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第三章 水の街
第98話 モンスター捜し
しおりを挟むフィオーレ・ヴェネティッタ・ロザリーヌ。
ミーミルに居を構える貴族の一家であり、現当主の娘。
因果というか運命のイタズラというか、いろいろあって預かっている。
閑話に軽く紹介をしてみたが、そんなロザリーヌはというと──
「貧相ですわ~~~~っ!!!」
健やかな朝っぱらに不満を訴えるのだった。
あーもー、食事時に……オペラばりの通る美声で耳がキンキンする。
「うるっせえなあ。大声出すんじゃねえ」
「出さずにいられるものですかっ!! 何もかもヒンソーヒンソー、とぉーってもヒンソーですわっ!!」
「ひどい言い草ねえ。悲しいわ」
「もおおおおぉーっ!!」
着こなしていたドレスを廃し、庶民の服装を着用した──それでも隠しきれぬ独特な雰囲気があるが──ロザリーヌは人口密度の高いテーブルの一端をバンバンと叩き、グレードダウンした生活に文句をぶーぶー垂れる。その度にフィンチの嘆息が舞った。
「家は狭い、ベッドは硬い、髪は梳かない、食事は貧しい……よろしいのはコルセットを外していられるだけですわ……!」
「これが一般市民の普通の生活なんだ。助けてもらってる身なんだから我慢しろ。はい、あーん」
聞き流しつつ答えつつ、朝ご飯をビィビィの口に投入っ。
「どうだ、口に合うか?」
「なにこれぇ、美味しいよお」
「おお、美味いか。食えるもんだな」
与えられた食べ物を頬張り、咀嚼して味わう。
美味そうに食べているな。ついでにコンシールもあげちゃえ。
「くうぅ~っ!! 千歩譲ってもバケモノと暮らすのが普通ですって!? 貧民の与太は面白くもありませんのねっ!」
「違うよお。バケモノじゃないよお」
「いい加減ビィビィと仲良くなれよ。この生活にも慣れろ」
「くっ、くきいぃ~……!!」
結婚を拒絶したが故の逃亡。だと言うのに身の程をまだ弁えないお嬢様だ。
なかなか聞かないタイプの声で悔しさと不満を訴え、
「このワタクシが、このロザリーヌが下々の民とみすぼらしい共同生活……なんとも惨めですわ」
鼻持ちならない言葉をつらつらと並べてから、しかしガクリと落ち込む。どうにもならないのを理解しているのかしていないのか分かんねえな。
いや、どうにもこうにも受け入れないといけないんだ、ロザリーヌには。
共同生活がそんなに嫌なら……
「バルガーネと結婚すれば、おさらばできるぞ」
「ひっ!!」
名を聞いた途端、ロザリーヌがビクリと痙攣する。そして、
「あひっ、ひぃ、ひぃ……っ!」
発汗と顔面蒼白のダブルコンボ。PTSDを発症するが如きザマである。
よく効いてんなあ。こんな事態になってもバルガーネを出すと拒絶反応が出るもんだ。
「結婚するのが嫌なら同じ釜の飯を食え。なっ? フィオーレさん家のロザリーヌさんよぉ」
「カマノメシとは何ですの……」
「シンジさん、今日は……」
戻るに戻れず、また落ち込むロザリーヌを横にテレサが新しい空気を運ぶ。
言いたい事は分かっている。そりゃ当然──
「ああ、今日はビィビィの友達の捜索に行く。行方不明になったモンスターがどこに消えたのか調べるんだ」
「では街へ行くんですね? お手伝いします」
「レト、話は聞いたな? お前も一緒に行くんだぞ」
「キェッ……」
絶対「ちぇっ」と言ったな。乗り気じゃないから悪態ついたよな?
