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第一章

18話

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各ルートとキャラクター、諸々の設定を出力して、改めて思ったことがひとつ。





「兄様の攻略されたくねーー……」





そう。我が兄、レオン=アッシュ=クラネリアのルートのことである。ゲームシナリオ的に、フィリアは王子と兄ルートに深く関わることは知っていたが、改めて見てみると酷いストーリーだ。なぜなら、王子の場合とは違い、レオンのルートの最大のキモはフィリアだからである。



あの優しいレオンが、自分のせいで心を病み、バッドの場合貴族に喰い潰される、などと聞いて仕舞えば胃が痛くなってくる。



かと言って、ハッピーエンドだと私は彼と縁を切らなくてはならないのだ。それで彼が幸せになれるのなら、それでいい。そう思わなくもないが___何故か、私の全細胞がそうなることを全力で拒否していた。この思いは、フィリアの影響なのかゲーム補正か、はたまた私の心の問題か。



わからないが______出来ることなら、ヒロインが他の攻略対象を好きになってくれることを祈るばかりである。





「……まぁ、こればっかりはヒロインに聞いてみないとわからないけど」





とりあえず、出来る限り兄様を困らせることは言わないようにしよう。……既に手遅れな気もするけど。



兄様のことは一旦置いておくとして、それ以外もそれ以外で厄介な人間が多い。既に出会った攻略対象も、まだ見ぬ攻略対象も、一癖も二癖もあるような人ばかりだ。プレイする側なら楽しいだろうが、実際に悪役という立ち位置になってみればたまらない。



それに、王子との婚約の問題もある。こちらとしては、ゲーム開始前にさっさと婚約解消されれば楽だとは思っていたが、思い出してみた情報と照らし合わせてみると、彼は学園入学の際にはもう心をなくしたような状態になっている。そんなことになれば、もうヒロインが彼を癒すまで婚約解消は絶対になされないだろう。やはり、今が正念場……あれ?





「……そういえば、殿下って、いつからこんな状態になるのかしら?」





まだ2回しか会っていないが、この間のお茶会でのラルフとの会話を見ても、心を失っているようには見えなかった。が、皆が見ていないところで既にそうなりつつある可能性もある。昔からの性格は、それこそ別人格になるとかがないと、中々治らないものだろう。フィリアが昔からわがままだったように。



だとすれば、





「もしかして、私の地味で面倒な女アピールは、全く効いていなかったってこと……!?」





そういうことになるし、それならあの地味好きのように見える態度にも納得だ。既に心を失いつつあるのであれば、私が何をしたって"どうでもいい"で終わってしまう可能性が高い。





「まって、じゃあ私の作戦は!?立て直しってこと!?」





かと言って、これ以上何も思いつかない。出来る限り王子に早く心を取り戻してもらうくらいしか……くらいしか……





「そうだわ……」





そうだ、その手があった。即ち、出来る限り早く王子に心を取り戻してもらい、その後に改めて嫌な女をアピールすれば良いのだ!





「……っても、いくら婚約者とはいえ、そうそう殿下と話す機会なんてないのよね……こっちから突撃していくのも悪くないけど、それで投獄されるのはごめんだわ」





うーむ、と悩むしかない。なんというか、前途多難だ。全ては学園生活が始まってからなのか。今できることは何なのか。

記憶から情報は(わかる範囲で)引き出せるが、"知っている"のと"行動する"では天と地ほどの差がある。





「……とりあえず、今は寝ましょうか」





綺麗に整えられたベッドに潜り込む。セシルが入れてくれたサシェからの香りだろう。ラベンダーの匂いがうっすらと広がる。



今日はいい夢が見られそうだ、と思うと同時に、今朝の悪夢は何だったんだろうとも思う。内容はあまり覚えていないが、何か、忘れていることでもあるのだろうか。



そんなことを考えながら、私は静かに目を閉じた。











◇ ◇ ◇













そこは、ごくごく一般的な場所だった。



生活感に溢れすぎた、ワンルームのアパート。1階にあるのと前に建っているもう一棟のアパートのせいで日があまり入らないから、いつも電気で暮らしていた。



その部屋にある、プリントやら何やらがごちゃごちゃと乗っている炬燵テーブルに入りながら、1人の人間が何かをしていた。





「あーーー!そっかそっか、ここでその選択か!」





周りに誰もいないのに、まるで実況でもするかのように事あるごとに状況を口にする女が1人。





「なーるほどね……って、今何時?……ぴぎゃぁぁぁあ!!ヤバイ!!遅刻する!!」





スマートフォンの時刻を見て、慌てて炬燵から飛び出し、部屋からも飛び出す。





「あぁぁ化粧してない!ええい、マスクで隠すか……あー!教科書教科書!!」





バタバタと、嵐のように準備をし、誰もいなくなった部屋に、「行ってきます!」の声が響いて、やがて消えた。





彼女が先ほどまで入っていた炬燵の上に置きっぱなしになっているのは一台のゲーム機。



電源を切らずに放置してあるその画面には、とあるゲームのタイトルが映っていた。







そのゲームの名前は"ラビリンス・オブ・ファンタジア"。









この朝以降、彼女が2度とプレイすることのなくなった、乙女ゲームのタイトルである。
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