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⑩ 「デート」

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⑩ 「デート」

 デートの前日、オンラインで「JPB」から「里景先生、眼鏡と髪型が変わりましたね!凄くかわいいですよ。もしかしてデートですか?なんか今日は嬉しそうですもんね。」と言われモニターカメラの前で思いっきり赤面した。如志は「からかわないで…。」というのが精一杯だった。
 真っ赤になった如志に「どうやら図星ですね!あー、里景先生みたいなかわいい人とデートできる人が羨ましいですねー!ジェラシー感じちゃいますよ!」と本音ともおべんちゃらとも受け取れるセリフを残し「JPB」はオンラインチャットを落ち、金曜日の予定の講義が終わった。
 
 土曜日の朝、約束通りヘアセットに来てくれた舞久利は弾嗣との出会いの話を聞きながら如志の髪に丁寧に櫛を入れた。
「へー、「草食系」男子の彼氏か…。如志ちゃんの部屋に上がり込んで、コンピュータのセッティングだけして、飯食って帰ったってか?まあ、「お痛」するような奴やったら私が「八つ裂き」にしたるけどな。ケラケラケラ。あぁ、大事な娘を嫁に出す母の気分を味わせてもろてるで。大事な如志ちゃんの為に念のため「お守りさん」渡しておくわな。」
と手渡されたものは6枚つづりのコンドームだった。

 今日は購入するとしても「基盤」と「ディスク」だけなので大きな荷物は無く、車で行く必要はないので「なんば駅」で待ち合わせ「日本橋3丁目」から「日本橋5丁目」の「でんでんタウン」に向かう予定にしていた。
 約束の時間より15分前に如志は着いたのだが、弾嗣はそれよりも早く来ていた。
「里景さん、凄くイメージ変わりましたね。白いワンピースも赤いサンダルもかわいいです。眼鏡もおしゃれにして髪型もストレートにされたんですね。なんかすごくドキドキしちゃいます。」
と真っ赤になる弾嗣を見て如志もつられて赤くなり、視線を外した。
「そんな風に言われると恥ずかしいです。あまりこっちを見ないでください。」

 互いに照れながら、「今日は面白いソフトを持って来てるんで使って見ましょうね。里景さんが「スパコン展示会」でサンプルとしてもらってきたっていう「先読みGPT」で使う「デート会話」のセンテンスサンプルと「VR」と「3D」画像・動画データ取り用の視線データを取るWEBカメラです。眼鏡のツルにセットしますんでちょっと眼鏡を貸してもらえますか?」といわれ眼鏡をはずした如志の素顔に弾嗣は再度「ドキッ」っとしたが裸眼視力0.1以下の如志には気づかれなかった。弾嗣もカメラをつけた「伊達メガネ」をかけた。
 そして、会話を録音するピンマイクを互いの襟もとにつけてデートはスタートした。もっぱら会話はコンピュータ関連の技術論になった。弾嗣の説明は先日の「JPB」のものより簡潔にまとめられわかりやすかった。
 如志はメモを取ろうと手帳を出したが、「この会話は全てデータロガーに記録させてますのであとでテキスト化すればいいですからメモは必要ないですよ。」と言われ納得した。
 
 でんでんタウンに着くと、まず喫茶店に入った。弾嗣がタブレットを取り出すと、事前に如志から聞いていた機材環境と持っているソフトを元に回路図とソフトマトリックスのチャートを示した。
「まずは、里景さんのやりたいことを順位づけしてください。「会話」優先なのか、画像は「静止画」なのか「動画」なのか。また「2D」なのか「3D」なのか「VR」なのかで仕様は変わってきます。まあ、TSUBASAのスペックがあればデータ収集以外の大概の事はオフラインでもできますので、僕が組んだアッセンブルプログラムに里景さんの作ったGPTプログラムをリンクさせるよう調整していきましょう。」
 丁寧に如志のニーズを尋ね、タブレットに打ち込んでいく弾嗣の横顔を見ていると、親しみを感じると同時にボストンで快撥と共にシステム開発をしていたころを思い出した。快撥との楽しかった時間を思い出し、自然とほほ笑んだところを弾嗣に見られ、「どうかしましたか?」と尋ねられ少し恥ずかしい思いをした。

