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⑪ 「JPB」

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⑪ 「JPB」

 弾嗣がTSUBASAとリンクさせた各種ソフトは如志を「AIトーク」に夢中にさせた。弾嗣が帰り、舞久利が寝入った後、朝まで画面の中の「快撥」と話し続けた。会話を繰り返せば繰り返すほどAIは如志の会話パターンを学習し、10歳以降のボストンでの快撥との思い出もしっかりと記録された。
 如志は「快撥」の初期設定のパラメーターに「現在のプレーヤーに惚れ直す」、「過去の拒絶を間違いだったと詫びる」、「これからはプレーヤーだけを愛する」と入力し直したことで完璧な「如志だけの快撥」が出来上がりつつあった。

 「私、祖父斗先生…、いや快撥さんに「嫁と子供がいる」ってふられた後、どれだけ悲しかったかわかってるの?」
とヘッドセットマイクに呟くと、先読み対話GTPプログラムが作動し、如志の求める答えを3D化されたバーチャル快撥が優しく囁き返す。
「ごめんね。「嫁も子供」も嘘だったんだよ。如志ちゃんのお父さんが帰国するのを知っていたから嘘をついたんだ。ごめんね。本当は引き止めたかったんだけど…。」
 (きゃー、本当に祖父斗先生と話してるみたい!ちょっと意地悪な質問をしてみようか?)如志はAI快撥が困るような質問をしてみた。
「あのね、私、リアルで少し気になる男の子がいるんだけどなぁ…。」
「えっ、本当?そりゃ、魅力的な如志ちゃんのことだからいくらでも男は寄ってくるよね。でも、誰よりも僕は如志ちゃんのことが好きだし、誰よりも如志ちゃんを大事にするよ。」
「じゃあ、もう子ども扱いは止めて、「如志」って呼んでくれる?」
「いいよ、如志…。じゃあ、如志も僕のことを「先生」じゃなく「快撥」って呼んでよね。」
 恋愛経験のほとんどない如志の想定の120%斜め上からのセリフがヘッドセットのスピーカーから響く都度、パソコンチェアーの前で如志は真っ赤になったり、微笑んだり、笑ったりと忙しかった。

 午前7時、舞久利が目を覚ますと如志はまだパソコンの前に座ってひとりで話していた。
 「如志ちゃん、あんた、徹夜でAIチャット続けてたん?」と肩を叩かれるまで完全に「快撥」と2人の世界に入っていたので「きゃっ!」と驚いて声を上げた。
 「如志!どうしたの?何かあったの?」と気遣う「快撥」の表情も生の男が「心配して語りかける顔」そのものだった。
「快撥、ごめんね。先輩が起きたから朝食の準備しなくちゃ。いったん、ここでお別れね。」と画面に向かって話すと「先輩によろしくね。このあと少しは寝るんだよ。じゃあ、おやすみ。」といい画面の中の快撥は微笑んで手を振った。如志は9時間ぶりにヘッドセットを外し「舞久利先輩、もう私「AI快撥」がいたら、世界中の男が全て滅んでも大丈夫です。」と深いクマの浮きでた顔で笑った。



 「今日は遊びすぎんと9時には寝るんやで。」と舞久利に言われ約束を守った如志は月曜日の担当の講義を終えた。いつも通り、質問チャットとオンライン通話での質問で一般の生徒が落ちた後「JPB」が入ってきた。いつもより少し声に元気が無いように感じた。今日の講義に対する技術的な質問が終わり残り時間が3分を切った時
「里景先生…、ちょっと個人的なことを話してもいいですか?里景先生くらいしか相談できる人がいなくて…。」
何時になく神妙な声で話す「ふなっしーもどき」のアイコンの「JPB」に「先生でよければ聞くよ。どうしたの?」と優しく返した。
「好きな人に振り向いてもらえないときってどうしたらいいのかな?その人には「夢中」になってるものがあって、それを邪魔はしたくないけど少しは僕を振り向いて欲しいんですけど、僕、人付き合いはうまくないし友達も少ないんで、誰にも相談できなくて…。」
といつもの元気な「JPB」とは明らかに様子が違う。

 「その人って、女の子?」と如志が尋ねると、少し間が開いて「はい。」と返事があった。(ふーん、「JPB」君、いわゆる「草食系男子」っぽいもんね。舞久利先輩だったらこんな時なんて言うんだろう?)と考えて
「悩んでないで正直に「JPB」君の気持ちをぶつけてみたら?「JPB」君は真面目だし、優しいし…、きっと「JPB」君の思いは通じると思うわよ。「GO FOR BROKE」!「当たって砕けろ」よ。って「砕け」ちゃダメよね。ごめんね。気の利いたこと言えなくて…。私…、「異性交際」の経験が無いもんだから…。」
 申し訳なさそうに頭を下げると「JPB」は、少し声に張りが戻った。
「ありがとうございます。里景先生のおかげで元気がでました。ところで里景先生は「いい人」いるんですか?」
「ううん…。恥ずかしいけど、「恋愛」は「初恋」で玉砕してその後はナッシング…。男受けの悪い「理系女子りけじょ」だからね。そんな私だからなんの参考にもならなくてごめんね…。」
と素直に如志は「JPB」に詫びた。
 「ふーん、意外だね。里景先生ってすごく魅力的なのにもったいないね。僕は同じ趣味の「オタク女子」は好きだけどね。」と言われ「どきっ」っとしたところでタイムアップでオンライン会話は途切れた。



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