召喚勇者は怪人でした

丸八

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二章

30話

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「ゴブリンの魔石とは珍しいですね」

「え?ゴブリンって珍しいんですか?」

 精算していると、マリーさんがゴブリンの魔石を見て少し驚いた顔をした。

「あ、いえいえ。ユースケさんは何時もゴーレムダンジョンの魔物ばかりだったので………」

「あぁ、そういう。それなら珍しく森にゴブリンがいたんですよ」

「あのダンジョンに抜ける道の辺りですか?」

「そうです、そうです。蜘蛛がいなくなってから魔物なんて見掛けなかったんですけどね」

 アルケニーの影響で、弱い魔物しかいなかったあの辺りの森は、ぽっかりと空白地帯になっていたようだ。

「今日の分が8万2千ゼニダになります。それから、先のアルケニー討伐の裏付けがとれたので、報酬5百万ゼニダをお支払いしますね。またカードで良いですか?」

 あ、アルケニー討伐の報酬の事すっかり忘れてた。素材の売却費用は払い込まれていたから、すっかり貰っていたと勘違いしてたよ。

「あ、今日の分だけ現金でお願いします」

「かしこまりました。では、こちらお確かめください」

 大銀貨8枚と銀貨2枚がカウンターに置かれた。ざっと確認してから、空っぽだった財布に入れる。

「それで、ですね」

「はい」

 マリーさんが1枚の紙を取り出した。

「先程、ユースケさんが仰ってたゴブリンの件なのですが」

「はいはい」

「今回の調査でコロニーを作っていた事が判明しました」

 マリーさんが出したのはクエストの依頼表だ。

「アルケニーから住み処を追われた幾つかのグループが合流して、一大コロニーを築いたようです」

「大所帯のゴブリンか………臭そうだな」

 さっき仕留めたゴブリンも、解体してたらちょっと臭ったからなぁ。それが大勢いたらと思うと身震いする。

「えぇ、報告書にも異臭が凄かったとありますね」

「やっぱり」

「で、ですね」

 話が逸れていくのを察したのか、マリーさんが軌道を修正しようとする。

「そのコロニー殲滅にユースケさんにも加わっていただけないかという打診なんですが」

 そういうマリーさんの顔はどことなく申し訳なさそうにしている。

「あー、分かっているとは思いますが、明日から十日ほどリコラの護衛依頼が入っているんですよ」

「はい、存じております」

「ここに書いてあるクエストの期日は明後日ですよね」

 俺は依頼書を指差す。

「はい」

「確か例え緊急クエストだとしても、事前に受けたクエスト優先でしたよね」

「その通りです」

「受けれると思いますか?」

「いえ」

 多分、人が集まらないんだろう事は分かっている。

 ゴブリンは大した素材も取れないし、ランクが低いから依頼料も低い。

 かといって危険度は群が大きくなるとかなり高くなるようだ。

 まぁ、マリーさんには同情するけど、今回は先約を優先させてもらおう。

「マリーさんには良くしてもらってるので、受けたい気持ちはあるんですが、今回は先約優先させてもらいます」

「かしこまりました。ご無理言って申し訳ありませんでした」

「いえいえ、こちらこそご期待に添えず申し訳ないです」

 俺は頭を下げると、受付から離れるのだった。
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