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第3章<怪物と少女>編
96話「戦士、旅立つ」
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今日もいつものように、私達は良ちゃんの入院している病院にお見舞いに来ている。
でも良ちゃんは起きない……まるで魂を抜かれたみたいにしている。
あの事故からまだ2週間ぐらいしか経過していない……もしかしたら良ちゃんが目覚めるのは明日かもしれないし、1年後かもしれないし、もっと先かもしれない……。
「おーい、良いのか良太郎?今の俺、林檎ちゃんと花菜で両手に花だぞ~?羨ましくて目が覚めちゃうんじゃないか~?ん?ん?」
「バカな事言うんじゃないの。」
一真君は良ちゃんの顔を覗き込んでおかしな事を言って起こそうと試みるけど、花菜ちゃんに頭を叩かれて怒られる。
「先生、打ちどころが良くて怪我は直に治るって言ってたよな?それで意識もすぐに回復するだろうって……でも良太郎はまだ寝たきりだ。そんな事になってる理由ってさ、こいつが鬼__」
「……」
「……いや、なんでもねぇや。コンビニ行ってお菓子でも買おうぜ。俺は週刊少年スコープも買いてぇけどさ。」
「……うん。花菜ちゃん、ピプコ買って半分こしようよ。」
「良いわよ……いつか良太郎も合わせて4人でアイス食べたり、漫画読んだり、色んな所に遊びに行ったり……そうできると良いわね。」
「うん。」
「あぁ。」
そうして私達は良ちゃんにまたねと別れの挨拶を告げて病院を後にした。
一真君の言った通り、私は花菜ちゃんと一緒にアイスのピプコを買って半分こして、一真君は雑誌コーナーで週刊少年スコープの最新刊を買って各々自宅に帰宅した。
◇
「ただいま。」
「……おかえり。」
私が家に帰ってくると、母が夕食の準備をして待っていた。
妹の苺は部屋で宿題をしているんだろう。
私は学校で宿題をしてから病院に行ったので、まずはお風呂に入る事にする。
いつも脱衣所で服を脱ぐ度に見る事になる、下腹部のこの傷を私はそっと撫でる。
この傷ができた時、私はお医者さんにこう言われた、「内蔵が損傷していて、将来出産に影響するかもしれない」と。
この傷を付けたのは良ちゃんだ。
あの日良ちゃんは突然凶暴になって、それまで忘れていた「鬼島良太郎は鬼人族である」という真実を、私に強く思い返させた。
でも、私はその時……良ちゃんが突然凶暴になった「後」の記憶は覚えていない。
これ程大きな傷を付けられたというのに、痛みに悶え苦しんだ記憶や、良ちゃんがどうやってこの傷を私に付けたのか、その一切を私は忘れている。
良ちゃんを恨んでいるかと聞かれたら、正直よく分からない。
でも、良ちゃんは悪くない気がする。
彼はそんな事するような人じゃないと信じたいから。
いつだったか良ちゃんは私に夢を語ってくれた……「人を守る人になりたい」という夢だ。
そんな夢を抱く良ちゃんが、そんな事する訳……。
「ふぅ……。」
色々と思い詰めながら、私はお風呂を出る。
その時にはもう食卓の上には夕食が用意されており、苺は既に食事を口にしていた。
「林檎。夜ご飯できたわよ……。」
「うん。」
母は私に夕食を食べるよう促し、私はいただきますと言って箸で夕食を口に運ぶ。
母の目元にはくまができている。
今に始まった事じゃない……良ちゃんが昏睡状態になってから、母は寝不足になったそうだ。
母はあの傷の一件以来、良ちゃんの事を酷く嫌っていた。その対象である良ちゃんが命の危機に晒された時、母はどう思ったのだろうか。
私には分からない……私も母も分からない事ばかりだ……良ちゃんが帰ってきたら、もう色々と考える事は無くなるだろうか。
いや、そうじゃない。
私はただ純粋に、良ちゃんが好きだから……帰ってきて欲しい。
◇
ビュオォォォォォォォォォ
鋭い音を立てながら俺の体はだんだんと上昇していき、ついに雲をも突き破って雲の上までたどり着いた。
「……」
そして、雲の上の真っ青な世界を見渡した後、地上に向けて高速で降下していく。
このスピードだとGとか色々凄そうだけど、この鉄の身体には問題無い。
鍛冶師のグルさんはいいモノを作ってくれた……彼には感謝しなければ。
ブァァァァ……
俺は地上スレスレの所で急停止し、速度を殺してゆっくりと地上に降り立つ。
これは先程グルさんから貰ったこのゴーレムの身体用の「あるパーツ」のテストなのだ。
「リョータロー君凄いわ!あんなスピードで空を自由自在に飛べるなんて!」
「うん!空を飛ぶのって、凄く気持ち良かったよ!」
「グルさんも凄いこと考えるわよね~……そんなパーツを作ろうだなんて。というか、そのパーツを作る事も見越してウイングユニットっていう武器を作ったのかしら?」
「きっとそうだと思うよ。このパーツのお陰で俺はウイングユニットと合体して空を飛べた……凄いパーツだな。」
俺は傍に駆け寄ってきたマリーネとそんな会話をする。
俺が使ったパーツとはズバリ、俺のゴーレムの身体とウイングユニットを「合体」する為のアタッチメントパーツなのだ。
ウイングユニットは自立飛行できる。
じゃあ俺のゴーレムの身体とウイングユニットが合体すれば?
