上 下
38 / 39

7-6

しおりを挟む
そして魔法師団棟にと戻ってきたライルはキースの元へと一直線に向かった。
微かに乱れている息を整える間もなく席ほどのミアの様子を伝えることにした。



「……という様子でした……」


正直にミアの様子を伝えたのだが、なぜか途中から少しずつ部屋の空気が重くなっていく感じがし、徐々に息苦しさを覚えた。


あれっ、なんでだろう、おかしいな。ちゃんと言われたとおりに自分は渡すものをちゃんと渡したし、ちゃんと暗黙のルールの通りに5メートルは離れたところから声を掛けているからミア嬢の姿はぼんやりとしか見えてなかったし、何か師団長の機嫌を悪くする原因があったのだろうか。


あっ、もしかしてミア嬢と仲良さげに話をしていたご自身のお兄さんの存在ですか? 
でもそれならば僕なんかの出る幕ではないのでご自身で劇薬でも差し入れしていただければ済みますよね。
やはり平和のためには多少の犠牲はつきもの。なのでぜひそうしてください。


そう思い提案してみようかと思ったのだが、もしかして、と考えてみる。


もしかしてまだ魔力が完全には戻っていなくて身体が不調を訴えているのではないか。もしそうならばこのライル、敬愛する上司ためならば全力で力になります!


そうして手をグッと握り締めたのだが、次の瞬間聞こえてきた言葉に一気にそんな気が失せた。



「ちっ、昨日無理をさせすぎてしまったか……。しかし、まだ怒っているとはな。あの本で機嫌が治らないとなると……」と眉を寄せブツブツ呟いている。



……あの、無理をさせすぎたって何をですか。


あっ、でも教えてくれなくていいですから。全然聞きたくないです。


はあ、と思わず遠い目をしかけたその時、入り口のドアが勢いよく空けられた。


突然の「バタン!」という音に、この部屋にいた九割の人物がびっくり顔をして、そしてただ一人が目を輝せる。


「ミア! お帰り!! 会えなかった二時間が寂しすぎて心が悲鳴をあげそうだったよ!!」


この部屋の九割の人間はこのあと予想される展開に悲鳴をあげそうです。


「私も悲鳴をあげそうだったわ!! なによこの本は!!」

「ん? その本は我が家の跡取りのみに受け継がれている秘術書だよ。ほら、君も言ってただろ?『いったいどうなっているの。なんで毎日毎日って、』」
「もーっ!!やーめーてーっ!!」」


両手を広げ最愛の女性を迎えたキースは満面の笑みで話しかける。その相手も怒っている態度を作ってはいるがあまり効果は見られない。怒っている中に恥ずかしさが見え隠れしている。


そんな二人が揃ったのだから、部屋にいる物たちは皆、空気に徹している。
そして僕は、きっとろくでもないだろうそんな本を、大事に大事にと運ばされていたのかと思うと、一気に脱力感を覚えてしまった。



…僕は魔術師学校に入った時からキース師団長に憧れ、こよなく敬愛し、そして今でも崇拝しているんです。


ですが、そんな敬愛する上司相手にも、時には言わねばならないときもあることに気付きました。


僕はこれでもキース師団長の優秀な右腕補佐官。
男らしい男として今こそ言うんだ!!






「お願いですから二人とも仕事してえぇぇぇぇぇ――――!!!」


 ……と心の中で声を大にして言った。


しおりを挟む

処理中です...