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「卒業式」

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「卒業式」

 令和7年2月25日火曜日、門真工科高校の正門には「第45回卒業式」の立て看板が出ていた。体育館入口の前で零と彗星と紫電が花束を持って卒業式が終わるのを待っている。
「じゃあ、隼先輩には私が花束渡すから、零ちゃんは疾風部長と屠龍副長に渡すんやで。紫電はしっかりと写真撮ってや!特に部長と副長からは、零ちゃんとのツーショットの希望が来てるから、何枚かとって一番良かったやつをプリントして渡すんやからな。」
と彗星がその場を仕切った。
 
 体育館内から「蛍の光」が漏れ聞こえてきた。(あぁ、もうこれで先輩たち卒業なんだべな。結局、新規部員は入らなかったから、来年の春、頑張って3人勧誘しないといけないんだべな。先輩たちの残してくれたサバゲー部、絶対潰せないべな…。あーそれにしていろいろあったべなー。)零がこの11か月を振り返っていると、卒業証書の筒を持った疾風と飛燕と隼が出てきた。
 体育館前で花束を渡し、写真を撮った。
「零ちゃん、最後やねんから、腕くらい組んであげーや!」
と彗星が言うので照れながらも疾風と屠龍と腕を組んで写真に納まった。彗星の忖度に二人とも嬉しそうだった。
 体育館前の人混みも少なくなった時、疾風がみんなに尋ねた。
「もう一つお願いがあるんやけど、みんなに頼めるかな?」

 正門前でTaurus2を囲んでみんなで集合写真を撮りたいとの希望だった。ウクライナでの事件は箝口令が引かれていたため、みんなで命がけで戦ったウクライナの共通の思い出の一台と共通の思い出を残したいという疾風の希望に反対する者は誰もいなかった。
 紫電が三脚を立てデジカメをセットした。門の前に横向きに止めたTaurus2の前に零と彗星が座り、後ろに疾風と屠龍、ヘッドライト側に隼が立ち、あとはタイマーシャッターを押した紫電がテールランプ側に立てばOKだった。
「はーい、シャッター押すでー!10秒後やでー!」
と紫電がボタンを押し、バイクに駆け寄ったところ、1台の四駆がタイヤを鳴らし猛スピードで突っ込んできた。三脚をなぎ倒し停車した運転席の窓から一つの缶と三本の棒がTaurus2の前に投げ出された。
「ごるあ、何するんや!」
と疾風が飛び出そうとした瞬間、目を開けてられないような閃光と耳をつんざく爆音が響き、息ができなくなるような煙が周辺に立ち込め、目がしばしばと痛んだ。(いったい何ずら?音響閃光弾に催涙弾?まさかこんな街中で!)と零がうっすらと瞼を開くと、ガスマスクをかぶった迷彩服を着た男が目の前に立ち、零の身体を横抱えにすると車の運転席側から助手席まで放り投げた。(えっ、狙いは私ずらか?拉致?誘拐?いったいなんなの?)何も考えられないまま、目を押さえうずくまっていると、乱暴に車は発進した。

 「おい、零ちゃんがさらわれたぞ!疾風、すぐに追いかけるぞ!エンジンかけろ!」
屠龍が叫ぶと、痛む目を細めながら疾風がエンジンをかけた。屠龍がさっと後部座席に飛び乗ると
「追えっ!前の黒い四駆や!」
と叫んだ。隼と紫電と彗星は風上に逃げ、咳き込んだ。
「なに、今の車!明らかに私たちの事狙ってたわよね!」
「そんなことより零ちゃんがさらわれた!疾風と屠龍が追いかけた。俺等は足が無い。紫電、110番や!俺は部室に戻って疾風のスマホのGPSを追尾する!」
「了解、黒の80ランクルやったな!警察に連絡し終わったら、俺もすぐに部室に戻るから、彗星は隼先輩と先に部室に行っておいてくれ!」
残された3人は手際よく分担して次の行動に移った。

 「いったいあなた誰だべ?私をどこに連れていくつもりずらか?」
零が助手席で必死に声をあげた。男はガスマスクをゆっくりと外した。半年前に見た顔。モロゾフ大尉だった。半年前にはなかった大きな痣が頬にある。
「ヒサシブリデスネ、ミツビシサン。アナタタチノオカゲデ、ワタシハセキニンヲオイ、ヒミツケイサツカラヒドイゴウモンヲウケマシタ。カゾクハミナショケイサレ、ソノウラミヲハラスタメニキョウハヤーパンマデキマシタ。
 アナタニハクツウヲアジワッタウエシンデモライマス。カクゴシテクダサイネ。」
と言い拳銃を突きつけた。(えっ、私、殺されてしまうんずらか…?)零はぎゅっと目をつぶった。

 「零ちゃーん!助けに来たどー!」
何処からか声が聞こえる気がした。視線をふと左のサイドミラーに移すと疾風と屠龍が学生服のままバイクで追走してきているのが見えた。左から追い越し前に出ようとする。それに気づいたモロゾフがハンドルを左に切ろうとする。左は防音壁で幅寄せをされたらバイクはひとたまりもない。ましてや疾風も屠龍もノーヘルだ。
(危ない!)零はとっさにモロゾフの持つハンドルに飛びつき、右にハンドルを切った。ランドクルーザーは、中央分離帯を飛び越え反対車線の公園の入り口のガードパイプに突っ込んだ。フロントグリルとボンネットに食い込んだ黄色と黒の縞模様の鉄のパイプは斜めに曲がり、ランドクルーザーのラジエーターから濛々と湯気が上がっている。
 エアバッグがしぼむと反対車線から疾風と屠龍が乗るTaurus2がUターンして戻ってくるのが見えた。(部長、副長助けてけろ!)と思った瞬間、零はモロゾフの肩に担がれ、車から引きずり出された。零がいくら暴れても細身のモロゾフはびくともしない。
 モロゾフは、アタッシュケースを左手に持ち、右肩に零を担ぎ上げたまま、公園に上がる階段を駆け上がった。二人乗りのまま、階段を走って上ってくるバイクが零の視界に入った。(二輪駆動って聞いてたけど、普通に階段を上ってくるずら。バルーンタイヤと2×2のマシーンってすごい!この調子なら、もう追いつくべ!)

 近づく排気音に気づいたモロゾフが振り返った瞬間、後部座席の屠龍の右腕のラリアットがモロゾフの喉元に決まった。モロゾフは後ろ向きで吹っ飛び、零は階段横の植え込みに飛ばされた。階段を登り切った疾風はフロントの駆動を一瞬解除し、アクセルターンで今度は階段を駆け下りてきた。
 ふらふらと立ち上がったモロゾフとすれ違いざまにタンデムシートに立ち上がった屠龍のフライングクロスチョップが決まり、二人は、ゴロゴロと階段を転げ落ちた。先に起き上がった屠龍がモロゾフにマウント姿勢をとり、拳を振り上げる。(やった、屠龍先輩、もうプロレス技を身につけて使いこなしてるべ!えーい、やっつけちゃえ!)

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