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「えっと、今、なんて?」

 聞こえた言葉が、幻聴ではないのかと思いもう一度聞いてみた。

「ですから、ソルシエ家に伝わる秘術を知りたいですか?   と聞いたのです」


 秘術……。そんなものがあったんだ。

 ごくりと唾を飲み込む……。


 
「そ、それは……どんな?」

「『死が二人を分かつ時まで』です。つまり、死ぬまで二人は決して離れられないっていう究極の執着系奥義です。かけられた相手は大変な迷惑を被る術ですが」


 驚愕に目を見開く。
 禁書で読んで存在は知っていたが、それがまさか我が家に実在していたなんて!!


 すげーな、ソルシエ家。
 代々伝わる秘術がヤンデレストーカー色だったって。
 そしてそれを俺も喜んで受け継ぐという……。
 うん。俺は間違いなくソルシエ家の一員だ。


「師匠、ぜひ伝授して下さい!!」

 俺は迷いもせずに深く頭を下げることとした。


 ソルシエ家の中でも伝授された者のみが使うことのできる秘術。


 『死が2人を分かつ時まで』


 ミア。君にこの術をかけたら、君は俺を嫌うかい?


 でも俺は死が二人を離れさせようとも、決して君と離れないと誓うよ。





 あの後、執事にみっちり修行をつけてもらい何とか秘術を習得することが出来た。
 流石に秘術ということもあって、なかなかに苦労をしいられることとなった俺は、血の滲む努力を……、いや、本当に血が滲んだ……。


 秘術なので詳しく言うことはできないが、この術は自分の血液に術を掛けておく必要があり、その訓練中で俺は一度失敗をして、胃に穴が開いてしまい血を吐いた。

 すぐに治癒を施したが、多少何日か寝込むこととなった。


 寝込んでいる場合ではないんだ!! 俺は何としてもこの術を手に入れるんだ!!


 俺は師匠もびっくりな回復力を見せ、目を血走らせながら、気力、気迫、執念で見事秘術を手に入れることが出来た。
 

 師匠は俺の鬼気迫る気迫に若干の恐怖を感じ頬を引きつらせていたが……。



 本日の訓練を終えてローブを脱いでいる俺に、汗を拭くタオルを持ってきてくれたのでありがたく受け取る。

「旦那様から言付けを預かっています『その秘術は一生に一度しか使えないから心して使え。決して使い方を見誤らないように』と。きっと坊ちゃんはミリアリア様にお使いになられると思いますが、この術は決して相手を不幸にさせるために使うものではございません。もし坊ちゃんの一生に中で使うことがあるのならば、その時はお互いが幸せになるためにお使いください」


 執事モードに切り替え、お辞儀をして去っていく背中を眺めながら、たった今言われた言葉を頭の中で反芻する。


幸せになるために使う……。自分の中に巣くう不安や恐怖の為だけに相手を自分の人生に縛り付けてはいけないんだ。

 
 自分の中の複雑な気持ちがぐちゃぐちゃに混ざりあい、しばらくそのまま立ちつくしていたーー。


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