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日常編
侍女は見た3
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ユーゴ邸 sideアレクシア
ちうちう
目が覚めたが、クリス坊ちゃん達が産まれてから、長い間おひい様と一緒に寝ていなかったからか、随分と強く首筋を吸われている。
「んむ?おおアレクシア。これはあれじゃぞ。わし長い事1人で寝て居ったからの、つい吸い付いてしまったのじゃ」
「はいおひい様」
起きたおひい様がそう言っているが、私は知っている。深夜に私がリビングで坊ちゃま達の世話をしている間、一人で寝るのが寂しくなったおひい様が、ルー様とリン様の部屋にお邪魔して3人で寝ていた事を…。
しかも普段通りに、寝ぼけたままどちらかの首筋に吸い付いていたから、特に久しぶりという分けでは無いはずなのだ。以前お二人がそう言っていたから間違いない。
「うむ。だからついじゃ。つい」
「はい」
だがこの事は黙っておこう。言ってしまったら、おひい様のお顔がトマトの様になるだろう。
おひい様に恥をかかせるわけにはいかない。
◆
「おはようございますジネット様」
「ぬう!?ア、アレクシアおはよう」
朝のお風呂から上がり、廊下に出るとジネット様と出会ったが、顔を寄せて焦ったように近づいて来た。
腕にコレット様が居ない所を見ると、ユーゴ様に預けて浴室へ向かっているのだろう。
「昨日の事、絶対言うんじゃないぞ!」
「はい。侍女として当然です」
まさにクールビューティーな彼女だが、私は見てしまった。昨日お茶を準備してリビングに行くと、彼女がコレットお嬢様と2人でいたが、お嬢様に赤ちゃん言葉で今日も可愛いでちゅねー、といっている場面を見てしまったのだ。
私が初めて来た時から、何故気配が無いのかとよくジネット様に聞かれるが、シルキーを舐めて貰っては困る。宿った屋敷の中のシルキーを、気配で発見するなど不可能だ。ある意味で、この屋敷自体が私なのだから。
「私の威厳が無くなってしまう!頼んだぞ!」
「はい」
しかし、稀に無意識なのだろうが、ユーゴ様に甘えた言葉で寄りかかる様な事をしていたのだから、威厳があるかと問われると、無いかもしれない。
だがこの事は黙っておこう。言えば彼女が浴室で溺れてしまうだろう。それはいけない。
◆
「おはようございます。アレクシアさん」
「おはようございます」
リビングには、リリアーナ様がクリス御坊っちゃんを抱いてソファに座っていたが、実は彼女にも黙っていなければならない場面を見たことがある。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます」
あれは彼女が、出産後久しぶりに教会へのお勤めに行く時だった。
教会に行くときにはいつも着けていた、白く輝くマントを身に纏ったリリアーナ様は、送り迎えのために隣にいたユーゴ様に突然抱きついて、だんなしゃまぁだいしゅきです、と言い始めたのだ。
「クリス御坊っちゃん。おはようございます」
「あー!」
「うふふ」
どうやらあのマントはユーゴ様が送られた物らしく、久しぶりに着けたせいでその時の事を思い出したようだ。においもおちちゃいましたぁ、といいながら体ごと擦りつけていたのは、見ている方が恥ずかしかった。
しかも、リリアーナ様が帰った時に、それとなく覚えているか聞いてみた所、全く覚えていなかったので、この事は言わない方がいいだろう。流石の彼女でも、羞恥心を覚えるに違いない。あのままの状態で街中を通っていたら、私が内緒にしていても意味は無いが…。
いや、案外世間に見せつけちゃいましたと思うかもしれない。彼女の神経はかなり太いのだ。
◆
⦅アレクシア!おはよう!⦆
⦅おはようございます⦆
「おはようございます」
可愛らしい外見のポチとタマだが、この2人にある野望がある事を知っている。
あれはユーゴ様が、2人にクリス坊ちゃま達が魔法の国に通学する事になれば、護衛として付いて行く事を頼んでからだ。
魔法の国なのだから、使い魔を従えている生徒など珍しくない。そのため、流石クリス坊ちゃま達の護衛精霊と世間に言わせたいらしい。自分達の評価が、そのままクリス坊ちゃま達の評価になると思っている様だ。まあ、作ったのはドロテア様だからかなり怪しい所だが…。
それからというもの、この2人はどうしたら威厳ある精霊と言われるようになるか、こっそり相談している様だ。精霊の言葉で話していたから油断していたのだろう。同じ精霊の私にはしっかりと聞こえていた。
しかし、その可愛らしい外見では無理がある。どんなに立派に歩いたとしても、背伸びしているようにしか見えない。
精霊体の姿でいるのはどうかという意見も出ていたが、評価されるを通り越して、恐れられるだけという結論に至っていた。一応自覚はあったらしい。1度だけジネット様達の出産の際に、炎の狼と氷の虎の精霊体になっていたが、あれは確かに恐れられるだけだろう。あれほどの精霊は見たことが無かった。まあ、唐草模様のスカーフが燃えたりしないように、魔法で浮かしてきちんと畳んでいた辺り、可愛らしさはそのままであったが。
