異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ

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第4章<最終戦線>編

154話「怪物の、信念」

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    狂死郎はついに全力を持ってして良太郎とマリーネへの攻撃を開始しようとする……自らの目的の為に……。

「黒影魔術・超技……壮葬乱舞(そうそうらんぶ)!」

    狂死郎がそう叫ぶのと同時に彼の背後の影が長く伸び良太郎とマリーネに迫る。
    良太郎をなんとか再起させようとしていたマリーネだったが、こうなったら防御に徹しなければと思い防御魔術を発動する。

「フルメタルシールド!!」

    マリーネが杖を突き出しそう唱えると、5つの鋼鉄の盾が彼女の目の前に展開された。
    メタルシールドよりも強力な防御魔術によって狂死郎の攻撃を受け止めるつもりだ。

「ふふふ……」

    だがそれでも余裕を崩さない狂死郎。
    その程度の防御はどうということは無い、という余裕の現れである。

「来なさい!」

    ガギギギギギギギ……!!

    無数の鋭く尖った影の刃と鋼鉄の盾が激しい音を立ててぶつかる。
    マリーネはなんとか耐え凌ごうとするが、狂死郎の影による攻撃は激しく、ものの10数秒でフルメタルシールドにヒビを入れてしまった。

「そんな……!!」

「人間がどれだけ努力しようと、僕らと君らとの間には越えられない壁があるんだよ。僕らにとってはこんな事ただ余興を楽しむ程度のものさ……さぁ、諦めるんだ。」

「それでも……諦めてたまるものですか……!」

「悲しいねぇ……人間というものは。」

「どうとでも言いなさい!たとえ無謀でも……立ち向かうのが人間ってものよ!」

「マリーネ……ダメ……だ……!」

    良太郎は狂死郎に立ち向かうマリーネの姿を見てなんとか声を絞り出す。
    絶対絶命のマリーネの姿を、彼はただ見ているだけしかできないのか……いや、良太郎の瞳には微かに光が戻っていた。
    それは他でもない、彼が戦う覚悟を取り戻そうと必死に足掻いているからだ__



「__!?」

「良太郎。お前は今までよく頑張っタ。」

「鬼人の本能さん……?」

    気がついたら、良太郎は自分の精神世界にいた。
    目の前にいる鬼人の本能は以前のように拘束されておらず、ただ二本足で良太郎の目の前に立っていた。
    全裸のようだが身体の殆どが黒いモヤで覆われていて良太郎にはその全容はよく見えていない。
    姿は良太郎が少し大人に、かつより中性的になったような外見だった。

「鬼人の本能さん……前に見た時とだいぶ違うような……声だけでなく見た目まで変化が……?」

「先程も言ったが、「共鳴」ダ。ガイ・アステラの動きに共鳴し、花彦によって施された俺の呪縛が解かれたのダ。」

「じ、じゃあ俺も狂死郎みたいに人喰い人間に……!?」

「安心しロ。お前は野原林檎の内蔵を喰った事で鬼人としての食人本能を失っていル。」

「そうか……なぜガイ・アステラは貴方を暴走させてそんな事を……?」

「……そうだな……「面白いから」ダ。」

「……やっぱり……」

「ガイ・アステラにとってのあらゆる判断基準は「面白いかどうか」なんダ。奴はお前に苦難と葛藤を与える為にお前を「何よりも大切な存在に手をかけた人喰い人間」という十字架を背負わせた。俺が……奴なんかの力に屈しなければお前は野原林檎を手にかける事なかっただろうニ……。狂死郎もガイ・アステラも、圧倒的な強さを持て余しているが故にやる事なす事全てゲーム感覚なのダ。」

    良太郎は少し考えたあとこう零す。

「でも……俺は林檎の内蔵を食べた事で食人本能を無くした……林檎が俺を救ってくれたんだ。もしも喰ったのが林檎ではなく他の人だったら……俺はどうなっていたか……。」

「そのどうしようもない複雑な気持ちを抱えさせ葛藤するお前を見てガイ・アステラはゲラゲラとに笑っていル。人の手の届かない「どこか」からお前を見てナ。」

「……」

「俺を憎んでいるカ?」

「え……?」

「俺が暴走しなければ、お前が林檎を手にかける事もなかったろうニ……」

    それに対して、良太郎はまた少し考えた後こう答える。

「事実かどうかは関係なく……人を憎むとか、人のせいとか、俺は苦手です……。」

「そう、答えるのカ……。」

「……もう林檎に会う事は無いのかもしれないけど……俺は林檎に感謝したいです。一生ものの傷を付けておいてこんな事言うなんて、烏滸がましいのかもしれないですけど……林檎は俺を助けてくれたんですから。」
 
「……きっとそれを知ったら彼女は「お前の助けになれて良かった」と思うゾ。俺がお前の中から見てきた林檎とはそういう人間だっタ。だがそれは今は頭の片隅に置いておケ……今はマリーネを助けるのが先ダ。」

