異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ

文字の大きさ
上 下
141 / 153
第4章<怪物の夢>編

140話「黒の、狂気」

しおりを挟む
    私の名前はミネルバ・クライス。
    どこかの島国のどこかの街に住んでいた、母譲りの美形の顔と美しい黒髪が自慢のただの13歳の田舎娘。
    父は麦を作り、母は絹物を編んで生活をしていて、私はどっちかの跡継ぎになろうと考えていた。
    
    田舎ってのは都会と違って何もなかったからそれはもう退屈だったものよ。
    観光する所も名産物も無く、ただそれなりのものを食べられればそれでいいやって皆思ってた。

    けど私は、若気の至り故の「都会への憧れ」みたいなものがあったから、毎日両親の手伝いをして貯めたお小遣いでよく都会に遊びに行っていたわね。
    
    都会でサーカス団のサーカスを見たり、アイスクリームを食べたりしている間だけは、自分の中にぽっかりと空いている穴が埋まっているような感覚がしていた。
    ここが自分の本当の居場所なんだって、そう信じて疑わなかった……。



「お嬢さん、あまり見ない顔だね。どこから?」

「……東部の小さな村から……。」

    ある日、都会の中の人通りの少ない路地で不思議なおばさんに声をかけられた。
    ローブを深く被っていて顔がよく見えないおばさん。

「おばさん、占い師か何か?そういう風貌に見えるけど。」

「想像に任せるよ。それはそうと……ちょっと占いでもしていくかい?初めてのお客さんには無料でやってるんだ。」

「田舎娘だからって知らないとでも?そう言って2回目からはぼったくるつもりでしょう?そっちがそのつもりならもうこの路地は通らないわよ。残念でした。」

「けっけっけ……13歳と言うにはやけに大人びた娘だ事。」

    そのおばさんは当たり前のように私の年齢を言い当ててみせたの。
    
「へー、年齢ぐらいは言い当てられるのね。」

「スリーサイズも言い当ててやろうか?」

「やめて、お胸の小ささは結構気にしてるのよ。」

「やめてほしくばワシに占われるのを受け入れてくれるか?」

「……しょうがないわね。」

    私は成り行きでおばさんに占われてあげる事にした。

「……お主、来月の最初の日曜日にまたこの街に来るつもりじゃな?」

「そうよ?」

「今日はチョコレートアイスを食べに来て、来週はバニラアイスを食べに来る予定、そして来月の最初の日曜日にはストロベリーアイスを食べに来る予定、とな?」

「ええ。よく分かったわね。」

「残念ながら、ストロベリーアイスは食べに来ん方がいい。最悪死ぬ事になる。」

「え?アイス食べて食中毒でも起こすのかしら?」

「そうではない……食中毒どころではない、大きな事件に巻き込まれる事になる。」

「それは大変ね……。」

「その日はこの村には来ない事……いいね?」

「そう、ありがとう。命に関わるレベルの占いをしてもらったんだからお礼はしないとね。」

    私はそう言うと机の上に5枚の銀貨を置いた。

「気持ちはありがたいが、祖父におねだりして貰った大切なお金じゃろ?大切に使いなさい。」

「それもお見通しか……じゃあやっぱナシで__」

「いらないとは言ってないよ?」

「守銭奴め。」

    結局お金は払って、私は街を後にした。
    


    おばさんが言っていた2月の第1日曜日……ツイてない事が起きてしまった。
    その日は街で麦料理の試食会があって、そこに父が育てた麦で作ったパンが出されるという事で、家族皆で街に行く事になり、さらにその街に住んでいる親戚の家に1晩泊まる事になったのだ。

「ロッドさん!アンタのとこのパンが1番美味しいよ!」

「そうだよ!こんなに美味しいの初めて食べたよ!」

「いえいえ、料理の善し悪しを決めるのは料理人の方ですから。私めはただ麦を作っただけに過ぎません。」

「そんな事無いですよ。いい食材がなければいい料理は作れないのですから、それだけでロッドさんは立派です。」

「良かったわね、アナタ。」

    自分達の作ったパンを置いてある所で両親とパン作りを依頼した女性は楽しそうにしているけど、私は気が気じゃなかった……何せ「今日街に来たら死ぬ」って言われてたのだもん。