「お兄ちゃん、ビィビィも行きたーい」
「え? ビィビィも?」
「行きたい行きたーい! 一緒に行ってもいいよね?」
親の外出について行こうとする子供みたくビィビィが同行を願い出た。
そうか、ビィビィも行きたいのか……。
意外と思えてしまった。
数に合わせていなかったのだが、考えれば普通のことだ。
仲間の捜索なら行きたいよな。相手はモンスターなんだから、ビィビィの力を借りる事態もあるはずだ。
しかし、うーむ……。
期待するビィビィを前に、心中は複雑なものを抱いている。それはテレサもフィンチもある程度疎通していた。
街に連れて行くのは気が進まない。俺たちが良くても街の人間から見ればビィビィはモンスターだ。
姿を見られたら騒ぎになる。でも断って悲しませるのも……どうしようかな。
「そうだなあ……」
意思を汲んでやりたいが、そこから先は出ず口は引き結んでいるだけ。対策が思いつかなかったからだ。
街を歩く方法、他人に見られずに済む方法……。
考えに考え、ふいに顔を動かす。視線の先にフィンチの仕事場が映った。
特に意味も無く見ていたのだが──ピンと電球。
これは……良いアイデアが閃いたかもしれん。
「なあフィンチ、肌に付いてもいい塗料を持ってないか?」
「持っているわよ。何に使うの?」
「それはだな──」
人前に出しても大丈夫な方法。その準備は、食事を済ませた後に取り掛かった。
「これでお外を歩けるの?」
「ああ」
家の前に四人と一匹。ローブに備え付けられたフードからビィビィが顔を覗かせる。
期待に煌めかせた小さな顔面は、本来の表面に彩りが加えられていた。
「ベタベタするだろうが、そこは我慢してくれ」
「うーん……わかった!」
ビィビィの顔を、アトリエにあった塗料を使ってメイクをしておいた。
メイクではなくボディペイントなのだが、多少は誤魔化せる。すぐにバケモノとは言われないし、フードを被せておけば、より効果は見込める。
それに……。
「えへっ、みんな同じなんだね」
塗った上で、ビィビィと俺達の顔に同じ模様が付いてある。
これはテレサがくれた提案だ。この模様には、俺達は仲間であるという思いが込められている。よく思いついたものだ。
「どうだ、気に入ったか?」
「うんっ! ビィビィのは見えないけどっ! お姉ちゃん、ありがとう!」
「どういたしまして。気に入ってもらえて良かったです」
「いいか? その上着は脱ぐなよ。顔を見せていいのは俺達と信用できる相手だからな」
「わかった!」
一抹の不安は消えないが、そこは俺達のサポートで何とかしよう。
「お前もだぞ。知り合いに顔を見られたら屋敷に連れて行かれると思え」
少し離れた場所に立つ人物に釘を刺しておく。
フードの人物がぐるりと首を向け、その下から覗く目がキッと鋭い形で嫌悪を差し向けた。
「承知していますわよっ!!」
「そんな邪険にしなくてもいいじゃねえか」
ロザリーヌも外出に同行。貧乏くさい家にいつまでも居たくないらしい。
こっちはこっちで下手をこかないかハラハラさせる。家で大人しくしてほしかった。
彼女もまたローブを着ているのだが……凄いな。胴体の上半分のラインがローブの上からでもよく分かる。
特に胸部が……態度は悪いが目の保養としては素晴らしい。
「どこを見ているんですか?」
保養タイムはすぐに終了。背後についたテレサに起因する悪寒が身体を走った。
さて、保養も済んだし、早速と……
「ちょっと、馬車の用意はまだですの? いつ来るんですの?」
「は? 馬車ぁ?」
お嬢様がきょろきょろと辺りを見回しながら、そう訊いてきた。
「そうですわよ。送迎の者はまだ来ないんですの?」
迎えぇ? 何を言ってるんだ?
