上 下
20 / 172
聖女リリアーナ編

暗躍3

しおりを挟む
祈りの国 ユーゴ

善は急げだ。やはり、あのマントを聖女リリアーナに渡そう。指輪は…拗れるかな。黙っておこう。内ポケットに知らない間に入ってたのだ。

「ドナート枢機卿、少しよろしいですか?」

襲撃があって直ぐだ、大分忙しそうではあるが、こっちも急ぎだ。

「おお、ユーゴ殿。先ほどはありがとうございました。やはり、ユーゴ殿を頼ったのは間違いありませんでした」

自分を呼ぶに繰り広げられたであろう、話の内容を聞くのは野暮だろう。

「いえ、お役に立てれば幸いです。本題ですが、やはり聖女様の守りにいささか不安があります。そこでですが、私、このような物を持っていまして、贈呈しようかと」

手元に持っていたマントを広げる。

「な、なんと美しい…。それにこれほどの光の力、ひょっとしてこれを聖女様に?」

「はい、聖女様に着けて頂こうと思って、御許可を取りに来ました。これがあれば、悪魔がどのような手を取ろうと、聖女様を守ってくれることでしょう」

兵の聖女に会いたい気持ちは分かるが、さっき聖女を広場に連れて行くという、失点を犯してしまっ
たのだ、断りにくいだろう。そこを突かせてもらおう。

「分かりました。それほどの物を聖女様に頂けれるとは、祈りの国を代表して感謝いたします」
大丈夫だ。あと30枚くらいはある。

しかし、本当に悪魔の狙いは聖女と通知のベルか?結界の要が破壊されて、祈りの国に、悪魔が出放題になるのも脅威だが…。それだけなら、今の状態はほとんどそれと変わらん。聞くか?いや、教えれる内容ならもう話しているだろう。変に首を突っ込む必要もないか。

はあ、あんだけの悪魔をこちらに送り付けれるのだ。"向こう"の超大物が絡んでるんだろうなあ…。どんな奴だよ…。悪魔と関りはほとんどないぞ俺。悪魔と呼ばれることはあってもな。はは…。さっさと内部犯見つけ出せ!どんな取引したらそんな奴が関わって来るんだよ!

反応を見るのも、あれは無茶苦茶集中しないといけないからなあ。これだけの人数を見るのは無理だ。絶対間違える。

聖女の行くところが大体絞れたそうだ。有力候補は騎士の国の教会だそうだが…。やはり縁も所縁も無いらしい。あの優しい女性がそれでは切ないだろう…。普段世話をしている人も希少な人材らしく、次の聖女のために外せないようだ。そもそも、国を離れなければならないほど神の力を溜め込んでしまったのは、彼女が初めての様だ。勝手が分からんらしい。

リガの街に誘うか?部屋で聞くに、ルーも懐いているみたいだし、エルフの婆さん一家が長い事いるから、まだ馴染めるんじゃないかね。教会もある。婆さんがいつからいるかは、誰も知らんが…提案してみるか。

長く結界を維持して、教会と神へ奉仕したんだ。終わった後くらいは幸せになってもいいだろう。近くにいるなら俺も彼女の助けになれる。
聖女の所へ行こう。


◆   ◆   ◆
くそ!くそ!くそ!!
ようやくリリアーナが俺の物になるはずだったのに!!何なんだあの男!!?
もう時間がない。契約は結界の再展開の阻止だ。最後の手段だったが、俺がリリアーナを"向こう"へ連れていくしかない。そうすれば、結界は再展開どころか、本殿のも消失するだろう。あとは、あいつらが勝手にすればいい。俺はリリアーナとよろしくさせてもらう。

癪だが、あれほど力が強いリリアーナの心を操作するには、あの"魔王"の力が必要だ。協力するしかない。奴の力なら本殿からでも俺を"招ける"はずだ。
絶対に!絶対にリリアーナを手に入れて見せる!あの、どんな目で見られようと気づきもしない、純真な女を汚すのは俺だ!!

◆   ◆   ◆
sideリリアーナ

「リリアーナ様、夫が来ていますが開けていいですか?」

「リリアーナ様?」

「りりあーなおねーちゃーん」

えっ!?

「ルーちゃんどうしました!?」

「3回も呼びましたよリリアーナお姉ちゃん。夫が来たんですが開けていいですか?」
さっき出て行ったばかりのユーゴ様が!?

「ど、どうぞ!」

大声を出してしまった。恥ずかしい。

「失礼しますリリアーナ様。今回の襲撃で、リリアーナ様の守りを固める必要があると判断して、これをどうか送らせてください。ドナート枢機卿からの許可は取っています」

なんて綺麗なマント、それにこの光の力、でも。

「い、いけません。この様なもの受け取るわけには」

これほどのもの、きっと高価なものに違いない。

「いえ、どうかお受け取り下さい。リリアーナ様の身を守るためです」

私を守る…。

「良かったですねリリアーナお姉ちゃん!」

ルーちゃん…。

「わ、分かりました。ありがとうございます。このお礼は必ず」

「いえ、お気になさらず。あー、それとですね…マントの裏側に指輪が入っていまして。この指輪、攻撃への耐性と、危険が迫れば私をその場に転移させる力を持っていまして…。気になるかもしれませんが、どうかそのままにして頂けませんか?」

