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序章 異世界創造
第6話 大精神の誕生3
しおりを挟む「んー、と……」
風の大精神を創ったところで小休止。今まで創った大精神の人数を数える。
ソール、パンゲア、ティアマト、ラシル、レシル……おっと、アンブラも数に入れないとな。
全員で六人か。二人の時より賑やかになってきた。
だけど、これではまだ足りない。予定ではあと炎、水、雷が残っている。もう少し頑張ろう。
それじゃ次は……雷の大精神を創るか。
雷と言えば日本には雷神という神様がいて、背中には太鼓――雷鼓だったか――がある。
イメージしやすいし、それを参考に創ってみるか。
「完せ……いつっ!?」
ドネルが形を定めると同時にパリパリと光が迸り、囲っていた手に痛みが鋭く走った。
い、痛ぇ……今のは静電気か?
「バンドしようぜっ!」
反射的に退けた手から現れたのは、想像通りの太鼓を背中に背負った、まさに雷神の……ん?
今、バンドしようぜって……?
「なあ、オレっちとバンドを組もうぜっ! お前、ベースな!」
新しく生まれた女性の大精神は、手に持っていたメイス(?)を向けて何故かバンドのポジションを宣告してきた。
ボーイッシュを感じさせるショートカットの髪型に、ヘソ出しルックなチューブトップ。
上腕の肩に近い場所には、両方とも太鼓の鼓面にあるのと同じく三つ巴のマークが刺青のように刻まれている。
な、なんなんだ、コイツ。バンドを組もうとかベースとか突然言い出して……バンドのドラマーになってるつもりなのか?
「目指すは武道館ライブだー! ひゃっほーい!!」
雷の大精神は興奮し、自身を囲うように移動した六つの太鼓にメイスをありったけ叩き付ける。
メイスはバチの役目を果たしてるらしい。なら太鼓はドラムセットか。
「えーと、もしもし? 雷の大精神さーん?」
盛大に叩き付け打ち鳴らす小さな精霊に呼びかける。
雷の大精神は興奮してるのか身体から電気をバリバリと放電し続けていた。
あ、危な……っ。周辺にいた大精神たちも退いちゃったよ。
「おう、オレっちとバンドのチーム組むかい?」
「バンドはアニメだけで十分だから断っておくよ。俺はオリジン。お前を創った創造主だ。それで、お前の名は……エクレールだ。雷の大精神エクレール。わかったか?」
「あいよっ! オレっちは雷の大精神エクレール! 轟くビートで世界を酔いしれさせてやるぜーっ!」
「違う。そうじゃない」
エクレールは意気揚々に太鼓を叩き、自分の世界に没頭し始めた。
「……ったく、次行くか……」
轟くビートとやらを刻み続けている大精神はとりあえず放っておいて、次の大精神の創造に移ろう。
残りは火と水……じゃあ先に水の大精神でも創るかな。
「水の精霊とな? もう既に生んでおるじゃろ?」
思考を読んだ神様が、卓袱台の向こうから疑問を投げてくる。
神様の言い分はもっともだ。水といえば既にティアマトという大精神がいる。水の大精神を創る必要はないかもしれない。だが――
「これが違うんだな。ティアマトは海の大精神であって、水の大精神じゃない。なぜ俺がティアマトという名前を与えたのかわかるか?」
「……うむ、ティアマトは海水の女神の名前じゃな。つまりは淡水と海水で分けようということじゃな?」
「そういうこと。単に水の大精神を生み出すだけじゃ面白くないからな」
「……まあ、お主の世界じゃから勝手にせい」
アホらしいと言いたそうな神様の溜め息を横に、俺はドネルを用意して創造にかかった。
ドネルが形を崩し、新しい姿に変わっていく。
水の大精神が生まれるぞ。
「……やあ、初めまして。僕は水の大精神さ。名前はまだないけどね」
水の大精神は、杖を携行しフードを被った青年だった。
どこか剽軽さを感じ、それでいて英知に溢れていそうな……賢者のような出で立ちの優男だった。
「水の大精神よ。我はオリジン。お前の創造主だ。そして、お前の名はアプス。水の大精神アプスだ」
「仰せのままに」
水の大精神は一言残すと、その場を離れて卓袱台の隅に座った。
雷、水の大精神が生まれ、残るはあと一体。炎だけだ。
これで最後か。炎の大精神はどんな奴になるのか、そんな淡い期待を胸に抱きながら、ドネルを捏ね始める。
形を変えたドネルは、俺のイメージを元に新たな姿へ変わり始めていく。
そして、熱を放ち肉を灼く焦熱を……ん? あっ!?
「あぢいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!!!」
捏ねていたドネルが急に火のように熱くなり、触れていた両手が火傷を負う。
熱い! 熱い! と喚き、水を求めてティアマトが入っていたケースへ慌てて手を突っ込んだ。
な、なんだ? 何でドネルが熱くなって……。
「フハハハハハ! ハハハハハハ! 我が炎熱、我が灼熱は我が創造主すらも焦がさん!! 我輩に触れれば火傷するぞ?」
暑苦しい高笑いが部屋中に轟く。
新しく誕生した精霊、炎の大精神はそこにいた。
炎の大精神は、悪魔を彷彿とさせる男性型だった。
火を灯した炭のように黒く所々に赤熱した体表を持ち、炎がちろりと揺らめいている。髪の無い頭は闘牛みたいに角が前方に湾曲して伸びていた。
まだ寒さの残っているこの時期には有難いかもしれない。ちょっと暑苦しいが。
「うぅ……お、お前、熱かったじゃねえか! 何しやがるんだっ!」
火傷を負った手――幸い大した傷にはならなかった――を桶に突っ込んだままの状態で、炎の大精神に怒鳴りつける。
だが炎の大精神は悪びれることもなく高笑いを続けた。
どうしようコイツ。反省する気がないようだ。
「落ち着かんか、進児よ。早くこの精霊に名前を与えんか」
宥める神に言われ、怒りと不満が不完全燃焼を起こしつつ仕方なく……この大精神に与える名前を考える。
「お前の名前はそうだな……ドレイク。炎の大精神ドレイクだ」
「おお、我が創造主よ! 我輩は炎の大精神ドレイク! 業火の化身である! 万物を焦がし、万物を塵にしてみせようぞ! フハハハハハ!!」
「言っとくけど、部屋の物燃やしたら許さんからな?」
ドレイクは高笑いと共に、ごおっと身体中から炎を噴き出す。
危なっかしい。身体から炎が出るとか、放っておいたら火事になる。
そうはならないようにアプスを傍に付かせよう。
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