そう、ウイングユニットを装備したゴーレムは空を飛べるのだ!
「これがあれば今後の戦いに役立つかもしれないわね。その力で頑張ってね!リョータロー君!」
「うん!」
「リョータローさーん!マリーネさーん!出発の準備ができましたよー!」
「「はーい!」」
その時ヒトミさんが俺とマリーネを呼び、俺は変身を解除してマリーネと共にマリーネ宅に戻る。
そこには2匹の竜によって引かれる竜車と、イブさん、ヒトミさん、そして「助っ人」が1人……俺達はこのメンバーで王国アトラのフリーゼル山にある、ビャッコさんから託された「秘密兵器」を取りに行く。
「では……よろしくお願いします!イブさん!ヒトミさん!マリーネ!そして……ソレイユさん!」
「準備はいいな?」
「行きましょう……王国アトラへ!」
「私、頑張るわ!」
「全力で……君達の力になろう。」
助っ人である特級冒険者ソレイユさんを加え、ここから始まる……秘密兵器回収作戦が!
でも良ちゃんは起きない……まるで魂を抜かれたみたいにしている。
あの事故からまだ2週間ぐらいしか経過していない……もしかしたら良ちゃんが目覚めるのは明日かもしれないし、1年後かもしれないし、もっと先かもしれない……。
「おーい、良いのか良太郎?今の俺、林檎ちゃんと花菜で両手に花だぞ~?羨ましくて目が覚めちゃうんじゃないか~?ん?ん?」
「バカな事言うんじゃないの。」
一真君は良ちゃんの顔を覗き込んでおかしな事を言って起こそうと試みるけど、花菜ちゃんに頭を叩かれて怒られる。
「先生、打ちどころが良くて怪我は直に治るって言ってたよな?それで意識もすぐに回復するだろうって……でも良太郎はまだ寝たきりだ。そんな事になってる理由ってさ、こいつが鬼__」
「……」
「……いや、なんでもねぇや。コンビニ行ってお菓子でも買おうぜ。俺は週刊少年スコープも買いてぇけどさ。」
「……うん。花菜ちゃん、ピプコ買って半分こしようよ。」
「良いわよ……いつか良太郎も合わせて4人でアイス食べたり、漫画読んだり、色んな所に遊びに行ったり……そうできると良いわね。」
「うん。」
「あぁ。」
そうして私達は良ちゃんにまたねと別れの挨拶を告げて病院を後にした。
一真君の言った通り、私は花菜ちゃんと一緒にアイスのピプコを買って半分こして、一真君は雑誌コーナーで週刊少年スコープの最新刊を買って各々自宅に帰宅した。
◇
「ただいま。」
「……おかえり。」
私が家に帰ってくると、母が夕食の準備をして待っていた。
妹の苺は部屋で宿題をしているんだろう。
私は学校で宿題をしてから病院に行ったので、まずはお風呂に入る事にする。
いつも脱衣所で服を脱ぐ度に見る事になる、下腹部のこの傷を私はそっと撫でる。
この傷ができた時、私はお医者さんにこう言われた、「内蔵が損傷していて、将来出産に影響するかもしれない」と。
この傷を付けたのは良ちゃんだ。
あの日良ちゃんは突然凶暴になって、それまで忘れていた「鬼島良太郎は鬼人族である」という真実を、私に強く思い返させた。
でも、私はその時……良ちゃんが突然凶暴になった「後」の記憶は覚えていない。
これ程大きな傷を付けられたというのに、痛みに悶え苦しんだ記憶や、良ちゃんがどうやってこの傷を私に付けたのか、その一切を私は忘れている。
良ちゃんを恨んでいるかと聞かれたら、正直よく分からない。
でも、良ちゃんは悪くない気がする。
