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半人半神性

侵入

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さて、当然であるが非鬼の式符を異能学園が教材として使用し始めた事は、世界中の異能関係者に衝撃をもたらした。

 非鬼擬きと言われている式符でも、たまに研修として他国の異能養成所の人員が訪れていた程なのだ。その中で突如現れた本物の非鬼の式符である。当然であるが余所から、命を落とすリスクのない訓練であるなら是非現場に出る前に体験しておきたい、既に現場に出ている卒業生でも、突然出くわした場合に備えてや、討伐をするための仮想敵として使用したいとの声が異能学園に殺到した。

 そんな訳で異能学園の学園長は、余所の異能者と切磋琢磨するであろう生徒達を想ってニコニコ、教員達も複数の教育プランと結果を参考に出来るとニコニコ、事務員は訪れる地獄の書類仕事を想ってガクガクしていたが、世の中そんなお行儀のいい連中だけではない。

 少鬼ですら先進国の戦車と渡り合えるのだ。ましてやコントロールできる非鬼である。先進国であっても異能者の質が低い場合には、まさに戦略兵器として扱えるほどの存在なのだ。しかもポケットに持ち運びできるサイズの。そのため色々な所の後ろ暗い存在が欲した。ただ欲しはしたが、訓練用に作成された式符は、完全に既存の式符とは別系統のもので、いくら参考にして完璧にコピーできたとしても、結局出来上がるのは攻撃力を極端に抑えられた訓練用のものになるのだ。万が一盗んだのがバレて、日本と完璧に決裂してまで欲しいかと言われると、そこまでの魅力は無いというのが各国の正直な所である。

 だが別にバレても痛くも痒くもないし、自分達ならその式符を改良して実戦に投入できると考えている者ならば。

 そう、例えば


 ◆

 ◆

 ◆


 深夜、午前一時過ぎの異能学園の学内を、5人の黒尽くめ人影が疾走していた。それをもし学園長が見ていれば舌打ちしていたであろう。なぜならただ走ると言うだけで、その5人がはっきりと単独者レベルの強者だと分かるほどの手練れだったのだ。

 進歩の階段。彼等は自分達の事をそう称していた。自分達は能力者として一歩新たな階段を昇った存在であり、従来の人間を旧人類、弱い能力者も出来損ないと蔑称していたのだ。そんな連中なのだ。考える事は当然、旧人類の抹消だとか自分達が支配者になるとかそんな所だ。しかし、大きな問題点があった。そんな思想に、彼等より圧倒的に数が多い旧人類や出来損ないがついて行くわけがない。そうなるとどう考えたって人手が足りないのだ。だがそれを解消できる目途がついたかもしれない……。

 人種や性別を超え、思想で固く結ばれた5人は幾重にも張り巡らされている物理的、異能的な警備を潜り抜けていく。彼等にはある程度目的の物の場所が分かっていた。学園長、竹崎重吾の伝え聞く性格からして……

 ここ、地下訓練施設が有力であると。

 地下訓練施設の場所自体は秘密でも何でもないため、あっさりと辿り着いた5人は扉の前で頷き合う。想定の最悪は複数の単独者が訓練している場合で、その場合は諦めて大人しく帰る事になっていたが、それが1人、もしくは生徒であった場合はそのまま決行して式符を奪い取る作戦となっていた。

「いやあ、深夜デートなんて心躍りますね!」

「ふふ、そうね」

 ゆっくりと開けられた扉の先には地下とは思えない広がった空間と、その奥で話している若い男女が2人。

(あの女……)

 中を覗いた男には、その少女に覚えがあった。なにせ自分達と同じ思想の持ち主に違いないと、前々からリストアップしていた存在なのだ。ひょっとしてこれは一石二鳥なのではと考え始める。

「あなた、お客さんみたいよ」

「え!? デートに夢中で全く気が付きませんでした!」

 どうするかと悩んでいると、少女がこちらを指さしているではないか。だが、別段慌ても警戒も無い反応に、これはひょっとして行けるのではと結論する。甘い判断だと言わざるを得ないが、もし同志なら手荒なことはしたくないと本気で彼等は思っていた。

「確か、桔梗小夜子だったな?」

「もうその苗字は捨てたの。四葉小夜子と呼んでくださな」

「では四葉小夜子、進歩の階段を聞いた覚えは?」

「ええ勿論。達人ばっかりだけれど、手は足りないみたいねと思ったことがあるわ」

 これはもういけるとなぜか男は確信していた。目の前の女から感じる気配が、自分達と非常に酷似していると思ったことが原因だっただろうか。

「我々と共に来い。その足りない手になって欲しいのだ」

「お、こ、と、わ、り」

 だからであろう。きっぱりと断られたことに最初耳を疑ってしまう程であった。

「私、あなた達と違って他の有象無象に興味はないの。それに夢中な人がいるから猶更ね」

「ふあああああああ!」

 隣の男の頬から顎先を撫でる女に、心底落胆した彼等は当初の目的を果たそうと意識を切り替える。

「ならば見られたからには死んでもらう」

「あ”?」

 見間違えだとは思う。だが確かに彼等は、四葉小夜子と名乗った女の隣にいる男の体が、何かのたうつ様に蠢いたのを見た。

「もう、私の事で怒ってくれるのはとっても嬉しいけど、今はデート中じゃない。有象無象を見るより私だけを見てくれなきゃ」

「はいそうですね!それじゃあ……」

 一刻も早く殺さなければ。
 危機感に突き動かされた5人が、同時に男に向かって走り出そうとする。

「よろしく蜘蛛君!」

『キキキキヤアアアアアアアアアアキャアアアアアアアアア死死死死死死死死死死!』

 それよりも早く

 呪いの泥が襲い掛かった。
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