異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ

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第4章<最終戦線>編

141話「何ゆえ、彼女は彼女なのか」

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「あの、センジュ……。」

「あ?」

    センジュはある日、仲間のリュウカからある相談をされる。

「私、よく変な夢を見るんです。」

「どんな?」

「小さな女の子が怪物から逃げる夢……とても怖い夢で、それを見た日は一日中気分が悪いまま、なのですが……。」

「……それぇ、俺に相談する事か?俺みたいな戦う事しか能がない俺に?」

「き、キョーシロー様とシャナには話しづらいといいますか……。」

    その時のセンジュにとっては自分がリュウカ頼られている、という状況に対してあまりいい気はしてなかったが、彼女なりに答えを捻り出そうとはした。

「うーん、俺もなぁ……変な夢見るんだよ。私と見た目がそっくりな変な女が私にずぅっと話しかけてくるんだ。こっちは何か言い返そうとしてるんだけど上手く言葉を発する事ができなくてよぉ。」

「そうなのですね……。」

「俺達ティアマトの子だろ?それが関係してるんじゃねぇか?ティアマトの子はどこか別の世界の人間の生まれ変わりってキョーシローは言ってるだろ?つまり、お前が見ている夢はお前の前世の夢で、俺の夢の中に出てくる女は俺の前世の姿、とかじゃねーの?」
 
―ご明察。勘がいいわね。―

「ッ……」

    突如センジュとリュウカの話に割って入る女性の声。
    その声はリュウカには聞こえておらず、センジュにだけ聞こえていた。

「どうしたのですか?」

「今、その女の声がしやがった……我ながら難儀だぜ全く。」

「で、センジュの夢の中に出てくる女性は貴方に何って言ってくるのですか?」

「……半分ぐらい忘れちまうぜ?夢なんだからよ。かろうじて覚えてるのは……「貴方は作りもの魂に過ぎない」「本物の魂である私の方が特別な存在なのよ」「その身体を私にちょうだい」……って所だな。」  

    センジュの言葉を聞いたリュウカは、彼女もまた自分と似たような悩みを抱えているのか、と知る事になった。
   
「お互い大変ですね。」

「それもそうだな。よーっし!じゃあリュウカ俺を慰めてくれよ!クヒヒッ!」

「貴方みたいなガサツな人、慰める必要無いと思うのですが……?」

「冷てぇ事言うなよ~。一緒に人間共に宣戦布告した仲じゃねぇか!」
 
「……と言いますか、私の相談はぐらかされてませんか?」  
 
「そーだっけ?まぁ細かい事は気にすんな!クヒヒヒヒッ!」

「……。」

    腹の底では何を考えているか分からない狂死郎とシャナをいつも相手にしているリュウカにとって、センジュだけは少し怖いが親しくできる唯一の人間だった。
    
    だが、そんなセンジュが王国アストレアの民を虐殺し影の一味の恐ろしさを世に知らしめたのもまた事実……。

    力を誇示し、悪として生きる道……それだけがセンジュの全てだった。



    突然、自分を中心に禍々しい黒いオーラと雷のオーラを発生させるセンジュ。
    彼女と戦っていたガオレオとリコは一体何事かと困惑していたが、センジュの中では2つの人格がぶつかっていた。

「消えろ、クソ女ァ……!」

「ねぇ、貴方って何がしたいの?いたずらに力を振りかざす事?人間を見下して悦に浸る事?女の子なのに女の子との色恋に興じる事?」

「クヒヒッ、強いて言うならそれ全部ひっくるめて……「悪」だ!私は悪の戦士センジュ!暴れてぇから暴れる!見下してぇから見下す!弄びてぇから弄ぶ!テメェが私にとって何者であろうと……邪魔はさせねぇ!私は私だ!テメェじゃねぇよ!」

「ふふふ、これが今の私の姿かと思うと目眩がしてしまうわ。何てったって……貴方は狂死郎の奴隷じゃない。狂死郎に与えられた使命に対して「私はこれが大好きです」って自分に言い聞かせて……私はそんな人間を見てるとね、目眩がするのよ。」
 
「黙れ……拐かすつもりなら無駄だ!」
  
「そうは言っても……身体は正直ね。ほら……魂が揺らいでいるわ。今なら簡単に身体の主導権を奪えてしまいそう。」

「そうするってんならぁ……!」

    センジュは目の前の少女目掛けて拳を繰り出した。
   
「ふふっ、脳味噌まで筋肉でできてるのかしら?かつてのお淑やかな少女ミネルバの面影も無いわね。」

    少女はかろやかにセンジュの攻撃を回避してみせるが、センジュは諦めずに少女への攻撃を仕掛け続ける。

「ミネルバ……それがお前の名前か!」

「そうよ。そして私は……貴方と違ってキョーシローの影を受け入れた。いえ、魅せられてしまったと言うべきかしら?こんなにも美しいもの……生まれて初めて見たのだから。」

    ミネルバはそう言うと、自分の背後から巨大な影を出現させる。

「クソが……!」

「さよなら、この身体はもう私のものよ。」

    ゴォォォォォォ!!

