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第4章<最終戦線>編
129話「冒険者の、覚悟」
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ベルが死神の攻撃を受け、おびただしい量の血を流しながら地面に倒れた。
この瞬間、タウラスは即座に死神への攻撃を止め頭をフル回転させベルを死なせない為の算段を立てる。
(ヤバイヤバイヤバイ!人が失血死するのにかかる時間は1分にも満たない!おまけに心臓をやられてるみたいだ……となると20秒!20秒以内に傷を治さなくちゃいけねぇ!それが俺にはできる!俺の百獣変化は幅広い使い方ができる……足を足の速いモンスターの足に変化させれば俺も足が速くなる!翼を生やせば空を飛べる……治癒の特性を持つモンスターの身体に変化させれば……俺自身がヒーラーになれる!)
思考時間3秒。
「イヤシカズラ!」
タウラスは即座に左腕を変化させる。
タウラスの左腕は3秒ほどかけて、みずみずしい実が5個成っている植物のような形に変化した。
治癒効果を持つ実を実らせる植物とモンスターの中間生物、イヤシカズラというモンスターがおり、いざという時その治癒能力が役に立つかもしれないとタウラスはその知識を頭の隅に入れていた。
「っ……おぉぉ!」
そしてタウラスはイヤシカズラに変化させた自分の左腕を、虫型モンスター、スラッシュマンティスの刃に変化させた右腕で切断する。
左腕を切断するという覚悟と切断するのに4秒。
「ドラコ!!受け取れ!!」
そして右腕を元に戻し切断した左腕を勢いよくドラコ、ベル、仁美の元に投げる。
タウラスの左腕が投げられ、それをドラコがキャッチするまでに4秒。
「っ……!!アニキ!!腕が__」
「いいから治癒だ!!」
「あ、あぁ!!」
タウラスからベルの治癒を急ぐ事を迫られたドラコは即座にイヤシカズラの実を握りつぶし、絞り出された治癒液をベルの傷口に滴らせる。
この間4秒……ベルは命を失う2秒手前でなんとか踏みとどまった。
「こ、これでいいのか……?」
「1つ使っただけでは応急処置に過ぎません……実はあと4個あります……あと2個ほど使えば……。」
「そ、そもそもアンタティアマトなんだろ!凄いやつなんだろ!治癒魔術ぐらい使えるんじゃないのか?」
「ごめんなさい……気が動転して……。」
「……そーかよ。」
仁美が「自分が治癒魔術を使えていれば」と苦悩していたように、ドラコもまた手はベルを治癒する為に動いていても頭では悩んでいた。
タウラスが左腕を無くしてしまった事とベルが死なずに済んだこと、仁美が肝心な時に役に立たなかったこと、そんな仁美を、死神との戦いに割って入れなかった自分に責める資格があるのかということ、様々な思いが頭の中で混じりあって、そして……
ガンッ!
「ド、ドラコさん……?」
ドラコは持っていた浄魂の剣の腹に自分の頭をぶつける。
それによって額から血が垂れ流れる。
「あの、血が……」
「……俺はバカのガキだからよ。悩むなんてらしくねぇ、ガキはガキらしく自分のやりてえ事やるだけだ!そのやりてえ事ってのは……」
ドラコはその場から駆け出し、タウラスの元へと駆けつける。
「ドラコ!?」
「ベルはなんとか死なずに済んだみたいだけど……。」
「そ、それは良かったんだが……お前は……」
「浄魂の剣はティアマトの子に対して効果を発揮するんだろ?だから剣士である俺かベルがいないとダメじゃねーか。ベルは今は戦えない……だから俺が来た!」
「相手は神獣レベルのモンスターだ。それに何故だか殴っても殴っても死なねぇ……何か厄介なカラクリがあるモンスターみてぇだ。俺はやつを倒す事だけに専念するからお前が危なくなった時はお前を守り切れるとは言いきれねぇぞ。それでもやるのか?」
「やるに決まってんだろ!」
ドラコは覚悟を決めた表情でそう宣言する。
その間に死神は大鎌を構えて2人の出方を伺う。
「俺は……あの日アニキが助けてくれたから今ここにいられるんだ……だからこれは……恩返しってやつだよ!」
「……そうか……なら、力貸してくれよ!」
「もちろんだぜ!」
ドラコはタウラスの言葉に不敵な笑みを浮かべながらそう答える。
◇
一方、ベルの傍で2人の様子を見ている仁美は、先程の自分の不甲斐なさを悔やんでいた。
(……動けなかった。ベルさんが死にそうになって、頭の中ではすぐに治癒魔術を使おうとしたのに……動けなかった……!)
