38 / 105
第一章 出立
第36話 来たる壮途
しおりを挟む光が世界の全てを見渡している。
まるでソールが覗いているように佇んでいた太陽が、頂から西を目指し始めている頃。大木の前に俺達は居た。
お互いに静黙。俺はダガーを、フィーリはシールドブレードを構え、一言も発さないまま向き合う。傍で静かに見届けているのはレトだけだ。
ただただ動かず、相手の像を離さない。ひたすらに機を待ち続けている。
そんな状態が続き、長くも短くも分からない時間が風と共に流れていく中……蝶がひらひらと舞い、レトの鼻に止まった。
蝶の休憩場にされたレトはこそばゆくなったようで、ついにくしゃみを発した。
「「――――ッ!!」」
気の抜けたくしゃみを合図に、沈黙を解く。
地面に根を張る程に動かざるを徹した足に力を漲らせ、駆る。それはフィーリも同じだった。
やはりフィーリの方が速い。ステータスが高いから当たり前だが、ここまで素早く掛かって来ると恐ろしくもある。
ステータスも練度もあっちが有利。攻撃のタイミングもフィーリが先だ。
先手は取れないが、簡単にやらせてはなるまい。一手は防御に徹し、二手三手で徐々に追い詰めるんだ。今日ぐらいは白星を取ってやる。
「くっ……!」
まずはダガーで防御し、何とか一撃目を防ぐ。手加減してるとはいえ、得物同士の弾く衝撃がびりびりと伝わってきて痛い。
本当に手加減してるのかと呑気な事を考えてたら、じきにシールドブレードが襲い掛かる。
次の手は――!
「喰らえっ!」
左手を出し、この身に宿った能力――『神素環紋・日光』を発動する。
フィーリが持つスキルで効き目は薄いが、フェイントを掛けるには有効な手だ。実際にフィーリはこれに引っ掛かった。
ただのフェイントだったと理解した時にはもう遅い。
反撃させないよう攻撃っ、攻撃っ、攻撃だっ。
「どりゃっ、どりゃあ!」
間隙を与えさせない連撃。連なる斬撃をフィーリはただ盾で防ぎ続ける。ふっふっふ、防戦一方で手が出まい。
この猛攻に加えて、この盾を……思いっきり蹴るっ!
「ぁうっ…………しまった……!」
力強く蹴られ退いたフィーリが不覚にも石を踏んでバランスを崩したのを、俺は見逃さなかった。
「おおおぉぉぉぉ――っ!!」
剣閃をフィーリに目掛けて猛進。切っ先が空気を切り裂いて相手に迫る。
今日こそは白星取ったあ……!
「ッ――」
「は? え……?」
目の前の光景が、予想だにしなかった光景を見せる。
捉えたはずの刃が火花を散らして盾の表面を滑っていく。特に焦る様子のないフィーリが、落ち着いた手際でダガーの方向をズラしてみせたのだ。
刺突を躱したシールドブレードは下段から迫り……俺の身体を捉えた。
「うおっ、わ……!」
疾駆の勢いはブレーキが効かず、見事なまでに盾の上に乗っかる。
盆に載せた皿のように身体を持ち上げられ、脚が足場から離れる。足場を失ったせいで為す術無しだ。
「それっ!」
「わっ、ぐえ……っ!」
ぐんと盾が押し上がると、視界がぐるり。一転して青空に変わる。
ふわっと宙に浮く感覚が襲い――背中から地面にダイブした。
「うあ……痛ってえ………」
受け身を取れず、衝撃が身体を巡る。大地の厚い歓迎を全身で受けた上、何かがすぐ傍で鈍色の光を奔らせる。
それがフィーリの得物と思考が追い付いた時、決着が着いたと悟った。
「あっ……く……」
「よしっ、今回も私の勝ちだね」
突き付けられたシールドブレードの刃先が、模擬戦闘の終わりを告げる。
勝負あり。結果はフィーリの勝ち。俺の負けだ。まあ無論というか、本気で掛かって行っても勝つ見込みは薄かった。
「痛てて……やっぱフィーリは強いな。全然敵わねえ」
