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14.チョコレートドラゴンの巣穴へ

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 小鳥がさえずる爽やかな明朝だ。俺は良助に日の出の直前にたたき起こされて、ぼうっと昨晩のことを考えながら身支度をした。即ちそれは『夢だったのか?』という風に。良助も、ブラウニーさんもシスターも、今までと変わらない様子で俺に『おはよう』『『おはようございます』』と挨拶をしてわずかに微笑んだから、ああそっか。やっぱり昨日のは俺の夢だったんだ。俺ってば欲求不満(てへぺろ)。何も言わないシスターの様子もあり、そう思って四人で街の出入り口まで向かうと、そこには昨日酒場で出会った赤い狼耳の大柄な獣人『フォレスト』さんが大振りな斧を二本、背中に担いで待っていた。

「時間通りだな。では向かおう」
「はいっ、お願いします」

 それにしても何だかスッキリしている。俺のお肌もつやつやしている気もするし、なんだろう爽快だ。フォレストさんの後ろについて、俺たちは歩きでチョコレートドラゴンが住むという巣穴へ、平原の街道を歩いている。

「ところでフォレストさん。ドラゴンが、その力を増幅させているっていうのは?」
「ああ、」

 ドラゴン退治に行くというのに緊張感のない俺の声色、しかしその内容にフォレストさんは眉を曲げて、パーティの先頭を守って歩みながら言葉を続ける。

「生贄を捧げる度に、やつの火の粉の勢いが増しているのだ」
「それって恵みの……?」
「チッ、何が恵みなことか。人の命を代償に得る貿易品に、どんな価値があると思っている」
「あっ、す、すみません俺、」

 街で得た情報を言っただけとはいえ、子供を生贄にとられたフォレストさんには『恵みの火の粉』なんていうのは嫌いな言葉だったらしい。俄かに焦ってシュンとする俺の頭を、俺の隣を歩いていたシスターがヨシヨシと撫ぜてきた。

「フォレスト様。ヘータ様に悪気はありませんのよ」
「そんなことはわかっている」
「そんなにピリピリしていては、退治できるものも退治できなくなりますわ」
「……くそっ」

 シスターに宥められてフォレストさんはそう悪態をつくが、シスターの手の平の温かさに俺は昨晩の夢を思い出して少し頬を赤くする。おれ、シスターにあんなことされたいと思ってるのかな。シスターは男の人なのに……思っているとシスターが耳元に唇を寄せて、俺だけにひっそりと囁いてきた。

「あれからゆっくり眠れましたか、ヘータ様?」
「へぁっっ!!?」
「昨晩のヘータ様は、ほんとうに可愛かったですの」

 それってつまり、つまりつまりあれが夢じゃなかったということか!? やっべー俺、おれやっぱりシスターにあんな悪戯されたんじゃん!? 一気に顔を沸騰させる俺に良助は気が付かず、周りを警戒しては遠い地平線までを眺めて呟く。

「この街道には、モンスターの気配がないな」

 確かに、はっと気が付いて首を振り、赤ら顔を元に戻してから俺の前を行く良助に同意する。

「本当に、この国に入ってからモンスターにはあっていませんね、皆!?」
「ここ周辺はチョコレートドラゴンの縄張りなのです勇者様。やつがいるかぎり、そこらの雑魚モンスターが好き勝手することはないでしょう」
「ふん、皮肉なことだ」

 チョコレート連合国出身のブラウニーさんが言うのだから間違いないのだろう。フォレストさんは忌々し気に歯を食いしばったけれど、そういう役割も持つチョコレートドラゴンは、本当に人間の敵なのだろうか。やはり俺には疑問で、でもフォレストさんの手前それを言うのもはばかられて、それに実際やつは生贄を連れ去っている。なんだか、いろんな事がちぐはぐな気がする。恵みの火の粉。ヴェイグ教のお告げ。王様の命令。ひと月に一度の生贄。恵みの増幅。街道の平和。いや、理にかなっていると言えばそうなのだろうか……俺には良く解らないけれど、とにかく俺は、きっとドラゴンと話がしたい。と、そうひとりだけ思っていた。

 本当に半日ほど歩いて、時刻は昼ごろである。朝食を食べ損ねたから俺はお腹が空いていて、そんな俺にシスターが干し肉を渡してくれた。それをもぐもぐしている所に噴火によりできたというドラゴンの巣穴、ごろごろと隆起した岩場が見えてくる。

「ヘータよ、あれがドラゴンの巣穴だ。奴はまだ眠っているかもしれないが、何せ人食いドラゴンだからな。気を付けろ」
「わ、わかりました……けど、その皆」

 干し肉を飲み込んで、結構呑気だが無鉄砲な所もある俺は武器を構えた皆に提案する。

「取りあえず、あの。武器を構えるのはやめてもらえますか?」
「あら。構えておかないと、いざという時にヘータ様を助けられませんわ」
「そうです勇者様。いくら勇者様が慈悲深いお方だとしても、相手は人食いドラゴンでございます」
「この前のリスとはわけが違うぞ、平太」

 岩場に近づきながら仲間の三人にそう言われて、皆は武器を構えたままで、だから俺は『うーん』と唸ってから手を叩く。

「そうだ! だったら先に、俺が様子を見てきます。ドラゴンも眠っているかもという話ですし、俺には殺気なんてものも無いし、きっとドラゴンは気が付きませんよ」
「危険すぎる。ヘータ、お前が本当に勇者だとは言っても、俺はお前ほどの子供をまた、亡くしたくはない」
「フォレストさん、」

 そうだ。フォレストさんの根幹にあるのは優しさなのだ。口も悪くて大柄で、見た目は怖いフォレストさんだけれど、ドラゴンに立ち向かうのだって彼にはわけがあってのこと。しかし、

「大丈夫ですよ。あっ、なんなら良助だけでも連れていきましょうか」
「むっ、弓使いか」
「良助、良いかな? あっ、もちろん弓矢は出さないでな」
「……はあ」

 俺が呑気で無鉄砲で、でも言っても聞かない人間だということを良助は知っている。ため息をついて、他三名を見やって、頷いてみせてくれる。

「わかった。お前のことは俺が、責任をもって守る。皆さんも、外で一旦待っていてください」
「まあリョースケ様……」
「シスター。大丈夫です、俺は『最強の弓使い』で『無限の弓矢』を持っている。いざというときは平太だけでも逃がしてみせます」

 真に迫る様な良助の確固たる表情を見ては、呑気そうな俺に言われたのとは違って皆も頷くしかなかったようだ。皆は岩場の陰に一旦隠れて待機して、俺と良助の幼馴染コンビでもって、俺たちはドラゴンの、うす暗い巣穴の中へと入っていった。
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