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「三日ください」

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「三日ください」

 約1時間弱の飛行でクラマトルスクの病院に着いた。屠龍の右肩の包帯は新調されピロシキをほおばっていた。隼はロシア軍から支給されたスマホでいろいろと試してはメモを取っていた。
「おー、みんな無事やったんか!俺のせいで危険な目に合わせてしもて悪かったなぁ~!
この病室、シャワーもついてるから、みんな先に使わせてもろたらええぞ。なんちゅうても5日間風呂抜きやったんやからなぁ!みんな臭いやろ。」
と元気を取り戻した声で屠龍が4人を迎えた。真っ先に彗星が手をあげた。
「もう、顔も髪もドロドロよ!シャンプーにリンスとは言わないけど、とりあえず泥を落としたいわ。零ちゃんも一緒に入る?」

 零は脱力感が強く残っていたため、丁寧に誘いは断った。彗星がシャワールームに入ると、それまでいたはずの飛燕と舩坂がいなくなっていたがそれをどうこうする気力が湧かなかった。(彗星先輩、ごめんなさい。出刃亀2人がむかってます…、気をつけて下せえ…。)
再び零は眠りに落ちた。屠龍はベッドを零に譲り、点滴をつけたまま、ベッドのふちに座り、皆の無事の喜びを分かち合った。

 1時間後、ウクライナ軍の情報部の中佐がねぎらいと機材確保のお礼でたくさんのフルーツを持って病室を訪れた。
大げさな手振り身振りで5人とハグして回った。急ぎ覚えた日本語なのだろう、「ごくろうさーん!おつかれさーん!」を連呼していた。中佐自ら、ポケットから出したビクトリノックスでフルーツを切り分けてくれ、ベッドで眠り続ける零を除いて5人は久しぶりのフレッシュなフルーツでのどを潤した。
その後、一人の従者兵が入室してきて、疾風達に許可をとったうえでビデオカメラを回し始めた。マリウポリに入って今日までの行動と見てきたものを順番に証言していった。零に味方する5人の霊の話は、話すと「精神病院」行きになると考え隠しておいた。15歳の零がロシアの爆撃機を操縦できた謎は残ったが、本人が寝ていることもあり、問題が深堀りされることはなかった。

 聴取取材が一息ついたところで中佐に対し、隼がR-149MA1の扱いに対していくつか質問をした。中佐のから答えは、1週間後にはアメリカ軍が接収に来る予定だということだった。アメリカ陸軍の通信における特殊チームが4日後にはウクライナに入り、ロシア軍の無線を盗聴するシステムを作るための周波数帯分析に入るとのことだった。
「では、明日から、3日間は僕たちで使わせてもらうことは可能でしょうか?」
と問いた。
「あぁ、ウクライナ軍の基地内であれば3日間の使用は許可しよう。ただ、軍のものが立ち会うことにはなるがそれでもいいのかな?」
「はい、それは構いません。やりかけてたことがあるんで、ダメもとで試したいんです。三日ください。」
「ふーん、まあ、何をしようとしているのかは、明日うかがうことにしよう。君たちはまだ高校生と聞いていたんで、すぐにでも日本に帰りたがるものと思ってたので少し意外だよ。
 まあ、情報部に先ほど君たちのことを調べさせたのだが、日本では「蒸発」と「誘拐」の線で警察の捜査が進んでいるようだ。まさかウクライナにいるとはだれも思ってないと思うんで、国際通信ができるスマートフォンを2台置いていくんで、早目に親御さんやお友達に連絡を入れて安心させてあげなさい。
 何かあったら、ここに連絡してもらえれば人をよこすんで、連絡してくれればいいです。」
と言って、中佐のパーソナルカード(※いわゆる名刺のようなもの)を隼に渡した。

 疾風が隼のわきをつついて、耳元でこそこそと囁いた。隼は少し眉間にしわを寄せたが
「中佐、もう一つわがまま聞いてほしいことがあるんですけど…。」
「ん、なにかな?」
隼が中佐に疾風の希望を伝えた。中佐はスマートフォンを出すとどこかに連絡を入れた。何点か電話で確認をすると、笑顔で
「まあ、疾風君の希望がかなえられるように善処するよ。R-149MA1を無傷で確保してくれたことを考えれば、大統領もそれくらいのことはかなえてくれるだろう。」
と答えると、病室を出て行った。

 疾風が、中佐が置いていったスマホを手に取り、彗星と紫電に渡した。
「先に家族に連絡したりや。心配してるやろうからな。まあ、こっちでやり残したこともあるんで帰国できるんは1週間後くらいで言っておくのもいいし、もし一日も早く帰りたいなら、明日、俺と隼と屠龍以外は先に帰らせてもらえるよう中佐に話をするも一つの手やな。」
 紫電は速攻で
「いや、ここまで来たら、俺は、最後まで付き合いますよ。屠龍副長のとった「一手」がどう転ぶのか見届けたいですし。」
と答え、彗星は一瞬考えこんだが、
「私も残ります。帰るのもみんなと一緒がいいかな…。うん、最後まで付き合わせて下さい。」
と笑顔で返事した。
 部屋の隅に二人は別れ、家に電話をした。

「じゃあ、零ちゃん疲れて寝てしもてるし、わしらも、解散しよか?リュドミラちゃん、ヘイヘはん、今日はお疲れさまでした。舩坂はんは今日は出番あれへんかったけど、心の支えになりましたわ。ご苦労さん。そんで、今日一番の活躍されたルーデルはん、あんさんは「魔王」やからこれくらいで疲れはることはあれへんわな。久しぶりにイワンの戦車やっつけて満足しはりましたか?
 まあ、この子らが無事に日本に帰ったら、また門真で打ち上げでもしましょな!なぁ、舩坂はん、その時はまた彗星ちゃんのおっぱいで!」
と飛燕が両手でおっぱいを揉む仕草をした。
 4人のレジェンド兵は笑って、「じゃあ、次は門真で!」と言い残し、昇天していった。もちろん、門工サバゲー部の5人にはそんな会話があったことは誰にもわからない。

 二人が家族と話している間、隼はロシア軍から支給されたスマホをいろいろといじり始めた。あれこれと、メモを取りながら作業を続けている。ベッドですやすやと眠る零のベッドの横に並んで座った屠龍が疾風に言った。
「なぁ、疾風、零ちゃんの事やねんけど…。」

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