「伊達にモンスターを討伐してないからね。でもシンジも前よりも少しずつ確実に力を付けてる。反応も速くなってきたし、雰囲気も鋭くなってる」
「そ、そうかな……?」
手を差し伸べ起こしてくれたフィーリがそんな事を言ってくる。
討伐者としての力を見極め、認めてくれた事に嬉々たる感情を抱いてしまう。
込み上げる面映さと戦いながらも、自分のステータスを確認してみた。
〔皆本 進児〕
《パラメーター1》
体力:3668/5042(+50)
筋力:1028/9999
耐久:1032/9999
魔力:500/999
魔耐:500/9999
器用:1033/9999
敏捷:1030(+5)/9999
《パラメーター2》
技巧:114/999
移動:112/999
幸運:105/999
精神:107/999
《スキル》
『擬似・神核』
・あらゆる傷を完全に癒し、死亡しても復活する。
[着脱不可]
『擬似・神性』
・神の特性が備わる(文字や言葉が解る、など)。
[着脱不可]
『神眼(ステータス)』
・自身や他人のステータスを閲覧できる。
[着脱不可]
『育成』
・ボーナスポイントを使用し、自身を除くパーティメンバーの《パラメーター1》の能力値を増やす。
・自身や他人の保有スキルの着脱を行える(着脱不可のスキル有り)。
[着脱不可]
『絆の加護』
・パーティメンバーとの親密度を上げる事で、自身の《パラメーター1》の能力値がアップする。
[着脱不可]
『神素環紋・日光』
・日光の魔法を発動できる。
[着脱不可]
『ハイジャンプ』
・通常より高くジャンプできる。
『APハーヴェスター』
・モンスターを倒した時、APが手に入る。
『スタミナⅠ』
・体力が1%アップする。
『クイックⅠ』
・敏捷が0.5%アップする。
彼女の言った通り、微々だが確実に上がっている。
フィーリのように強くはないがパラメーターが上昇し、スキルも増えた事に成長の二文字を実感する。
「この調子ならシンジの言う旅に出ても問題無いかも。基礎は身に付いてきたし、無理でもしなければ大丈夫」
「ほ、ホントか?」
「うん。今までよく頑張ったね。でもまだ何日か鍛えよう。どれだけ強くなっても相手はモンスター。手慣れても経験は安全を保証してくれないからね」
「ああっ」
高鳴るものを抱き、緩やかでありつつも確実に付いた成長を祝うように快い面差しを咲かせるフィーリに応じる。
やっと……やっとか。もうすぐで旅に出れる。ようやくスタートを切れるんだ。
でも旅に出るって事は……フィーリやメアさんとお別れする事になるのかあ。そう思うと少し寂しくなるかもな。なにせ非常に大変そぉーな長旅になるからな。
寂しく思うくらいにはリージュでの生活に慣れ親しんだ。二人には大変世話になった。
……って、なーに湿っぽい事考えてんだ。生き別れとか永遠に会えないんじゃないんだからさ。
旅が終わればゆっくりできる時間もあるはずだ。その時になってまたフィーリ達のところへ遊びに行けばいい。
「そろそろ街に戻らないと」
「また手伝いか。精が出るねえ。見習いたいですわー」
「だったらシンジも一緒に行く?」
「やめときまーす」
「断られちゃったか。シンジはこのまま討伐に行くんだよね? 暗くなる前に帰るんだよ。今日はレトも付いて行かないから、しっかり用心してね」
「おー。そっちも頑張れよー」
念を押し、恒例行事の為に一旦リージュへ戻るフィーリに軽い鼓舞を送る。
踵を返したのを見計らって、共に去ろうとするレトには軽蔑を送ってやった。
「キュィ……ッ」
ガンを飛ばす利口な獣は、「後で覚悟しとけよ」と醸す。おお怖い怖い。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる