運命の人は二人で一人!?どっちも愛してみせます!

神楽倖白

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四章

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 慧矢と僕について話すと決めた日の朝が来た…来てしまった。
 眠るのが怖くて一睡もできなかった。
 葵は昨夜の疲れからか、起きる気配が全くない。
「今日、葵に振られたら慧矢…死んじゃうかもな…」
 慧矢を裏切り、あまつさえ葵まで自分のものにようとしているのだ。それが決して意図したことではないとしても、結果として慧矢が居ないのをいいことに彼女を抱いた…自分が抑えきれなかった。己の弱さと、こんなにも残酷な人間であったということを思い知らされ、嫌気がさす。
 慧矢が目覚めないことが望みなのか?違う!そうなることを望んでいたわけではない。だからこそ正直に話したかった。決して慧矢の存在が疎ましかったからではない、妬んでもいないし、心から護りたいと思っている。ましてや慧矢の向こうを張って競り合うつもりもない。
ーこの思いが葵に届いてくれるだろうか…。
 自らのことを、さも他人事のように冷静に話せるだろうか…。
 何がどうなっているのか、何を思い考えているのか、上手く話せるか…この期に及んで思い悩む。意気地がないとはこのことだ。
ー彼女に嫌われる覚悟だけができていない……
 自分のしたことはまるで間男だ。慧矢と同じ顔、同じ声で葵を騙して抱いた…あげく消えてもいいと腹をくくったはずなのにここにいるのは未だに類で、葵を護るつもりでいるのだからとんだお笑い草だ。
 諦観の境地には程遠い現状が益々類を憂鬱にさせた。 
 葵なら大丈夫…そう信じる気持ちと、もしかしたら別れを切り出されるかもしれない、と言う不安感がせめぎ合う。
ー考え過ぎても埒が明かない。ご飯を作って彼女を起こそう。時間は有限だ、そんなに夢は見てられない、特に今の僕は……
 ベッドから出て、クローゼットに丁寧に仕舞われた服を見て思う…
ーもし、出ていくと言われたら、潔く別れるべきか…例え嫌われたとしても僕には葵しかいない。だったらいっそ閉じ込めてしまおうか……。
 こんなことを考えながら、お気に入りのシャツに袖を通すとキッチンに向かった。

