異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ

文字の大きさ
上 下
146 / 154
第4章<怪物の夢>編

145話「千、寿」

しおりを挟む
    その日の朝方、仕事場であるジュピル村に来た俺は村の様子を一度見渡してみた。
    男女、子供、大人、老人の比率とか、そいつらはどんな暮らしをしているのか、とか……。

「いい子にしてるんだぞ。」

「おとーさん、いってらっしゃい!」

「気をつけてね、貴方。」

    王都へ仕事に行こうとしている家族もいた。
    キョーシローからの命令は1人残らず皆殺し、との事だったから、そういう奴らは見逃しちゃマズイなと思い早速行動に取り掛かろうとしたが……。

「おねーさん?」

「あ?」

    その時、俺の目の前に5歳ぐらいの幼女が現れた。
    幼女は俺を物珍しそうな顔でじっと見て、そして私にこう言ってきた。

「いらっしゃい!ジュピル村へようこ__」

    ピシャッ

    手始めにその幼女の頭から潰した。
    俺が拳を一振りしただけでこんなにもあっけなく殺せてしまう……やはり人間ってのは俺のような特別な存在よりも劣っている……そう確信した俺にとって、そこから先はただの作業でしかなかった。

「うぁぁぁ__」

「きゃぁぁぁぁ__」

    やかましい悲鳴を出すやつから順番に頭を殴って殺していき、最後に5歳ぐらいの少年が残った。
    ここまでに要した時間はたった6分……60人近くの人間をたった6分で皆殺しにできちまった。
      
「なんで……こんな事するの……?」

「クヒヒッ、教えてやるよ……私が悪の戦士だからだ……」

    そのクソガキにそう告げたあと、そいつも殺した。



「お仕事お疲れ様。」

「おう。これで良かったのか?」

「見事な殺戮ショーだったよ。1人ぐらい生かした方が僕達の存在をアピールするのに使えたかもしれなかったけど、謎の怪死事件って方が人々の恐怖を煽るのにちょうどいいしね。その後の特級冒険者との戦いもキレがあって良かったよ。戦闘用に特化したティアマトの子ってだけの事はある。」  

「戦い、ねぇ……俺はあんな魔術師じゃなくちったぁ骨のある奴と戦いたかったんだけどな。」

    アジトに帰ってきた俺に、まるで俺の仕事を見ていたかのような口ぶりで俺の仕事のあらましを語るキョーシローと俺は言葉を交える。
    多分、闇のティアマトの力で俺達が仕事をこなす様子を見ていたのだろう。

「センジュ。世界を支配したら君には家畜となった人間達を管理する仕事を与えよう。」

「ホントか?それはありがたいぜ!劣等種である人間を優れた人間である俺達が管理する!う~ん、そそるぜ!」

「君は特別な人間だから、その権利がある。」

「おう。リーダーはそうやって未来の事を考えててくれ。その為に邪魔な奴らは俺達が殺してやるからよ!クヒヒッ。」

「その調子で頼むよ。」

    俺とキョーシローはそう話した後、ふとアジトの隅の方で何も言わずじっとしていたリュウカに目をやる。
    あの時のリュウカの奴、ひでぇ面してたな……。

「どうしたリュウカ?せっかく良い面してるんだから笑えよ。」

「いや、その……。」

「……気分転換に外の空気でも吸いに行こうぜ。」

「そ、そんな事で……」

「いいからいいから。」

    俺はそう言ってリュウカの意思を無視し、無理やり連れてアジトの外へ出ていった。
    アジトがある荒野を少し歩いた所にある小さな森の中……そこにある池の畔で俺はリュウカとこんな話をした。

「お前、いつも何かが気に入らねぇって顔してるよな。」

「え?そ、それは……。」

「お前も俺と同じ特別な人間なんだ!一緒に劣等種共をぶっ殺して!支配して!人生を謳歌しようぜ!なぁ?」

    俺がそう言うと、リュウカはさらに不機嫌そうな表情になった。
    その時初めて、俺とリュウカは真逆の性格をしていたんだと理解した。

「貴方には……分からないと思います。私の気持ちは……。」

「はぁぁ?分かるわけねぇだろ!俺はお前じゃねぇんだから!言いたい事は言わねぇと分からねぇだろ!」

「……言いたくないことだって、ありますし……。」

「そーかよ。」

「……言ってしまったら、私はセンジュの味方じゃいられなくなるかもしれないので……。」  

    そう語るリュウカの顔はどこか寂しげな雰囲気を感じさせるものだった。
    リュウカに対して俺は何を言うべきなのかと考えた結果、俺の口から出た言葉は……

「じゃあ聞くけどよぉ、お前はキョーシローと劣等種、どっちの味方なんだ?」

「……よく分からないです。」

「そうか……俺は嫌だぜ?お前が俺達を裏切って、最悪の事態になる事はよぉ。」

「そうならないようにしたい、です。」

「けどそれって現状維持って事だろ?それを続けてたらお前は一生悩みっぱなしだろ。」

「じ、じゃあどうすれば……」  

「何を選び、何をするかっていう選択……これからはどうあっても逃げられねえんだよ。キョーシローは人喰い人間だから人間を支配するって決めて、俺とシャナはその手伝いをするって決めた。俺はついでに劣等種共を虐げてやるっていうのもな。お前はどうだ? お前は何をしたい?お前が何をするかはお前が決めるんだよ。」

