完結『SEの「超優しい男子」とデジタルホラーの「令和のメリーさん」と半グレ軍団との対決の4日間の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第2弾!』

あらお☆ひろ

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「三人目の自殺者 夏木葵」

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「三人目の自殺者 夏木葵」

 病院から向日葵寿司に帰ってきた葵は、精神安定剤投与の効果が出たのか幾分落ち着き、目の焦点もはっきりとしていた。「お疲れさん。お茶出すからそこ座ってんか。」と優しく三朗が葵に声をかけた。直の命令で付き添わされた夏子は不満顔でカウンター席に座ると稀世の出してくれた「冷茶」を一気飲みした。葵の帰りを待っていた直がひまわりを連れて二階から降りてきた。
「葵ちゃんって言うたかな?少し落ち着いたんやったら、何があったんか話してくれへんか?わしら、町内で起こってる問題を放っておけるほど、ドライな人間やないねや。」
と直が葵の隣に座ると優しく声をかけた。
「せやせや、同じ町内に居るもんはみんな家族みたいなもんや。なっちゃんも、今、ここにおれへん陽菜ちゃんも門工のOBやから遠慮せんと何でも言うてや!」
と稀世が口を挟むと、そこからこの一週間にあったことが葵の口から語られた。
 その内容は同じフォアローゼスの二年生「愛美」の一昨日の飛び降り自殺、一年生の「優依」のリストカットに至る経緯まで遡った。

 きっかけは、一週間前の9月4日に愛美から来たラインに始まった。葵個人宛てのラインにきた、二年生の愛美からの「私のとこに「メリーさん」って変なメッセージ来たんですけど、葵先輩のとこにも来てますか?8月25日と28日の例の件の事が書かれてたので少し気になってます。ちなみに美羽先輩にはこの件は話していません。」というメッセージからだった。葵は「なにそれ?」と返信しようと思ったところ、同じく三年生でグループのリーダーの美羽から電話があった。
 内容は、愛美のラインを先読みしたかのように「今後、仲間内であろうと25日と28日の事は一切口にするな。」という事だった。それは「一切証拠を残すな」と言う意味と葵は受け取り、愛美には「知らない」とだけ返信を入れた。最近体調を崩したという事で生徒会室に顔を出さなくなっていた愛美の事も気になっていたので、(文字に残さなきゃいいやろ。)と電話を掛けた。

 その電話の中で、生徒会室に来ないのは「9月1日」に美羽を怒らせてしまったことが理由だと愛美は葵に告白した。葵は「そんなこと気にする必要ないよ。もう一度優依と一緒に謝ったら?何やったら私も一緒に立ち会ってあげるで。」と優しく声をかけたが、愛美の返事は「考えさせてください…。」と否定的な感じがした。わずかな時間であったが献身的に話しかける葵に愛美は
「葵先輩とこうして話してることがばれたら先輩にも迷惑をかけてしまうことになるかもしれないんで、この電話の事は美羽先輩と優依ちゃんにも内緒にしててくださいね。」
と真剣に言うので「はいはい、わかったで。二人だけの秘密ってな。」と答えた。
 それから、一日に数分ではあるが毎晩、葵の方から愛美に電話を入れるようにした。極端に美羽を恐れる理由はわからないままだったが、それ以上に「メリーさん」についておびえていることが気になった。電話で伝わる情報はわずかでこれといったアドバイスもできないまま8日の夜の話になった。

 その夜遅く午後11時になって、葵に愛美から電話がかかってきた。見てほしいメッセージがあるので、国道163号線沿いのファミレスで会えないかと言うものだった。その声にいつもの声と違う「怯え」なのか「恐怖」なのかわからないが「不安感」を覚えたので、家を抜け出して愛美と会うことにした。
 ファミレスに着くと、先についていた愛美が青い顔をして待っていた。
「どないしたんや?こんな遅くに…。明日の朝じゃあかんかったんか?」
と葵が尋ねると、震える声で囁いた。
「美羽先輩とは顔を合わせたくないし、さすがに年下の優依ちゃんに相談するわけにもいかないんで葵先輩に連絡させてもらいました。本当にすみません。でも、もう、不安で不安で…。」

 震える両手で持つドリンクのグラスの中のジュースが小さく波立つのを見ると、愛美の怯え方が尋常でないことは安易に想像できた。葵は、息を飲み、努めて落ち着いた声を意識しながら愛美に言った
「愛美、いったい何があったんや。25と28いうたら、美波の件やな。「メリーさん」って誰や?美波が送りつけてきてるんか?それとも真央か?どれ、いっぺん見せてみいや。」
 愛美は黙ってスマホを出した。自分自身のSNSで放課後に優依と行ったスイーツ店でのパフェの写真がアップされたツイートだった。そのコメントに「泥棒は犯罪ですか?」とツイートに全く関係のない「文字」が並んでいた。
 いくつかのフォロアーの好意的なコメントが続いた後に再び「監禁は犯罪ですか?」と入っていた。
「なんやこれ?いたずらにしては気持ち悪いな?」
「そうでしょ?一応、真央にはそれとはなしに「あんた変なコメント入れてきたか?」ってライン入れたんですけど、「何も送ってない」って返事やったんです。もちろん、美波が私にメッセージを入れることなんか物理的にできる訳ないじゃないですか。一応心配になって、例のウイークリーマンションも見に行ったんですけど新聞受けの隙間から覗いたら、美波のスマホは廊下の壁に置かれたままでしたから、美波があの首輪を外して操作したとは思えないんですよ…。葵先輩、どう思います?」

