上 下
30 / 34

㉙「手紙」

しおりを挟む
㉙「手紙」
 何度かけても繋がらない電話に業を煮やしたが、電話の向こうの機械音声に文句を言っても仕方がないと諦め、クリニックの事務員に渡された健からの紙封筒を手にとって見た。
 なんの変哲もない白い紙封筒にボールペンで書かれた「本田希様」以外に封筒には何も書かれていない。

 封筒を開けると、3枚のレポート用紙が入っていた。健の体格に似た丸っこい字がそこには綴られていた。

希ちゃんへ
白血病やなくてよかったな。
この1週間、よお不安と戦ったな。
希ちゃんは強い子やと思います。
もう、おいちゃんがいなくても大丈夫やな。
最初に京橋の公園で会ったとき、「オーラ」の話をぽろっとしてしもたんを覚えてるかな?
なぜか、おいちゃんには人の「オーラ」が見えます。

人はだれしも「希望」と「不安」を持って生活しています。
前にも言ったかわからんけど「笑う門には福来たる」と「病は気から」ちゅう言葉は当たるんやで。
あの時の希ちゃんは、「不安」を通り越して「絶望」の色の「オーラ」がでてたんよ。
「自殺」考えてる人の色してたんで、おいちゃんは声をかけたんよ。
「病気」で死ぬ人のオーラとは色がちゃうねんな。

がんセンターの診断書見させてもろて、おいちゃんが電話したんが、今日、行ったクリニックの先生なんよ。
おいちゃんが、希ちゃんは「白血病では死なへん」と思う根拠は、最初に診断を受けた年配の先生とがんセンターの若い先生は、同じ大学の先輩後輩いうことが、医師名簿調べてもろて、すぐに分かったんやな。
おいちゃんは、いろんな人の相談を受ける中に、「病気」にかかわるもんもたくさんあるねん。
お医者さんをけなす気はないねんけど、まあ、「誤診」ってちょこちょこあるねんな。
まあ、それはしゃあない部分もある。

ただ、患者さんを不安にすることが、その後いかに悪影響があるのかまでわかってるお医者さんは少ないねんな。
今回、希ちゃんが最初に行った病院で伝えた、「発熱」、「倦怠感」、「歯茎の出血」、「白血球・血小板の減少」っていうとこだけ見たら、「白血病」と診断されてもおかしくはあれへん。
がんセンターの先生は、先輩のお医者さんの診断をよう否定できへんかったんやと思うわ。
まあ、結果的に、「白」の結論やったんやから、責めたらんといたってな。
医学部の上下関係ってそういうもんやねん。

そこで、おいちゃんが思ったんは、1週間後の今日の再検査を受けるまで「心の健康」を維持することが希ちゃんには必要やっていうことやってん。
人は、「自分は病気や」って思うだけで「ガン」になることかてあるんやで。
せやから、美味しいものといろんな神様を頼ったんや。
あの京橋の公園で、美味しそうに串カツ食べてビールを飲む希ちゃんを見て、おいちゃんにできることは、「これしかない」って思ったんやな。

松阪で泊った旅館の歯ブラシで出血せえへんかったんで、もしかして、希ちゃんの歯ぐきの出血が始まったときに買い替えたっていう歯ブラシの「毛」が固いんとちゃうか?って思ったんや。
それが、今朝、希ちゃんの歯ブラシの「毛」を確認させてもろてた理由や。
すんごい「固い」毛の歯ブラシやったな。
あんなんで歯を磨いたら、おいちゃんかて出血するわ。
今度からは「普通」か「やわらかい」毛の歯ブラシに買い替えや。

今日、「じゃんじゃん」に居てるときに「白血病」やなくて「EBウイルス症候群」ってわかった。それも1週間で完治して、血液の状態も正常化してるってメールで連絡が来てたんで、安心して次に困ってる人のところに行くことができることになった。
「さよなら」言うと、別れがつらくなるから、こっそりおいちゃんは去るわな。
これからは、今まで通りの生活に戻って、しっかり勉強して、素敵な恋をして、誰か困ってる人がいたら助けられるやさしい希ちゃんになってな。

ちなみに、この手紙は、読み終わって「10秒後に消滅する」んで!
じゃあ、元気でな!

 えっ?健さん、いなくなってしもたん?それにしても「10秒後に消滅する」って、スパイ映画やあるまいし、そんなことあるはずないやん。きっと、どこかに隠れて、私がおろおろすんのを見てるんとちゃうの!
 そう思った瞬間、つむじ風が起こり、希の手から3枚のレポート用紙を奪うと、健の手紙は空高く舞い上がり道路の向こうに消えていった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

Gerbera

現代文学
 綾倉キクは今年で34歳。仕事はフリーライター。恋人のヒールは30歳で既婚。汚れているけど美しい。そんな二人の恋はどこへ行くのか。大阪の街を舞台にした小さな長編小説。

百と九十九

南道 瑠衣
現代文学
至ってどこにでもいる大学生の金木優が、ひょんなことからミステリアスな雰囲気の美少女今井凛と出会う。 彼らを取り巻く出会いと別れ、そして夢の物語

【第1部完結!】『突撃!門工サバゲー部2024!~ウクライナを救った6人のミリオタの物語 Part1国内大会編~』

あらお☆ひろ
現代文学
赤井翼先生が公開した「突撃!東大阪産業大学ヒーロー部!」の向こうを張って 『突撃!門工サバゲー部2024!~ウクライナを救った6人のミリオタの物語~』 公開します! ロシア、ウクライナ戦を止めた6人の高校生の話です。 赤井翼先生のプロット&チャプター作品です。 廃部寸前の門真工科高校サバイバルゲーム部に入部した8代目「イタコ」を運命づけられている「三菱零」ちゃん(15歳)が5人の先輩たちと全国大会に出場し、決勝を前にして「ロシア軍 傭兵」としてウクライナ戦線に送り込まれてしまう話です。 「イタコ体質」の零ちゃんを中心に、レジェンド軍人の霊が次々出てきて門工サバゲー部を応援します! 「ミリオタ」でなくても全然読める「ゆるーい」青春小説ですので「ゆるーく」お付き合いください! 作品(パート2のウクライナ戦場編)のエンディングで描いたように「早くウクライナに平和が訪れること」を祈って公開させていただきます。 (。-人-。) 合掌!

処理中です...