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第二章 その魂、奮い立つ
第59話 討伐だって楽じゃない2
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「う……」
ほのかな明かりの染み入った闇が広がる。
あれ? なんで眠っていたんだ? いつの間に居眠りしていたんだ?
どうしてこんな事に? 一体何が……?
うまく思い出せん。最後に見たものはテレサがコケて、それから……なんだっけ?
なんとなく形容できるのは、もの凄い力としか……。
「キュッキュッ♪」
暗い世界が薄れようとした矢先、愉快げな獣の声が。
その後に続いて、ばっさ、ばっさと粉っぽいものが振り撒かれる。
な、なんだ? 何をされてる? 何が起こっているんだ?
「ああっダメですっ、ダメですよレトさ~ん! そんな事をしちゃ!」
慌てるようなテレサの声。それに導かれるようにして瞼が開くと……お尻を向け忙しく後脚を動かしている獣の姿があった。
粉っぽいのは土だ。レトが掘った土を掛けていたのだ。
目を覚ましている事にも気が付かず、土を掘っては器用に後脚で撒き散らし続ける。
「ぶえっ!」
土が目に……コイツ……!
「このやろっ!!」
尻尾を掴もうとするも失敗。怒りに反射した手は毛一本すらも捕えられなかった。
逃げたレトが離れた場所で愉快そうに鳴いている。
「くそっ、逃げ足が速い……」
「シンジさん、大丈夫ですかっ?」
「ああ、まあな……」
「生きていて良かったです。もうダメかと思っちゃいました」
「いったい何が起こったんだ?」
「その、杖がシンジさんに当たって……頭から血が……」
犯してしまった過ちにテレサは恐れを抱き、慄いてもいる。
話を聞いてようやく思い出した。
そうそう、杖が当たって死んだんだ。あの途轍もない威力はきっとスキルの効果が発動したんだ。
身の回りを確認すると、血の跡が残っている。衝撃の瞬間を物語る痕跡はどれだけ凄惨だったかを教えてくれた。
そうか。死んじゃったのか。まさかテレサに撲殺されるとは思わなかった。
さすがは『粉砕の一撃』……身を持ってその威力を知った。もう二度と体験したくない程に。
「どうしてでしょう? 怪我が少しずつ治って……以前も……」
「それはな、俺は死んでも生き返るんだ。だからうっかり殺されようが生き返るし、傷だって時間が経てば治る。何回殺されようともな」
「えぇ……? 何を言って、でも……」
どういう事かと脳内がこんがらがってるな。
そりゃこんな反応もする。死んでも生き返るとか妙な事を言って、けどその目で確かめているのだから。
「なんつーたって、神だからな」
トールキンの神。異世界の創世主にして創造主オリジン。
この異世界の至高の存在だからこそ常識に縛られないスキルを持っている。だからどんな怪我だって治るし、死んでも生き返る。
「は、はあ……その話はまだ信じられませんけど、大事なくて良かったです」
まあ普通そうなるよな。オリジンの知名度ショボいし。
こういう事はもう慣れてる。そんな事より続きだ続き。
「上手くいかんなあ……」
あれからモンスターを何体か狩ったものの、順調とは行かなかった。
一匹倒すだけでも時間が掛かり、対象外のモンスターを避けながら進行するのにかなりの労力を要した。
「ごめんなさい、シンジさん。私が力不足で……」
「気にすんな。テレサがいるだけで助かってるし。回復役は必要なポジションだからな」
申し訳無さそう落ち込むテレサ。自分の未熟さが悔しいのだろうが、そんな事はないと元気づけてやる。
テレサには有難さを覚えている。後方から治癒魔術を掛けてくれているおかげで攻撃に集中できる。ヒーラーがいるのといないとでは戦いやすさがまるで違う。
しかし、それでは上手くいかない事もあるのがこの世界の現実だ。
このメンバーじゃ戦力が足りない上に偏っている。
前衛が俺、レトが相手の妨害でテレサは後方支援という感じに戦略を組み立てているのだが、それも毎回上手くいくものじゃなく限界も見えているところだ。
これじゃシュヴェルタル討伐も遠い道のり。一合目も到達してないように感じる。
厳しいな。この調子で間に合うのか?
「大丈夫ですか? 顔色が良くないですが……」
「いや…………ん?」
様子を窺うテレサの胸元で光がきらりと反射する。
注視すると飾り物が付いてあった。
あれは、ペンダントってやつか……?
