彼が他人になるまで

あやせ

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理不尽な理由 1

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試験を終えてから本格的に私は自宅で寝ることが減り、ますます綧と一緒にいる時間が増えた。

同棲を始めた…のではなく、綧の実家で半ば成り行きで転がり込む形で寝泊まりしていた。
当然私の両親に綧から挨拶があるわけでも、了解を得ているわけもあるわけがない。

「同棲をするってちゃんとお父さんに断りを得て居るわけじゃないんだから、毎日転がり込んで朝バタバタと仕事に行くくらいなら帰ってきなさい。むこうのご両親も困ってるんじゃないの?」

私も半ば強引に実家には帰らずにいたため、母からの言葉は耳が痛かった。

そんな毎日を過ごしているある日、綧のソレは顔を見せはじめる。

この頃から仕事が終わると綧は職場にまで迎えに来ることがほとんどで、私が退勤する頃には既にいるから自分で自宅に帰ることも減っていった。

当時の私は免許はあったがペーパードライバーなため、徒歩で通勤していた。
職場から自宅まで歩いて帰れる距離とはいえ、迎えに来てもらえてすごく助かっていた。
なにより退勤して好きな人に会える、雅の時にはなかなか出来なかったそれが日常的にできる嬉しさといったらなかった。

初めの頃は。

退勤後軽く飲み物など買い物をした後に、着替えるために自宅に一旦戻る。
その際に翌日の準備や、家族との会話を僅かではあるが交わし、猫たちとのコミュニュケーションを取る。
家にいる時間が減ってから私がとても大事にしている時間。

しかし大事にしているといっても、車で綧を待たせているから長時間確保するのは困難。待たせてしまうことに対しあらかじめ綧には「待たせる時間が申し訳ないから、退勤して準備まで終わり次第連絡するけん迎えは大丈夫だよ。」と伝えていたが「車で携帯でも見て待つからいいよ」と譲らなかった。
なので準備をしながらコミュニケーションを取っていたから、せいぜい約20分程度待っていてもらっていた。

が、急に言ってたことが覆る。

いつものように全てを20分ほどで済ませ出てくると、ものすごく不機嫌な綧がタバコを吹かしていた。

「お待たせ…ごめんね、待たせて。」
「ごめんって思っとるならさ、もっと早く出てくるやろ。毎日毎日、ごめんって言うけど口だけで悪いとか思ってないやろ。」

思ってた以上に不機嫌で言葉がすぐには出なかった。
呆気に取られている間にも
「だらだら準備しとるとやろ、俺なら5分でできる。」
「自分だけが疲れとると思っとるんやろ。残念でした、俺は外仕事しよるんやけん貴方よりずっと疲れてます。」
「謝れば済むと思っとるやろ。」
など、待つと言って譲らなかった人の言葉とは思えない理不尽な理由を次々ぶつけてきた。

何が何だかわからないまま謝るも、「口だけで誠意を感じられない。」の一言で片付けられてしまう。
こんな時に「だから迎えは大丈夫だって言ったのに、自分が待つって言ったんやん。」というようなことを言おうものなら最後。
更に理不尽なことを言い出す。
そんな状況が何時間も続き。不機嫌な綧の嫌ごとを聞きつつ、機嫌を直すための言葉を探す。ただただ探す。

この頃は大真面目に綧の中の正解を探していたが、結局そんなものは存在しないということにたどり着くのはまだ数年先。
何時間も理不尽な言葉の中で、綧が満足するまで嫌ごとを聞き、正解を探し続けた。

そしてコミュニケーションの時間は10分ほどに減り、自宅にいる間はストップウォッチをとにかく気にする生活が結婚するまで続いた。








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