 喫茶店での事前打ち合わせが終わり、その後、4件のソフトショップをはしごした。弾嗣の話を聞いてると如志が思っていたシステムよりも高度なことができるとわかり、ついつい予算オーバーの買い物となった。コンビニのATMに飛び込んだが、出がけに舞久利から「このカッコでこのおっさん財布はあかんやろ。この財布は私からのプレゼントやで。」と旧彼からのプレゼントだったというブランド物の財布をもらった。その財布と中身を入れ替えた際、キャッシュカードの入れ替えを忘れてきたことに気がついた。やむを得ず、弾嗣から現金を借りることになった。
 その結果、弾嗣が予定していたイタリアンの土曜ランチを二人で食べるには少々予算が厳しくなってしまった。
「ごめんね、私がわがまま言ったばっかりに。」と申し訳なさそうに謝る如志に「大丈夫ですよ。予約を入れてたわけじゃないですし。まあ、お好み焼きでも食べて帰りましょう。」と弾嗣は取りなしてくれた。
 
 ふと、如志はある考えが浮かんだ。(どうせだったら、このまま私の部屋に来てもらって、ソフトアッセンブルもお願いして今日の会話データの取り込み実験も一緒にやってもらえば…。私一人でやってだめだったら、また1週間お預けになってしまうもんね…。)思うより先に口が動いた。
「梨継さん、この間みたいに私の部屋に来てくれない?帰ればキャッシュカードもあるし、帰りのスーパーで買い物すればこの間より「ましなもの」をごちそうすることもできるしね。できたらTSUBASAも見て欲しいんだけど…?」
 一息でセリフを吐ききった後、舞久利から「前回はやむを得ず部屋に彼を上げたけど、気をつけなあかんで。如志ちゃんの「仮彼」も草食系の「理系男子」って思ってたら怖いで。女から部屋に誘ったら「やれる」って勘違いする奴もおるからな。」という言葉が思い出された。(軽い女って思われちゃったかな?でも、梨継さんに限ってそんなことは…。うーん、ずるいけど「保険」は用意しておくかな…。)
 そんな如志の気持ちの揺れを知る由もない弾嗣からは「里景さんさえよかったら、僕はそれでも全然いいですよ。それでしたら食材代は僕に出させてくださいね。」といつものさわやかな顔で返事が帰ってきた。

 如志の部屋に二人でつく前に「保険」の舞久利から電話がかかってきた。弾嗣がいない隙を見計らって「やむを得ない事情」で弾嗣を部屋に呼ぶことになったので、食事は出すので理由をつけて部屋に来てほしいとの連絡を受けてのことだった。
「ごめん、梨継さん、先輩もうちに来ることになったんだけどいいかな?」
 申し訳そうに尋ねる如志に素直に「全然ノープロですよ。なんなら、先輩とおしゃべりしてる間にシステム組んじゃいますから。」と何一つ「いやらしいもの」を感じさせずに話す弾嗣に(変に疑ってごめんね。)と心の中で謝った。
 二人が如志の部屋に入るとすぐにインターホンが鳴った。両手にスパークリングワインを持った舞久利がモニターに映っていた。

 部屋に入って弾嗣の顔を見るや否や「へー、如志ちゃんの彼ってめちゃくちゃイケメンやん!ところで友達に「加藤清史郎」君みたいな子、おれへん?」と突っ込まれ、弾嗣は「すみません。理系ボッチなんで友達少ないんですよ…。とだけ言うと、TSUBASAのあるパソコンデスクの前に移動し、作業を開始し黙々とキーボードをたたき始めた。 
 如志はキッチンに立ち、遅めのランチの「ビーフカツレツ」の下ごしらえに入った。舞久利はソファーに腰掛け先にワインボトルを開けている。弾嗣は多くのソフトをTSUBASA内のGPTプログラムにリンクさせ、ヘッドセットをつけるとマイクに向かって何やら話し出しているのがかすかに聞こえるが何を話しているのかまでは如志にはわからない。

 小1時間で食事の準備が整ったと如志から声がかかった。弾嗣からも「一通り、ソフトはリンクさせましたんで、「自立会話モード」は後でテストしましょう。」とパソコンデスクから立ち上がった。
 3人でテーブルに着くと、舞久利中心に歓談が始まった。気さくにワインを酌する舞久利に付き合ってあっという間に2本のワインボトルは空になった。気を利かせて弾嗣が「僕、お酒の追加を買ってきます。お二人は何がいいですか?」と紳士な対応で二人のオーダーを聞くと部屋を出ていった。
 「如志ちゃん、えらい拾いもんやん。イケメンで優しくて気が利いて!まあ、後は「アレ」やけどな。」と下品なジェスチャーで如志を赤らめさせた時、弾嗣が帰ってきた。真っ赤な顔をした如志に「里景さん、だいぶ顔赤いですよ。酔い覚ましに冷たい「ウーロン茶」と「ストレートティー」もありますよ。」とテーブルに2本のペットボトルを置いた。
 
