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「2024年12月末、門真」

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「2024年12月末、門真」

 12月23日の金曜日、門真工科高校は2学期の終業式が開かれていた。終業式が終わった後、零はサバゲー部部室に一番に入り掃除を始めていた。
「あー、明日の午前中は疾風部長と、午後は屠龍部長とデートか…。夕方からは、みんなで忘年会。あっという間の8か月だっただべな…。
 結局、世界大会は出られなかったけど、それ以上の経験もできて、おそらく、世界中で一番すごい経験した15歳だったべな…。
ひとりごとを言いながら、箒をかけていると、彗星がやってきた。

 「れーいーちゃーん!明日のデートコースは決まったん?ちなみにどっちを選ぶか決まったん?部長も副長もいろいろと私に聞いてくるねんで。「零ちゃんへのプレゼント何がええか?」とか「何食べに行ったらええかな?」とかな。ウクライナをロシアから救った英雄も零ちゃんの事となるとてんで頼りに慣れへんねんからな。カラカラカラ。」
と笑いながら塵取りを差し出した。
「うーん、彗星先輩、どちらかを選ばないとだめなんですかねぇ?私、まだ男の人と付き合うとかよくわからないんですよ。」
「せやなぁ、まぁ、疾風部長は自衛隊の「一般曹候補生」採用が決まってるし、屠龍部長は例のタイガー戸口さんの警備会社に就職やから、二人とも大阪を離れるのは確実やわな。
 まあ、零ちゃんとのデートで門工サバゲー部の最後の思い出作りってとこやろな。まあ、チューくらいはしたったら喜ぶんとちゃう?あと、腹筋ぺろぺろな!まあ、私とは何回も「チュー」や「チューチュー」や「ペロペロ」や「もみもみ」してるんやからもう慣れたもんやろ?」
と彗星が揶揄うと
「もうやめてけろ!彗星先輩との「チュー」や「もみもみ」だって、私の身体ですけど、してるんは舩坂さんや飛燕のおっちゃんだべ! 私がしてるわけじゃないべ!」
と真っ赤になった。
 そこにみんなが「ごめん、遅なったわ。もう掃除始めてくれてんねや!」と入ってきたのでその会話はそこで終わった。(あーもう、彗星先輩が変なこと言うから、部長と副長の顔がまともに見れないべ…。)

 24日午前9時、クリスマスイブは晴天に恵まれた。昨日、部室の掃除の後、疾風から「明日はバイクで遊びに行こうと思ってるからあったかいかっこしてきてな。」とだけ言われていた。昼食は門真に戻り屠龍も加わり3人で食べることになっている。
 門工の校門の前で待っていると、疾風が日本には1台しかないTaurus2で現れた。ウクライナを離れる際に、情報部の中佐に無理を言って、もらって帰ってきたドネツクの工場で見つけたロシア製の両輪駆動のスーパーマシーンだった。
「おはよう。零ちゃん、今日は海に行こか!貝塚の二色の浜行くつもりやねんけどええかな?寒いけどごめんやで。」
と言うと、キャリアからヘルメットを外すと零に被せた。
 近畿自動車道から阪神高速に入り、海に出た。春の潮干狩りから夏の海水浴場オープン時はにぎわう二色の浜もクリスマスイブの今日は全くの無人だった。本来、バイクの乗り入れは禁止なのだが、ここぞとばかりに疾風は二人乗りのまま砂浜に乗り入れた。

 普通のオフロードバイクならすぐにスタックしてしまう砂浜もTaurus2のバルーンタイヤと2輪駆動のおかげでぐいぐい進んでいく。長い砂浜を端まで走るとくるっとUターンし、波打ち際を戻っていった。誰もいない砂浜をオートバイで走るのは気持ちよかった。
砂浜のおおよそ真ん中で疾風はバイクを止めた。零のヘルメットの顎ひもを外し、ヘルメットを脱がせると、ウエストバックから保温ボトルを出した。温かいココアだった。二人でバイクに横向きに腰掛けて海を見ながらゆっくりと飲んだ。飲み終わると、疾風はバイクを飛び降り、海に向かって
「零ちゃーん!俺は、零ちゃんのことが好きや―!つき合って欲しいー!それが無理なら、一回でいいから「ギューッ」とさせてほしいー!お願いしまーす!」
と叫んだ。(えっ、こ、これって昔のドラマであった「愛の告白」だべか?)零が真っ赤になってもじもじしてると、零の正面にひざまずき、ウエストバッグから一輪の小さな向日葵を出した。
「零ちゃん、最初に見た時から好きやってん。俺の好きな小説で読んだネタやねんけど、一輪の向日葵の花言葉は「一目ぼれ」やねんて!ほんまは「99本」の花束で「ずっと好き」ってやりたかってんけど、小遣い足れへんもんで…。
 おれ、春から陸上自衛隊に入る。いつか、レンジャーになってパキパキの腹筋になって迎えに行くから、今日は俺の気持ちだけ伝えとくわ。もちろん、「今日から付き合う」っていう返事やったら一番うれしいけどな。」
と笑顔で告白した。
 
