彼が他人になるまで

あやせ

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勉強を一緒に初めて数週間後の10月。
試験勉強をする上での環境は更に悪くなる。

食後の時間でさえも、綧が横から邪魔をするようになったのである。

初めのうちは雑誌を読むものがなくなったが、勉強をしている私は話し相手にはならない。
それが単純に面白くなかったのだろう。
面白くないから過去問をパラパラとページを勝手に進めたり、戻したりしていた。それに対して私が反応を返し、一言二言とはいえ会話をする。

おそらくそれを繰り返すうちに、味を占めたのだろう。
その横からの茶々は次第にエスカレートしていき、時には時間を計りながら過去問を解いてる最中に閉じられることもあった。
それに「やめて」と切に頼むと何故かキレられたと受け取られることがあり、臍を曲げられ店を後にするものだから勉強どころではなくなる。

他にも集中して勉強をしている時に限って、その日の出来事や次休みが被った時何がしたいかなどの会話を持ちかけてくる。
これは私個人の問題ではあるが、何か1つに集中して取り組むと周りの音の一切を遮断してしまうことがある。
普段は集中して取り組むといっても多少気持ちの余裕があったり、なんだかんだ気乗りできず集中力に掛けている。なので話しかけられたり物音がすると聞こえるが、本気で集中すると聞こえていても遮断してしまう。

この頃の私はまさにそれ。試験まで時間がないにも関わらず綧から邪魔をされる状況下で、短時間に内容を詰め込まなければならない。勉強における集中力というのは、学生時代から換算しても比ではなかったと思う。

なので、当然の如く綧の話を私はほとんど聞いていないという事が多くあった。
かろうじて相槌を打てていたり、まだ聞き返しても違和感のないとこで聞き返すことができればセーフ。失敗すると…。

「…え?ごめん、なに?」
「聞いてないったい。あっそう、その程度やもんね。片手間、片手間。俺はその程度やもんね。」
「いやいや、そんなことないよ。ただちょっと集中して考えてたけん、聞いてなかったごめんね。なんて言ったの?」
「もういい、もういいです。どうぞ、大好きなお勉強を好きなだけしてください。」
「試験まで日にちなかったとはいえ、聞いてなくてごめんって。そんな言い方しなくていいやん。」
「は?俺が悪いと?」

「俺が悪いと?」この言葉が出たら当時は何を言ってもその場では機嫌は治らない。
もともと綧は話す声が大きかったので、喧嘩腰になるとより声が大きくなるから悪目立ちをしだす。
ここはファミレス、他のお客からの視線が痛い。
綧はそんなことはお構いなしで不満を吐き散らす。

そして毎回私の方が耐えられなくなり、綧を促し店を後にする。

その後の展開は綧から店を後にしても、私が促して後にしてもいつも同じ。
店を後にしてからも綧を宥めるため何時間も話し合う。

何時間も何時間も。

そんなことをしているうちに時刻は真夜中になり、勉強なんてできる時間は残されなかった。

結局その後も試験を終えるまで、勉強だけに集中できる時間をきちんと作れなかった。

数ヶ月後に出た結果は不合格。
当然と言えば当然。
1番踏ん張らなければいけない時に、綧に気を取られてしまっていたのだから。

そしてこの『不合格』という結果は、のちに私を苦しめることになる。





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