「アリー買い物に行く?」
「はいユーゴ様」
私は今日も秘密を抱えて生きていく。
ちうちう
目が覚めたが、クリス坊ちゃん達が産まれてから、長い間おひい様と一緒に寝ていなかったからか、随分と強く首筋を吸われている。
「んむ?おおアレクシア。これはあれじゃぞ。わし長い事1人で寝て居ったからの、つい吸い付いてしまったのじゃ」
「はいおひい様」
起きたおひい様がそう言っているが、私は知っている。深夜に私がリビングで坊ちゃま達の世話をしている間、一人で寝るのが寂しくなったおひい様が、ルー様とリン様の部屋にお邪魔して3人で寝ていた事を…。
しかも普段通りに、寝ぼけたままどちらかの首筋に吸い付いていたから、特に久しぶりという分けでは無いはずなのだ。以前お二人がそう言っていたから間違いない。
「うむ。だからついじゃ。つい」
「はい」
だがこの事は黙っておこう。言ってしまったら、おひい様のお顔がトマトの様になるだろう。
おひい様に恥をかかせるわけにはいかない。
◆
「おはようございますジネット様」
「ぬう!?ア、アレクシアおはよう」
朝のお風呂から上がり、廊下に出るとジネット様と出会ったが、顔を寄せて焦ったように近づいて来た。
腕にコレット様が居ない所を見ると、ユーゴ様に預けて浴室へ向かっているのだろう。
「昨日の事、絶対言うんじゃないぞ!」
「はい。侍女として当然です」
まさにクールビューティーな彼女だが、私は見てしまった。昨日お茶を準備してリビングに行くと、彼女がコレットお嬢様と2人でいたが、お嬢様に赤ちゃん言葉で今日も可愛いでちゅねー、といっている場面を見てしまったのだ。
私が初めて来た時から、何故気配が無いのかとよくジネット様に聞かれるが、シルキーを舐めて貰っては困る。宿った屋敷の中のシルキーを、気配で発見するなど不可能だ。ある意味で、この屋敷自体が私なのだから。
「私の威厳が無くなってしまう!頼んだぞ!」
「はい」
しかし、稀に無意識なのだろうが、ユーゴ様に甘えた言葉で寄りかかる様な事をしていたのだから、威厳があるかと問われると、無いかもしれない。
だがこの事は黙っておこう。言えば彼女が浴室で溺れてしまうだろう。それはいけない。
◆
「おはようございます。アレクシアさん」
「おはようございます」
リビングには、リリアーナ様がクリス御坊っちゃんを抱いてソファに座っていたが、実は彼女にも黙っていなければならない場面を見たことがある。
「お茶をお持ちしました」
「ありがとうございます」
あれは彼女が、出産後久しぶりに教会へのお勤めに行く時だった。
教会に行くときにはいつも着けていた、白く輝くマントを身に纏ったリリアーナ様は、送り迎えのために隣にいたユーゴ様に突然抱きついて、だんなしゃまぁだいしゅきです、と言い始めたのだ。
「クリス御坊っちゃん。おはようございます」
「あー!」
「うふふ」
どうやらあのマントはユーゴ様が送られた物らしく、久しぶりに着けたせいでその時の事を思い出したようだ。においもおちちゃいましたぁ、といいながら体ごと擦りつけていたのは、見ている方が恥ずかしかった。
しかも、リリアーナ様が帰った時に、それとなく覚えているか聞いてみた所、全く覚えていなかったので、この事は言わない方がいいだろう。流石の彼女でも、羞恥心を覚えるに違いない。あのままの状態で街中を通っていたら、私が内緒にしていても意味は無いが…。
いや、案外世間に見せつけちゃいましたと思うかもしれない。彼女の神経はかなり太いのだ。
◆
⦅アレクシア!おはよう!⦆
⦅おはようございます⦆
「おはようございます」
可愛らしい外見のポチとタマだが、この2人にある野望がある事を知っている。
あれはユーゴ様が、2人にクリス坊ちゃま達が魔法の国に通学する事になれば、護衛として付いて行く事を頼んでからだ。
魔法の国なのだから、使い魔を従えている生徒など珍しくない。そのため、流石クリス坊ちゃま達の護衛精霊と世間に言わせたいらしい。自分達の評価が、そのままクリス坊ちゃま達の評価になると思っている様だ。まあ、作ったのはドロテア様だからかなり怪しい所だが…。
それからというもの、この2人はどうしたら威厳ある精霊と言われるようになるか、こっそり相談している様だ。精霊の言葉で話していたから油断していたのだろう。同じ精霊の私にはしっかりと聞こえていた。
しかし、その可愛らしい外見では無理がある。どんなに立派に歩いたとしても、背伸びしているようにしか見えない。
精霊体の姿でいるのはどうかという意見も出ていたが、評価されるを通り越して、恐れられるだけという結論に至っていた。一応自覚はあったらしい。1度だけジネット様達の出産の際に、炎の狼と氷の虎の精霊体になっていたが、あれは確かに恐れられるだけだろう。あれほどの精霊は見たことが無かった。まあ、唐草模様のスカーフが燃えたりしないように、魔法で浮かしてきちんと畳んでいた辺り、可愛らしさはそのままであったが。
「アリー買い物に行く?」
「はいユーゴ様」
私は今日も秘密を抱えて生きていく。
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