 零は向日葵を受け取り鼻を寄せた。
「疾風部長の気持ちは嬉しいです。でも、ごめんなさい。まだ、私、男の人と付き合うとか考えたことないんで…。返事は保留でいいですか?」
と答えた。
「あー、やっぱりそうかー!うん、零ちゃんに選んでもらえるよう俺も頑張る!じゃあ、昼ごはんもあるからぼちぼち帰ろうか。」
と作り笑顔で話す疾風の頬に、涙のあとが一筋ひいた。

 昼の12時に門真の待ち合わせのファミレスにバイクで戻った。屠龍は既に着いていた。「爆沈!」と疾風が屠龍に言っているのが聞こえた。屠龍が疾風をハグしている姿が印象的だった。

 3人でランチを食べ、「零ちゃん、今日はありがとうな!」と言い、疾風はバイクで走っていった。
「零ちゃん、二色の浜はおもろかったか?午後は鶴見緑地でもゆっくりと散歩しよか?」
屠龍と零は、西へ歩いて行った。

 花博公園は土曜日と言うこともあり、家族連れやカップルでにぎわっていた。手をつなぐこともなく、二人で並んで歩いた。バラ園や日本庭園をゆっくりと歩いて、
鶴見緑地公園中央にある大池のベンチに腰掛けた。近くの自動販売機から屠龍が温かい飲み物を買ってきて零に渡した。
 栓を開け、口をつけると、屠龍がゆっくりと言った。
「零ちゃん、俺も疾風も4月に零ちゃんを初めて見た時から好きやったんやで。さっき飯食ってる時に、零ちゃんがトイレ行ってる間に、疾風から「ふられたわ」って聞いてん。
今の時点では、誰ともつき合う気はないってことなんかな?俺、零ちゃんがサバゲー部に入ってくれて、全国大会に出て、優勝して、まあその後は大変やったけどな…。俺、ドネツクで死にかけた時、零ちゃんに「キスしてほしい」って言うたやん。結局、死ねへんかったしあれやねんけど、何か思い出残させてもらわれへんかな。」

隣で真っ赤になって屠龍の精一杯の告白を零は黙って聞いていた。屠龍は、ペットボトルを持った手をプルプルと小刻みに震わせながら続けた。
「もちろん、これからもずっと零ちゃんの事が好きやし、いつか俺の事好きになってくれたらって思ってる。けど、俺、タイガー戸口さんの警備会社入って、プロレスの修行もしようと思ってるから、4月から東京に行ってしまうねん。それ以前に授業が終わったら、卒業式までの間も東京でプロレスの研修生に入るつもりやねん。
 いつか零ちゃんが「腹筋が好き」って言ってたやん。零ちゃんが触ってペロペロしたくなる腹筋に鍛え上げようと思ってんねん。
そこで、一人暮らししながら、頑張れるように「キス」が無理なら、一緒にツーショットで写真だけでもお願いできへんかな。あかんかな?」

零は(あー、「キス」じゃなくて「ツーショット写真」で助かったずら…。写真は疾風部長とも撮ってるから、副長と映る分には問題ないべ…。)と思い、小さく頷いた。喜んだ屠龍はスマホを自撮りモードに反転させ、零の横に並び左手を大きく伸ばし、満面の笑みでカメラのシャッターを押した。
「零ちゃん、もう一つだけお願いしてええかな?」
(えっ、今度こそ「キス」?うーん、それは困るべ…。)と思い、悩むと
「動画で、「屠龍先輩、頑張ってね!」って撮らせてほしい。それがあったら、東京でいくらしんどいことがあっても頑張れると思うんや。お願いできへんかな?」
と両手を合わせて拝まれた。(うーん、断ることでもないしそれくらいなら…)とOKした。

 喜んだ屠龍は、スマホを構え正面に立ち、「キュー」を出した。三度のテイクで満足いく動画が取れたのか、深々と頭を下げた。
「零ちゃん、君にふさわしい男になるから、それまで待っててください。時間はとらさへんよう頑張る。今日は、ほんまにありがとう。
 これからもずっと好きやで…。じゃあ、夕方からのクリスマス会もあるから、ぼちぼち帰ろうか?」
「はい、東京行っても頑張ってくださいね。副長や部長に告白されるようなレベルじゃないこんな私に優しくしてくれてありがとうございました。
 大会もウクライナも一生の思い出にさせてもらいます。8か月間お世話になりました。」
 零も深いお辞儀で返した。


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