「……。」

    リュウカは俺の言葉を聞いてしばらく俯いた後、作り笑いを浮かべながらこう言った。

「私は……キョーシロー様の手下として働きます。それが私にとって最善の選択だから。」

「そうか……今はそれで納得してやる。けど……いつか聞かせてくれよ。お前の本音を。」

「センジュ……。」

    俺はリュウカとそう約束し、リュウカはその数日後に王国ミズノエでの仕事に向かい、この世界と神の間を繋ぐ場所を特定するのに貢献してくれた。
    
    アイツは表面上は影の一味に協力してくれたが、その後アイツは俺達を裏切った。
    その結果キョーシローはリュウカの人格を消すも同然の事をして……俺はただそれを見ていることしかできなかった。

    劣等種共の側についたリュウカが許せなかったというのもあるが、それと同じぐらい……悲しかった。
    人殺しを楽しめる程度には人間性が終わっている俺にそんな感情があると気づいた時は笑っちまったけどな。



「センジュ……?」

「……よぉ、リュウカ……。」

    ガオレオの攻撃によって致命傷を受け、今にも死にそうだというセンジュの元にリュウカが駆けつけてきた。
    センジュの姿を見て、即座に彼女の元に駆け寄るリュウカ。

「センジュ!」

「クヒヒッ、見ての通り……俺ぁもうダメだ。最期に最高の戦いができて満足だけどな。」

「センジュ……死なないで……!」

「おいおい、たくさん殺しておいて生きながらえる方が無理あるだろ。どうやら俺はここまでらしい。」

「……」

    涙を流しながら自分の顔を覗き込むリュウカの表情を見て、センジュは彼女の意志を察した。
      
「答えは見つかったみてぇだな……聞かせてくれねぇか?」

「……私は……人間に対して、贖罪をします。影の一味から……足を洗います……!ごめんなさい……キョーシロー様を……いえ、センジュを……裏切りたくなかったのに……!」

「クヒヒヒヒッ!良いじゃねぇか!お前がそれを見つけられたのなら、良かったぜ……ゲホッ。」

    センジュと、それ看取るリュウカ……この2人の姿を、ガオレオ、リコ、そしてリュウカと共にこの場に駆けつけたソレイユはただ見守る事しかできなかった。

「でも……例え貴方が悪だとしても……貴方にも生きて欲しかった…!」
 
「クヒヒッ、バーカ……俺はお前とはちげーよ。お前は生きろ……劣等種として……人間として……俺もかつてそうだった、みたいだけどな……お前は俺と違って、人間やめてねぇだろ……。」

「……嫌っ……」

「最期に、これを残していくぞ……っぐぉぉ……!」

    センジュはそう言うと、唸り声をあげながら自分の胸に手を突っ込んでそこから「それ」を取り出した……それは、緑色に輝く水晶のようなものだった。

「俺の名前ってよぉ……千って字に寿って字で「センジュ」って意味らしい……東方の国では縁起が良い言葉らしい。そんなお前にお似合いのお守りだと、キョーシローがくれたもんだ……死者を復活させる程の治癒力がある回復のポーション……「生命の銘水(せいめいのめいすい)」……これをお前にやる。」

「センジュ……!」

    それをリュウカが受け取った事で、もうやり残す事は無いと確信したセンジュは、最期の言葉をリュウカに送る。
 
「もう一度言う……生きろ……生きてくれて……人間として……じゃあなリュウカ……あの世ってのがあるかは知らねぇけど……どこかから、お前を見守ってるぞ……クヒヒヒヒ……。」

    そう言い残し、センジュの瞳から光が消えた。
    彼女の亡骸を抱きしめ、大粒の涙をポロポロと流すリュウカの悲痛な叫びが、戦場にこだました。
    その声に応える者はもういない。
    
     ……影の一味の戦士センジュは、自らの悪名と共に逝った。





    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

NineRing~捕らわれし者たち~

吉備津 慶
ファンタジー
 岡山県の南、海の側に住んでいる高校二年生の響が、夜遅く家を飛び出し一人浜辺を歩いていると『我をおさめよ、されば導かれん』の声がする。  その声の先には一つのリングが輝いていた。リングを指にはめてみると、目の前にスタイル抜群のサキュバスが現れる。  そのサキュバスが言うには、秘宝を解放するために九つのリングを集め、魔王様と魔族の世界を造るとの事。  そのために、お前を魔族の仲間に引き入れ、秘宝を手に入れる手助けをさせると、連れ去られそうになった時、サキュバスに雷が落ちて難を逃れ、サキュバスが彼の下僕となる。しかしサキュバスの魔封じのクリスタルで、何の力も持たない響は連れ去られてしまう。  しかし、おっちょこちょいなサキュバスのおかげで、現代から未来世界に渡り。未来世界の力を得た響が、その後異世界に渡り、リングを探す事になる。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

処理中です...