 葵がアイスコーヒーをストローで吸っていると、突然、葵のスマホの着信音が鳴った。ラインの着信音だった。(ん、誰かな。着信音は消してるはずやのにな…。)とスマホを見ると「メリーさん」とトーク画面に出ている。(えっ、友達承認も何もしてへんのになんで?)と思った瞬間、メッセージを見て体が凍りついた。トーク画面の最上段に
「悪もん同士で深夜の打ち合わせ?」と出ていた。同時に愛美のスマホも鳴った。愛美のラインには「これで葵も共犯確定やな。」と表示された。「きゃっ!」と愛美は叫び、数少ない客の視線が二人に集中した。ふたりはスマホの電源を強制的に落とした。
「愛美、あんたここで私と会ってること誰かに言うたんか?」
「いや、葵先輩と電話してすぐにここに来てるんで誰にも言ってないです。」
「そんなん言うてもここに居てんのばれてるやん。私の方には「悪もん同士で深夜の打ち合わせ?」ってメッセージが来たで。ほんまに、誰にも言うてへんねやろな?」
と葵が詰めると、
「ほんまです。信じてください。私もう怖くて怖くて…。」
とそれまでも今回と同じように行動がすべて把握されていて、多数の「メリーさん」からのメッセージが来た事があった。美波の拉致監禁の部分を除いて葵の口から愛美との会話の経緯が語られたが、直も稀世もにわかに信じることはできなかった。

 葵は自分のスマホを取り出し、その時のラインを皆に見せた。稀世と直と陽菜が覗き込む中、夏子は一人で「あなたが女神様」のレベル上げにいそしんでいた。
「うーん、何か引っかかるもんがあるんやけど、それが何か全くわからへん。ただ三人揃って自殺にまで追いやられたことは真実や。
 葵ちゃん、他になんか隠してることあれへんか?さっきの会話の中であった、25日とか28日っていうのは何なん?美波って名前が出てきてたんは、門工の「Mihco」いうヴァーチャルユーチューバーの事か?それに真央っていうのは二年生の鈴木真央ちゃんの事なんか?」
と稀世が問うと葵は黙り込んでしまった。
 直は8日から今朝までの葵のスマホの「メリーさん」からのラインメッセージを繰り返し見続けていた。

 直がふと気づいたように、夏子に「今日、陽菜はどこに行ってんねん?呼び出せるか?」と尋ねると
「今日は舩阪君のライブがあるから神戸のライブハウスまで行ってるから遅くなると思うで。あー、彼氏の居る陽菜ちゃんはええよな…。それに比べて、なんで私はフォアローゼスの相手したらなあかんねん…。稀世姉さんも助けるんやったらイケメンの自殺者にしてくれたら、なんぼでも介抱するのに…。」
とぶっきらぼうに答えた時、夏子のスマホが鳴った。
「はい、坂川です。(…)ほんまに?空いてる空いてる!(…)うん、ええよ。(…)じゃあ、明日の朝9時な!楽しみにしてるで!」
と電話を切ると「もう私に用事ないやろうから帰るわ。」とスキップして店を出て行った。「夏子、どないしよったんや?えらいうかれて出ていきよったな…。」と直が不思議そうにつぶやいた。

 稀世が直に「直さん、ところで陽菜ちゃんがどないしたん?」と聞くと「明日、陽菜に真央ちゃんいう子を連れてここに来るように連絡を入れといてくれるか。」と言い、葵には
「今日はもう疲れたやろ。ここの二階でわしと一緒に泊まろうな。精神衛生上、良くないと思うからスマホは預からせてもらうわな。大事な連絡が入った時は呼びにいくからゆっくりお寿司を食べたらお休み。」
と語り掛け、三朗に寿司を握らせた。葵は食事を済ませるとひまわりを連れた直と一緒に二階に上がっていった。
「稀世さん、今回の話もどうやらややこしくなりそうですけど大丈夫ですか?」
と不安げに三朗が稀世に囁くと
「せやなぁ…、「メリーさん」って「怪異」のたぐいやろ?「物理攻撃」が通じへんかったら「私のプロレス技」も直さんの「合気術」も無力やもんなぁ…。今から、「エクソシスト」の勉強でもせなあかんかな?サブちゃんには「清めの塩」と「清めの酒」があるから大丈夫やろ。とりあえず、今晩、葵ちゃんのところに「メリーさん」が来えへんように、イワシの頭とヒイラギの葉っぱを二階の窓にぶら下げておかなあかんな…。」
と素っ頓狂な意見が返ってきた。

 9月12日の午前5時半を迎えた。向日葵寿司二階の仏間で先に起きた直の片付け音で葵は目覚めた。
「おはようございます。直さん、お世話になりました。昨日は大変ご迷惑をおかけしました。」
と葵が布団から出た瞬間、直が預かっていた葵のスマホが鳴った。一瞬身構えたが、直が画面を確認すると「お母さん」と出ていたので葵に渡した。昨晩、家に何度かけても繋がらないので、心配したという電話だった。田舎の法事の後、形見分けがあるので帰りがもう一日遅れるという内容だった。
「それやったら、もう一日ここに居ったらええぞ。今日は、例の一年生から、昨日の噂が広まっとったら嫌やろうから学校は自主休校するのもええやろ。」
と直が優しく声を掛けると、あえてラインの着信等は確認せず直にスマホを返した。
 (今時の女子高生がラインもSNSのチェックせんと返してきたってことは、よほど怖い思いしたんやな…。これは何とかしたらなあかんな。)と直は思った。
「葵ちゃん、三朗がもう起きてきよるから先に熱いシャワーでも浴びておいで。それから朝食や!今日は、店の手伝いしてもらうから覚悟しとけよ。」



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