「この人が守ってくれるんです。何が来ても大丈夫です!」

守って…。

「失礼します。お着けしますね」

あっ。着けて。

「わあ、似合ってますよリリアーナお姉ちゃん!」

暖かい。

「お話し中失礼します。バルナバ枢機卿が来ていますが…。リリアーナ様?」

「はっ、はい!どうぞ入って貰ってください」

バルナバ枢機卿が入ってきた。またあの嫌な視線がするが、気のせいか特に視線が強い…。でも、マントが、このマントが私を守ってくれている。

「おお、なんと美しいマント。よくお似合いですリリアーナ様。

気に入らないように聞こえた。やはり守られて…。

「悪魔の襲撃があり、このバルナバ心配しておりました。」

「はい、ユーゴ様のおかげでこの通り無傷です」

まただ。

「ようございました。ああ、交代後のリリアーナ様の行先が大方絞れたそうで、騎士の国の教会が有力だそうです」

やはり、縁も所縁もない土地へ…。

「そのこともあって、このバルナバお願いがありまして」

お願い?

「何でしょうか?」

「それはですな、俺と来て貰うぞリリアーナ!!」

なっ!?えっ!!??

「本殿からでも転移…いや"招ける"のか…。やっぱ、とんでもない奴が関わってるなこりゃ」

ま、ま、また抱きかかえられて!!??
わ、私!?わたし!!!?
い、いや、それよりバルナバは!?

「あなた!バルナバは?」

「どうも、向こうへリリアーナ様を連れて招かれようとしたみたい。ヤバい奴が絡んでるね。大丈夫ですかリリアーナ様?」

暖かい…。それに力強い……。
あ!?わ、わたしったらなんてはしたない!いつの間に、う、腕を回して!?

「降ろしますね」

「は、はぃ」
あっ…。

「内部犯は勝手に自滅したわけだが。リリアーナ様、私からも交代後のお話がありまして」

「な、何でしょう」

だめだ、心臓がうるさい。ちゃんと聞かなければ。

「よろしければリガの街に来ませんか?教会はありますし、ルーもとても懐いています。それに街にはエルフの家族が長く住んでおりまして、なにか困りごとがあれば相談に乗ってくれるはずです。もちろん自分だって何かあればお助けしますし、貴方の様な優しい人が街に来てくれれば嬉しいです。どうでしょうか?よろしかったら考えてみて下さい」

私が…ユーゴ様のいる所へ……。

「ルーもその方が嬉しいです!なんだったらルー達のお家に来ますか!?リリアーナ様なら大歓迎です」

ユーゴ様のお家に…私が…一緒に暮らす…。

「長く国と教会に奉仕してきたんです。リリアーナ様が幸せを探しても誰も文句は言わないでしょう。考えてみて下さい」

幸せ…私の…幸せ…。



ー隙が出来たら突け 弱ったら仕留めろー
冒険者の格言

種族辞典
エルフ:エルフの出自ははっきりしません。大陸東部、エルフの森に存在する世界樹から生まれ出てとされる説と、神々が直接作り出したとされる説があります。
彼らは長寿であり、魔力との親和性にも優れているため、成人したエルフは、非常に強力な魔法使いとなっている場合が多いです。
エルフの森から彼らが離れることはあまりありませんが、好奇心の強いエルフは人間種の街で生活することがあります。接することがある場合、彼らの弓の腕前と、魔法の力に驚かされるでしょう。エルフが放つ弓矢は、我々人間種の想像を超えた威力を発揮します。
性格はいたって穏やかで、自然と共に暮らすことを好みます。反面、自然を冒涜するもの、家族へ危害を加える者には激しく攻撃します。
ギネス伯爵夫人著 "大陸の種族"より一部抜粋

ハイエルフ:長い年月の間に経験を積み、位階の上がったエルフが進化して生まれた存在が祖先。エルフを超える魔力、光の魔法に対する高い適正を持つ。
個体数は少ない者の、ほぼ全員がエルフの森において、指導的立場にある。聖女リリアーナは、ハイエルフの両親が親交のある祈りの国に、使者として赴いたときに見いだされた。
大陸における、人種の中で種族的に最も位階の高い存在であり、戦闘経験の豊富なハイエルフを打倒するのは、極々少数の例外を除いてほぼ不可能である。
ー高貴な姿という言葉が形にできるなら、彼らがそうに違いないー
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

私の代わりが見つかったから契約破棄ですか……その代わりの人……私の勘が正しければ……結界詐欺師ですよ

Ryo-k
ファンタジー
「リリーナ! 貴様との契約を破棄する!」 結界魔術師リリーナにそう仰るのは、ライオネル・ウォルツ侯爵。 「彼女は結界魔術師1級を所持している。だから貴様はもう不要だ」 とシュナ・ファールと名乗る別の女性を部屋に呼んで宣言する。 リリーナは結界魔術師2級を所持している。 ライオネルの言葉が本当なら確かにすごいことだ。 ……本当なら……ね。 ※完結まで執筆済み

処理中です...