【R18】君は僕の太陽、月のように君次第な僕(R18表現ありVer.)

茶山ぴよ

文字の大きさ
316 / 427
第17章 クリスマスの夜、二人

第310話 クリスマスの夜、二人(3)

しおりを挟む

小さなモルタルの教会は、ゴシック様式をかろうじて模した尖塔を、降りしきる雪の夜空にぼやけさせていた。

だが、せっかくタクシーまで使ったにもかかわらず、当の教会は、ミサを一目見ようとする見物人が入り口まで溢れているありさまだった。

入り口にしつらえられた大きな雪だるまも、人々の熱気に汗をかいたようになっている。

小学生の聖歌隊の親たちが多いらしい。それぞれがカメラを手に自分の子供の出番を待ち構えている。

まだミサは始まったばかりらしく、神父の声が聞こえていたが、あたりには厳粛さはまるでない。

「どうする?」

伊達眼鏡をかけた将は入り口の段の下から背伸びをしながら中をのぞいた。

「……やめとこうか」

入り口にたむろする人だかりに、思わずのけぞるような体勢になりながら聡は答えた。

この人だかりに、芸能人である将が現れたということがバレたら、大変な騒ぎになってしまうかもしれない。

「肩車してあげようか。中のツリーきれいだよ」

おどけて将は微笑む。聡は微笑で返すと、入り口から踵を返してビニール傘をさした。

降り続く雪は、人で踏み固められた上にさらにうっすらと積もっている。

ビニール傘の視界もあっという間に張り付く雪で閉ざされていく。

 