彼はそんな事するような人じゃないと信じたいから。
いつだったか良ちゃんは私に夢を語ってくれた……「人を守る人になりたい」という夢だ。
そんな夢を抱く良ちゃんが、そんな事する訳……。
「ふぅ……。」
色々と思い詰めながら、私はお風呂を出る。
その時にはもう食卓の上には夕食が用意されており、苺は既に食事を口にしていた。
「林檎。夜ご飯できたわよ……。」
「うん。」
母は私に夕食を食べるよう促し、私はいただきますと言って箸で夕食を口に運ぶ。
母の目元にはくまができている。
今に始まった事じゃない……良ちゃんが昏睡状態になってから、母は寝不足になったそうだ。
母はあの傷の一件以来、良ちゃんの事を酷く嫌っていた。その対象である良ちゃんが命の危機に晒された時、母はどう思ったのだろうか。
私には分からない……私も母も分からない事ばかりだ……良ちゃんが帰ってきたら、もう色々と考える事は無くなるだろうか。
いや、そうじゃない。
私はただ純粋に、良ちゃんが好きだから……帰ってきて欲しい。
◇
ビュオォォォォォォォォォ
鋭い音を立てながら俺の体はだんだんと上昇していき、ついに雲をも突き破って雲の上までたどり着いた。
「……」
そして、雲の上の真っ青な世界を見渡した後、地上に向けて高速で降下していく。
このスピードだとGとか色々凄そうだけど、この鉄の身体には問題無い。
鍛冶師のグルさんはいいモノを作ってくれた……彼には感謝しなければ。
ブァァァァ……
俺は地上スレスレの所で急停止し、速度を殺してゆっくりと地上に降り立つ。
これは先程グルさんから貰ったこのゴーレムの身体用の「あるパーツ」のテストなのだ。
「リョータロー君凄いわ!あんなスピードで空を自由自在に飛べるなんて!」
「うん!空を飛ぶのって、凄く気持ち良かったよ!」
「グルさんも凄いこと考えるわよね~……そんなパーツを作ろうだなんて。というか、そのパーツを作る事も見越してウイングユニットっていう武器を作ったのかしら?」
「きっとそうだと思うよ。このパーツのお陰で俺はウイングユニットと合体して空を飛べた……凄いパーツだな。」
俺は傍に駆け寄ってきたマリーネとそんな会話をする。
俺が使ったパーツとはズバリ、俺のゴーレムの身体とウイングユニットを「合体」する為のアタッチメントパーツなのだ。
ウイングユニットは自立飛行できる。
じゃあ俺のゴーレムの身体とウイングユニットが合体すれば?
そう、ウイングユニットを装備したゴーレムは空を飛べるのだ!
「これがあれば今後の戦いに役立つかもしれないわね。その力で頑張ってね!リョータロー君!」
「うん!」
「リョータローさーん!マリーネさーん!出発の準備ができましたよー!」
「「はーい!」」
その時ヒトミさんが俺とマリーネを呼び、俺は変身を解除してマリーネと共にマリーネ宅に戻る。
そこには2匹の竜によって引かれる竜車と、イブさん、ヒトミさん、そして「助っ人」が1人……俺達はこのメンバーで王国アトラのフリーゼル山にある、ビャッコさんから託された「秘密兵器」を取りに行く。
「では……よろしくお願いします!イブさん!ヒトミさん!マリーネ!そして……ソレイユさん!」
「準備はいいな?」
「行きましょう……王国アトラへ!」
「私、頑張るわ!」
「全力で……君達の力になろう。」
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