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第一章
8話
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「ふっふっふ……」
私は、部屋に備えられたド派手なピンクを基調にしたドレッサーについた鏡を見て、怪しく笑っている。
「完璧よ……完璧なプランだわ……」
お茶会の話が出たあの日、色々考えた末に私はある結論にたどり着いた。
「殿下自らに"こんな女とは結婚したくない"と思っていただければいいのよ……!」
そう。学園生活が始まるまで待たずともよかったのだ。王太子殿下自らに、学園生活の前に縁を切って貰えば、バッドエンドを回避することができるのだ!!
バッドエンドを回避すれば物語はハッピーエンドにたどり着き、フィリアである私は確実に弾劾され、平民になることができる!!
「こんな簡単なことに気がつかなかったなんて……私もまだまだね……」
鏡に写っているのはシンプルな萌黄色のドレスを見に纏った私の姿。長いくすんだ金髪はハーフアップに結われ、ガラス細工のような透明な髪飾りがつけられている。化粧も施していないし、うん、実にシンプル、地味な格好だ。
最近の流行色はピンクや赤などの暖色系の色。時代に逆らうようなこの萌黄のドレスは、さぞかし珍妙に見えることだろう。ましてや私と似たような歳の子供たちが集まるお茶会だ。自動的に目立たない色になることだろう。
「お嬢様、ものすごくお似合いです……!」と言うセシルたちのお世辞にも笑顔で返すほどの落ち着きと余裕も出てきた。
「ありがとう。それでは、出かけましょうか……王家主催の、お茶会へ!」
高らかに宣言した。
◇ ◇ ◇
レカファウロス王国の王城は、例えるならドイツのノイシュヴァンシュタイン城のようなイメージの白亜の白だ。森と湖に囲まれたその城は、乙女であれば誰しも一度は夢見るようなメルヘンチックなものである。
しかし、メルヘンだなんだと浮かれている場合ではない。私には、王子に嫌われるという重大な使命があるのだ。
馬車は城門前にたどり着き、ここでセシルとはお別れだ。行ってらっしゃいませ、と頭を下げたセシルと別れるのは心細かったが、ええい、ままよ!と城に足を踏み入れた。
そして、そのあまりの豪華さに圧倒される。
「な、何ここ……」
公爵家である我がクラネリア邸も十二分に豪華だが、ここはその比ではなかった。完全に、別世界だ。
「お、お父様やお母様は、こんなところで働いていらっしゃるのね……」
圧倒されながらも受付の人に招待状を渡す。流れるように受け取って、歓迎の挨拶と共に飲み物を渡された。お茶会とはいうものの、子供でも楽しめることを意図してから立食形式になっているらしい。
ありがとうございます、とお礼を言うと、妙な顔をされた。一瞬のことだったが、おそらく私の格好に違和感を覚えたのだろう。よしよし、いいスタートだぞ。
また怪しい笑いを浮かべながら、いよいよ会場へ入る。王家主催とはいえ、まだ成人していない子供の集まりだ。中央ホールとでも言うような、1番大きな会場ではなかったが、小さかろうとなんだろうと大きい。スケールがまるで違う。
「よーし、行きますかっと!」
小さな声で気合いを入れ、会場へと一歩足を踏み入れた……瞬間、色の大洪水に飲み込まれた。
ひぇえー!?ま、まるで花が咲いたかのように賑やかな会場だ……!もう、一面のピンク!オレンジ!赤!
「すごい……きれい……」
小さな声で呟きつつ、自然にその輪の中に……入ろうとして、はたと気づく。
…………あれ?私、友達いなくない??
周りを見ると、みんな友人同士話に花を咲かせているようだ。けれど、よくよく考えると、私はこれまで他の同い年の人たちとあまり交流してこなかったのだ。
その理由は一重に私の悪評が国中に轟いているから、下手に表に出すとクラネリアの面汚しになると心配した家臣たちがお父様たちに「あいつを社交界に出すな!」と進言していたから。今回は私の態度が改まりつつあること、そして殿下直々のご招待で無碍にできなかったということでの参加だ。
略式とはいえ、お茶会はお茶会。お茶会にもマナーがあるのですと家庭教師の(地獄の)詰め込みマナー講座を受けてきたから作法は大丈夫だと信じたいのだけど……
『いいですか、お嬢様。お茶会では交友関係を広げることも大切なことです。むしろそれがメインです。お嬢様も、いいですか?今回学ばれたことを活かして、十分に配慮して言葉を発してくださいませね』
そう言いながら三角眼鏡をキラリと光らせた先生の顔と言葉を思い出す。先生、友達ゼロのときはどうしたらいいんですか!!!!
や、やばい。このままだと交友関係どころかぼっちでお茶会をすることになる!けどいきなり友達同士のおしゃべりの中に突っ込んでいくなんて大学生まで数えるほどしか友達がいなかったぼっちオタ女子にはキツすぎる試練!!!
なんてこった!!絶望だ!!
