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 この術のおかげで俺はミアがどこにいてもその場所がわかるようになった。
 自分の認識していない場所にミアの気を感じた時は心配になって馬車に迎えに行ったこともある。
 その時は新しくできたお友達(女の子)のお家でクッキーを食べていたが、そのお友達に年頃のお兄さんがいたために、すぐに連れて帰った。



 さすがに「せっかくお友達とお茶していたのに」とちょっとむっとしていたが、『美味しいケーキを用意してあるんだ、一緒に食べよう』と言えば『わかった。キースお兄様は本当に優しくて大好きよ』と、ぎゅっと腕に抱き着いてきた。
 
 本当に天使だな、可愛すぎる。
 この腕から離れないで欲しいから、ゆっくりゆっくり馬車を走らせてくれ。
 いつも最速で走らせて家に帰るように指示を出してあるため、今日も命令通りに最速で馬を走らせている馬番に、今日だけは……、と心の中で願った。



 そしてまた年を重ね、俺はさらに努力を重ねた。
 次の年には俺は転移魔法術を習得した。


 十歳を迎えたミアは立派な淑女になるための勉強をしており、さすがに男である自分の部屋には入ってこなくなった。
 そればかりか恥じらいも覚えたらしく、自分から抱き着いたり、腕を組んだり、身体に触れたりすることをしなくなり、とにかく男という生物に極力距離を置くようになった。
 淑女としてのマナーなのだから仕方がないことだけど、少し、寂しく感じる。


 時々いたずらの様に強引に顔を覗き込んで目を合わせれば、顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯く。


 耳まで真っ赤にして、可愛い。あの耳を今すぐ肖像画にして部屋に飾っておきたい。ダメかな?


「キ、キースさま。紳士はむやみに女性をからかってはいけません。ほ、本気にします」

 顔を真っ赤にしながら両手を突っぱねて必死に話す姿を見たら我慢できなくなり、そっと耳たぶに触れた。

「ひゃんっ!!」

 耳を手で押さえ、真っ赤な顔で自分を見上げる。

「ごめんね、つい」
「み、耳とか……、む、むやみに女性に触れてはいけません」

「うん、そうだね、ごめん。でも、急にミアがよそよそしくなるからいけないんだよ?」
「淑女は男性にむやみやたらと近寄ってはいけないと」
「うん。それ、とっても正しい。でもね、ミアと僕の関係はそうじゃないよね?」
「で、でも、最近、キースを見ると胸がどきどきして……、それに目が合うと恥ずかしくて……」



 よし!! 心の中でガッツポーズをする。


「ねえ、ミア? それはきっと僕のことが好きってことなんだよ。僕もミアのことが大好き。だから大きくなったら僕と結婚してくれる?」

 どさくさ紛れにプロポーズをすれば目を大きく見開いて固まっていたが、その後小さく「はい」 と言って頷いた。


 言質とったぞ!! 心の中で本日二度目の、両手ガッツポーズをする。


 感激のあまり思わずギュッと抱きしめれば、一瞬焦ってはいたものの、それも一瞬のことで、恥ずかしそうに顔を埋めて弱弱しくだが、そっと背中に手を回してくれた。
 実はさっき耳にそっと触れた時に、『ミア限定転移魔法術』を掛けておいた。
 俺の今日のノルマはダブル達成。


 使用人が来て怒られるまで、ミアをずっと抱きしめていた。



 本当、大好き、俺のミア。
 


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