召喚勇者は怪人でした

丸八

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 日本某所


 分厚い扉は施錠され、聖別されたその場所は物理的にも霊的にも外界とは隔絶されていた。

 まるで大病院の手術室のようなその部屋はうっすらと怪しげな匂いの香が焚かれ、不気味な呪言が響いている。

 部屋の中央には無機質は手術台が置かれており、全裸の人物が手足を拘束されて寝かされていた。

 寝かされているのは十代半ばの少年のようだ。

 様々な計器につながれている少年の顔には、悪夢の只中にいるような苦悶の表情が貼り付いていた。

「さて、始めよう」

 少年を取り囲むように三人の男女が立っていた。

 独特な形状をした白衣を纏った彼らは、奇怪な仮面を付けており、その正体は判らない。

 ただ、体型から男一人と女が二人であることだけが判る。

 真ん中に立っている男が左右を見て、始まりの合図を送る。

 二人の女は無言で頷くと、台座の上に設えてある怪物を象った像の腰から拳ほどの大きさの金属塊を持ち上げると、恭しく男に渡した。

 受け取った男は一つ頷くと、おもむろに金属塊を少年の下腹部に押し当てる。

「ぐっ、うぅっ」

 少年がくぐもった呻き声をあげる。

 それと同時に、ほのかな光を発して金属塊がズブリと少年の下腹部へと沈み込んでいく。

 ゆっくりと金属塊が体内へと侵入していくにつれ、少年の顔が更に歪んでいく。

「があぁぁ」

 あまりの苦痛に暴れようとするが、手足の枷がそれを許さない。

 そんな少年の様子も意に介さず、仮面の男は金属塊を更に押し込んでいくと、やがて少年は背中を仰け反らせる。

 そのまま仮面の男が両手を引き抜くと、少年の下腹部には傷一つ無かった。

 しかし、漸くすると幾何学模様が組合わさったような痣が浮かび上がってきた。
 
 仮面の男がその痣に手を置くと、ボソリと一言つぶやく。

 痣が発光すると同時に怪物像が浮かび、少年の真上に飛んでいくと、グパリと開き少年を一気に飲み込んだ。

「おぉ、成功だ!」

 怪物の像だったものを身に纏った少年を見下ろし、仮面の男が熱のこもった声を漏らす。

「後はブレインウォッシュして………何っ!?」

 だが、急激に強い光を少年が放つ。

 予想外な出来事に、仮面の男は目を瞑って腕で庇う。

 やがて光が収まったベッドの上には誰もいなくなっていたのだった。
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