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三章 平和って良いですね
三十六話
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「木が邪魔で奥までは見えないな」
森ゾーンに入る直前の木に上り、偵察でもと思ったけど、木々が密集し過ぎて見通しが悪すぎる。いくら【遠見】で視力が上がっても、遮蔽物があったら役に立たないな。
「やっぱり入らないと分からないんスね」
「ああ、悪いけど、ちょっと俺が先頭で入ってみるわ。ある程度大丈夫だと思ったら交代しよう」
「了解っス」
「悪いな小幡。頼んだ」
礼を言われる筋合いじゃないけど、市場君からしたら無茶なわがままを言ったと思ってるんだろう。手を挙げて応えるだけにする。
先頭にたって森ゾーンに一歩踏み込む。
意外と静かだ。
そこで【危険察知】が反応してない事に気付く。昨日はあれだけ煩かったのにだ。
「どうっスか?」
「なんの反応もない」
「安全ってことか?」
危険は無いって事なんだろう。
だけど、何か違和感がある。
「分からない。けど、警戒はしておいた方が良い」
「そ、そうか。うん、そうだな」
授業でもスキルを過信するのは危ないというのは毎回言われる事だ。
特に感知系はそれを誤魔化せるエネミーもいるからだ。
100m程進むがまだ静かだ。
「おかしい。一旦戻った方が良いかも」
「そうっスね。これだけエネミーが現れないのが不気味っス」
「だが………」
市場君が何か言おうとしかけた時、集中していた聴覚に微かな葉擦れの音が引っ掛かる。
「来る、右手」
「ちぅ!」
ツクモが俺の声に反応した直後、【危険察知】の警告音が鳴る。同時に右側の繁みから黒い犬のエネミーが飛び出してきた。
実習の時にも現れたブラックハウンドだ。
ツクモが【送風】を放つが、勢いは止まらない。それを確認しないままに、俺は後ろに跳ぶ。
「っらあっ!」
「ギャン!」
入れ替わるように市場君が戦斧を振るって前に出る。
鼻面にヒットしたが、ふらつきはするものの一撃で倒せはしなかったみたいだ。かなりタフだな。
でも、俺の時は棒で叩いたのにこっちが力負けしたからな。流石は戦闘職だ。
これなら倒しきれるかもしれないな。
そんな考え自体が油断そのものだったみたいだ。
ブラックハウンドの背後から、同じく黒い犬が続々と現れたんだ。
その数、なんと四頭。しかも、一番奥のブラックハウンドがボスなのか、他のブラックハウンドよりも体格が一回り大きく、威圧感がエグい。
その他にも六頭のワイルドドッグが従っている。
「はは、ヤバすぎて笑うしかないっスね」
なんか吉根が乾いた笑いをしているな。眼には楽しそうな光が灯ってるから、本当に笑ってるのかもしれないが。
戦闘狂なのかもしれないな。
一方の前衛の市場君は苦い顔をしているな。ただでさえ手強いブラックハウンドが、これだけの数で囲んでくるんだからそうなるよね。全部がブラックハウンドじゃなくて助かったよ。
泉ヶ丘さんを見れば、顔が真っ青だ。どうやらボスの威圧感にやられてるようだな。身体も強張っていて、戦うにしろ逃げるにしろ動けるか心配だ。
逆に天子田さんは内心はともかく、表面上は落ち着いてるように見える。
「天子田さん」
「は、はい」
警戒しながら、天子田さんの位置まで下がり声をかける。
「いざとなったら荷物を捨てても泉ヶ丘さんを担いで逃げて欲しい」
こそっと耳打ちすると、天子田さんは一度泉ヶ丘さんの様子を見た後、「分かりました」と頷いた。天子田さんから見ても今の泉ヶ丘さんが、戦える状態にないことが明白だったんだろう。
とはいえ、そう簡単に勝負を投げ出すつもりは無い。
やれるとこまでやってやろう。
森ゾーンに入る直前の木に上り、偵察でもと思ったけど、木々が密集し過ぎて見通しが悪すぎる。いくら【遠見】で視力が上がっても、遮蔽物があったら役に立たないな。
「やっぱり入らないと分からないんスね」
「ああ、悪いけど、ちょっと俺が先頭で入ってみるわ。ある程度大丈夫だと思ったら交代しよう」
「了解っス」
「悪いな小幡。頼んだ」
礼を言われる筋合いじゃないけど、市場君からしたら無茶なわがままを言ったと思ってるんだろう。手を挙げて応えるだけにする。
先頭にたって森ゾーンに一歩踏み込む。
意外と静かだ。
そこで【危険察知】が反応してない事に気付く。昨日はあれだけ煩かったのにだ。
「どうっスか?」
「なんの反応もない」
「安全ってことか?」
危険は無いって事なんだろう。
だけど、何か違和感がある。
「分からない。けど、警戒はしておいた方が良い」
「そ、そうか。うん、そうだな」
授業でもスキルを過信するのは危ないというのは毎回言われる事だ。
特に感知系はそれを誤魔化せるエネミーもいるからだ。
100m程進むがまだ静かだ。
「おかしい。一旦戻った方が良いかも」
「そうっスね。これだけエネミーが現れないのが不気味っス」
「だが………」
市場君が何か言おうとしかけた時、集中していた聴覚に微かな葉擦れの音が引っ掛かる。
「来る、右手」
「ちぅ!」
ツクモが俺の声に反応した直後、【危険察知】の警告音が鳴る。同時に右側の繁みから黒い犬のエネミーが飛び出してきた。
実習の時にも現れたブラックハウンドだ。
ツクモが【送風】を放つが、勢いは止まらない。それを確認しないままに、俺は後ろに跳ぶ。
「っらあっ!」
「ギャン!」
入れ替わるように市場君が戦斧を振るって前に出る。
鼻面にヒットしたが、ふらつきはするものの一撃で倒せはしなかったみたいだ。かなりタフだな。
でも、俺の時は棒で叩いたのにこっちが力負けしたからな。流石は戦闘職だ。
これなら倒しきれるかもしれないな。
そんな考え自体が油断そのものだったみたいだ。
ブラックハウンドの背後から、同じく黒い犬が続々と現れたんだ。
その数、なんと四頭。しかも、一番奥のブラックハウンドがボスなのか、他のブラックハウンドよりも体格が一回り大きく、威圧感がエグい。
その他にも六頭のワイルドドッグが従っている。
「はは、ヤバすぎて笑うしかないっスね」
なんか吉根が乾いた笑いをしているな。眼には楽しそうな光が灯ってるから、本当に笑ってるのかもしれないが。
戦闘狂なのかもしれないな。
一方の前衛の市場君は苦い顔をしているな。ただでさえ手強いブラックハウンドが、これだけの数で囲んでくるんだからそうなるよね。全部がブラックハウンドじゃなくて助かったよ。
泉ヶ丘さんを見れば、顔が真っ青だ。どうやらボスの威圧感にやられてるようだな。身体も強張っていて、戦うにしろ逃げるにしろ動けるか心配だ。
逆に天子田さんは内心はともかく、表面上は落ち着いてるように見える。
「天子田さん」
「は、はい」
警戒しながら、天子田さんの位置まで下がり声をかける。
「いざとなったら荷物を捨てても泉ヶ丘さんを担いで逃げて欲しい」
こそっと耳打ちすると、天子田さんは一度泉ヶ丘さんの様子を見た後、「分かりました」と頷いた。天子田さんから見ても今の泉ヶ丘さんが、戦える状態にないことが明白だったんだろう。
とはいえ、そう簡単に勝負を投げ出すつもりは無い。
やれるとこまでやってやろう。
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