異世界起動兵器ゴーレム

ヒカリ

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第2章<鋼の心>編

56話「固める決心」

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    俺が好きだった人、野原林檎との出会いは今でも鮮明に覚えている。
    俺は幼い頃から友達がいなくて、いつも1人で本を読んでいた。
    誰とも関わること無く、1人で黙々と……。

「何読んでるの?」

「え……?」

    でも、その日は1人の女の子が声を掛けてきた。小学校に入学したばかりの頃で、僕も彼女もまだ幼かったある日の事だ。

「ぼくのおとうさんはウルトラファイター……?それ、面白い本なの?」

「……うん。」

「じゃあ私にも見せて!」

「えぇ……その……えっと……。」

    その子は、俺が他人との間に作っていた溝を乗り越え、俺の隣に並んでくれた。
    そんな林檎ちゃんに、僕が惹かれるのもごく自然な事だった。
    俺の見た目が他人と違っても、俺が人から恐れられる人種であっても、彼女はその壁を超えて俺を助けてくれたんだ……。



「鬼島……狂死郎……だって?」

「そうだよ。会えて嬉しいよ、良太郎君。世代のかけ離れた先祖と子孫が出会うなんて、本来有り得ない事だけど……この異世界ならそれが有り得るんだね。」

    マリーネ達と共に竜嵐と戦っていた俺はセンジュに捕まって、気がついたらここに……そして俺の目の前にいるこの男は、自らを鬼島狂死郎と名乗った。
    鬼島……俺と同じ姓……

「「リョータロー君……?」」

「!?」

    ふと耳慣れた声が聞こえた。俺がそちらに振り向くと、そこにいたのはマリーネだった。
    マリーネもここに連れ去られていたのか……!
    って、声が重なって聞こえたような気が……そう思って俺はもう1つの声が聞こえた方を見てみる。そこにいたのは……。

「セリエ……!」

「リョータロー……マリーネ……ごめん……私が守っていたのに……占拠されてしまった……!」

   そこにいたのは、このティアマトへと至る道しるべのある洞窟を守っていたハズのセリエだった。
    あんなに強かったセリエが捕まるなんて……!

「センジュ、余計な人間を連れてきたのか?」

「悪ぃなリーダー。転移に巻き込んじまったみてぇだ。」

    狂死郎とセンジュはそんなやり取りをする。
    ていうか……俺が鬼人族だって、マリーネは聞いてたか?聞いてたよな……だってそこにいたんだから。

「リョータロー君……本当なの?貴方は……人を喰う人種なの……?」

「マリーネ……。」

    とにかく今は狂死郎の目的を聞かなくては。センジュやシャナのリーダーとやらが何のために人々を襲うのか、それを今まさに目の前にいる、張本人に問いただす……!

「狂死郎!お前の目的はなんだ!」

「僕は鬼人族……人を喰らう者。僕は人を喰らうのが大好きなんだ。だからその為に……僕が人を喰いやすい世界を作る。僕が世界の頂点に君臨する事で、その野望は果たされるのさ。」

「そんな事の為にアストレアの村人達を……!」

    マリーネは狂死郎の明かした目的を聞いて、杖を握りしめ彼に敵意を向けている。

「それよりも……どうだいマリーネ?君の大切なパートナーは、自分が人を喰らう恐ろしい食人鬼だと言う事を黙っていたんだよ?」

    狂死郎の言う通りだ。俺はマリーネに大切な話をするのを躊躇っていた。
    こんな事マリーネに言って、遠ざけられたらどうしようと、考えなかった日は無い。

「……でも、リョータロー君は心優しいただの男の子よ!人喰いなんかする訳……」

「あぁそうそう、隠し事をしていたのはマリーネも同じ事なんだっけ?」

「え……?」

    狂死郎は見透かしたような態度でマリーネにそう言う。
    マリーネが……隠し事……?

「君がゴーレムを作った理由だよ。君には弟がいた。でもある事件でそれを失ってしまって……君は弟の代わりが欲しくてゴーレムを作ったんだろう?」

「それは……!」

「リョータロー君!君はマリーネにとっては弟の代わりでしかないんだよ?マリーネが見ているのは、君の中にある弟の影であって、君自身ではない……!」

「そうだよお兄ちゃん!その女は最悪な女なの!」

    その時、後ろから声が聞こえた。幼い女の子の声で、聞いた事のある声だ。
    俺が背後に振り向くと、そこにはシャナとリュウカがいた。影の一味勢揃いって訳か……。

「リョータロー君……違うの、私は……」

「良太郎君!そんな女よりも、僕達と共に行こう!僕がこのティアマトと出会う術を実行してティアマトの力を完全に掌握し、その力によって世界を支配した後も君は同族の交で僕の仲間にしてあげるよ!だから……。」

    悪役という物は甘い提案で主人公を誘惑してくる。特撮やアニメでよく見てきた悪役の手法だ。
    でもその前に、俺はマリーネと向き合って話がしたい。

「リョータロー君……ごめんなさい……アイツの言う通り、私は死んだ弟の代わりにゴーレムを……。」

「良いんだマリーネ。俺だってマリーネに話していない事はあった。僕は狂死郎の同族なんだ。実際にこの手で……人を喰い殺そうとした事もある。」

「リョータロー君……。」

    それからしばらく、俺とマリーネの間に沈黙の時が続いた。
    話がしたいとは思ったが、マリーネになんと言えば良いのか悩み、俺は頭の中で必死に言葉を構築した。
    マリーネはその間俺の答えを待ってくれていた。
    影の一味も俺達に何かしてくる事も無く、俺は言葉を考える時間を得られた。
    その機会を無駄にしない為に、必死に言葉を構築し、それをマリーネに向けて吐き出す。

「でも俺は鬼人族の血を否定したい。俺自身がどんなに凶暴な種族だとしても……俺は俺自身を否定する。俺は鬼人族じゃない。鬼島良太郎だ。だから……俺と一緒に戦ってくれないかな?」

    俺はなんとかマリーネを説得しようとするが、俺の言葉はマリーネに通じるのだろうか……。

「……分かったわ。貴方は正しい心を持っている。そう信じて私はリョータロー君と一緒に戦う。だから私も……過去の未練なんか振り払ってリョータロー君と向き合ってみせるから!」

「ありがとう、マリーネ。一緒に戦おう。」

「ええ。どんなに辛い過去も、乗り越えられない事は無いわ!」

    その瞬間、俺とマリーネはお互いの心を理解し、心を通い合わせる事ができた気がした。
    俺が狂死郎の同族であろうと、マリーネが過去に縛られてようと、俺達はそれを乗り越える決意をした。

「狂死郎!俺達はお前の目的を止める!俺は子供の頃、ヒーローに憧れてた。俺は俺の心のままにお前と戦う!」

「私は……もういない弟の影を振り払って、今生きてるリョータロー君と向き合う!そしてアンタからこの世界の人々を守り抜く!」

    俺とマリーネは狂死郎を睨みつけ、決別の意思を彼に伝える。
    これが俺達の答えだ。分かったら……!?

「そうか……。」

「!!」

    なんだ、あの狂死郎の目は……まるで人を何十人も、何百人も殺してきたかのような目は……! 

「怖い?リョータロー君。」

「うん。でも……負けない!」

「そうか……なら……。」

   敵がどれだけ強くても、俺達は退かないと決意し心に火をつける。それに対して狂死郎は、右手をゆっくりと上げ、何かをしようとしてくる。
   その瞬間……。

「マリーネ!」

    俺が気づいた頃には、既にマリーネの背後に黒い触手が近づいていた。
    このままではマリーネが……!そう思った俺は、ゴーレムの身体をガシャガシャと鳴らして必死に彼女を助けようとするが……。







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