「……!!」

「良太郎……お前は今まで散々苦しめられてきたが……残念だがお前の苦難が終わる事はないだろウ。全ての敵を倒し終えたとしても、お前が野原林檎を喰らったという事実は消えなイ……それでも前を向ケ。歩みを止めるナ。お前の行いが報われるいつかの明日を作るのは、今のお前の努力ダ。戦え……良太郎……!!」

「……はい!そもそも俺は……ヒーローに憧れてここまで頑張ってきたんですから!」

「よく言っタ。それと……お前が記憶に干渉する力を持っているという狂死郎の言葉は事実だが……お前は実の所その力を1度しか使ってなイ。お前にとって都合のいい存在に書き換えられた人間など1人もいなイ。」

「え……それってどう言う……」

「それは後で考えロ。さぁいケ……!」

「え、あ……はい!!」

    そうして鬼人の本能から励まされ覚悟を決めた良太郎の意識は覚醒し__



「マリーネ!」

    意識が現実に戻ってきた瞬間反射的にそう叫ぶ良太郎……だが、彼が見たものは目を背けたくなるような状況だった……。

ドギュンッ__!!

「……!!」

「っあ……!!」

    マリーネは良太郎の意識が目覚めるまで、彼を狂死郎から守ろうとしていた……狂死郎の怒涛の攻撃から良太郎を守ろうとしていたのだ……しかし、その奮闘も虚しく……

びちゃ、びちゃ……

「マリーネ!!」

    マリーネは、狂死郎の放った一点突破の鋭い攻撃によって防御を貫かれ……胸の中心を刺し貫かれてしまっていたのだ……。

「リョー……タロー……く、ん……」
 
「残念だったね。もう少し早ければ助けられたかもしれないのに……。」

「ッ……!!」

    良太郎はとっさに倒れそうになったマリーネの身体を受け止める。

「もう彼女は助からないよ。治癒魔術「ヒール」の最上位魔術「ホーリーヒール」があればなんとかなるかもしれないけどね。」

    良太郎の自責の心を煽るかのようにそう語る狂死郎。
    
「だったら……やってやる……!!」

「へぇ……?」

    だが良太郎は諦めてはいなかった。
    彼は自分の頭に手を当て、意識を極限まで集中させた……周りの音も、景色も、目の前の狂死郎の存在も一旦頭から切り離し、集中した……マリーネを助ける為に。

「良太郎君……まさか……!」

「___「来た」!ホーリーヒール!」

    パァァァァァァッ!!

    次の瞬間、なんと良太郎は倒れたマリーネを受け止め、彼女の傷口に手を当てホーリーヒールを行使したのだ。
    魔術という概念を理解し、それを使うようになってからそう日の経っていない良太郎……ホーリーヒールという熟練者のみが使える魔術を彼が使うにはかなりの時間を要するはずなのだが……彼はそれをこの一瞬で「取得」してみせたのだ。

「大丈夫!?マリーネ!?」

「……っは!!……私、なんで……リョータロー君?貴方が傷を治してくれたの……?」

「うん……一か八かだったけど、良かった……。」

「まさか……「自身の記憶」を操ってみせたというのか……!!」

    そう……狂死郎の予測する通り、良太郎は自分に「俺はホーリーヒールが使える」という所謂自己暗示のようなものをかけ、それによってホーリーヒールを使えるようになったというのだ。

    狂死郎にとって、記憶干渉の異能を彼が持っているというカードは良太郎を確実に陥れる為の最高の切り札だった……しかし、良太郎は気持ちを切り替えそれを利用してみせた……今の良太郎は自らと向き合い覚悟を決めて狂死郎の戦いに挑む所存であり、逆に切り札を出し切った狂死郎が心理面では不利に立ったとも言えるだろう……。

「良太郎君……大したやつだよ。自分の力をまたそうやって都合のいいように__」

「人を生かしたいって気持ちは自分の為とか関係なく当たり前の事だろ。マリーネには皆で生き延びようって誓った仲間たちがいるんだしな。」

「私だってそれは同じよ……それを卑しい人間みたいに言う貴方の方がおかしいわ。」

「……言うようになったみたいだねぇ。まぁそれでなくては困るけどね。ガイ・アステラの__僕のお気に入りちゃんだからねぇぇぇぇぇ!!」

    狂死郎の人格がガイ・アステラに切り替わり、声を荒らげながら先程のように巨大な影を背後から出現させる。

「出たわね、ガイ・アステラ!貴方達の真の目的を話しなさい!」

「……ッ!!」

    ガイ・アステラを睨みつける良太郎とマリーネ。
    彼相手に決死の覚悟で挑む所存である2人に対して、ガイ・アステラは気分を一転、冷めたような口振りで語り出す。

「いいよ。語ってやろうじゃないか……僕達の真の目的……「世界統合計画」ってやつをさ。」

    人類に絶望し、それでも可能性を見出そうとした彼がその目的を語る時、それは成され、世界は……

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