 今朝のメニューは鶏胸肉とブロッコリーのサラダに、手作りミートソースと溶けるチーズをパンに乗せて焼いたトーストと、コーンスープにフルーツヨーグルトだ。
「スムージーのが良かったかな…」
 類にとってはこれが最後の晩餐になるかもしれない。
 可愛い葵の顔も見納め。別れることになるのか…それでいいのか…考えが纏まらず脳内を駆け巡る。
 いつも優しいあの笑顔を、できることなら一生護り続けたい。
 でも頭の中は、どうやって彼女を繋ぎ止めるか、縛っておけるのか、そんなことばかりだった。
ーわかってる…僕の得手勝手でどうこうしていい女性だなんて思ってはいない。それにこの告白で、いくら傷つける気はなかったなどと言い訳をしても、彼女を閉じ込め笑顔を奪えば慧矢が壊れてしまうことは必須…そんなことになれば次はどんな人格が生まれてくるかもわからない……
 類は手に取ったスプーンに映る自分の顔をじっと見つめ、湾曲して見えるそれが、まるで歪んだ心を映し出す真実の鏡のように思えて目が離せなくなった。
 これからしようとしている告白が、慧矢の口からではないことに類の存在価値がある。身代わりとしての自分の仕事……
〝役目を果たせ〟そんな言葉が聞こえるようだ。
ー果たすよ…慧矢が戻って来るかどうかは、僕の話を聞いてからの葵にかかってるんだろう…はいはい…わかってますよ。
「とにかく誠心誠意、正直に話そう…考えるのはそれからだ!」
「何がそれからなの?」
「うわっ!」
 まだ寝ていたはずの葵に背中から抱きつかれ、類が慌てて手にしていたスプーンを落とす。
「そんなに驚いて…何か疚しいことでもあるの?」
…疚しいことしかない…
「あ、いや、その…今起こしに行こうと思ってたんだよ」
 類はしどろもどろになりながら葵に向き直り、チュッとおはようのキスをする。
「ん~いい匂い…美味しそう」
 葵が目を瞑って無邪気にクンクンと鼻を上げる仕草に心を鷲掴みにされる。
ーちくしょう…本当に可愛いなぁ…
 類は絶望的な現実から逃げるように、荒々しく葵の唇を貪った。
「んっ…んん……」
 乱暴な口づけなのに彼女は必死に応えてくれる。
 水枯れした心を満たそうと、類は舌を突っ込み葵を求めて呼吸を奪う。
 抱きしめた腕の中で葵にトントンと胸を叩かれてやっと、力が強過ぎたかと気がついた。
「ごめん!可愛くてつい…」
ーきっとこれが本当に最後なんだ…もうキスは愚か、抱きしめさせてももらえない…
 そう思うと涙が出そうだった。
 愛した女性を抱けても、類の恋が実ることはない…永遠に。
「慧くん、どうしたの?泣きそうな顔して…痛かった?ごめんね…」
ー痛い、痛いよ…僕らのことを知った葵が青ざめた顔で言葉を失うんだ…見たくないよ…
 そんな心の声に蓋をして、類は笑顔を見せなくてはならなかった。それが類の務めだから…。
「痛くないよ。葵があんまり可愛くて…」
 精一杯笑って見せたが、こんなに辛いとは思わなかった。今更知ったところでもう何もかも無くなる…口で溶ける綿飴のように、彼女との甘い思い出だけを残して跡形もなく消える運命…それでも何かが残るなら、まだましかもしれない。
「もう!」
「ははは…ほら、ご飯にしよう」
 テーブルを前に、二人並んで「いただきます!」をするが……
「………」
「…………」
 静かな食卓だった…。
 嵐の前の静けさ…これから話す内容を頭で整理しつつ考えていたら、自然と無言になってしまった。
 別れを切り出される…そのことへの恐怖で頭が一杯で、食べた物の味がしない。
「あの…慧くん…?」
「はいっ!はい、何?美味しくなかった?味しない?」
 葵は少しの不安を隠すように微笑えむと
「そんなことないよ、美味しい…」
 そう応えてまた沈黙が流れた。
「あの…」
「あのね…」
 二人同時に口を開いて、顔を見合わせる。
「ごめんね、私から先に言わせて…!もし、慧くんが何か言いづらいことを言おうとしてるなら、無理に言わなくてもいいと思うの…ほら、知らない方が幸せってこともあるじゃない?」
「……?」
ーなるほど…知らない方が幸せか。慧矢と僕とのことは葵にとって困らせる要因になる、しかも僕らが捨てられるかもしれない…だったら言わない選択肢もありか…?
 葵の一言でさっきまでの決心があっさりと覆る。
「だからね慧くん…どこにも行かないで…私だけ見て…慧くんが…好きなの…」
 葵が目に涙をいっぱい溜めて嗚咽を堪えている。
「え?何、何で泣くの!?」
ーさっぱり訳がわからないぞ?僕が泣かせたのか?まだ何も言ってないのに?
「だって…うっ…慧…慧くん…最近、おか、おかしいから…ひっく…私に、飽きて…浮気、しちゃったのかとか、別れ、たいのかとか…おも…思って……っ…」
 葵の目から溢れ出る滂沱の涙を、堪らなく愛しく思った。自分の為にこれほどの涙を流し愛情を向けてくれる女性を、僕は本当に諦め切れるのだろうか…?浮気を心配し、どこにも行かないでと懇願する彼女への愛情は深まるばかりで、もう最後なのだと言い聞かせているのにこの思いが止められない。それなのに自分には明るい未来など来ないのだ…そう思うと口惜しい。
ーああ…最後まで本当にくっそ可愛いなぁ…
「違うよ葵、浮気なんてしてないよ!ごめんよ不安にさせて、本当にごめん!」
ーこれから振られるのは僕なのにな…
 そんなことを考えていると、このやり取りの先に自分が振られる未来しかないことに落胆する。
「ほ、本当に…?」
「本当に。浮気なんてしないよ。僕には葵だけ…ずっとね。愛してるよ…愛してる…」
 葵の頬を伝う涙を拭ってやると、やっと安心したのかニコッと微笑んでくれた。
 でもこの笑顔が幸せな時間に終わりを告げる合図なのだということを否応なしに理解させられる……
ー葵の誤解が解けて、本当に良かった。
「じゃぁ、慧くんの話しって何?」
ーきた…
 はぁ…と心の中で深く一呼吸すると、類は落ち着いて話し始めた。
「実はさ…僕は慧矢じゃないんだ…名前は類…」
「…?…類…?」
「ああ、わからないよね。えっと…解離性同一性障害って聞いたことあるかな?」
 聞き慣れない言葉に、葵が少し困惑しているように見える。
「それは…何かの病気なの?」
「うん…そうだね。簡単に言うと、慧矢の身体に僕って言う人格が生まれてしまって、要は一つの体に二つの心が宿ってる状態なんだ…」
 葵は少し考えると、静かに問いかけた。
「どうしてそうなっちゃったの?」
ー優しいな葵…ちゃんと聞こうとしてくれてる。
「慧矢の母親が自殺したのは聞いた?」
「うん」
「慧矢は母親が自殺した直後の現場に出くわしてるんだ…何時間も血の海にいて、僕はその時に生まれた人格なんだ…驚くよね…ごめん…」
 努めて冷静に話した。
「今はどっちなの?慧くんは?死んじゃったわけじゃないよね?」
 葵の感じた不安を言葉にして聞くのは耳が痛かった。
 正直に話していいものかと返答に困ったが、嘘は言えない。
 自分の裏切りのせいで慧矢が閉じ籠もってしまったことを話さなくては……
「死んではないよ、この身体は元々慧矢のものなんだ、生きてるよ」
「良かった…」
 葵はホッとしたのか、前のめりになって顔を伏せた。