「そのペンダントは?」
「これですか? これはお母さんがくれたペンダントです」
首から垂れているペンダントのトップには結晶のようなものが付いていた。
雪みたいな宝石だ。中心の一点から複数の枝が伸び、表面は無数の面が光を幾重にも反射している。この複雑な形に加工するには相当な技術がいると思うが……。
「綺麗だな。何の宝石だ?」
「これは宝石ではありません。雪が解けずに固まったものだそうです」
「雪が? どうやって?」
「それはあまり覚えてなくて……でもこのペンダントはお守りとして付けています」
「お守りね……大事に持っておけよ。家族の形見なんだからさ」
「え?」
「あ……」
しまった。
テレサの家族の事は触れないように気を付けてたのに。
「シンジさん?」
どうして? と訴える瞳がチクリと刺さる。それが少し痛かった。
「あー、えー……すまん。実はテレサの家族の事もう知ってるんだ」
シラを切っていいはずもなく、素直に村長から聞かされた事を打ち明けることにした。
最初こそテレサは複雑な表情をしたが、やがて割り切ったような仕草を見せた。
「そっとしておこうと思ったんだが……」
「いいんです。別に隠すようなことじゃないですし、不思議に思わないはずがありません」
「それは、まあ……」
家に居て変だなとは思ってたしな……。
「いつかは教えようと思いました。聞かれたら答えるつもりでもありました」
既に知っていたとは予想外です、と付け足すテレサの顔はもう暖かさをもった笑顔で、家族を亡くしているものとは思えなかった。
だからその内側に潜む傷を探ろうと思ったのか。
「その……辛くないか? 家族が居ない生活ってのは」
よせばいいのにと警告する自分もいた。でもそれ以上に確かめてみたかった。
以前に両親のいない人物を知った。家族を恋しがった声を耳にした。
そんな人を近くで見た。一緒にいたからこそ似た境遇を持つテレサに聞かずにはいられなかった。
「思い出せば辛くもあります……でも孤独じゃありませんから」
少女の視線が儚げに俯瞰する。
あの瞳には何が映っているのか、何が甦っているのか知りたくもあったが、それは憚るものがあった。
「村長さんが面倒を見てくださいましたし、支えてくれた人達がいました。今だってシンジさんやレトさんがいます」
「お、俺が……?」
「はい。ココルの皆さんもシンジさん達も家族みたいなものです」
目を細めてテレサは伝える。春の暖かさと、冬を凌ぐ草木の強さを抱いて。
その微笑は別れを負った者が出せるものではなかった。
まるで生きることへの讃歌、自分を取り巻く世界に対する喜びみたいなものが含まれていた。
「さあ、次も一緒に頑張りましょう。シンジさん、レトさん」
「あ、ああ……」
これからも頼みますと訴える表情に、俺は突き動かされるように一旦止めていた討伐を再開する。
どうしようもない気分をいまだに抱いたままで。
(アイツも……テレサも……)
モンスターとの戦いは決して楽ではない。命を脅かす危機も度々ある。
明日かもしれないし、明後日かもしれない。
そして……すぐにやってくる事だってある。
「っ……くぅっ!」
狼型のモンスターが出現し戦闘。排除に取り掛かるも手こずっていた。
相手のパワーは高くない反面、スピードが高く素早い動きが厄介でなかなか攻撃が当たらない。
面倒な敵だ。意外とこういう奴が大敵だったりする。
モンスターがこっちの攻撃を避けては軽い身のこなしで噛み付こうとしてくる。油断すればすぐにでも急所を突かれ致命傷を負わされそうだ。
防戦に徹しなんとか防いでるが、どうにも先の見えない状態が続く。
『グルァウッ!!』
「おぉっ!?」
地面を蹴り、モンスターが突撃を仕掛けてくる。体当たりに押しやられて体勢が崩れてしまった。
「ぅぐっ…………あ!?」
転げたところをもう一度襲い掛かろうとし、突然動きを止める。ある存在に気付いたからだ。
モンスターの視線を引き止めたのは――テレサだった。
「え……!?」
「しまった……!」
より無害そうな相手。テレサの方が楽に殺せそうだと、獣並みの知能でも判別ついたようだ。
最悪な事に狙う相手を変えたモンスターは軽く威嚇し、テレサの方へ駆け出す。
「危ないっ! 逃げろ!」
レトも追いつかず、モンスターが害をもたらそうと間を詰める。
鋭い牙の群れが、テレサに噛み付こうとした。
「テレサっ!!」
二つの身が重なり合おうとした――――その一瞬、
「っ!?」
風が通り過ぎる。いや、通り過ぎたのは影だ。
バッ、と血飛沫が花を咲かす。テレサのものではなく、モンスターの黒い血が。
そうさせたのは、一閃の斬撃――とそれを繰り出した何者かだった。
速過ぎて何が起こったのか分からなかった。
俺も、レトも、テレサも。目の前に現れた人影の起こした軌跡に視線を奪われていた。
真っ二つにされたモンスターがゴロゴロと転がり、場が静まる。状況をやっと掴めたのは、モンスターが完全に絶命した後だった。
「…………」
死んだモンスターの傍に青年が立っていた。
青年は手にしていた剣に付着した血を、ひどく落ち着いた様子で振り落とす。
冷めた目が俺達の像を見やる。
ただ一瞥。たったそれだけで「大丈夫か?」とか言葉も掛ける事は無く……しかしレトを見つめて何処かへ行ってしまった。
「た、助かりましたあ……」
極度の緊張から解放されたテレサがへたり込むのをよそに、俺は別の驚きに満ちていた。
あの青年の姿には記憶が以前見たことあると教えてくれたからだ。
(あいつはっ……リージュの武器屋で見たイケメン!)