まさか来ると思っているのか? フィオーレ家じゃ当たり前だろうが用意できるもんか。
「あのなあ、普通に考えて馬車なんか来ねえよ」
「はい? 今なんと?」
「来ねえって言ったんだが」
「な……なっ!? ななななんですって!」
強調して返すと、明らかにロザリーヌは信じられないと衝撃を受け唖然とした。
「どうして手配をしていないんですのっ!?」
「するわけねえだろ。馬車なんかいらねーよ。捜すんだから徒歩で行くんだよ」
「ワタクシに歩けとでも言うの!?」
「そうだよっ、その足で歩くんだよ。何しについて来たんだお前は」
「ひどいわっ! 誇り高きフィオーレ家の令嬢を歩かせるなんてっ! 従僕の分際で仕事がなっていませんのねっ!」
「誰が従僕だあぁぁぁぁ──っ!!」
晴れ渡る空にツッコミが響き渡る。
これが貴族と平民の差。常識がこんなにも食い違ってやる。ツッコんでいたら息が切れてきた。
まったく……朝から疲れるなあ。お嬢様と行動を一緒にするのは世話が焼ける。
すっげえ美少女で今でさえ煌びやかなのに……当然というか夢がないというか、せめて性格さえ良ければなあ。
「とにかく馬車は来ねえ。せいぜい平民ライフを楽しめよな」
「うぅ、あんまりですわ。ワタクシ一体どうなってしまうんですの……」
「綺麗なお姉ちゃん、可哀そうだね……」
「観光じゃないんだから無い物はあーりませんっ。ほら、さっさと行くぞ」
外出組に出発を告げると、ビィビィが近寄る。
そして、目の前に自らの手を出してきた。
「ねえお兄ちゃん、手を繋いで」
「ん? こうか?」
「お姉ちゃんもっ!」
握ってあげると、反対の手がテレサに出された。
「はいっ」
差し出す歪な手が求めている。それをテレサは躊躇なく握ってあげる。
気兼ねなく疎通している。その雰囲気はまるで姉妹だ。
意外だな。一晩で距離が縮まっている? いつの間に仲良くなったんだ?
「お前ら、なんだか仲良いな?」
「実は昨晩、添い寝をしてあげたんですよ」
「あの後で?」
問い掛けに、ビィビィが元気良く頷いた。
ははあ、そういうことか。そんなに仲良くなっているのは。
「テレサお姉ちゃんね、優しいんだよ! ビィビィの知らないこと教えてくれたもん!」
「それは良かったじゃねーか」
「はい……ヌルヌルになってしまいましたが」
「ヌルヌル? あっ……」
分かるよ、言ってること。俺もビィビィの体液でヌルヌルになったよ。
「テレーゼ!? 添い寝ならワタクシと共に──」
「遠慮しておきます」
「冷たい!?」
お嬢様の誘いは即座に跳ね除けられた。
嫌悪があるだけ無情さが重ねられている。水と油なテレサとロザリーヌが仲良くなれる時は来ないようだ。
「ビィビィね、テレサお姉ちゃんと約束したんだ」
「約束?」
「テレサお姉ちゃんは泳げないから泳ぎ方を教える約束をしたの。ビィビィは泳ぐの得意だからっ!」
「まあっ、泳ぎっ! 泳ぎでしたら、このロザリーヌにお任せなさいなっ! ワタクシも泳ぎは得意ですのよっ! 是非とも指南してあげますわっ!」
「いえ、遠慮しておきます。先約があるので」
「冷たい!?」
「抵抗多そうな身体なのによく泳げるな」
そんな他愛(?)のないやり取りを交わした後、行動を始める。捜索開始だ。
まず目指すところは、あの場所だ。
ビィビィを連れ、通りを進んでいく。次第に人の姿が散見し数が増えていく。
表の通りに出た時、ピークに達した。
大きな往来に、行き来するミーミルの住民。
声、音、喧騒が重なり、活気を生み出す。さながら血流であり、街そのものが生きていると思わせてくれる。水の街は景色も空気も良いもんだ。
「わあ……」
琴線に最も触れていたのはビィビィだ。
フードの奥からじっくりと観察し見惚れる。人だらけの世界を。
水中からしか見ることになった景色を見て、地べたに足をしっかりと乗せた上で心を動かされていた。
「人がいっぱい居るねえ」
「どうだ? 来てみた感想は?」
「怖いけど……面白いと楽しいがいっぱい出てる。もっと歩いてみたいっ!」
フードに隠された顔が仰ぐ。期待に満ち溢れ、不安の入り混じっていない眼が教えてくれる。
「良いねえ。んじゃ、いっぱい歩くぞ。なにせ仲間捜しだからな」
「うんっ!!」
元気たっぷりな返事だ。
暇があれば仲間捜しのついでにビィビィに楽しいことを教えてやりたいな。
「あ、あら?」