ー何を考えてる?怒ってる?気持ち悪い?いや、今は話しを聞いてもらわないと…
 類は自分の役目を果たそうと、己を奮い立たせる。
「あれから度々慧矢とは入れ替わってて、お互いに出来ないことを代わりにやって助け合ってたんだ…母親が死んでから、慧矢はすっかり心を閉ざしてしまっていたし、お世辞にも社交的とは言えなかったから…」
 こんなためらいがない話し方だが、葵には想像もできない辛酸を嘗めるような慧矢の過去を、類はずっと支えてきたのだ。自分のことなのに、自分のことではない生い立ち…考え出すと何から聞いていいのかわからなくなってしまう。
「入れ替わるって、そんなに簡単なの?」
「そうだなぁ…タイミングは選べる時もあるよ。お互いの記憶はほぼないけど、なんとなくわかることもあるんだ。同じ解離性同一性障害でもタイプが幾つかあってね。それによっても変わってくる…」
 一問一答の受け答えは楽で良かった。端的に話せる。
「それなら慧くんとも簡単に入れ替われるんじゃないの?」
 最もな質問だ。
「それが…なかなかそうもいかない。一番は本人の意思が優先だから、嫌だと言って殻に閉じこもる慧矢を無理やり引きずり出すことはできないんだ。僕らはお互いの出来ないことをする為に入れ替わってきたから、片方がそれを拒否すればこの体の主導権はもう片方が握ることになる…だから今は必然的に僕がここにいる…」
 類の語り口は淡々としていて、葵はそれにじっと耳を傾けていた。
「類…さんが…」
「類でいいよ」
「類…が、いるってことは、慧くんが出てくるのを拒否してるから…?どうして嫌がってるの?」
 今日一番の核心に触れた。
 幸せだった日々が終わる…本当に幸せだった。主人格ではない類が、こんな幸せを味わえる日が来るなんて思っても見なかった…だからもう十分だ。
「慧矢は……僕が君を好きになるのを恐れていたんだよ。彼の予想は当たって、僕が君を好きになって抱いてしまったから…あいつは殻に閉じ籠もってしまったんだ…本当にごめん!ごめん!」
 類は床に額をこすり付け頭を下げた。
ーこんなことで許されるなんて思っていない…殴られたって蹴られたって足りないし、警察に突き出されても文句は言えない…それだけのことをしたんだ、我慢できなかった…優しく笑いかけてくれる葵に甘えて幸せを噛み締めたかった。この多幸感が自分のものではないとしても…未来のない僕にとっては何にも代え難い〝生〟を感じられた日々だったから。
「顔を上げて…」
 ゆったりと落ち着いた口調ではあったが、物哀しさが伝わってきて居たたまれなくなり、類は顔を上げ真っ直ぐに葵を見る。
「葵…本当にごめん…初めは慧矢が騙されてるんじゃないかって心配で観察してたんだ。でも君の優しさや温かさに触れるうちに四六時中考えるようになって…いつの間にか愛してた。この身体は慧矢のものだから、僕はいつか消える…そう思ったら、もう君に会えないと思ったら、初めて怖くなったんだ。だから…君が僕を慧矢だと思っているのを知ってたのに抱いた……騙して、本当にごめん…」
 葵は黙ったまま眉間に皺を寄せてしまった。
ー困るよな、腹立たしいよな、いっそ殺してくれ…!
「私は…騙されてた感じがしてないんだけど…」
「え?」
「だって、体は慧くんのもので、類は彼を助けたくて現れたんでしょ?それって悪いことなの?癒えることがないほど傷ついて、誰も護ってくれる人がいなかったら、自分で自分を護るしかないじゃない。悪いのはそういう状況であって、類じゃないよね。責めるなんてできないよ。それに傷つけられてないし、騙されたのとは違うと思う…強いて言うなら秘密にされていたのだけは、ちょっと寂しいけど…でもそれは私がまだ慧くんの信頼を勝ち得てないだけで、類が騙したとかそういう事じゃないと思うの…」
 その言葉には明確な意思が感じられ、はっきりとした物言いには確固たる自信が感じられた。いつもはあまり主張しない彼女が、ここまでの意見を述べることは珍しく、それが自分の為かと思うと胸が熱くなる。
…葵…本当に君は…僕をどこまで魅了するの…
「あは…葵には敵わないや…僕に腹は立たないの?殴りたいとか…」
 葵は一瞬ぽかんとしたが、すぐに柔らかな微笑みを返してくれた。
「腹なんか立ってない。だから殴りたくないよ。ありがとう、慧くんを護ってくれて…私、知らないことばっかりたから、類にいろいろ教えてもらわなきゃ。これからは私にも二人を護らせてね」
 ふふ…と笑った葵が眩しい…小さな体なのに大きく見えて、胸に込み上げる熱いものが今にも溢れ出そうでむず痒くなった。
「僕こそ……ありがとう…うぅっ…ありがとう……」
ー慧矢…僕も生きてちゃダメかな…?
 自分の存在価値などかなぐり捨てて、生きてみたいと初めて思った。いずれ消えて無くなるのだとしても、その時まで彼女と共に有りたい。精一杯生きてみたい…そう望んでもいいだろうか…その答えは彼女がくれた。
「私たちの再出発だね!」
「僕は…居てもいいの?」
「いいよ」
 あっさりと類の存在を肯定され、自分の悩みが実はちっぽけなものだったのかもしれない…と錯覚するほど、葵の言葉に嘘はなく、安堵感に満たされる。
ー葵を信じれば良かったんだ。好きなのにそんなこともできなかったなんて…僕は葵を見縊っていたのかもしれない。全く…なんて人だ…愛さないでいられるわけがないよ。
 類は少し遠慮がちに葵を抱き寄せた。
「あぁ、葵……葵…愛してるよ…君がいてくれるなら、僕はいつ死んだってかまわない…!」
 ポロポロと溢れる涙が彼女の肩を濡らすと、葵が類の背中をトン…トン…トン…としてくれる。一定のリズムが心地よく、思わず瞼を閉じた。
ー愛してる……
 すうっと吸い込まれていくようなフワフワした感覚に心が落ちていく…………
「……」
「……類?」
「………」
「寝てるの?」
 葵を抱きしめていた手がだらりと下がり、急に重たくなる。
「類…?重っ…」
 重たくて支えきれなくなり、類を抱えながら横になると、微かに寝息が聞こえる。
「寝ちゃった…疲れたんだね。大丈夫よ…側に居るからね」
 類の寝顔は慧矢となんら変わりはなかった。聞かなければきっと、あの違和感の答えは出なかっただろう。でもこれでわかった。違う人格だったんだ…。
 解離性同一性障害…くわしくはわからないけど、新しい人格が生まれてしまうほどの辛い壮絶な経験を、幼い慧矢がしていたことが心憂い。過去は変えられないけど、これからの未来は幸せでいっぱいにしてあげたい。今の私にできることは側にいるという安心感を与えること。離れたりしない、別れる理由なんてない。別人格の類も慧矢同様に優しかった。病気なら治せばいい。
「治すと…類はどうなるの…?」
 なんとなくわかっている答えを出すのが怖い。慧矢の人格だけにすることが正常だとしたら、そうじゃない類は消えてしまう…それはいいことなのか?慧矢の大変な時期を支え、時には身代わりにもなってきたであろう類を、治療と称して消してしまうことが果たして正解なのだろうか…葵にその答えは出せない。
「慧くん、愛してる…話したいよ…戻ってきて…」
 柔らかな声が慧矢の耳に響く。

