【R18】君は僕の太陽、月のように君次第な僕(R18表現ありVer.)

茶山ぴよ

文字の大きさ
225 / 427
第13章 死闘

第219話 全部忘れられるもの(2)

しおりを挟む

ピンポーン。

「ん……」

大悟は、目を閉じたまま、布団の上で身をよじった。

あれから……明け方にマンションに帰ってきた大悟は、着替えもせずに万年床の上に倒れこんだのだ。

チャイムは再び鳴った。軽く戸も叩かれる。男性の声で

「郵便でーす」

と聞こえて大悟はようやく目をあけた。

瞼が粘りつくようにまだ重く、思わず眉根が寄る。

――なんで郵便がここまで来るんだよ。

と心で悪態をつきながらも、大悟は起き上がると、だるい体をひきずるように玄関へ向かう。

もうずいぶん陽が高いようだ。

カーテンをあけっぱなしにしていたリビングの窓から、真昼のバルコニーの照り返しが入ってくる。

「ハイ」

玄関に立った大悟は、投げるように返事をしながら無意識に頭を掻く。

シャワーを浴びなかったので少し頭がむずむずする。

「鷹枝さんに郵便ですが、郵便受けに入らなかったので持って来ました」

とドアの外から聞こえる。どうやら、本当に郵便局員らしい。

大悟はドアを開けると、その大きな封筒を受け取った。

封筒は大きいだけでなく、相当な厚みがあって、それで郵便受けに入らなかったらしい。

「なんだこりゃ」

と独り言をつぶやきながら大悟は、そのカラフルな封筒に、先日将と一緒にモデルのバイトをした雑誌のロゴがついているのを見つける。

『見本誌在中』とある。

手触りから自分の分も入っているのだと判断した大悟は、少し迷って封を開ける。

中に、フリー編集兼ライターの美智子からの手書きメッセージが入っていた。

======

将くん、大悟くん

先日はお世話になりました。

記事、めっちゃいい出来です。二人ともカッコイイ。

見本誌を1冊ずつと、読プレのために作ったオリジナルTシャツを1着ずつ入れておきます。

グラフィックデザイナーの××さんの作品なので、

私は結構気に入ってるんですけど……。

じゃあ、また何かあったらよろしくお願いします

幸田美智子

======

大悟は、ビニールに入っていたそのTシャツを広げてみた。

白いプレーンなTシャツの中に、大胆かつ粋に大きな柄がデザインされ、小さく雑誌のロゴが入っている。

2着あるが、お揃いじゃなく違う柄を入れてくるところが、お洒落な美智子らしい。

あまり金がない大悟にはかなり嬉しいプレゼントだ。

あと3週間近く帰ってこない将を待つ必要もなかろう、と大悟は自分の気に入った方を遠慮なくいただくことにした。

そのまま、雑誌をパラパラとめくる。

『街のベストジーニスト2007上半期』

という大きなタイトルはすぐに見つかり、大悟はそこを開いた。

次の瞬間、目を見開いた。

その、企画のタイトルページ見開きの左1ページ丸ごとの大きさで、将の写真が使われていたからだ。

フ、と鼻から息をもらして、知らず頤を傾けて斜め下に雑誌を見下した。

大悟は、次の見開きの上のほうに1/4Pの大きさで掲載されていた。

いちおうその見開きの中では一番大きいメイン扱いだ。

あのとき一緒だった、他のモデルたちも同じ大きさで、それぞれ見開きのメイン扱いになっている。

大悟も一般の読者に比べると、格段に大きい扱いだが、それにしても将の扱いは別格だ。

将のところだけ、まるですでに人気があるタレントが出現したようだ。

ヘアメイクにスタイリストがついたせいもあり、普段の将より数倍もイケている。

大悟も、まるで自分ではないような出来栄えだが、将のイケ方と比べると地味なように感じられた。

「ケっ」

大悟は雑誌をソファの上に放り投げた。投げたあとで、ちょっと恥かしくなる。

――まるで将に嫉妬しているみたいじゃないか。

――将は、いまや、本物のタレントなのに。

そう自分に言い聞かせる。

親友に対して、みっともない嫉妬はしたくない。そんなプライドはまだ大悟にもあった。

だがその直後に

――殺人者が、タレントか。

というフレーズが心に浮かび、大悟はギョッとした。

――何を考えているんだ。

大悟は頭をブンっと振るうと、大きく伸びをした。

なんか、ムカついているのを、汗ごと流してさっぱりしようと、大悟はバスルームへ入る。

 
 