「ぐぁぁぁぁぁ!!」

    ミネルバの背後の影がセンジュを呑み込んでいく__



    その場に呆然と立ち尽くすセンジュ。
    彼女は俯いたまま言葉を発する事も指先1つ動かそうともしなくなった。

「……死んだ、のか?」

    先程まであれだけ機敏に動いて戦っていたセンジュが突然苦しみだしたかと思ったら突然動かなくなった、という謎の事態に困惑するガオレオ。

「ライフサーチ。」

    疑問を感じたリコは、魔術「ライフサーチ」を発動する。
    半径50メートルの範囲内の生物の生命エネルギーを感知する魔術だ。

「……。」

「どうだリコ?」

「……生体反応はあるわ。ピンピンしてる。」

「そうか。なら早く倒さねぇと__」

    リコにそう返事をしてセンジュの方に振り向いたガオレオの目に飛び込んできたのは……
 
「ご明察。」

「ッ!?」

    音もなく自分の至近距離に接近していたセンジュ……いや、彼女の身体の主導権を奪い返していたミネルバだった。

「デスサイズ!」

「ぐぁっ!?」  

ガキンッ!

    ミネルバが繰り出した影の大鎌による攻撃を間一髪の所で風式で防ぐガオレオ。

「デススピア!」
 
「この……っ!!」

キィンッ!

    さらにミネルバは大鎌を左手に持ち替え右手で影のレイピアを構え、それによってガオレオの心臓目掛けて突きを繰り出す。
    その攻撃もなんとか風式で防ぐガオレオ。

「テメェ!影は使わねぇって言ったじゃねぇか!」

「あらあら、悪者との約束を信じるなんてバカな人。いえ、失礼……純心な人と言った方が良かったかしら?お兄さん。」

「テメェ、センジュじゃねぇのか__」

    言葉遣いがセンジュのそれではなくなった事に疑問を抱いたガオレオは彼女がセンジュとは別の人間なのではないかと考えるが、そんな事はお構い無しに影の大鎌とレイピアで彼への追撃を仕掛けるミネルバ。

「うぉっ!?」

   ガキンッ!キィンッ!ガガガガッ!

「おい!話ぐらい聞きやがれ!お前は何者なんだ!」

「ふふふふっ!やはり私は影に魅入られし者って事ね!この力最高だわ!」

    自分には全く理解できない事を口走るミネルバの事をガオレオはますます理解できなくなった。
   そんな彼にミネルバはレイピアを突き出そうとする。

(この攻撃を回避してカウンターをぶち込む!)

「ウィンドステップ!」

    軽やかな身のこなしで敵の攻撃を回避する「ウィンドステップ」……この魔術によってガオレオはミネルバのレイピア突きを回避し、動きが一瞬硬直したミネルバの背後を取った。

「ここ!」

    そう言いながらミネルバの背中を叩き切ろうとするガオレオだったが……。

ギュインッ!

「な……!?」

    ガオレオは次の瞬間、影の鞭に右手を縛られ拘束されてしまっていた。
    ミネルバは左手に持っていた大鎌を即座に鞭に変化させ、それを蛇のように操ってガオレオを拘束してみせたのだ。

「テメェ……!」

「ガオレオ……!」

「ごめんなさい、怖い男の人は嫌いなの。だから殺されて……ね?」

「せめてテメェが何者なのかと目的ぐらい言いやがれ!」

「そうよ!アンタ何者なの!?」

    ガオレオとリコにそう聞かれ、ようやく自分の事を話す気になったミネルバは2人にこう語る。

「私の名前はミネルバ。センジュは私に植え付けられたニセモノの人格。私は今ニセモノから肉体の主導権を奪い返し……生き返ったのよ。センジュったら私の身体で好き放題やってくれたみたいで……人間に捕まったらもう死刑になる他無いわよね。

だから仕方ない事だけど……私は貴方達人間の手から逃げるしかなくなったの。この場は貴方達を殺して雲隠れしましょうって事。せっかく生き返ったのにまた死ぬなんてごめんだもの。

ガオレオさん、貴方がさっき言ってた……生きるという権利、でしたっけ?私だってそれを持ってるわ。だから……こんな所で死にたくないの。分かってくれるかしら?」

「何を……!」

    突如ガオレオとリコの前に姿を現した、影に魅入られた者ミネルバ。
    ガオレオとリコの戦いは予想外の方向へと向かっていた……。

 





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