   ◆

 長く暗いトンネルを抜けたのか、光を感じた。
「…んん…温かい…」
 気持ち良くて思わずギュッと手に力を入れると「…ん…」と声がした。
ーえ…葵!
 慌ててその顔を確かめようと腕を解くと、紛れもなく葵だった。
「俺…戻ってきたんだ」
ー葵…あぁ葵…会いたかった……
 久しぶりに感じる彼女の温もりに、慧矢は夢中になった。背中や肩を撫で回して腰を抱き、柔らかな胸に頬擦りをすると愛しさからあっという間に下半身が熱く滾る。
「葵……」
 身体を上にずらしてちゅっちゅっ…とキスをすると、すぐにパッと葵が目を覚ましたので驚いてしまった。
「…んん…っ、起きたの?あなたはどっち?」
 彼女の口から出たこの問いかけに、心臓が縮み上がり言葉に詰まる。
「…どっち…?って……」
「慧くん…?」
「そ、そうだけど、何…?なんかあった…?」
ー類のことを知られたのか…?何があった…?
「慧くん…ごめんね。類のこと、聞いたよ…」
ーやっぱり……誰から聞いたかなんかどうだっていい…もう終わりだ……
〝捨てられる〟直感的にそう思った…母さんが俺を置いて逝ったように、葵もまた例外ではなかったのだろう…仕方がない…俺が悪い…騙したのだから……。
 葵と別れて父親が決めた女と結婚させられるくらいなら、俗世間を離脱して頭を丸めて出家しよう。こんな忌々しい血は俺の代で終わらせてやる!
「そう…それで…?気持ち悪かった…?怖かった…?どちらにしても君を騙してたんだ…別れたいなら、そうす…」
ームニュっ!
 最後まで言い終える前に、慧矢の両頬は強く摘まれて引っ張られた。
「…っ!」
「何言ってるの?別れる気なんてないから!慧くんは、これからも私だけを愛してて!私もそうする!いいよね?好きにしても!」
 葵は摘んだ手を離すと、今度はその手で慧矢の両頬を包み込み、ちゅっ…と優しく口づけた。
「…愛してる…私と結婚して…」
…ちゅっちゅっ…
 葵からの積極的なキスは、まるで初めての時のようにドキドキした。
「ま、待って、待って葵…ん…待っ…」
ーだめだ…こんな、されたら…止められない……!
 今は話さないといけないのはわかってる…でも、言葉とは裏腹に彼女の背中に回したこの手までもが、震えながらも固く服を掴み、離れられないと言っている。
 食むような口づけが次第に激しく奪い合うように変わり渇欲に任せて求めあった。
 息継ぎさえ億劫なほどの熱に逃げ場を探し、やっとの思いで離れた唇の隙間から葵が言葉を絞り出す。
「…はぁ…ぁ…ごめんね…私ったら、つい…」
「はぁ…はぁ…いいんだ…ごめん…俺の方こそ……」
 すっかり火照った身体を半ば強制的に引き離し、正座し向かい合った。
 しばらくの間見つめ合っていると不思議と気持ちが通じ合っている気がして沈黙なのに心地よかった。初めて葵を目にした時の光景が蘇り、あの時はただ見ているだけで精一杯だったことを思い出す。あれからの四年間を思うと、彼女と目が合っている今が夢のようだった。
ー自分の秘密を知ってなお〝愛してる〟と言ってくれる彼女に、どう報いたらいいのだろう……
 そして沈黙を破ったのは葵だった。
「慧くんが私に話せなかったことを、先に類から聞いてごめんなさい…。まだ聞いたばかりだから、解離性同一性障害っていうものがどういう病気なのか、詳しくはわからないの。でも、気持ちは変わらないよ。慧くんは話したくなかったかもしれないけど、私は何かできることがあるなら協力したいと思ってる…でも、そっとしておいてほしいならそうするつもりだから言って…」
 葵の瞳が若干の熱を残して揺れている。
「話せなかったのは…本当にごめん…俺が悪かった。ただ誤解しないでほしい、葵に嫌われたくなかっただけなんだ!だから言えなくて…ごめん…」
 慧矢は叩頭して謝罪した。
「慧くん、私怒ってないよ。ただ話してもらえなかったことがちょっと寂しかっただけなの。でもそれは私の我儘だから気にしないで。慧くんが話したくなるような人間に私がなればいいだけだから!だから、もう謝らないで…ね?」
 こういうところだ…彼女はいつだって慈しみ深く、どんな者にも慈悲の心を忘れない。それを出会った当初は懐疑心たっぷりの目で見てしまっていたが、報告を受ける度に次第にそうではないことに気づかされていった。
 誰かに感謝されたいとか、良く思われたいとか、そんな自尊心を満足させたいが為の善意ではなく、彼女はただ己の良心に従っているだけなのだ。そこには絶対的な〝愛〟が根底にあり、周囲を魅了している。
ーなんて美しい魂の持ち主なんだろう…
 そう思えば思うほど自分の汚い部分を見せたくなくて、でも側にいて独占したくて困窮した。
 真綿で首を絞められるような人生…モノクロな景色…それが慧矢の生きる世界だった。
 そこへ光を射し色を見せてくれたこの女性を、愛さないでいることなど不可能だった。
ーいくら葵の為に身を引こうと考えても手放せないなら仕方ない…愛してしまったのだから仕方ないじゃないか…だったら俺も自由にしよう。彼女をめいいっぱい愛し、愛されるような男になろう…。でもその為には気持ちのリセットが必要だ…俺にできるか…?
「ありがとう…でも、あいつは君を……俺は許せない…」
 愛される男になる、そう決意した傍からいじけた言葉が口をついて出てしまった。
 慧矢の気持ちを察したように葵が頬笑み話し始める。
「類は慧くんの一部じゃない。腹立たしいのもわからなくないけど、慧くんが生み出したのだとしたら、なんのために生まれてきたのか考えようよ。類は慧くんを助ける為に現れたんでしょ?だったら私は感謝しかないよ。だって、私の大切な人を護ってくれたんだもの。その時のあなたを護ってあげたかった…私にはできないことを、類はしてくれたの。だから、そんなに嫌わないであげて…」
「でも…君を…俺の知らないところで…」
ーしかも類って呼び捨て…くそっ!
「でも、慧くんの身体だよ?慧くんと類は二人で一人でしょ?」
「俺は葵と二人で一つがいいよ…」
 慧矢の目からぽろりと涙が零れ落ちた。
「慧くん…」
 胸が熱くて、痛くて、ただ彼を抱きしめてあげたかった。
「愛してるよ…葵…俺のこと、嫌いにならないで…」
 慧矢が呟くように吐露した〝願い〟の言葉に胸が締め付けられる。
 ぽろぽろと零れ落ちる涙を、どうしたら止めてあげられるんだろう…自分がもっと早く異変に気付いて聞けていたら、慧矢がこんなに不安になることもなかったんじゃないか…この人が向けてくれる愛情にはいつもちゃんと理由があったのに、わかっていたつもりでいたのに、胡座をかいていたのかもしれない…愛されることに有頂天になって浮かれて、未だ続く彼の苦しみに気付いてあげられなかったんだ……
「慧くん…私がずっと一緒にいてもいいの?」
 慧矢の涙はいよいよ止まらなくなり、泣いているのに笑っている。
「もちろんだよ…ずっと側にいてほしい…愛してるんだ!」
 葵は横に座る慧矢の頭を抱き寄せた。
 背の高い彼が、葵の肩の高さまでかがみ込むのは少々苦労だったかもしれないが、かまわず頭を撫でた…。
「愛してる……」
「ありがとう葵…愛してる…」
  顔を上げた慧矢に、ちゅっ…とキスをする。
「いっぱい泣いちゃったね…ごめんね、私のせいで…」
「葵は悪くないよ、本当にごめん…あの、葵…」
「何?」
 唐突に慧矢が真顔になる。
「さっき、結婚してって…言ったよね?」
「あ、はい……」
「いつにする?」
 いつになく真剣な慧矢の目が怖くないのは、愛されていると身に染みてわかったからかもしれない。
「カ、カレンダー見てみようか」
 断るつもりはないが、完全に逃げられない…と葵は悟ったのだった。

   ◆

 葵に秘密を打ち明けた翌日。
 慧矢はいつもの生活に戻るべく、目新しい書類の確認をしていた。
 寺内についての報告書に目を通していると、慧矢の計画が所々訂正してある。
「類のやつ…遊んでいた訳じゃないのはいいとして…」
 独り言ちる慧矢の、ページをめくる手がピタリと止まった。
 そこには見慣れない紙が挟まっている。
 開いてみると、明らかに自分のものではない筆跡…類からの手紙だった。
 少し落ち着いていた怒りが再燃し、胸にドス黒い感情が込み上げる。
 だが、読まないわけにもいかず腹を決めて読み始めた…。


ー慧矢へ
 慧矢がこれを読んでいるということは、僕は消えているのかもしれないね。
 まず最初に謝らせてほしい…葵のことは本当にすまなかった…僕が全部悪い。だから彼女を責めないでくれ。
 今ならわかるよ…葵が愛しているのは、お前であって僕じゃない。
 なのに、優しい彼女に夢を見ちゃったんだ…バカだよな…
 わかっていたことなのに諦め切れずに慧矢を裏切った…本当にすまなかった。
 前はいつ消えて無くなってもいいと思ってたんだ。お前が幸せになるなら、お前を護れるなら、それでいいと。
 でも彼女といると生きていたくなって、消えるのが怖くなった…。
 もしかしたら僕を愛してくれるかもしれない…なんてことも正直考えたよ。
 でも、どう角度を変えたところで葵が見ているのは慧矢なんだ…。
 だから明日、彼女に本当のことを話すよ。
 僕のせいでお前を苦しめたことを正直に話すつもりだ。
 彼女が許すかどうか、結果は今はわからない…でも、葵は慧矢を見捨てたりしないよ。そうだろ?
 これからは彼女と二人で幸せに、笑って生きてくれよ。無気力無関心にはもう戻ってくれるな。
 慧矢…僕はお前を助けられたか?役に立てたか?こんなことを聞くのは狡いかもしれないな…ごめん。
 もう僕が現れることはないかもしれないけど、お前ならしっかり彼女を護っていけると信じてる。
 これからの慧矢は一人じゃない。もう安心だな。
 だから僕の役目もここで終わり。
 絶対に彼女を手放したらダメだぞ!お前の幸せも、彼女の幸せも、結局は同じ場所に行き着くはずだから…。
 それから、いつも甘いものを欠かさず置いといてくれてありがとう。
 門倉にも会ったら伝えてほしい。
 僕は生きてて楽しかったよ。だからお前も生きて幸せになってくれ。
 元気でな!