 暫しの歓談のあと、食事も終わり「如志ちゃんが学生時代に作ったっていう「イケメンゲーム」やらしてや!」と酔っぱらい気味の舞久利が言い出した。
「良いですね。パラメーターで複数キャラを並行して使えるようにしましたから、富良礼さんの好みのキャラも作れますよ。」と弾嗣が言葉を挟んだ。
 「じゃあ、やるやる!見た目は「えなりかずき」君風で、とにかく私に優しい年下キャラにして!私の事は「まいちゃん」って呼ばせられたら最高やな!」とすっかりやる気になっている
 舞久利はパソコンチェアに座ると、如志が自作のソフトを立ち上げた。その横で弾嗣がモニターを見ながらキーボードを操作していく。「里景さん、立ち上げていいですか?」と尋ねると「イケメンゲーム」の「初期パラメータ」が開示された。
 キャラクターデザインは弾嗣を少し大人びた感じにしたイケメンで、「NAME」欄には「快撥」と入っていた。弾嗣の視線が如志に向いたがその瞬間、舞久利が
「これなんて読むの?快い「撥」ってこのキャラ「雀士」なん?それとも実在キャラなん?」
と見当違いの予想をたてられたのだが、酔いもあって「私の初恋の人…。いや、今のなし!架空キャラよ。見た目が梨継さんに似てるのは偶然だからね。ほら、キャラ設定は2021年10月って2年半以上前でしょ。」と自ら地雷を踏んだ後の言い訳じみた言葉に1人慌てた。

 弾嗣は、あえてそこには触れず舞久利に「見た目は「えなりかずき」さんで年下イメージで良かったんですね。」と確認を取ると、「画像検索」、「画像入力」、「テキスト生成」の中から「画像検索」ボタンをクリックした。
 子役だったころから現在までの「えなりかずき」の画像が「4Kモニター」に並んで出てきた。舞久利に希望を尋ね
「画像絞り込み条件」の入力枠に20歳から22歳」と入力した。人気タレントだけあって、絞り込んだ後も数十の画像が並んでいる。「この中からお気に入りのカットを10点選んでみて下さい。顔の向きをいろいろ選ぶと「3D」化もできますよ。」と言い、舞久利の指示に従って10点の画像を選んだのち、「デモ表示」ボタンをクリックした。すると「3D」で「えなりかずき」の顔が「4K」モニターに映し出され、マウスで上下左右に顔の向きを変えて見せた。
 
 「本来であれば、音声データもドラマや映画から取り入れることも可能ですが今日は簡単に声の質を選んでもらいましょう。」と弾嗣は尋ねると、指示に従って「かわいい」、「甘え声」、「高め」を選んだ。何度かパラメータ調整をすると「元の声」に近いものが出来上がった。続けて「性格」や「関係性」、「会話テーマ」を一通り選択すると、ヘッドセットを舞久利に被せた。
「まだ、会話のデータ蓄積ができてませんから最初は素っ頓狂な返事も出てきますが、会話を繰り返すことで学習して精度が上がっていきます。どうぞ、ご自由にお話しください。」

 そこから舞久利と「3Dえなりかずき」の会話が始まった。「冗談」を言えば普通に「笑って」返す。「歌って」と言えば「歌う」し、「愛の言葉」を求めれば「愛の言葉」を返してくる。その様子を見て(凄い!私のパソコンでやってた頃と全然精度もスピードも画像の細かさや動きも違う。スパコンと最新ソフトでここまでできるんだ。)如志は感心した。
 1時間程、舞久利は飲みながらの「憧れのタレント」との会話を楽しむとすっかり酔っぱらい居眠りを始めた。弾嗣は舞久利をソファーに移動させタオルケットをかけると如志に尋ねた。
「里景さんもやってみますか?今日の買い物デートの会話もすでにプリセーブさせてますので、買い物での会話を試してみませんか?」
 
 如志が席につくと「キャラ設定は僕に合わせさせてもらっていいですか?気に入らなかったら変更でもリセットしてもらって結構ですから。」と確認を取り、弾嗣は自分のプロフを入力していった。
 試行に入った如志は「生成AI」との会話を素直に驚き、喜び、楽しんだ。
「あー、やっぱりリアルより2次元が絶対にいいよねー。」と大いに盛り上がる姿を前に弾嗣は少し寂しい顔をした。時計の針が夜9時を示したのを確認して
「今日は楽しかったです。帰りますね。」
とAIチャットを楽しむ如志に一声かけて弾嗣は部屋を出ていった。



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