「ねぇ、今日は早く帰れるの?」

「なんだ、何か用事でもあるのか?」

「いや、別に……」

「お前もいずれは農家になるかもしれないんだ……今日の事を勉強しておくに越したことはない。」

    父に取り合おうとしても、占いがどうとか言った所でどうせ信じてくれないだろうし、私はどうする事もできなかった……。

「神父様が来たぞ!」

「おぉ~!」

    その時、周りの人々が急にざわめきだした。
    人々の注目の先を見てみると、そこには黒い服を来たスキンヘッドの男性がいた……皆に呼ばれている通りの「神父様」だ。
    ちょっと面が胡散臭くて気に入らない人だったけどね。

「今日は今年の麦の出来の程を確かめる試食会があると聞いてやってきたのですが……皆さんご盛況の様子で安心しました。」

「神父様!ウチのパンを食べていってください!」 

「私が作った雑穀スープも良いですぞ!」

    私と違って、皆神父様にひどく靡いていた。
    彼は色々な料理を試食し、彼らの料理を褒め讃えた後……唐突にこんな事を言い出したのだ。

「食は命の源。そしてこの世界は命が循環し成り立っているのです。私が信奉する「イテアス教」は他の宗派と違い、命を奪う事を悪とはしません。いや……そもそも「命を奪う」という事自体が言葉のあやというもの。全ての命は繋がっており、世界は命の繋がりによって成り立っているのです!」

「ひゅー!」

「イテアス様に感謝を!」

    イテアス教……この街の人々の殆どはその教えにしたがっているらしい。
    
「本日はこの教えを守り日々を逞しく生きている皆様方に、神の奇跡を与えるべくここに馳せ参じたのです。」

    神父はそう言うと、手を前に差し出し……何と何も無かった所から黒い花弁の花をポンと出現させてみせたのだ。

「おぉ!」

「これが、神の奇跡……!」
 
    皆試食会の事を忘れ、神父に夢中だ。
    私は今日に限っては、一刻でも早くこの街を離れたいというのに……。

「では、お見せしましょう……イテアスよ!偉大なる神よ!この地に……未来永劫の豊穣をもたらしたまえ!」

    声高らかにそう唱える神父。
    その場では特に何も起こってないように見えたけど、これが街の人達には大ウケしたみたいで……

「おぉ~……!」

    皆何かにあやかるように頭を下げはじめたので、私も一応頭を下げておく。

「さ、叔母さんの家に行こう。」

「行きましょう、ミネルバ。」

「う、うん……。」

 __

    あの日、あの場にいた皆が、神父の言葉を信じ「来年は豊作だろう」「次に植える苗が実った時は実り豊かな年になるだろう」と信じて疑わなかったのだろうか。
     
「明日が来る」と、そう信じていたのだろうか……。
 
    __この島国全土が謎の黒い植物に呑まれ、地図から存在が消されたのは、その晩の数時間の内に起こった出来事だった。



    私が次に目覚めた時、私は真っ暗な闇の中にいて、まるで永遠にも思えるような時間をそこで過ごしていたのだけど……ある時、外の様子が分かるようになった。

    私は人格を塗り替えられ、センジュという人間として異世界で生きている。
    狂死郎という人間の下僕として働き、1つの村の村人全員を皆殺しにした。
    私達の目的を阻止しようとする人達の中に「リョータロー」という人間がいて、彼は私と同じ世界から異世界に来た人間だった。
 
     以上の3つ。

     異世界というものが存在するという事、神父が出した黒い花弁の花、私の故郷を呑み込んだ黒い植物……何もおかしな事は無いと思っていたこの世界はおかしな事で満ち溢れていた……。

    故郷を奪われ、両親を奪われ、命も人格も奪われた私に何ができるのだろうと考えた時、思いつく事は1つしか無かった……
 
    「センジュ」から身体を奪い返し、生き返る事……ただそれだけ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...