…っ…ぅ………
「…なんだよ…勝手すぎだろ……」
 ギュッと握った掌に爪がめり込み、頬に幾筋もの涙が伝う…。
 類なりに葵を本気で愛していたのだとわかったことが辛かった。
 慧矢を裏切ったと自覚しながらも、葵への気持ちが止められず苦しみ、慧矢の幸せも願わなければならなかった類……
 適当にのらりくらりとしていたなら、こんなに苦しくはなかったのに…知らなければ、ずっと類を憎んでいられたのに…
「馬鹿だよな…俺も、お前も…」
 結局、俺たちは二人で一人…同じ女を愛した時から、この恋に破れた方が消えることは決まっていた。長く一緒にいたパートナーであった類の消失が、これからの自分にどう影響してくるのかはわからない。それでも、葵が側にいてくれるなら慧矢は生きていける。類に悪いなどとは思わない。でも、あれほど憎むべき相手ではなかったのかもしれない…。
 寂しくて泣きたくて、でも何もできなかったあの頃の慧矢を支えてくれた類……許そう…それが〝もう一人の俺〟への感謝と誠意…そして、同じ女を愛した者への温情。
 今は揺れていた気持ちも落ち着いている。
 頭の中でザワザワする声もなく、久しぶりに感じる静寂。
 二人の思いと魂は長い時を経てやっと、溶け合う絵の具のように一つになれたのかもしれない。
 大きな蟠りが昇華されていく……
ーありがとう…
 そんな言葉を心の中で呟いていた。

   ◆

「葵、今日だけど本当に大丈夫?」
 慧矢の顔が泣きそうだ。
「うん、大丈夫だよ」
「そうか…くれぐれも気をつけてな…忘れ物はない?ベストは着た?アパートの鍵は?」
「うん、着たし持った。じゃ、行ってきます!」
 今日の葵は一人で出勤、その前にアパートに寄る予定だ。
 白状するなら緊張してる…。
ー大丈夫、前は一人で行ってたんだから。
 いつも通りに過ごすだけのことが、とても難しく感じる。
 慧矢がべったりの生活に慣れてしまったせいか、一人でいることが落ち着かない。
 ともあれ今日は祝日だからそこそこ混むだろう。余計なことを考えずに済むはずだ。

「ただいま~…」
 なぜか小声になってしまう。
 久しぶりにアパートに戻ると、殆どの荷物がない殺風景な部屋に、ぽつんと小さなテーブルだけがある。
「ここに住んでたんだなぁ…」
 この場所が少し寂しく感じた。
 小さくても自分だけのお城だったこの部屋での生活は、それなりに楽しかったはずなのに、慧矢との愛に満ちた今の生活と比べてしまうと、今の方が百倍は楽しい。
「もう…来る事はないかな」
 今日で最後かと思うと掃除くらいしたかったが時間がない。
 カーテンと窓を開け、空気だけでも入れ替えようとすると「ピンポーン」とチャイムが鳴った。ゆっくり歩いて行きドアスコープを覗くと……
 そこには寺内がいた!
 ハッと息を呑み、口元を押さえ、反射的にドアから後退ると、ドアポストの蓋をパタパタと押され、開いた隙間から寺内の目だけが覗いてきた!
「いやーっ!」
 目だけしか見えないのに、ニタニタと笑っているのがわかる。
「葵ちゃーん。開けてくれる~?開けてくれないと、お母さんが危ないよ~」
ーなに?なんでお母さんが危ないの!?
「無視ですか~?なら仕方ない…お母さんには死んでもらおう」
 葵は慌ててドアまで戻ると、ドアを叩いて声を荒らげた。
「やめて!何がしたいのよ!」
「簡単だよ。ドアを開けて」
 葵は震える手で鍵を開けた…カチッ…
 その途端、勢いよくドアを開かれ寺内がニヤリとした。
「支度して。出かけるよ」
「ど、どこへ…」
「黙って付いて来いよ…」
「ーっ!」
「あぁ、ごめんね、つい素が出ちゃった…いいの?そんなこと言って。お母さんの所に僕の友達が会いに行っちゃうよ~」
「いったい何が言いたいんですか!?」
 寺内の顔が一層楽しそうに歪む。
「葵ちゃんのお母さんも綺麗だよねぇ…まだ若いし、妊娠だってできるよねぇ。僕の友達さ、み~んな子供が大好きなんだよね~今電話したらすぐに会いに行ってくれると思うけどどうする?葵ちゃんが大人しく付いて来てくれるなら、あいつらもわざわざお母さんに会いに行かないで済むと思うんだけど。自分で決めてくれる?」
ーっ…卑怯者!
「…」
 葵に選択肢はなかった…母を危険に晒す訳にはいかない…
「行くなら先に携帯、貸してくれる?」
「何でですか!」
「決まってるでしょ。あの男のことだから、どうせGPSで追跡してんだろ。ほら貸して」
ーお見通しってわけね…。
 こんなこともあるかもしれない…と考えたことはあるが、実際に起こってしまうと心底怖い…胸の奥がブルブルと震えているのがわかる。
「……」
 葵は黙って携帯を差し出した。
 寺内は渡された携帯をポケットにしまうと「行くよ」と言って背中を向けて歩き出す…と、その時…
ーピコン
 葵の携帯からメッセージ音が鳴った。
「誰だよ…葵ちゃん、見て」
 震える手でメッセージを開くと、慧矢からだった!
『今どこ?大丈夫?問題ないならいつものスタンプ送って』
ー慧くん!
「何やってるの。ほら返事して…変なこと言ったら、お母さんがどうなるか考えてね」
 葵は無言のまま、慧矢に返事を打つ…
『今アパート、何も問題ないよ』
 メッセージとスタンプを送信した。
「携帯、貸して」
 また取り上げられてしまう。
「行くよ」
 全身が怖気に覆われて息苦しい…無理やり動かす身体から、軋む音まで聞こえてきそうだった。
 しばらく歩くと、コインパーキングに辿り着く。
 寺内はさっさと車に乗り込み、助手席のドアを開けた。
「葵ちゃん乗って。大人しく乗らないと…お母さん殺しちゃうよ。それとも犯してまわす?死ぬのと犯されるの、どっちが辛いかなぁ~」
 寺内の不気味な笑みが今までにないほど恐ろしく血の気が引いた…
「……」
「ほら、黙ってないで早く乗って。君が素直に乗ってくれれば、お母さんはきっと元気で長生きするよ」
「……」
 言い返す事も、反発する事もできない。従う事しかできない情けない自分…震えてる場合ではないのに足が動かない…
「早く乗れ!」
 寺内に怒鳴られビクリとする。
 怯える心をどうにか押さえ付けて、無理やり車に乗り込んだ。