……と、そう思って頭を(心の中で)抱えたところで、ふと目に入ったのは、綺麗にテーブルに盛り付けられたお菓子やちょっとしたオードブルの数々だった。オシャレ雑誌や写真集でしか見たことがないようなカラフルで可愛らしくも美しいそれらに、
「うわ、美味しそう!」
と、思わず口に出してしまってから慌てて抑える。いけない、私はクラネリア家の令嬢なのだ。いくら殿下に嫌われたいからと言って、家名を汚すような真似をするのはよくない。あの優しい家族に迷惑だけはかけられない。そこはしっかりと線引きをしなくては。……どうせ後になって弾劾されて迷惑をかけるのだから、せめてそれまでは穏やかに暮らしたい。あぁ私ったらなんてわがまま娘!これぞまさに悪役令嬢だろう。
……とにかく、こんなに美味しそうなお菓子があるのに食べないのは人生の3割を棒に振るに等しい。だから、出来るだけ優雅に目の前にある美味しそうなチョコチップクッキーをつまもうとして、
「お!美味そう!もーらいっ!」
そんな声と共に横から出てきた手に狙っていた、それもラスト一枚の!クッキーを!!掻っ攫われた!!!
クッキー!!という声にならない声を上げ、横どりという非常極まりない行為を行った人間の方をきっと見る。
「ちょっと、あなた……」
「あん?…………あー!?お前、あの時の……!」
不躾にも指を刺して叫ばれる。……けど、あの時?あの時って……
わなわなと震えながら指を突きつけてくるその人に首を傾げる。言われてみればなんだか見覚えが、あるような、ないような……?
少し考えて、そして突如頭に電流が走った。
「……あ!!あなた、シークレットブーツ「それ以上言うなぁ!!」
そう。それは、あの時ノア君をいじめていた男士集団のリーダーらしき男の子だったのだ!!
「いいかお前!この前見たことは誰にも言うなよ、言ったら……」
「クッキーとノアくんの仇……おや、あそこに麗しいご令嬢が」
「やーめーろー!!」
男の子の顔が真っ赤になっている。威嚇するようなその顔はしかし、正直全く怖くない。
その顔を見て、私はふと気がつく。んん?この反応、確かどこかで……
「……あなた、お名前をお伺いしてもよろしくて?」
「あん?人に聞く時はまず自分から名乗れよ」
「失礼いたしました。フィリア=リル=クラネリアです」
それは確かにと納得し、たっぷり仕込まれた令嬢としての挨拶をする。顔を上げると、彼は目を見開いて戸惑っているようだった。
「……クラネリア?じゃあ、お前があの……」
「……?私が、何ですか?」
首を傾げると、彼ははっと我に返ったようで、なんでもない!と言った。
「……俺は、ラルフ=トイフル=ローゼングレンだ」
私は、部屋に備えられたド派手なピンクを基調にしたドレッサーについた鏡を見て、怪しく笑っている。
「完璧よ……完璧なプランだわ……」
お茶会の話が出たあの日、色々考えた末に私はある結論にたどり着いた。
「殿下自らに"こんな女とは結婚したくない"と思っていただければいいのよ……!」
そう。学園生活が始まるまで待たずともよかったのだ。王太子殿下自らに、学園生活の前に縁を切って貰えば、バッドエンドを回避することができるのだ!!
バッドエンドを回避すれば物語はハッピーエンドにたどり着き、フィリアである私は確実に弾劾され、平民になることができる!!
「こんな簡単なことに気がつかなかったなんて……私もまだまだね……」
鏡に写っているのはシンプルな萌黄色のドレスを見に纏った私の姿。長いくすんだ金髪はハーフアップに結われ、ガラス細工のような透明な髪飾りがつけられている。化粧も施していないし、うん、実にシンプル、地味な格好だ。
最近の流行色はピンクや赤などの暖色系の色。時代に逆らうようなこの萌黄のドレスは、さぞかし珍妙に見えることだろう。ましてや私と似たような歳の子供たちが集まるお茶会だ。自動的に目立たない色になることだろう。
「お嬢様、ものすごくお似合いです……!」と言うセシルたちのお世辞にも笑顔で返すほどの落ち着きと余裕も出てきた。
「ありがとう。それでは、出かけましょうか……王家主催の、お茶会へ!」
高らかに宣言した。
◇ ◇ ◇
レカファウロス王国の王城は、例えるならドイツのノイシュヴァンシュタイン城のようなイメージの白亜の白だ。森と湖に囲まれたその城は、乙女であれば誰しも一度は夢見るようなメルヘンチックなものである。
しかし、メルヘンだなんだと浮かれている場合ではない。私には、王子に嫌われるという重大な使命があるのだ。
馬車は城門前にたどり着き、ここでセシルとはお別れだ。行ってらっしゃいませ、と頭を下げたセシルと別れるのは心細かったが、ええい、ままよ!と城に足を踏み入れた。
そして、そのあまりの豪華さに圧倒される。
「な、何ここ……」
公爵家である我がクラネリア邸も十二分に豪華だが、ここはその比ではなかった。完全に、別世界だ。
「お、お父様やお母様は、こんなところで働いていらっしゃるのね……」
圧倒されながらも受付の人に招待状を渡す。流れるように受け取って、歓迎の挨拶と共に飲み物を渡された。お茶会とはいうものの、子供でも楽しめることを意図してから立食形式になっているらしい。
ありがとうございます、とお礼を言うと、妙な顔をされた。一瞬のことだったが、おそらく私の格好に違和感を覚えたのだろう。よしよし、いいスタートだぞ。
また怪しい笑いを浮かべながら、いよいよ会場へ入る。王家主催とはいえ、まだ成人していない子供の集まりだ。中央ホールとでも言うような、1番大きな会場ではなかったが、小さかろうとなんだろうと大きい。スケールがまるで違う。
「よーし、行きますかっと!」
小さな声で気合いを入れ、会場へと一歩足を踏み入れた……瞬間、色の大洪水に飲み込まれた。
ひぇえー!?ま、まるで花が咲いたかのように賑やかな会場だ……!もう、一面のピンク!オレンジ!赤!