「アキラ、こっち」

足元に気を取られていた聡が振り返ると、将は教会の裏手へと続く新雪の上にいた。

20センチにも降り積もったなめらかな雪の表面に将の足跡が数個の穴となって残っている。

「なあに?」

聡は慎重に将のつけた足跡に自分の足をあわせながら将の行く方へついていった。

教会の裏は、小さな公園になっていた。雪に覆われた砂場とブランコ、ベンチが、暗い水銀灯に照らされて滑らかな影をつくっていた。

将は足を振り上げるようにしてズボズボとブランコに近づいた。

ブランコの腰掛の上にも、まるで豆腐のように四角い雪が乗っている。

それを手袋の手ですとんと落とすと、聡を手招きした。

「ここで聞こう。賛美歌」

「濡れてるじゃない」

木の座面は、雪を払い落としたあとも水気があった。そこに腰掛けるのは憚られた。

「平気」

将は自らがつけていたマフラーをはずすと、ためらいもなくブランコに敷いてその上に腰掛けた。

「聡はここ」

雪に目を細めながら、自分の膝の上を指差した。マフラーがなくなった長い首が寒そうだ。

それを見て、聡は「あ」と声を出すと、バッグから紙袋を取り出した。

「アキラ、寒いから早く~」

マフラーがなくなって震え上がった将は、ブランコの上で縮み上がりながら、自らの湯たんぽである聡を呼ぶ。

「将。これ。クリスマスプレゼント」

本当は、教会の中で渡せればと思って持ってきたものだ。

「え、ここで?」

将は雪交じりの風に震えながら受け取る。聡はうなづきながら

「早くあけて。今一番役に立つから」

といいながら、将にビニール傘を差しかけた。

この寒さだ。リボンを模ったシールをきれいにはぐのに、思った以上に時間がかかる。

中からは……マフラーが出てきた。

「わ……。これ手編み?」

将はその長いマフラーをこれ以上ないほど、うやうやしく紙袋からそっと取り出しながら聡を見上げた。

「早く巻いて。凍えちゃうよ」

聡は繰り返し首を縦に振りながらも、うながした。本当に寒い。

マフラーにタイツ、厚手の靴下、カイロ……と重装備をしている聡でも寒さで顔がこわばりそうになっている。

「マジ……うれしー。俺、手編みなんかもらったの初めて」

将は寒さも忘れたようにマフラーに見入っている。暗い水銀灯の下でも、それは将の好きな色だということがわかった。

好きな色、なんて話し合ったこともなかったのに、聡がそれを知っていたことにも将は深く感動していた。

「あんまり見ないで」

ついに聡は将の手からマフラーを奪うと、その首に無理やり巻いた。

「最後のほうとか急いで編んでるから不揃いだから」

そういいながら長いマフラーをぐるぐると将の首のまわりに巻きつける。

「アーキラ!」

急に将が聡の手を引っ張ったので聡は小さく悲鳴をあげて、将の胸に倒れ掛かった。

持っていたビニール傘が、聡の手から落ちて新雪にさくっとささる。

将は後ろに倒れまいと、もう片方の手でブランコの鎖を握り締める。

「もう、危ないよ」

顔をあげた聡のまん前に、将の顔がある。水銀灯に照らされた二人の吐く白い息が、溶け合ってのぼっていくようだ。

「ありがとう……。アキラ」

そのまま将は聡を抱きしめた。雪が花びらのようにくっついた柔らかい髪の毛に、顔をうずめる。

体温のせいだけではなく……心から将は聡のぬくもりを感じていた。

そして、自分もクリスマスプレゼントを用意していることを将が告げようとしたとき

「あっ?」

聡が鋭い声をあげて、将の顔を見つめた。眼を真ん丸く見開いて、しきりに瞬きをする。

その長い睫に、雪の華がひとひら、僥倖のようにかかって落ちていった。

「何?」

「あっ」

将の問いには答えず、聡は、今度は俯いた。将から完全に離れると、立ってお腹をさすっている。

「どうした。……お腹どうかした?」

心配になって立ち上がろうとした将は、雪が舞い落ちる夜の中で、輝くような聡の顔を見た。

「動いた」

祝福のように舞い落ちる雪の中に立つ聡は、将を見つめて一声あげた。

「すごい……。動いてる」

聡は将からすぐにお腹に視線を移し、コートの上から下腹をさすっていた。

ブランコから離れられないまま、聡を見守る将は、聡をよく見ようと伊達眼鏡をはずした。

そしてようやく……聡のお腹の中の、小さな命が活動を始めたことを知った。

「動いてる、動いてるよ!将」

聡は将に向き直ると、呆けたような将の手をとってお腹のあたりにあてた。

「ほら」

ただでさえ、膨らみが小さい聡のお腹だ。厚いコートの生地に隠されて、将は小さな身体がどこにいるのかわからない。

必死で探る将をよそに、聡は

「あ、ほらまた」

と声をあげた。

しまいに将は、聡の下腹に抱きつくような姿勢で耳を澄ました。

しん、と静まり返った中、お腹に神経を集中させる将の目には、音もなく雪が積もっていくのが映っている。

……ぴくん。

「……あ」

厚いコートの下で、聡の腹がかすかに脈動する気配があった。

「ね?」

聡が誇らしげに将を見下ろす。再び、動く。……今度ははっきりとわかった。

小さな命が将に気付いて手を延ばしたのかもしれない。

「……本当だ」

将は感動のあまり、しばらく聡の下腹に抱きついたまま動けなかった。

それに対して胎児は、今起き出したように、さかんに聡のお腹の下で体を動かしているようだ。

あの夏の終りに、二人が結ばれた証の、愛の結晶が、ここまで成長したのだ。

自分と聡の血を受けた……子供がここで小さく主張を始めている。

 

そのとき、教会のほうから、『きよしこの夜』のオルガンの調べが流れてきた。

1フレーズのあと、子供たちによるハーモニーが重なる。

その透き通った歌声は、まるで聡のお腹の子供の声のようだった。

「始まったね。歌」

聡の声に、将はやっと立ち上がる。

冷たい水銀灯の下で自分を見上げる聡の頬は、紅く昂揚しているのがわかった。

将は、そのいとおしい顔をそっと包む。紅い唇から吐き出される息は白い炎のようだ。

喜びに潤んだ黒い瞳には将だけが映っている。

「ありがとう。アキラ」

将はもう一度静かにつぶやくと、もう一つの命を宿したその身体をそっと抱きしめた。

誰よりも大切な人。

そしてその人との間にできたかけがえのない命。

一生、守っていく……将は誓いを聖歌にこめながら、聡の顎をあげた。

あいかわらず降りしきる雪。時間ごとに冷たく尖っていく空気の中で、お互いの唇だけが温かく柔らかい。

銀色に輝く夜の雪の表面に、ブランコと一緒に、二人の影が青く重なっている。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】

Lynx🐈‍⬛
恋愛
 ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。  それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。  14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。 皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。 この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。 ※Hシーンは終盤しかありません。 ※この話は4部作で予定しています。 【私が欲しいのはこの皇子】 【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】 【放浪の花嫁】 本編は99話迄です。 番外編1話アリ。 ※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...