それと、ビィビィとは異なる反応を見せていた者がいる。
「こ、これが……あのミーミル……?」
「どうした?」
目を丸くしているロザリーヌ。しかし、とてもこの地に住んでいる者とは言えない素振りだ。
住み慣れたはずのミーミルの街並みを凝視しているのだが、知らない世界に足を踏み入れたような雰囲気が出ている。
「うぅ、駄目ですわ。毎日見ているミーミル……のはずですのに初めての地に来ているようですわ……」
え、えぇー……。
「おいおいおーいっ、知らねえなんてことはないだろ?」
「いつもは馬車の中から見つめていましたから……」
「街ン中ぐらい歩いたことねえの?」
「家の制限が厳しいですのよ。一般市民の区域は行かせてもらえなくて……」
そ、そこまで徹底してんのか……。
さすがは箱入り娘。いつも馬車に乗って、貴族街の内部がホームグラウンドじゃ、こうもなる。
「あっ……シンジさん、あれを見てください」
テレサが呼び、指差す方向に目を凝らす。
……むっ、あそこにいるのはフランヴェオか。
ミーミル騎士団の者と共に忙しく足を動かしている。忙しいのは昨日の魔物出現の件か、或いは可愛い妹を捜しているのか。
「フランヴェオ兄──むぐっ……!?」
咄嗟に口を手で覆った。
危ない危ない。フランヴェオを見つけたらこうなると予測はできていた。
「むぐ……ぶはっ! 何をするんですの!? ワタクシに触れないで!!」
「しーっ、静かにしろっ。お前は誰かに見られちゃいけない身なんだぞ。お前の兄貴は結婚を認めてたんだぞ」
「わっ、分かっていますわよっ!! それよりも次に触れたらお父様に言いつけてやりますわっ!!」
「そのお父様に頼れないんじゃねーかよ」
「あ、うぅ……」
睨みつけるも、その剣幕は衰えていく。今後は自重してくれるはずだ。
ロザリーヌを連れているのだからフランヴェオに見つかっては面倒だ。今後はフランヴェオ達の動向にも気を付けて歩いて行かないと。
「……」
「シンジさん、その手は洗ってくださいね。口に触れた部分は特に……ねっ?」
「うっ」
手をじっくり見ていた先、テレサが顔を接近させて念を押してくる。影の入った表情と真っ黒に見えた目が怖い。ねっ、が恐ろしく聞こえた。
先に向かったのは、初日に来たあの場所。テレサがフィンチに連れて行かれる直前の、怪しい荷車が過ぎ去った通りだ。
あの時、俺は聞いたんだ。奇妙な音を。
目の前を通って行った荷車から発した唸り声を聞いている。それも昨夜、俺が倒したモンスターのと似た唸り声に似ていた。
如何せん推定しかならず全貌はまだ見えてこないが、あの荷車はどうにも怪しい。調べてみる価値はある。
荷車の去った方向に、収容した場所があるはず。そこへ行ってみよう。
「…………ダメだ。わっかんねえ」
「はい? シンジさん……?」
「残念ながらこれ以上は手掛かりありましぇん」
「もう無いんですか!?」
早速とつまずいてしまった。
あの通りに出て、馬車の消えた方向へ調べたところで何も分かるはずも無く、こんな街中じゃレトに臭いを追跡してもらうこともできない。
「まあっ! このワタクシに足労をかけておきながら無駄骨とは承知しませんわよっ!」
「わかってるって……」
仕方ねえな……近くの露店の者に適当に訊いてみるとしますかあ。
「なあ、ちょっとお尋ねしたいんだが」
「ニイチャン、うちは店だぜ。情報屋と勘違いしてねえか? そんなモンよりウチの売りモンを買ってくれよ」
「わかったよ。じゃあ……そこの赤いのを五個くれ」
「まいどあり」
店に並べられた売り物の中から、ちっさくて赤いフルーツを購入。
皆に配り、その場で口に含む。
……ん? この食感にこの甘酸っぱい味……リンゴか。
「うまいっ!!」
「甘酸っぱさがちょうど良くて美味しいですねえ」
「そいつは皮も種も美味しく食えるぞ。干したら良い保存食になる。旅の食料にどうだ?」
「ほお、それは良いな」
「うんっ、おいしいねえ」
各々が味を堪能する中、ただ一人ロザリーヌだけが渡されたリンゴを不思議そうに見つめていた。
「何ですの、これは?」
「知らねえのか? リンゴだよ、リ・ン・ゴ」
「リンゴ……?」
そう言った後、間を挟んで「くすっ」というバカにした笑い声。フードの中の顔は、嘲笑を頬に刻んでいた。
目を細めてムカつく顔をしてやがる。あら哀れって感じの顔だ。何か変なことを言ったか?