トランクスとTシャツ姿でバスルームから出てきた大悟は、頭を拭きながら、冷蔵庫をあける。

今日も五月晴れのせいか、マンションの部屋はかなり気温が上昇している。

大悟は何の迷いもなく缶ビールを取り出すと、そのリップを立てる。

真昼の明るさも、もはや彼の飲酒になんの歯止めにもならない。

缶ビールは喉元で冷たく、腹に意外に熱く染みた……それで大悟は自分の空腹に気づく。

あいにく冷凍しといた残り物も尽きているようだ。

外に買いに行くのも面倒なので、大悟はカップ麺で済ますことにした。

ビールを飲みつつカップ麺のフィルムを破いて、お湯を火にかける。

ちょうどそのとき、部屋で携帯が鳴った。

あわてて、部屋に携帯を取りに行き、台所に戻りながら表示を見る。

『西嶋』と表示されていた。新しい保護者である。

「ハイ」

大悟はビールを一気にあけてしまうと、通話ボタンを押した。

「あ、大悟くん。西嶋の家内です……元気?」

「ハイ」

保護者が何の用だろう、と大悟はいぶかりながらも、いちおうハキハキと返事をしておく。

本当は「そちらはいかがでしょうか」と訊くべきなのだろうが、節子だけでなく社長の隆弘のことまで訊かないといけないだろう。

いちいちそれをするのが面倒くさくて、大悟は自分の返事を短くしたきり黙った。

しかし節子は、そんなことに構わないように本題に入った。

「大悟くん、今日、お誕生日よね」

「ハ……」

言われて初めて気づいた。今日5月8日は大悟の誕生日だった。

「18歳になったのよね、おめでとう」

大悟は、一瞬言葉が出なかった。

誰かに誕生日おめでとう、と声をかけてもらうのは何年ぶりだろうか。

「……ありがとうございます」

かろうじて、口ごもるようにだけど、返礼が出来た。

「それでね。たいしたものじゃないんだけど、プレゼントを用意してるの。もしよかったら、今日、うちに夕食を食べに来ない?主人も待ってるから」

「ハ……」

大悟は迷った。

将がらみの保護者なぞ、できるだけ頼りたくない。

そう思うのは、親友として将と対等な立場でありたい、大悟のプライドである。

だけど……すぐに断ってしまうには……、かの人たちの温かさは勿体なさすぎた。

「あくまでも予定がなかったら、だけど。今日は仕事は遅いの?」

節子はてっきり大悟は仕事中だと思っているらしい。

「い、いいえ」

仕事をしているのではない、という意味の返事をするつもりで、大悟はつい、予定がないという意味にもとれる否定をしてしまった。

「じゃあ、ちょうどよかったわ。ぜひ来て。ね?」

大悟はとうとう断る言葉を見つけられないままに、電話を切ることになってしまった。

気がつくと、お湯がシュンシュン沸騰していた。

それをカップに注いでしまうと、ソファーの前のテーブルにもっていきながらリモコンでテレビを付けた。

ちょうど、昼のニュースの時間らしい。

『次のニュースです。愛知県○○市の○○埠頭で車が沈んでいるのが発見され、中から4人が遺体で発見されました……』

あくまでも麺が出来るまでの暇潰しなので、画面に目をやっていても、内容は頭に入っていない。

大悟は、バラエティに変えることもなく、そのままの画面にして、麺ができるのを待つ。

『4人は死後1週間程度が経っており……』

大悟はそれを耳の端でとらえながら、1週間も経ってるんじゃ、さぞひどい姿だろうな、と想像した。

中学時代に一度、将と一緒に『カオリさん』の部屋のパソコンでグロ画像を見てしまったことがあるのだ。

だがそれへの想像くらいで、目の前のカップ麺への食欲がなくなることはない。

『車のナンバーから、○○市在住の××さん夫婦とその孫の△△ちゃん……の4人と見られています』

聞き流していた大悟は、○○市在住の××さん夫婦、のところでふと目をあげた。

脳が、記憶しているデータとの一致を告げて、大悟はあっと声をあげた。

鑑別所を出た大悟が預けられていた遠い親戚……つまり、大悟の前の保護者だったからである。
しおりを挟む
感想 81

あなたにおすすめの小説

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...