「すごい……きれい……」
小さな声で呟きつつ、自然にその輪の中に……入ろうとして、はたと気づく。
…………あれ?私、友達いなくない??
周りを見ると、みんな友人同士話に花を咲かせているようだ。けれど、よくよく考えると、私はこれまで他の同い年の人たちとあまり交流してこなかったのだ。
その理由は一重に私の悪評が国中に轟いているから、下手に表に出すとクラネリアの面汚しになると心配した家臣たちがお父様たちに「あいつを社交界に出すな!」と進言していたから。今回は私の態度が改まりつつあること、そして殿下直々のご招待で無碍にできなかったということでの参加だ。
略式とはいえ、お茶会はお茶会。お茶会にもマナーがあるのですと家庭教師の(地獄の)詰め込みマナー講座を受けてきたから作法は大丈夫だと信じたいのだけど……
『いいですか、お嬢様。お茶会では交友関係を広げることも大切なことです。むしろそれがメインです。お嬢様も、いいですか?今回学ばれたことを活かして、十分に配慮して言葉を発してくださいませね』
そう言いながら三角眼鏡をキラリと光らせた先生の顔と言葉を思い出す。先生、友達ゼロのときはどうしたらいいんですか!!!!
や、やばい。このままだと交友関係どころかぼっちでお茶会をすることになる!けどいきなり友達同士のおしゃべりの中に突っ込んでいくなんて大学生まで数えるほどしか友達がいなかったぼっちオタ女子にはキツすぎる試練!!!
なんてこった!!絶望だ!!
……と、そう思って頭を(心の中で)抱えたところで、ふと目に入ったのは、綺麗にテーブルに盛り付けられたお菓子やちょっとしたオードブルの数々だった。オシャレ雑誌や写真集でしか見たことがないようなカラフルで可愛らしくも美しいそれらに、
「うわ、美味しそう!」
と、思わず口に出してしまってから慌てて抑える。いけない、私はクラネリア家の令嬢なのだ。いくら殿下に嫌われたいからと言って、家名を汚すような真似をするのはよくない。あの優しい家族に迷惑だけはかけられない。そこはしっかりと線引きをしなくては。……どうせ後になって弾劾されて迷惑をかけるのだから、せめてそれまでは穏やかに暮らしたい。あぁ私ったらなんてわがまま娘!これぞまさに悪役令嬢だろう。
……とにかく、こんなに美味しそうなお菓子があるのに食べないのは人生の3割を棒に振るに等しい。だから、出来るだけ優雅に目の前にある美味しそうなチョコチップクッキーをつまもうとして、
「お!美味そう!もーらいっ!」
そんな声と共に横から出てきた手に狙っていた、それもラスト一枚の!クッキーを!!掻っ攫われた!!!
クッキー!!という声にならない声を上げ、横どりという非常極まりない行為を行った人間の方をきっと見る。
「ちょっと、あなた……」
「あん?…………あー!?お前、あの時の……!」
不躾にも指を刺して叫ばれる。……けど、あの時?あの時って……
わなわなと震えながら指を突きつけてくるその人に首を傾げる。言われてみればなんだか見覚えが、あるような、ないような……?
少し考えて、そして突如頭に電流が走った。
「……あ!!あなた、シークレットブーツ「それ以上言うなぁ!!」
そう。それは、あの時ノア君をいじめていた男士集団のリーダーらしき男の子だったのだ!!
「いいかお前!この前見たことは誰にも言うなよ、言ったら……」
「クッキーとノアくんの仇……おや、あそこに麗しいご令嬢が」
「やーめーろー!!」
男の子の顔が真っ赤になっている。威嚇するようなその顔はしかし、正直全く怖くない。
その顔を見て、私はふと気がつく。んん?この反応、確かどこかで……
「……あなた、お名前をお伺いしてもよろしくて?」
「あん?人に聞く時はまず自分から名乗れよ」
「失礼いたしました。フィリア=リル=クラネリアです」
それは確かにと納得し、たっぷり仕込まれた令嬢としての挨拶をする。顔を上げると、彼は目を見開いて戸惑っているようだった。
「……クラネリア?じゃあ、お前があの……」
「……?私が、何ですか?」
首を傾げると、彼ははっと我に返ったようで、なんでもない!と言った。
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