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「マリブ・プレスクール正門前」
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「マリブ・プレスクール正門前」
次の日、アグネスとマチルダがマリブ・プレスクールに行くと、マスコミの数は圧倒的に減ってはいたが、2~3社が正門の前でレポーターを立たせカメラを回している。様子を探りながら、園の外周をぐるりと1周して正門前に戻ってきた。
ひと組の親子が正門の前でインタビューを受けていた。園児は護身術教室でいつも活発的に参加してくれている5歳の男の子だった。母親と一緒にリポーターから
「あなたは園長先生やその長女の先生に変なことをされたことはある?」
とあたかも虐待行為があった事を前提で質問をしている態度に、アグネスのこぶしにぎゅっと力が入るが、マチルダがそっと肩に手を置き、
「今は動いちゃだめよ。」
と首を横に振った。
インタビュアーからマイクを向けられた男の子の園児は
「そんなこと全くないよ。先生たちはいつもとても優しいよ。」
と元気に答えていた。続いて、レポーターは園児の母親にマイクを向け直し、質問し直した。
「30名以上の園児が被害に遭っているとのことですが、本当にお子様は大丈夫ですか?」
「はい、心配なので、これから小児クリニックの検診とカウンセリングを受けに行く予定です。」
「そうですか、ネット等の情報では、園内で悪魔的儀式が行われていたとか出ていますが、何か聞いた事はありませんか?」
「いえ、そんなことはありません。」
「はい、ありがとうございました。マリブ・プレスクール前からお送りさせていただきました。」
と園児と母親へのインタビューは終わった。
「こんな調子で、悪意の報道が更なる悪意を呼び起こしていくのね・・・。」
とアグネスがつぶやいた。
翌々日、アグネスとマチルダは再び、マリブ・プレスクールを訪れた。正門には、「当面休園いたします。」との張り紙が張られていた。今日も、2~3社のテレビ局が取材に来ている。全国ネットの局も見える。
正門横の園児たちの絵が描かれているブロック塀に、赤いラッカースプレーのようなもので「悪魔は出ていけ!」、「セクハラ職員はいらない!」など大きな落書きが目に入った。門から20メートルにわたって、罵詈雑言が続いている。昨日までは無かったので、昨日の夜中にでも書かれたのだろう。
「何てことなの・・・。」
アグネスとマチルダはため息をついた。
一昨日、正門前でインタビューに答えていた男の子と母親が歩いてきた。今日も散歩しているようだ。案の定、正門前でレポーターに捕まった。今日は、全国ネットのテレビ局だ。
昨日と同じようにレポーターが男の子にマイクを向けて尋ねた。
「この園であなたが見たことを教えて欲しいんだけど協力してくれる?」
(あぁ、今日はこの映像が、全国に流されるのか・・・)マチルダは、自然にため息が出たが、ため息を出し切る前に息が止まった。園児の男の子の返答が一昨日と全く違っていたからだ。
「僕たちは、裸で輪になって、その真ん中で園長先生がうさぎの首を包丁で切るんだ。そして、そのうさぎをブンブン振り回して、僕たちにうさぎの血をかけるんだ・・・。」
マチルダの顔色が見る間に青ざめプルプルと震えている。
「どうしたの?マチルダ、大丈夫?」
とアグネスが声をかけた。20メートル先のインタビューの音声はアグネスには聞こえていない。
マチルダは走り出し、レポーターを押しのけ正門の前の男児の前でしゃがみ込み、両手を両肩に添え、
「あなた!何言ってるの!?」
と男児を前後に揺さぶった。
「キャー!あなた何!」
と母親が叫ぶのと同時に、テレビ局のディレクターが「ストップ!ストップ!」と両手を頭の上で交差させ、カメラの前に立ちはだかった。
門の両脇にいた警備の警察官が、駆け寄りマチルダを男児から引きはがした。マチルダは男児に
「私よ、マチルダよ!いつも護身術の教室で一緒だったじゃない!」
と男児に右手を伸ばし叫ぶが、マスクをかぶっていない素顔のマチルダを男児がわかるはずもなく、キョトンとしている。母親は、男児を抱きしめ、マチルダをにらみつけた。
取り乱すマチルダを2人の警察官は、羽交い絞めにして門の脇まで連れてきた。
「私、この子の友達です。放してやってください。」
と駆け付けたアグネスが間に割って入った。徐々に落ち着きを取り戻したマチルダとアグネスは警察官から説教を受け、「すぐ帰るように!」と解放された。
「じゃあ、マチルダ帰ろうよ・・・。」
とマチルダの手を引き、歩き始めた。ふと、正門の方を振り返ったアグネスの視界に、再びインタビューを受ける親子の姿と、その向こうに1か月前にスクールバスでマリーとトラブルを起こした「U&Kエステート」の車と、マリーに腕を決められた男と紺色のスーツ姿の男がB1サイズはあろうかという大きな紙を広げて何やら話している光景が入ってきた。
マリーに絡んだ男と紺色のスーツ姿の男は握手を交わし、スーツ姿の男は黒いセダンで走り去った。U&Kエステートの車の陰になっていたため良く見えなかったが、黒いセダンには「ANK」の文字が見えた。