   ◆

 昨日、慧矢は寺内の妹、万里に会いに行っていた。
「あの…兄のお知り合いとは…?」
 万里が怪訝な面持ちで口を開く。
「失礼しました。実は私の婚約者に、どうやらお兄さんが好意を寄せているようなんですが、なかなか諦めていただけず困っている次第です。お門違いは百も承知しておりますが、妹さんも交えた形で話し合いの場を設けたいのですが、明日お時間いただけないでしょうか…?」
 慧矢の紳士的な話口調に万里も少し安心したらしい。
「あの、話し合いということでしたら、私は構いませんが…その…兄がそちらの婚約者さんに付きまとってる…みたいなことなんでしょうか?」
「そうですね。平たく言えばそうなります」
「あの、本当なんでしょうか…?兄は昔から優しい人で、俄には信じ難いと言いますか…」
 万里にとっては優しい兄…だがその仮面の下はれっきとしたストーカーだ。
「こちらをご覧下さい」
 慧矢は寺内が使用済みコンドームを葵のアパートのポストへ入れたことや、葵の後を付け回してる写真を見せた。
「使用済みのコンドームはDNA鑑定済みです。写真については、たまたまだと言われるかもしれませんが、彼女を脅した時の音声ファイルがあります。警察にも届け出ておりますので、証拠としては十分かと。確かに、妹さんからしたら信じ難いかもしれませんが、どうかご協力願えませんか?」
 ここまで調べ上げられた証拠を見せつけられ、万里もこの事実を信じる他なくなってしまった。
「そうでしたか…本当に、兄がご迷惑をおかけしてすみません…」
 申し訳なさそうに深々と頭を下げる万里に少し同情する。
「顔をお上げ下さい。お兄さんの説得にご協力いただけるだけで十分ですから…」
「はい、それはもう。実は私、もうすぐ結婚するんです…それで、あの…申し訳ないんですが、私の彼にはこのことを黙っていてもらえませんか?結婚については兄にまだ報告もできてないですし…勝手言ってすみませんが…」
ー婚約者に不審がられることを懸念しているのか…そうだよな…
「そうでしたか、おめでとうございます。こちらから婚約者様に何かお話しするような事は致しませんのでご安心下さい。ご結婚のことは話し合いの席で報告されてはいかがですか?きっと喜ばれますよ。お兄さんも改心されるかもしれない。それと、今回の話し合いの件はお兄さんには内密にお願い致します」
「それは何故ですか?」
「お兄さんは話し合いを望んでおられないようで…前もって話してしまえば、恐らく避けられてしまうでしょう。そうなれば私の婚約者の身に何が起こるか…。万が一にも何かあった場合、こちらとしましても穏やかな話し合い、という訳にはいかなくなります。お願いです、黙っていて下さいませんか?」
 慧矢は憂いた目で万里に哀願した。
「わかりました…兄がそこまでご迷惑をおかけして、本当にすみません…」
ー舞台は整った…
 慧矢は明日、迎えの者が万里の元へ行くことを告げると、その場を後にした。

   ◆

 長い時間走り続けて車は他県に入り、やっと止まった先は人気のない河川敷だった。
 ここに来るまで互いに一言も話さなかった。別に気まずく思う必要はないのだが、寺内が何を思っているのか知りたかった。
「どうして私に執着するんですか?」
「そんなの、好きだからに決まってるでしょ」
 そう言いながら顔はそっぽを向いている。
「嘘つき…本当に好きならこんなことしない…」
「うるさいな葵ちゃん。僕は君を愛してるんだよ?それなのに浮気までしておいて、今度は僕の気持ちを疑うなんてよくないなぁ…」
 寺内はくるりとこちらに向き直り、葵の太腿に手を乗せて擦ると、脚を開かせようと両膝の間に手を入れた。
 全身にゾワッと鳥肌が立ち、脚に力が入る。
「抵抗しないの。いきなり挿入いれたりしないからさ…僕は優しくしたいんだよ。でも君がそんな態度じゃ無理やり突っ込むしかなくなるよ?」
「いやっ…」
 抵抗するなと言われて怯む自分に苛立つ。
「葵ちゃん、助けは来ないよ。正義の味方なんていないし神様もいない。当然、あの男もヒーローじゃないから現れない。君等がどんなに以心伝心できようが、僕に犯されることは決定ってわけ。だからね、僕の赤ちゃん産んで?一生愛してあげるから…」
「絶対に嫌っ…!」
 片方の手を押さえ付けられ、寺内の手で身体を弄られる感触が不快で吐き気がする!
ー力が出ない!
「はははっ、いいねぇ、興奮するよ!」
「やめてっ!……いやっ…慧くん!」
「無駄ムダ…男はさ、本気で惚れた女は大事にするもんだよ。でもただ好きなだけじゃ性欲は満たされないだろ?だからその辺の尻軽女を、愛した女に見立てて抱くんだ。でも安心して、本当に好きなのは君だけだから。あいつだって例外じゃない。君を愛してるって言ったその口で、違う女の股ぐらを舐めるんだ。僕もそうだったからよくわかるよ。君を思いながら抱く女はさ…どんなあばずれだって最高に感じるんだ…」
 聞けば聞くほど悍ましい言葉の羅列に身の毛がよだつ!
 だが、葵の目に映った寺内は涕泣し頬を濡らしていた。
ー泣いている…!?と、その時
ーバン、バン、ガシャン!
 突然、車のドアガラスが割られ、寺内がそこから引きずり出された!
ー慧くん!
「テメぇ!」
 慧矢が憤怒の形相で寺内の胸ぐらを掴み馬乗になると拳を振り上げた!
「やめろ!慧矢!こんなクズお前が殴る価値はない!」
 駆け寄った中村が既のところで慧矢の腕を掴み、手首を素早く固めると地面に押さえ付けた!
「離せーーっ!」
 慧矢の怒号が響き渡る。
「落ち着け!葵ちゃんが怖がってるぞ!」
ー葵!
「わかった、わかったから離せ!」
「本当だな?」
「本当だよ、離してくれ!」
 中村がゆっくり手を緩めると、慧矢は直様立ち上がり、車の助手席を開けて葵を抱きかかえた。
「葵!」
「慧くん!」
「遅くなってごめん!何ともないか?大丈夫か?」
 慧矢の眉間の皺が、心痛のあまりか今朝よりも深いように見える。
「なんともないよ、来てくれてありがとう」
「葵…!」
 再び抱きしめられると、耳元で慧矢が「本当に良かった…」と、小さなため息を漏らして呟いた。その囁きは葵の耳に心地よく、さっきまでの怯懦きょうだな自分はもういない。
ーこの人が側にいてくれるなら、私は強くなれる…なりたい。
「ごめんなさい…心配かけて…」
「無事で良かった…君にもしもの事があったら…俺は生きていけない」
「私も……」
ーあなたがいない人生なんて、私にはもう想像もできない。
 抱き合って無事を確認する二人の所へ一台の車が横付けする。
 門倉が寺内万里を連れてきたのだ。
「慧矢様、お連れしました」
「お兄ちゃん…?」
 妹の呼ぶ声に寺内が逸早く反応した。
「なんで万里がいるんだ!やめろ、帰れ!」
「妹さんにはお前の話しを聞いてもらった」
 葵を抱きながら慧矢が発した言葉に、寺内は固まる。
「っ…!」
 苦悶に満ちた顔を隠す寺内に追い打ちをかける。
「万里さん、お兄さんにあのことを言わないと。きっと喜んで改心してくれますよ」
 そうだった、と万里が口を開く…
「お兄ちゃん、私、報告があって…お付き合いしてる彼と結婚するの。二ヶ月前にプロポーズされてOKしたけど、なかなか言えなくて…喜んでくれるよね?」
「結…婚…?」
「お兄ちゃん…あの、本当なの?小田切さんの婚約者さんにストーカーしてたって…」
 万里は兄の口から真実を聞こうと顔色を窺うように言葉を続ける。
「…っ」
「こんなことしないで、一緒に帰ろう?私ね、妊娠してるの。お兄ちゃん、叔父さんになるんだよ、だからもう止めて…ね?」
 顔を逸していた寺内が、目を見開いて愕然とし、ゆっくりとこちらに向き直った。
「妊娠…だと…?」
「お前も正直に話したらどうなんだ?僕は妹を愛してます…ってな」
「ーーーっ!」
 一瞬にして寺内が凍りついたのがわかり慧矢は確信した。
「ずっと妹さんが好きだったんだろ?いつからだ?」
「…くっ………」
「何とか言ったらどうだ」
 慧矢の冷えた言葉が響く…
「え?何を言ってるの?お兄ちゃんが私を好き…って、当たり前じゃない!兄妹だもの!」
 万里の困惑は最もだろう…突然そんな事実を知らされたところで、好きなのは兄妹だから…と思って当たり前だ。だが、そうじゃない。寺内は実の妹を一人の女として愛している…だからその妹に似ていた葵に目を付けたんだ。
「万里さん…お兄さんはあなたを女性として愛してるんですよ」
 思いもよらない事実に、万里は益々混乱する。
「あたしたち、兄妹だよ?そんな…そんなこと……」
「そんなことわかってる!だから僕は葵をー」
「葵を万里さんの身代わりにしようとした…」
声を張り上げた寺内の言葉を、慧矢が遮った。
「身代わり…?お兄ちゃん、本当なの?それでその人を誘拐したの?」
「違う!僕は葵と結婚するつもりで…」
「葵は俺の婚約者だ!お前の妹の代わりじゃない!愛する女の代わりなんて居ないことくらい、お前ももうわかってるはずだ…」
「うるさい!」
「じゃあ言ってみろ!葵のどこが好きなのか、葵を愛してるって、万里さんの前で言ってみろ!」
「…っ!」
 さらに慧矢が畳み掛ける。
「妹を好きだって事の何が悪い!世の中に軽蔑されるのが怖かったのか?妹と結ばれない事が辛かったか?だけどな、問題はそこじゃい。これはお前の不誠実さが招いた事だ!本気で妹が好きなら、他の女を妊娠させたり、不特定多数と付き合ったりするべきじゃなかったんだ!」
 兄の新たな醜態の事実に、万里が口元を抑えて絶句する。
「じゃあどうすれば良かったんだ!万里を…抱きたくても抱けないんだ……!」
 寺内の慟哭は万里だけでなく、葵をも一驚させた。
「それがなんだ!それがどうした!惚れた女がいるのに他の女で妥協できる、お前のその短絡さが傷つかなくていい人たちを傷つけたんだ!お前自身もな…そんなに妹を愛してるなら覚悟をもつべきだったったんだ!例えそれが報われなくても、永遠に結ばれないとわかっていても、その人だけを愛して生きて行く覚悟が…」
 慧矢の言葉の意味が葵にはよくわかる…
「綺麗事言うな!お前だって男ならわかるだろうが!」
「わからん!葵にしか勃たない俺に、それを聞くな!」
「なっ…」
「!」
 その場にいた全員が絶句した。
「俺が葵以外の女を抱くことは一生ない。もし葵が他の男を愛してしまったら、俺は俗世間を離脱して修行僧になって生きて行くつもりだった。お前に足りなかったのは、そんな覚悟だ!」
 慧矢に喝破され、付き物が取れたように寺内の目から涙が溢れる。
ーそう…愛のない交わりなど猿と同じだ…葵以外の女とじゃ、性欲さえ俺にとっては意味が無い。
「煩い…煩い……!僕は悪くない…悪くない…はっ…アハハ…アハハハハ…ハハハ………」
 ふるふると震えて寺内は耳を塞ぎ、泣きながら高笑いすると、そのまま地面に突っ伏した。
 それは宛ら糸の切れた操り人形のようで虚しく、悲しい光景だった。
 寺内は駆け付けた警察官に連れて行かれた。

   ◆

 慧矢は当初、寺内が本気で葵を諦めないなら、消してしまうしかないのかもしれない…と本気で思っていた。だが、計画を類にあちこち修正されており〝社会的に〟抹殺する方を選んだ。
 よくよく考えれば、もし自分が犯罪者になれば、葵とは二度と会えない羽目になっていたし、それに殺してしまうより生かしておいた方が、葵も寝覚めがいいはずだ。
 例え命を奪われたとしても、優しい彼女は奪うことを望んだりはしないだろう…そういう人だ。だからと言って、このままただ注意だけして終わりにし、彼女を危険に晒したままにしておくわけにもいかない。またいつ何時、寺内は葵を付け回すかわからないからだ。
 だから、どうしても寺内が何故、葵に固執するのかを知らなければならなかった。
 そして妹の万里の写真を見た時、ピンときた。葵にどことなく似ていたことがどうしても引っ掛かり調べる必要があると思った。
 寺内の複数付き合っていた女達の何人かが『あたしとHしてる時に、違う女の名前呼ぶとか、ほんと!失礼な奴だったわよ!』との証言が取れ、うち一人は間違えて呼ばれた名前を覚えていた…〝万里〟……予想が当たり、これを利用しようと計画した。
 これは類の助言だったが、まずは葵に囮になってもらうこと。もちろんGPSやボイスレコーダーは完璧に隠して持たせ、葵には防刃ベストも着せた。そして居場所を把握した上で証拠も押さえる。
 類が修正したメモには『葵にはそれなりの備えができてるから、あまり心配しないように…』とあったが、そこだけがよくわからなかった。
 そして計画実行の日…葵には一人でアパートに戻ってもらった。寺内がいることは調査済み、常に葵のアパートを見張っているであろうことはわかっていた。そして思ったよりも早く寺内は葵を引きずり出すことに成功し、俺は連絡を入れた。
 寺内が現れた時に送る手筈になっていたスタンプがこちらに来た時は、もし何かしたら殺してやる…と少々興奮気味で冷静になるのが大変だった。
 まずは予定どおり葵は拉致られる…携帯は駐車場に置き去りだったが、会話は録音されている。そこへ妹を召喚することで寺内の精神にひびを入れ、結婚の事実を突き付けることでとどめを刺した。だが、本当にとどめを刺したのは万里の妊娠だったのかもしれない…予想通り寺内は壊れ、一瀉千里に事は片付いた。
 これでいいんだ…これで。…実らぬ恋は苦しい、耐え難い。だけど…妹を愛したが故に己の心を偽り、身代わりを求めたのは間違いだ。これはその代償…。そしてお前の最大の過ちは、俺の最愛の女性にそれを求めた事…許すわけにはいかない。
 かなり危ない賭けだったが、類の計画通り葵は無事だったし、あの様子なら寺内も病院送りにできるだろう。

   ◆

「はい、こちらでお預かりします。ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
 二人揃っていい返事になった。
 本日、ニ月十七日大安吉日、二人は入籍した。
 とにかく早く籍を入れたかった。カレンダーを見ながらいい日取りを探していると、慧矢と葵の誕生日の日にちが同じ十七日が大安の一粒万倍日!この日にしよう!と、すぐに決まった。
 知っているのは門倉と中村、葵のお母さんだけで、結婚式はまた改めてすることにした。本当なら式も大々的にやりたかったが、まだ片付けていないこともあるので、楽しみは後でとっておく事にした。その分、記念日が増えるのは喜ばしい。
「葵…改めて。これからもずっと、よろしくお願いします!」
ー真剣な顔をしているつもりだが、ダメだ…ニヤける…!
「こちらこそ、末長く…よろしくお願い致します!」
 嫣然たる君の笑顔に心を奪われ、目を瞠る。
「そうだ、来て!」
 慧矢が突然、葵の手を引いて早足で歩きだすと隅にある柱の影に隠れ、いきなり…
ーちゅっ…
「慧くん!こんな所で!」
「これで、この場所も二人の思い出になったでしょ?」
「もう…!」
 恥ずかしいが確かにそうだ。ここに来る度、結婚してキスをしたのだと思い出してしまうに違いない。慧矢と出向く全ての場所が、これからは二人の思い出になる。
ー忘れないわ…一生。あなたと作る思い出は私の宝物…こうして考えると、慧くんが写真をよく撮りたがる理由が、なんだか少しわかった気がする。
「慧くん、写真…撮る?」
「いいね!撮ろう!」
 役所で記念写真を撮るなんて…恥ずかしい!それでも二人にとっては大切な思い出なのだ。
 これからの生涯、この人だけを愛して生きる…と決めた約束の日。
 もう一つ、二人で決めたことがある。
「俺たちは、以心伝心できる数少ない相手かもしれないけど、そこだけに頼りたくない。だから愛情や感謝や不安はいつでも言葉にして伝えていくことにしよう。どうかな?」
 この提案に葵も心よく了承した。
 慧矢も葵もその大切さをよくわかっていたからだ。かけがえの無い人を亡くし、伝えたい言葉がたくさんあったのに、伝える前に別れがきてしまった。その言葉たちは大人になるにつれどんどん増えていくのに、伝えたい人はこの世にはもういない…どんなに悔やんでも悔恨の念は拭い去れない。もう絶対に、そんな過ちをしてはならない。それが運命の相手であるなら尚更だ。
『絶対に彼女を手放したらダメだぞ!』…類からの手紙の言葉が身に染みる。
ー手放したりしない…死んでも離さない……
「愛してる…幸せになろうね」
「うん、愛してる…」
ーカシャカシャカシャッ…
 カメラの連写音が、今日は心地よかった。

 婚姻届も無事に受理され、晴れて夫婦となり、報告も兼ねて食事会を開くことになった。
 招待客は三人。葵のお母さんと門倉、それと中村だ。
「本当に家でいいの?」
「いいよ。何か問題でも?」
「あるわよ…」
 どうやら葵は、友人である中村はおろか、実の父親でさえ入ったことがないこのマンションに、自分の母親が来てもいいのか?と気を遣ってくれたらしい。
「大丈夫だよ葵。大事な人間しか入れたくなくて、今までは門倉しか入ったことはなかったけど、これを機に中村も呼んだし、何より愛する人のお母さんなんだから。これからは俺の母さんにはできなかった親孝行をさせてほしいんだよ」
 ここまで言われると恐縮するよりも、その素直で優しい心に感心してしまう。本当に愛されているのだと実感が湧いて、胸が温かくなる。
「さ、行こう。もう門倉が準備してるはずだ」
「そうなの?門倉さんが支度してくれてるの?」
「門倉には家の鍵を渡してあるんだ。あ…ごめん、気になる?」
ー気にならなくはないけど…でも、私と出会う前からそうだったわけで、そこに私が口出しもできない。それに慧くんにとっては門倉さんこそお父さんって感じみたいだし、私もそうしたいから気にしないわ。
「ううん、大丈夫。それより、早く帰らなきゃ!門倉さんだけにお任せしてたら、妻として失格だよ」
…妻…言ってて恥ずかしくなった…
「ふふっ…いいね。妻…」
 慧矢がからかい混じりに言う。
「やめて、恥ずかしいから!思わず言っちゃったの!」
 こんなたわいもない会話に無限の愛と幸せを感じる。傍から見ればただのバカップルと言われるかもしれないが、夢見る新婚生活も悪くない。夢と性癖は自由なのだ!
 でも慧矢にはまだ夢がある…葵との情事を写真に納めること。動画でも可!でも流石に動画はハードルが高いだろうから、まずは写真から…。
ー葵専用のカメラ買おうかな……

 家に帰るとすでに殆どの支度が整っていて、あとはお客様をお迎えるだけとなっていた。
「門倉さん、何から何まですみません…」
「とんでもございません。お二人のお祝いの席ですから、お役に立てて光栄でございます」
ー流石は執事と言うべきか、何でもできるナイスミドル!こんな人が未だ独身だなんて、女性がほっとかなそうだけどな…理由を聞いてみたい気もするけど、単純に考えて理想が高いか、好きな人がいるのかな。
「葵様…」
「いや、様はやめて下さい!」
「では、葵さん。改めまして、ご結婚おめでとうございます。慧矢様は幼い頃より聡明で才気溢れる方でした。どのような女性にも靡くことはなく、些か心配しておりましたが、それはきっと葵さんという運命の女性がいらっしゃったからなのでしょう。少々難解な方ではございますが、末永くよろしくお願い致します」
 門倉が恭しく一礼する。
「いえ、こちらこそ!慧矢さんは必ず幸せにします!」
「あははっ、何とも頼もしい限りでございますね」
 笑い声が嬉々として飛び交うキッチンを、慧矢が眩しそうに見つめる。
ーピンポーン
「俺が出るよ」
「ありがとう」
 ふとリビングを振り返り、母親の宅墓を見つめる。
ー母さん…俺、幸せだよ…ありがとう…
 大切な人が増える幸せを、慧矢はこれからたくさん噛み締めることになる。
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