かつて武器を買おうと寄った武器屋であの男を見かけた。
他とは違う妙な雰囲気を持っていたから覚えていたものを……まさかこんな所でまた会えるとは予想できなかった。
さっきの剣の軌跡、凄い速さだった。
テレサに襲い掛かろうとしたモンスターを容易く、しかもまるでワイヤーアクションでもやってるような流れる動きで斬ってみせた。
あの動き……なかなか出来ない。かなりの技量を持っている。生半可な量じゃない戦闘経験を身に叩き付けている。
だからこそ出来る見事な活躍劇に魅せられた。だから――
「欲しい……!!」
と、つい言葉に具現してしまった。
たった数秒の出来事でそこまでの意思が芽生えた。
アイツが欲しい。パーティに招き入れたい。
仲間に入ってくれれば十分な……いや十二分な戦力が手に入る。シュヴェルタル討伐も叶いそうなくらいに。
あの男、絶対に俺達にパーティに加入させてやるぞ!
《リザルト》
・テレサがパーティに加入した。
・初めてパラメーターを強化した。
・モンスターを倒した。
・モンスターと戦闘して全員生き残った。
・シンジを殺害した。
・テレサに殺された。
ほのかな明かりの染み入った闇が広がる。
あれ? なんで眠っていたんだ? いつの間に居眠りしていたんだ?
どうしてこんな事に? 一体何が……?
うまく思い出せん。最後に見たものはテレサがコケて、それから……なんだっけ?
なんとなく形容できるのは、もの凄い力としか……。
「キュッキュッ♪」
暗い世界が薄れようとした矢先、愉快げな獣の声が。
その後に続いて、ばっさ、ばっさと粉っぽいものが振り撒かれる。
な、なんだ? 何をされてる? 何が起こっているんだ?
「ああっダメですっ、ダメですよレトさ~ん! そんな事をしちゃ!」
慌てるようなテレサの声。それに導かれるようにして瞼が開くと……お尻を向け忙しく後脚を動かしている獣の姿があった。
粉っぽいのは土だ。レトが掘った土を掛けていたのだ。
目を覚ましている事にも気が付かず、土を掘っては器用に後脚で撒き散らし続ける。
「ぶえっ!」
土が目に……コイツ……!