「な、なんだよ?」
「これがリンゴですって? ふふっ、ぷふふっ。おかしいですわ~」
「は?」
「リンゴというのは斯様な形をしていて赤くありませんわよ。知らないんですの?」
自分の知識を疑いテレサを見たが、ロザリーヌの話にはピンと来ていなかったことから俺が間違っているようではなかった。
リンゴが赤くない? 青リンゴしか食ってねえってことか?
でも形がリンゴっぽくない……あっ。ああ、わかったぞ。
こいつ、切ってもらったリンゴしか食ってないんだっ! リンゴもよく知らないとか温室育ちが過ぎるぞ。
「くすくすっ、おかしいですわ。これをリンゴと仰るとは浅学ですわよ~」
「センガクってなあに?」
「バカだってことさ。とにかく食えよ。すぐにどっちが浅学か分かるからよ」
「齧り付けと言うんですの? 立ち食いとはお行儀が悪いものですが、致し方ありませんわね」
リンゴを口に近付け、いざ実食。
しゃくっ、と気味良い音で齧られた果実がお嬢様の口の中で咀嚼され、喉を滑っていく。
さて、切ってないリンゴを初めて食べた反応は……?
「リンゴですわっ!!」
「ほらな?」
「これがっ、あの……信じられませんわっ!!」
食べたリンゴを凝視し、贅沢で不自由のない生活のせいで間違った方向に培ってしまった常識を疑う。だがこれで是正、一つ学びを得て良かったな。
「すこぶる美味ですわね~!! この果実をあるだけ屋敷に運んでくださいなっ!! 代金は屋敷に請求してもらっ……」
「だぁーかぁーらぁー!」
「あ……そ、そうでしたわね。ご免遊ばせ。お、おほほほ……っ」
失態を自覚したロザリーヌが笑って誤魔化す。
ったく、本当にハラハラさせる。自重しねえし、なかなか学ばねえもんだ。この調子じゃ、いつかバレてしまいそうだ。
「あははっ、綺麗なお姉ちゃんって面白いねえ」
「まあっ! フィオーレ家の令嬢であるワタクシに向かって! このバ……」
「おーい?」
「うっ……おっほんっ! ワタクシは貴方と馴れ合う気はありませんわよ」
「そうなの? ビィビィは綺麗なお姉ちゃんと仲良くなりたい!」
「ひっ!?」
ぎゅっとビィビィがいきなりロザリーヌに抱き付いた。
友好の意思をハグで伝える。そこには自分をバケモノ呼ばわりした者への恐怖が一片とも見られない。これは良い兆候だ。
反面、ロザリーヌは頭から足先まで悪寒が走っていくのが目に見えた。
「ひいぃぃぃぃ~!」
「綺麗なお姉ちゃん、柔らかくて良い匂いがするー」
「やっ、やめ……ラトナリアーノ! 助けてくださいましっ!!」
「キュッ? キューン……」
残念なことにレトの助けは来ないようだ。
別段悪いことでもねえし、このままにさせておこう。この二人がどこまで仲を深めるか期待させてもらうとするか。
「仲良くしようねっ!」
「いっ、嫌ああああぁぁぁぁ~~っ」
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