仁美は、狂死郎ら鬼人族がいたずらに恐怖を振りまいていた時代に生きていた故に人一倍臆病な性格だった。
そして人一倍、過去の失敗や過ちを悔やむ人間でもあった。
影の一味と皆が戦っている……皆が影の一味という「恐怖」と戦っている……そんな勇敢な彼らを誰かが責める資格など無いのだ。
だが責任感の強い仁美はベルがやられた時動けなかった自分を責めた。
「……もうこんな思いしたくない……私も良太郎さん達と戦う1人の人間なんだ……せっかく持ってるティアマトの力、上手く使えなかったなんて言い訳はできない!私は……!」
「ヒトミさん!」
「え……?」
その時、仁美の元に1人の冒険者が現れた……急いで来たのか、とても切羽詰まっているような様子だ。
「どうしたのですか?」
「それが……冒険者達が次々に倒れていって……!」
「強力なモンスターにやられたのですか!?」
「いや、それが違うらしくて……皆、突然意識を失ったみたいに倒れていってるんです……!」
「なんですって……!?」
仁美の頭に良くない考えが浮かんだ。
冒険者から聞いた不可解な現象……そして何度攻撃しても死なない死神……そこから導き出された仁美の考え、それをなんとしてもタウラスとドラコに伝えなくてはならないと考えた仁美はその冒険者に伝言をお願いする。
「死神と戦ってるドラコさんとタウラスさんに伝えてください!」
「はい?」
「あの死神は……生者の命を糧として、無限の生命力を得ているという事を!」
今、冒険時達と死神の戦いが大きく動き出そうとしていた……。
この瞬間、タウラスは即座に死神への攻撃を止め頭をフル回転させベルを死なせない為の算段を立てる。
(ヤバイヤバイヤバイ!人が失血死するのにかかる時間は1分にも満たない!おまけに心臓をやられてるみたいだ……となると20秒!20秒以内に傷を治さなくちゃいけねぇ!それが俺にはできる!俺の百獣変化は幅広い使い方ができる……足を足の速いモンスターの足に変化させれば俺も足が速くなる!翼を生やせば空を飛べる……治癒の特性を持つモンスターの身体に変化させれば……俺自身がヒーラーになれる!)
思考時間3秒。
「イヤシカズラ!」
タウラスは即座に左腕を変化させる。
タウラスの左腕は3秒ほどかけて、みずみずしい実が5個成っている植物のような形に変化した。
治癒効果を持つ実を実らせる植物とモンスターの中間生物、イヤシカズラというモンスターがおり、いざという時その治癒能力が役に立つかもしれないとタウラスはその知識を頭の隅に入れていた。
「っ……おぉぉ!」
そしてタウラスはイヤシカズラに変化させた自分の左腕を、虫型モンスター、スラッシュマンティスの刃に変化させた右腕で切断する。
左腕を切断するという覚悟と切断するのに4秒。
「ドラコ!!受け取れ!!」
そして右腕を元に戻し切断した左腕を勢いよくドラコ、ベル、仁美の元に投げる。
タウラスの左腕が投げられ、それをドラコがキャッチするまでに4秒。
「っ……!!アニキ!!腕が__」
「いいから治癒だ!!」
「あ、あぁ!!」
タウラスからベルの治癒を急ぐ事を迫られたドラコは即座にイヤシカズラの実を握りつぶし、絞り出された治癒液をベルの傷口に滴らせる。
この間4秒……ベルは命を失う2秒手前でなんとか踏みとどまった。
「こ、これでいいのか……?」
「1つ使っただけでは応急処置に過ぎません……実はあと4個あります……あと2個ほど使えば……。」
「そ、そもそもアンタティアマトなんだろ!凄いやつなんだろ!治癒魔術ぐらい使えるんじゃないのか?」
「ごめんなさい……気が動転して……。」
「……そーかよ。」
仁美が「自分が治癒魔術を使えていれば」と苦悩していたように、ドラコもまた手はベルを治癒する為に動いていても頭では悩んでいた。
タウラスが左腕を無くしてしまった事とベルが死なずに済んだこと、仁美が肝心な時に役に立たなかったこと、そんな仁美を、死神との戦いに割って入れなかった自分に責める資格があるのかということ、様々な思いが頭の中で混じりあって、そして……
ガンッ!