「このやろっ!!」
尻尾を掴もうとするも失敗。怒りに反射した手は毛一本すらも捕えられなかった。
逃げたレトが離れた場所で愉快そうに鳴いている。
「くそっ、逃げ足が速い……」
「シンジさん、大丈夫ですかっ?」
「ああ、まあな……」
「生きていて良かったです。もうダメかと思っちゃいました」
「いったい何が起こったんだ?」
「その、杖がシンジさんに当たって……頭から血が……」
犯してしまった過ちにテレサは恐れを抱き、慄いてもいる。
話を聞いてようやく思い出した。
そうそう、杖が当たって死んだんだ。あの途轍もない威力はきっとスキルの効果が発動したんだ。
身の回りを確認すると、血の跡が残っている。衝撃の瞬間を物語る痕跡はどれだけ凄惨だったかを教えてくれた。
そうか。死んじゃったのか。まさかテレサに撲殺されるとは思わなかった。
さすがは『粉砕の一撃』……身を持ってその威力を知った。もう二度と体験したくない程に。
「どうしてでしょう? 怪我が少しずつ治って……以前も……」
「それはな、俺は死んでも生き返るんだ。だからうっかり殺されようが生き返るし、傷だって時間が経てば治る。何回殺されようともな」
「えぇ……? 何を言って、でも……」
どういう事かと脳内がこんがらがってるな。
そりゃこんな反応もする。死んでも生き返るとか妙な事を言って、けどその目で確かめているのだから。
「なんつーたって、神だからな」
トールキンの神。異世界の創世主にして創造主オリジン。
この異世界の至高の存在だからこそ常識に縛られないスキルを持っている。だからどんな怪我だって治るし、死んでも生き返る。
「は、はあ……その話はまだ信じられませんけど、大事なくて良かったです」
まあ普通そうなるよな。オリジンの知名度ショボいし。
こういう事はもう慣れてる。そんな事より続きだ続き。
「上手くいかんなあ……」
あれからモンスターを何体か狩ったものの、順調とは行かなかった。
一匹倒すだけでも時間が掛かり、対象外のモンスターを避けながら進行するのにかなりの労力を要した。
「ごめんなさい、シンジさん。私が力不足で……」
「気にすんな。テレサがいるだけで助かってるし。回復役は必要なポジションだからな」
申し訳無さそう落ち込むテレサ。自分の未熟さが悔しいのだろうが、そんな事はないと元気づけてやる。
テレサには有難さを覚えている。後方から治癒魔術を掛けてくれているおかげで攻撃に集中できる。ヒーラーがいるのといないとでは戦いやすさがまるで違う。
しかし、それでは上手くいかない事もあるのがこの世界の現実だ。
このメンバーじゃ戦力が足りない上に偏っている。
前衛が俺、レトが相手の妨害でテレサは後方支援という感じに戦略を組み立てているのだが、それも毎回上手くいくものじゃなく限界も見えているところだ。
これじゃシュヴェルタル討伐も遠い道のり。一合目も到達してないように感じる。
厳しいな。この調子で間に合うのか?
「大丈夫ですか? 顔色が良くないですが……」
「いや…………ん?」
様子を窺うテレサの胸元で光がきらりと反射する。
注視すると飾り物が付いてあった。
あれは、ペンダントってやつか……?
「そのペンダントは?」
「これですか? これはお母さんがくれたペンダントです」
首から垂れているペンダントのトップには結晶のようなものが付いていた。
雪みたいな宝石だ。中心の一点から複数の枝が伸び、表面は無数の面が光を幾重にも反射している。この複雑な形に加工するには相当な技術がいると思うが……。
「綺麗だな。何の宝石だ?」
「これは宝石ではありません。雪が解けずに固まったものだそうです」
「雪が? どうやって?」
「それはあまり覚えてなくて……でもこのペンダントはお守りとして付けています」
「お守りね……大事に持っておけよ。家族の形見なんだからさ」
「え?」
「あ……」
しまった。
テレサの家族の事は触れないように気を付けてたのに。
「シンジさん?」
どうして? と訴える瞳がチクリと刺さる。それが少し痛かった。
「あー、えー……すまん。実はテレサの家族の事もう知ってるんだ」
シラを切っていいはずもなく、素直に村長から聞かされた事を打ち明けることにした。
最初こそテレサは複雑な表情をしたが、やがて割り切ったような仕草を見せた。
「そっとしておこうと思ったんだが……」
「いいんです。別に隠すようなことじゃないですし、不思議に思わないはずがありません」
「それは、まあ……」
家に居て変だなとは思ってたしな……。
「いつかは教えようと思いました。聞かれたら答えるつもりでもありました」
既に知っていたとは予想外です、と付け足すテレサの顔はもう暖かさをもった笑顔で、家族を亡くしているものとは思えなかった。
だからその内側に潜む傷を探ろうと思ったのか。
「その……辛くないか? 家族が居ない生活ってのは」
よせばいいのにと警告する自分もいた。でもそれ以上に確かめてみたかった。
以前に両親のいない人物を知った。家族を恋しがった声を耳にした。
