召喚魔王様がんばる

雑草弁士

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第47話 『ヴァルタール帝国』侵攻作戦開始

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 わたし、アオイ、ザウエル、オルトラムゥ、ガウルグルク、鉄之丞、ゼロの7名は、新生魔王軍の緊急幹部会議を開いていた。なおバルゾラ大陸におらず、アーカル大陸で任に当たっているオルトラムゥ、ガウルグルク、ゼロの3名は『通話水晶』による映像での会議参加である。

 わたしはおもむろに言葉をつむぐ。

「諸君、いよいよアーカル大陸全土を我々の物とする時が来たよ。ザウエル、説明を頼む」
「はっ!」

 ザウエルはわたしの命に応え、状況説明を開始する。

「魔道軍団の間諜による報告では、『ヴァルタール帝国』各地で住民の暴動や反乱が同時多発的に発生しています。まあ、同じく魔道軍団の工作員が仕掛けたことなんですけどね、同時多発的にって言うのは。
 『ヴァルタール帝国』はアーカル大陸の3分の1を超えようかと言う大国です。領有権があいまいな、大陸西にあるヴァルトーリオ列島まで含めれば、下手をすると2分の1に届くかもしれません」

 そこまで言うと、ザウエルはいったん言葉を区切る。そしてにやりと笑みを浮かべると再度話し始めた。

「ですが今その国土は千々に乱れており、軍はその鎮圧すら満足に行えていない状況です。我々はその隙を突き、魔獣、魔像の両軍団、犬妖コボルド部隊、大犬妖ノール部隊等々から抜き出された自動車歩兵の機動力をもって、『ヴァルタール帝国』首都リビ・ヴァルタールまでの領域を電撃的に陥落せしめます。
 ここで、魔竜将殿」

『なんだ?』

 オルトラムゥが、『通話水晶』の映像の中から問う。ザウエルは真面目な顔を作った。

「この際に注意したいのは、竜の中でも最強である『ヴァルタール帝国』守護竜ハルカアルです。今現在、ハルカアルの竜騎士は空位になっており、そのためこれまでの戦ではハルカアルは出て来ませんでした。
 しかし国が滅亡するとなっては、ハルカアルも竜騎士なしでも単独で出陣しないとも限りません。そこで魔竜軍団にお願いしたいのは、ハルカアル及び生き残っている竜騎士どもの対処です。
 地上戦への支援は、今回考えなくて構いません。最新型の榴弾砲と砲兵による支援で、なんとでもなるでしょう」

『なるほど、となると俺の役割はハルカアルが出て来た時の一騎打ち要員か。と言うか、俺以外の魔竜では荷が重い。と言うより無茶だ。ハルカアルが噂に聞くほどの力を持っているとすれば、だがな。
 まあ、安心してくれ。相手が噂の倍の力量を持っていたとしても、1対1であればまあ負ける気はせん。先だっての輸送船で着いた、魔王様より拝領の『加速の腕輪』があるからな。週に1度しか使えんが、通常の加速魔法の倍の速度が出せると言う化け物じみた力がある』

 自信に満ちたオルトラムゥの言葉に、皆が頷く。ここでガウルグルクが疑問を呈した。

『ところで……。派遣する軍自体の編成は何時でも進軍できる様準備済みでありますが、総大将はわたしとゼロのどちらかが務めるのですかな?それとも別の誰かが?占領地の統治もあります故に、2人とも出ては……』

「ゼロには占領地を守ってもらうよ。ガウルグルク、君が軍を率いてくれ」

『はっ!魔王様の仰せの通りに』

『同ジク、魔王様ノ仰セニ従イマス』

 ガウルグルクとゼロの快諾に頷き、わたしは命令を下した。

「明日夕刻、バルゾラ標準時18:00をもって、第1次『ヴァルタール帝国』侵攻作戦を開始する! 第1目標はサロ湖畔の都市、ヒュード市! 第2目標はジャダイ湾の港湾都市エグード市! 第3目標はテアラ河に面した交易都市、サジュムー市!
 この3つの都市を陥落させ、首都リビ・ヴァルタールへの橋頭保きょうとうほを確保することが第1次作戦の作戦目標だ!
 そして第1次作戦終了直後、首都リビ・ヴァルタールを目標とした第2次作戦を発動する! 強行軍になるが、諸君ら我が軍の精鋭であれば成し遂げる事が叶うだろう!
 ここまで終わってしまえば、後は消化試合に過ぎない!ばらばらになった『ヴァルタール帝国』の残滓を順序良く吸収していくだけだ! では各自、作戦開始に備え、最後の準備にかかってくれ! 健闘を祈る!」

「「『『『『はっ!』』』』」」

 全員がわたしに敬礼し、わたしは答礼を返す。『通話水晶』の映像が途切れ、ザウエルと鉄之丞が司令室を出て行った。アオイが呟く様に小さく言葉を発する。

「ご苦労様」

「うん。さて、これでアーカル大陸が手に入ったら、またしばらく防戦に努めて外征はお休みだよ。コンザウ大陸は、バルゾラ大陸とアーカル大陸を合わせたと同じか、それよりも広いんだ。充分な兵力を育てて訓練し、同時に近代兵器の開発を急がないと。
 ごめんよ、これでも精一杯急いではいるんだけど。……まだアーカル大陸全土が手に入ったわけでもないのに、取らぬ狸の何とやら、だね。ははは」

「うん、大丈夫。必勝を期さないと意味無い。わかってるから、ゆっくりと、じっくりと『リューム・ナアド神聖国』を追いつめましょう」

「ああ」

 わたしとアオイは、世界地図の東に描かれたコンザウ大陸に視線を向ける。ひたすら広いその大地は、その広さ自体が1種の防壁だった。

 やはり先代魔王の様に殺戮し収奪するだけならばともかく、まともな占領政策を取るならば魔物の数が足りない。特に魔族の様な、政治的な頭のある種族が足りない。

 幾つか考えはあるのだが……。

「……やって見るか」

「何? 悪巧み?」

「うん。くくく」

 わたしの笑い声が、司令室に響く。アオイは一瞬怪訝そうな顔つきになったが、すぐににやりと笑う。まあ、まずはアーカル大陸全土をこの手に収めるのが優先事項だ。色々と事を起すのは、その後の話だ。わたしは再び小さく笑った。
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