次の日、アグネスとマチルダがマリブ・プレスクールに行くと、マスコミの数は圧倒的に減ってはいたが、2~3社が正門の前でレポーターを立たせカメラを回している。様子を探りながら、園の外周をぐるりと1周して正門前に戻ってきた。
ひと組の親子が正門の前でインタビューを受けていた。園児は護身術教室でいつも活発的に参加してくれている5歳の男の子だった。母親と一緒にリポーターから
「あなたは園長先生やその長女の先生に変なことをされたことはある?」
とあたかも虐待行為があった事を前提で質問をしている態度に、アグネスのこぶしにぎゅっと力が入るが、マチルダがそっと肩に手を置き、
「今は動いちゃだめよ。」
と首を横に振った。
インタビュアーからマイクを向けられた男の子の園児は
「そんなこと全くないよ。先生たちはいつもとても優しいよ。」
と元気に答えていた。続いて、レポーターは園児の母親にマイクを向け直し、質問し直した。
「30名以上の園児が被害に遭っているとのことですが、本当にお子様は大丈夫ですか?」
「はい、心配なので、これから小児クリニックの検診とカウンセリングを受けに行く予定です。」
「そうですか、ネット等の情報では、園内で悪魔的儀式が行われていたとか出ていますが、何か聞いた事はありませんか?」
「いえ、そんなことはありません。」
「はい、ありがとうございました。マリブ・プレスクール前からお送りさせていただきました。」
と園児と母親へのインタビューは終わった。
「こんな調子で、悪意の報道が更なる悪意を呼び起こしていくのね・・・。」
とアグネスがつぶやいた。
翌々日、アグネスとマチルダは再び、マリブ・プレスクールを訪れた。正門には、「当面休園いたします。」との張り紙が張られていた。今日も、2~3社のテレビ局が取材に来ている。全国ネットの局も見える。
正門横の園児たちの絵が描かれているブロック塀に、赤いラッカースプレーのようなもので「悪魔は出ていけ!」、「セクハラ職員はいらない!」など大きな落書きが目に入った。門から20メートルにわたって、罵詈雑言が続いている。昨日までは無かったので、昨日の夜中にでも書かれたのだろう。
「何てことなの・・・。」
アグネスとマチルダはため息をついた。
一昨日、正門前でインタビューに答えていた男の子と母親が歩いてきた。今日も散歩しているようだ。案の定、正門前でレポーターに捕まった。今日は、全国ネットのテレビ局だ。
昨日と同じようにレポーターが男の子にマイクを向けて尋ねた。
「この園であなたが見たことを教えて欲しいんだけど協力してくれる?」
(あぁ、今日はこの映像が、全国に流されるのか・・・)マチルダは、自然にため息が出たが、ため息を出し切る前に息が止まった。園児の男の子の返答が一昨日と全く違っていたからだ。
「僕たちは、裸で輪になって、その真ん中で園長先生がうさぎの首を包丁で切るんだ。そして、そのうさぎをブンブン振り回して、僕たちにうさぎの血をかけるんだ・・・。」
マチルダの顔色が見る間に青ざめプルプルと震えている。
「どうしたの?マチルダ、大丈夫?」
とアグネスが声をかけた。20メートル先のインタビューの音声はアグネスには聞こえていない。
マチルダは走り出し、レポーターを押しのけ正門の前の男児の前でしゃがみ込み、両手を両肩に添え、
「あなた!何言ってるの!?」
と男児を前後に揺さぶった。
「キャー!あなた何!」
と母親が叫ぶのと同時に、テレビ局のディレクターが「ストップ!ストップ!」と両手を頭の上で交差させ、カメラの前に立ちはだかった。
門の両脇にいた警備の警察官が、駆け寄りマチルダを男児から引きはがした。マチルダは男児に
「私よ、マチルダよ!いつも護身術の教室で一緒だったじゃない!」
と男児に右手を伸ばし叫ぶが、マスクをかぶっていない素顔のマチルダを男児がわかるはずもなく、キョトンとしている。母親は、男児を抱きしめ、マチルダをにらみつけた。
取り乱すマチルダを2人の警察官は、羽交い絞めにして門の脇まで連れてきた。
「私、この子の友達です。放してやってください。」
と駆け付けたアグネスが間に割って入った。徐々に落ち着きを取り戻したマチルダとアグネスは警察官から説教を受け、「すぐ帰るように!」と解放された。
「じゃあ、マチルダ帰ろうよ・・・。」
とマチルダの手を引き、歩き始めた。ふと、正門の方を振り返ったアグネスの視界に、再びインタビューを受ける親子の姿と、その向こうに1か月前にスクールバスでマリーとトラブルを起こした「U&Kエステート」の車と、マリーに腕を決められた男と紺色のスーツ姿の男がB1サイズはあろうかという大きな紙を広げて何やら話している光景が入ってきた。
マリーに絡んだ男と紺色のスーツ姿の男は握手を交わし、スーツ姿の男は黒いセダンで走り去った。U&Kエステートの車の陰になっていたため良く見えなかったが、黒いセダンには「ANK」の文字が見えた。
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