「ド、ドラコさん……?」
ドラコは持っていた浄魂の剣の腹に自分の頭をぶつける。
それによって額から血が垂れ流れる。
「あの、血が……」
「……俺はバカのガキだからよ。悩むなんてらしくねぇ、ガキはガキらしく自分のやりてえ事やるだけだ!そのやりてえ事ってのは……」
ドラコはその場から駆け出し、タウラスの元へと駆けつける。
「ドラコ!?」
「ベルはなんとか死なずに済んだみたいだけど……。」
「そ、それは良かったんだが……お前は……」
「浄魂の剣はティアマトの子に対して効果を発揮するんだろ?だから剣士である俺かベルがいないとダメじゃねーか。ベルは今は戦えない……だから俺が来た!」
「相手は神獣レベルのモンスターだ。それに何故だか殴っても殴っても死なねぇ……何か厄介なカラクリがあるモンスターみてぇだ。俺はやつを倒す事だけに専念するからお前が危なくなった時はお前を守り切れるとは言いきれねぇぞ。それでもやるのか?」
「やるに決まってんだろ!」
ドラコは覚悟を決めた表情でそう宣言する。
その間に死神は大鎌を構えて2人の出方を伺う。
「俺は……あの日アニキが助けてくれたから今ここにいられるんだ……だからこれは……恩返しってやつだよ!」
「……そうか……なら、力貸してくれよ!」
「もちろんだぜ!」
ドラコはタウラスの言葉に不敵な笑みを浮かべながらそう答える。
◇
一方、ベルの傍で2人の様子を見ている仁美は、先程の自分の不甲斐なさを悔やんでいた。
(……動けなかった。ベルさんが死にそうになって、頭の中ではすぐに治癒魔術を使おうとしたのに……動けなかった……!)
仁美は、狂死郎ら鬼人族がいたずらに恐怖を振りまいていた時代に生きていた故に人一倍臆病な性格だった。
そして人一倍、過去の失敗や過ちを悔やむ人間でもあった。
影の一味と皆が戦っている……皆が影の一味という「恐怖」と戦っている……そんな勇敢な彼らを誰かが責める資格など無いのだ。
だが責任感の強い仁美はベルがやられた時動けなかった自分を責めた。
「……もうこんな思いしたくない……私も良太郎さん達と戦う1人の人間なんだ……せっかく持ってるティアマトの力、上手く使えなかったなんて言い訳はできない!私は……!」
「ヒトミさん!」
「え……?」
その時、仁美の元に1人の冒険者が現れた……急いで来たのか、とても切羽詰まっているような様子だ。
「どうしたのですか?」
「それが……冒険者達が次々に倒れていって……!」
「強力なモンスターにやられたのですか!?」
「いや、それが違うらしくて……皆、突然意識を失ったみたいに倒れていってるんです……!」
「なんですって……!?」
仁美の頭に良くない考えが浮かんだ。
冒険者から聞いた不可解な現象……そして何度攻撃しても死なない死神……そこから導き出された仁美の考え、それをなんとしてもタウラスとドラコに伝えなくてはならないと考えた仁美はその冒険者に伝言をお願いする。
「死神と戦ってるドラコさんとタウラスさんに伝えてください!」
「はい?」
「あの死神は……生者の命を糧として、無限の生命力を得ているという事を!」
今、冒険時達と死神の戦いが大きく動き出そうとしていた……。
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