そんな人を近くで見た。一緒にいたからこそ似た境遇を持つテレサに聞かずにはいられなかった。
「思い出せば辛くもあります……でも孤独じゃありませんから」
少女の視線が儚げに俯瞰する。
あの瞳には何が映っているのか、何が甦っているのか知りたくもあったが、それは憚るものがあった。
「村長さんが面倒を見てくださいましたし、支えてくれた人達がいました。今だってシンジさんやレトさんがいます」
「お、俺が……?」
「はい。ココルの皆さんもシンジさん達も家族みたいなものです」
目を細めてテレサは伝える。春の暖かさと、冬を凌ぐ草木の強さを抱いて。
その微笑は別れを負った者が出せるものではなかった。
まるで生きることへの讃歌、自分を取り巻く世界に対する喜びみたいなものが含まれていた。
「さあ、次も一緒に頑張りましょう。シンジさん、レトさん」
「あ、ああ……」
これからも頼みますと訴える表情に、俺は突き動かされるように一旦止めていた討伐を再開する。
どうしようもない気分をいまだに抱いたままで。
(アイツも……テレサも……)
モンスターとの戦いは決して楽ではない。命を脅かす危機も度々ある。
明日かもしれないし、明後日かもしれない。
そして……すぐにやってくる事だってある。
「っ……くぅっ!」
狼型のモンスターが出現し戦闘。排除に取り掛かるも手こずっていた。
相手のパワーは高くない反面、スピードが高く素早い動きが厄介でなかなか攻撃が当たらない。
面倒な敵だ。意外とこういう奴が大敵だったりする。
モンスターがこっちの攻撃を避けては軽い身のこなしで噛み付こうとしてくる。油断すればすぐにでも急所を突かれ致命傷を負わされそうだ。
防戦に徹しなんとか防いでるが、どうにも先の見えない状態が続く。
『グルァウッ!!』
「おぉっ!?」
地面を蹴り、モンスターが突撃を仕掛けてくる。体当たりに押しやられて体勢が崩れてしまった。
「ぅぐっ…………あ!?」
転げたところをもう一度襲い掛かろうとし、突然動きを止める。ある存在に気付いたからだ。
モンスターの視線を引き止めたのは――テレサだった。
「え……!?」
「しまった……!」
より無害そうな相手。テレサの方が楽に殺せそうだと、獣並みの知能でも判別ついたようだ。
最悪な事に狙う相手を変えたモンスターは軽く威嚇し、テレサの方へ駆け出す。
「危ないっ! 逃げろ!」
レトも追いつかず、モンスターが害をもたらそうと間を詰める。
鋭い牙の群れが、テレサに噛み付こうとした。
「テレサっ!!」
二つの身が重なり合おうとした――――その一瞬、
「っ!?」
風が通り過ぎる。いや、通り過ぎたのは影だ。
バッ、と血飛沫が花を咲かす。テレサのものではなく、モンスターの黒い血が。
そうさせたのは、一閃の斬撃――とそれを繰り出した何者かだった。
速過ぎて何が起こったのか分からなかった。
俺も、レトも、テレサも。目の前に現れた人影の起こした軌跡に視線を奪われていた。
真っ二つにされたモンスターがゴロゴロと転がり、場が静まる。状況をやっと掴めたのは、モンスターが完全に絶命した後だった。
「…………」
死んだモンスターの傍に青年が立っていた。
青年は手にしていた剣に付着した血を、ひどく落ち着いた様子で振り落とす。
冷めた目が俺達の像を見やる。
ただ一瞥。たったそれだけで「大丈夫か?」とか言葉も掛ける事は無く……しかしレトを見つめて何処かへ行ってしまった。
「た、助かりましたあ……」
極度の緊張から解放されたテレサがへたり込むのをよそに、俺は別の驚きに満ちていた。
あの青年の姿には記憶が以前見たことあると教えてくれたからだ。
(あいつはっ……リージュの武器屋で見たイケメン!)
かつて武器を買おうと寄った武器屋であの男を見かけた。
他とは違う妙な雰囲気を持っていたから覚えていたものを……まさかこんな所でまた会えるとは予想できなかった。
さっきの剣の軌跡、凄い速さだった。
テレサに襲い掛かろうとしたモンスターを容易く、しかもまるでワイヤーアクションでもやってるような流れる動きで斬ってみせた。
あの動き……なかなか出来ない。かなりの技量を持っている。生半可な量じゃない戦闘経験を身に叩き付けている。
だからこそ出来る見事な活躍劇に魅せられた。だから――
「欲しい……!!」
と、つい言葉に具現してしまった。
たった数秒の出来事でそこまでの意思が芽生えた。
アイツが欲しい。パーティに招き入れたい。
仲間に入ってくれれば十分な……いや十二分な戦力が手に入る。シュヴェルタル討伐も叶いそうなくらいに。
あの男、絶対に俺達にパーティに加入させてやるぞ!
《リザルト》
・テレサがパーティに加入した。
・初めてパラメーターを強化した。
・モンスターを倒した。
・モンスターと戦闘して全員生き残った。
・シンジを殺害した。
・テレサに殺された。
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