切なめ短編集

秋野

文字の大きさ
上 下
12 / 13
春の海【死ネタ 暗め】

2

しおりを挟む
それから、何日この部屋で過ごしたかわからない。

一通り生活に必要な家具家電は揃っていたが、唯一時計だけが用意されていなかった。

恋人同士という間柄である以上、再会してから幾度かそういう雰囲気になる事はあったが海は何かと理由をつけて春樹との行為を避けてきた。
だが、流石にいつまでも誤魔化しきれないとも思い始めていた。

「海、俺たちこのままいつまでも一緒に居られるよな?あっでもタロウが…」

この部屋に来たのは春樹だけで、タロウがどうしているのか心配ではあった。

「はるくん、俺ね」

俯き服の裾を握り締めた海が、か細く声を絞り出す。
不安な時、いつも出る癖だ。

「どうした?」

春樹はそっと海の肩を抱き寄せて、柔らかい髪をかき混ぜる。
その身体は、弱々しく震えていた。

「ううん、ごめん。少しベッドで休むね」

小さく頭を振って、乱暴に袖で目元を拭った海は立ち上がろうとした。
だが、春樹がその腕を掴んで引き止める。

「おい海、俺はあの時もっと話を聞いてやれば良かったってずっと後悔しているんだ。」

掴んだ腕を引き寄せられて、春樹の腕の中に閉じ込められる。
海は、遂に堪えきれなくなってしゃくりあげた。

「ごめんね、いつも勝手で。」

溢れては止まない涙が春樹の服を濡らしていく。
その姿は、さながら大きな子供のようだった。

「責めたいんじゃないんだ。言いたいことがあるなら、なんでも聞くから些細なことでも言ってほしい。」

泣きじゃくる背中を摩りながら語りかける。
しばらくして、漸く落ち着きを取り戻した海が口を開いた。

「はるくんがここから帰る方法、来た時から知ってたんだ。でも…また一緒に居られるって思ったらどうしても言えなくて。」

海は、春樹が部屋から出るための条件を話した。
瞳から涙が零れ落ちるたびに春樹が優しく拭い、海の膝に置かれた手に自分の手を重ねて握り締める。

「話してくれてありがとうな。」

春樹は、海の涙に濡れた瞼にくちづける。

「シャワー浴びてくるね。」

そう言って、全てを話し終えた海は深呼吸をして立ち上がると浴室に消えていった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

君に会える夜のこと

朝賀 悠月
BL
短いお話です。 健司は、廃校になった古い校舎に来ていた。 別に約束をしているわけじゃないけれど、年に一度、毎年この場所で、会いたい君と他愛もない話を沢山して笑い合うために。 君と過ごすこの時間が、何よりも幸せだった。 けれど、あの日から十二年経つ明日、この校舎は壊されてしまう…… 健司と隼斗、二人の思い出の場所が……

巣作り短編集

あきもち
BL
巣作りの話だけを書いていく短編集 独自設定あったりなかったり

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集

あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。 こちらの短編集は 絶対支配な攻めが、 快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす 1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。 不定期更新ですが、 1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 書きかけの長編が止まってますが、 短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。 よろしくお願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

BL短編まとめ(甘い話多め)

白井由貴
BL
BLの短編詰め合わせです。 主に10000文字前後のお話が多いです。 性的描写がないものもあればがっつりあるものもあります。 性的描写のある話につきましては、各話「あらすじ」をご覧ください。 (※性的描写のないものは各話上部に書いています) もしかすると続きを書くお話もあるかもしれません。 その場合、あまりにも長くなってしまいそうな時は別作品として分離する可能性がありますので、その点ご留意いただければと思います。 【不定期更新】 ※性的描写を含む話には「※」がついています。 ※投稿日時が前後する場合もあります。 ※一部の話のみムーンライトノベルズ様にも掲載しています。 ■追記 R6.02.22 話が多くなってきたので、タイトル別にしました。タイトル横に「※」があるものは性的描写が含まれるお話です。(性的描写が含まれる話にもこれまで通り「※」がつきます) 誤字脱字がありましたらご報告頂けると助かります。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

処理中です...