の講義の場所へと向かう。
向かう……。
向かう……。
「おい、どこまでついてくるんだよ」
「えっ、だって俺も君と同じ講義だから、向かうところは一緒さ。ねえ、つぎの講義の訓練、俺とペア組まない? 君以外だとさ、みんな本気を出してくれないから張り合い無くてさ。その点、君は僕と本気で戦ってくれるだろう?」
「当然だ。ここでは身分は関係ないからな。全力で戦うのは当たり前のことだろ」
王太子相手に思い切りやれる機会なんてそうそうないしな。
むしろこいつ相手なら喜んで相手になりたいくらいだ。
「そうこなくっちゃ。楽しみだね! あっ、そうそう、さっき君が落とした物だと思うんだけど、コレ」
ぴらぴらと一枚の写真を振っているのを見て、慌てて取り返す。
「み、見たのか?!」
「うん、バッチリ見ちゃった。これ、最近のミアちゃんの写真だよね? もしかして、こっそり撮っちゃったの? それって、規則違反だよね? いいのかな~~?」
よりによってこいつに……。
「どうしたいんだ」
「ん~、一個お願いしたい事があるんだ」
聞いてくれる? とニンマリと笑う顔が凄く綺麗なんだけど、何故だか悪魔にしか見えない。
やっぱり、俺はこいつが大嫌いだ。
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